15 演者と観客
やっちまったよなあ。
一手は、思い直してみると分が悪すぎる賭けに敗北したことを後悔していた。
背後では元凶となった少女が楽しそうに微笑んでいる。
天真爛漫とは取れないその妖艶な笑みはすべて手中であったことを証明していた。
憎たらしい。
にやついてやがる......やられたって顔を見せるのが悔しくて、つい視線を逸らした。
目の前の光景に向き直る。
何度見直したって状況は変わってくれない。
闇の中に無数の灯りが見える。
それらは止まっているわけではなく、じんわりと動き、近づいてきている。
子供たちの目が、火に灯されて光った。
「助けてやった礼がこれか。ガキの流儀は終わってんな」
「そう?国庁の人間にはこれぐらい”終わってる”礼儀の方が似合ってると思うけど?」
少女が飄々と答える。
その目は一切揺らいでおらず、場慣れしているようにさえ感じさせた。
だが、そんなことよりも一手は少女のある発言を気に留めていた。
「国庁?誰が国庁の人間だって?」
こんな辺鄙な街に役人が来るものかと一手はおどけて見せた。
すると少女は指を差し、一手の頭から足先へとゆっくりスライドさせる。
「国民秩序庁指定の軍帽、同じく指定のマントを顔を覆うくらいすっぽりと被って、アピールしてるのかと思ったわ。それで本当に誤魔化せると思ったの?」
少女がクスクスと笑いながら答えた。
指摘を受けて、マントの下の顔がじわりと熱を帯びる。
......状況が状況なだけに、自分の背格好を忘れていた。
「それだけの格好をしていれば顔が見えなくたって国庁の人間だってことくらい分かるわ。それに私たちはあなたが来ることを知ってたのよ」
少女は持て余した指先を回しながら続ける。
「町で盛大な”歓迎”受けたんじゃない?」
それは今まで一手が感じていた違和感の正体明かしであった。
急に友好的になった町民も、やけにアナキズムの情報に詳しかったのも、全て説明がつく。
人保町、この未復興区そのものがアナキズムなのだ。
「子供ってね、いいわよ。みーんな油断してくれる。それが私たち実行部隊が子供しかいない理由」
だから貴方も一人で来たんでしょ?と少女は言った。
その言葉を皮切りに光が一斉に一歩前へと進む。
「おいおい、楽しいおしゃべりの時間はもう終わりか?もっと話そうぜ。俺たちの間の深刻な誤解を解くためにもだな」
一手は後ろににじり歩きながら、周囲の状況を再確認する。
陽光が差し込んでいる自分の周りには闇が囲んでおり、そこに無数の光が潜んでいる。
ただ一筋の光の中で、俺だけ晒されていた。
ダメだ。とても逃げ出せるような状況ではない。
少女はその様子を楽しそうに後ろから眺めていた。
彼女も同じ陽光の中にいる――はずなのに、立っている場所はまるで違った。
遊ばせていた指をピッと一手の方へと指す。
「ううん。もう十分楽しんだわ。目が覚めたら未復興区では余計な”親切”は身を滅ぼすって、お仲間のおえら方にも伝えておいて?」
光が一斉にバラけた。




