12 橋脚の向こう
暗い室内から一歩外へ踏み出すと、鋭い日差しが俺を刺した。眩しさに一瞬目を細める。
振り返ると、目の前には壮大なビルがそびえ立ち、「国民秩序庁」と金文字で刻まれた看板が俺を見下ろしている。
赤レンガ調の外壁には幾何学模様が刻まれ、その上には金の装飾が煌めいていた。
この建物が俺の属する組織の象徴だと思うと、頭が痛くなった。
正門を抜けると、整然とした石畳の道が続いていた。
アンティークな街灯が左右に並び、復興区特有の美しい街並みが広がっている。
それはあまりにも華やかすぎた。
すぐ向こうの瓦礫の中で暮らす人々が、霞んでしまうほどに。
皮肉めいた思いを胸に抱きながら、俺は駅へと向かう。
◇
駅の入り口で足を止め、顔を上げた。
2階部分に設けられたホームが、高架を支える橋脚の上にそびえている。
階段を登り始めた瞬間、遠くから電車が滑るように進む音が聞こえた。
次第にその音は遠ざかり、静かになっていく。
一本逃したな。
息をつきながら、足を止めることなく階段を上る。
2階にたどり着くと、目の前に、妙に場違いな電子式の改札が現れた。
復古調の装飾が施された街並みには、どうにもそぐわない。
カードを端末にかざすと、短い電子音が響き、ゲートが静かに開く。
戦前の技術か。今もこれが使われている理由を考えるべきなのかもしれないが、どうでもいい。
改札を抜け、ホームへ出る。
周囲を見渡すと、高架の上に一本のレールだけで支えられた独特な軌道が続いていた。
地上の復興作業を邪魔しないために空を走るよう設計された単軌道列車。街の復興の象徴だというが、移動できれば十分だろう。
ホームの縁にもたれかかり、目を閉じる。
毬音さんの言葉が頭を離れない。あれはどういう意味だったんだ?
冷たい視線、感情の読めない声色。それが冗談ではないことだけは分かる。
ため息が漏れた。
電車が近づく音が響く。
都会は電車の間隔が短い。
今の俺には、その短さがありがたくなかった。
◇
高い橋脚に支えられた一本のレールの上を、列車が静かに滑るように進む。
遠くから近づいてくる音は、風を切るような軽やかさと、機械が軋むような微かな振動を伴っていた。
列車がホームに到着し、その車体をわずかに沈ませる。
俺は足元の隙間を一瞥し、慎重に足を運んだ。
普段気に留めないような小さな隙間が、この高度な技術の上で無防備さを感じさせた。
車内に入ると、空気が少しひんやりとした。
照明は控えめに灯され、木造の内装が柔らかな光を吸収している。
席には数人の乗客がいる。誰もが黙り込み、それぞれの時間を過ごしていた。
俺は適当な席に腰を下ろし、手前の窓から外を見下ろした。
そこには、復興区の整然とした街並みが広がっている。
美しく整えられた石畳の道、均等に並ぶ街灯、修復された建物。
窓の外を流れる景色は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。
だが、ふと反対側の窓に目をやると、そこには全く別の世界が映っていた。
瓦礫の山、崩れた建物、ひび割れた道路。
無数の傷痕が街を覆いつくし、復興の気配すら見えない。
まるで橋脚が、街を二つに切り分けたのようだった。
俺は窓に映るその光景を、しばらく黙って見つめていた。
ここから先、復興の光は届いていない。
戦争が終わって四年。その傷痕は、街の輪郭に深い影を落としたままだった。
橋脚の真下では、多くの人々が行きかっている。
それは、復興区の賑わいとは異なり、足取りはどこか重い。
瓦礫に囲まれた細い道を、肩を寄せ合うように歩く彼らの姿は、まるで復興の華やかさと荒廃の狭間で揺れる、この街の縮図そのものに思えた。