デザートバイキング 『コーヒーゼリー』
「はい、モカ……あーん」
「サナ……自分で食べられるよ」
「だめよっ! モカは、あたしに食べさせてもらうのっ!」
何回言ったらわかるんだろう。だけど、ほら、あたしに叱られてベソかいてるモカはすごく可愛いから。
あたしはモカの口に、ゼリーの乗ったスプーンを近づける。
「あーん」
「……あーん」
オドオドしながら、だけど恐る恐る口を開くモカ。
モカの唇がスプーンを咥えて、あたしはゆっくりとスプーンを引き抜く。モカの可愛い、瑞々しい唇の感触が、スプーンを通して伝わってくる。
「は、はずかしいよ、サナ」
「いいじゃない、あたししかいないんだし」
「そ、そうじゃなくて……」
大きなハートのクッションの上。
モカはあたしが用意した服を着て、ちょこんと女の子座りしている。
長い髪をカールアイロンとホットカーラーでフワフワにして、大きな水色のリボンを飾る。
長い睫毛はマスカラとビューラーでパッチリに。二重の綺麗な瞳はオレンジのグラデーションをまぶたに置いて、ラメを散りばめた。
チークはほんのりピンク。リップは悩んだけれどしなかった。だって、モカは本当はメイクなんてする必要ないくらいに可愛いんだもの。薔薇のつぼみみたいな唇は、そのままで十分。触りたくなるくらい。
「はい。あーん」
「……あーん」
もう一口。モカの口が開くたびに、あたしの心臓はドキドキうるさくなる。
キスしたい。
素直にそう思うくらいに、キュート。
ギンガムチェックの青のエプロンドレスは、不思議の国のアリスみたい。裾からのびる白いタイツに包まれた足だって、可憐で、清楚で、多分、モカはいま、この世で、一番、可愛い。
「モカ……本当に可愛い……あ、写真撮らなきゃっ」
「……」
ちょっと泣きそうな顔をするモカを無視して、あたしは愛用のポラロイドカメラとデジカメを用意する。カメラを通して見るモカは、間違いなく、どんな雑誌のモデルよりも可愛かったし、どんな物語のお姫様よりも幻想的で、魅惑的だ。
数枚ポラを切って構図を決めてから、あたしはデジカメのシャッターを切る。
「ん……」
フラッシュに、モカが瞳を細める。その表情も、あたしをドキドキさせる。
何枚か撮って、あたしは満足してカメラを片付けた。写真を選ぶのは一人になってからの方がいい。だって、いまここにはモカがいるんだから。
「そうだ。こないだの写真見るでしょ?」
「あ、う、うん」
あたしはアルバムを取り出す。このアルバムで九冊目。もうすぐ十冊になる。そうだよね。毎週撮ってるもん。
「ね。可愛いでしょ? これなんて、すごく色っぽいし……あ、ホラホラ、これね。前のやつをパソコンで加工したの! こんな風にお花に囲まれて……あ、そうだ! 今度、お花畑で撮ろうよ!」
「うん……ねぇ、サナ」
はしゃぐあたしの首に、そっと、モカが腕を回してきて。
「……ん」
「……っ!?」
モカが、あたしに、キスした。
「……も、モカ?」
「サナだって、すごく可愛いよ?」
あたしは呆然と、微笑むモカを見つめていた。