病院の“死神”
ホラー初挑戦です!
作者自身がホラー系はあまり得意ではないので、正直怖いかどうかはちょっと微妙ですけど……。それでも読んでもらえれば幸いです。
それでは、悪夢の世界へ……。
何の変哲も無いような、地域の市立病院。
しかし、この病院には__
◆◇◆
「佐伯さーん!」
「……はい」
看護師の呼びかけに、覇気のない声で応じる細身の青年。そのままベッドから起き上がり、“松葉杖をつきながら”部屋から出て行く。
……トラックとの接触事故で入院をして三週間。幸い命に別状なく、右足を骨折しただけで済んだが、それでも足ほ怪我は他と比べ生活にかなりの支障をきたす。現に彼は、松葉杖無しではたいした距離を移動できない。
動けない。それは人に大きなストレスを掛ける。気持ちは日々落ち込んでいき、最近では病院食が喉を通らず、痩せていくばかり。
「わははははー!!」
廊下を軽快に駆け抜ける子供達を恨めしそうに睨みつけ、小さく溜息を吐いて、佐伯は診察を受けるためにコツコツと歩みを進めるのだった。
………
その日の深夜。
「……?」
何かに誘われるような感覚を覚え、佐伯はカッと目を開けた。
(何だ、今の……?)
原因不明の現象に戸惑いを覚える佐伯。その間にも彼の心臓は焦るように鼓動している。
(……何かはわからないけど、行ってみるか)
そんな想いに駆られ、佐伯は松葉杖を手に、ゆっくりと病床を後にした。
………
「ここは……手術室、だよな」
思いのままに歩みを進めて辿り着いたのは、明かりのついて居ない手術室だった。周囲に人の気配は感じられず、ただ静寂と暗闇が辺りを包むだけ。
気味が悪い。そう思いながらも、佐伯はその扉を開けようと無意識に手を伸ばしていた。
キィィ……。
「!?」
触れてもいないのに、手術室の扉はひとりでに開かれ……いや、ひとりでに、ではなかった。
「やあやあ青年、初めまして! あーでも、もしかしたら久しぶりかな?」
「……何だお前」
目の前に現れたのは、道化師のような白塗りの男。愉快な語り口で何やら訳の分からない言葉をまくし立てる男に、佐伯は不快感を露わに睨みつけた。
「おっとおっと。そんな怖い顔をしないでおくれよ。僕は俺であって私であり、そして我輩である。……なんてね。まぁ、何者だって良いじゃ無いか」
「……良くないっての。てか、せめて口調を統一してくれよ。気持ち悪い」
「辛辣だなぁ。一人称なんて『己の内から溢れ出る数多の人格を無理やりにでも統一したい』という、自分の本性にすら気付けない愚かな人間のエゴの結晶じゃないか」
「言ってる意味がわからないんだけど……」
肩を竦める道化を無視して、手術室の中へ足を踏み入れる。
「な……ッ!?」
手術室の中は、真っ赤な光で照らされていた。火事?いやそんな物騒なものではない。
誰かの写真の前に、火の灯されたロウソクが一本。このセットが何十、何百と、何段にも重なって飾り立てられていた。
「これは命の灯火さ。これが消えれば人は死ぬ。儂はこれを管理しているのさ」
奇妙かつ非科学的な事をさも常識とばかりに言う道化。説明を聞き流しながら、佐伯はロウソクを眺め……見つけた。
「これ、俺じゃないか」
「勿論、君もあるよ。君はミーの家族も同然! 仲間外れになんてしやしないさ!」
「ふーん」
周りと比べやけに磨り減ったロウソクを手に取り、眺める。見た目は普通のロウソクだ。
「なあ、道化」
「何でござんしょう?」
「俺のロウソク、すごく短いんだけど」
「ほう、そこに気がつくとはお目が高い! それは、君がもうじき死ぬからです!!」
「……!?」
突然のカミングアウトに、ロウソクを持つ手がわなわなと震えだす。
「何でだ?!」
「さあ? それはアタシにはわかりません?」
無責任な道化。対照的に焦る佐伯。誰もいない筈なのに、道化以外の誰かが見ているような気がしてならない。
「どうすれば長生きできるんだ?」
「そうさねぇ……この新しいロウソクに火を移せたら、長生きできる……かも?」
「貸せ!」
食らいつくように新しいロウソクを手に取り、震える手で火を移そうとする佐伯。しかし手が震えている訳だから、火が移る気配は一向にない。
「おやおや、そんなに震えていては火が消えてしまうかもねぇ?」
「煩い!」
「おぉ怖い」
段々過呼吸気味になり、吐き出す息が火を揺らす。
「そんなに焦っては、火に逃げられてしまうよ?」
「さっきから、何を訳の分からない事を……」
数分? 数十分? はたまた一分未満? 長いか短いかもわからない時間をかけて、漸く佐伯の命の炎は新しいロウソクに灯った。
「……できた!!」
声を上げて喜ぶ佐伯。それを見る道化は、どこか嬉しそうだ。
「おぉ、おめでとう! これで無事、君の寿命は伸びた。良かったねぇ……。そんな君に私から些細な“プレゼント”をあげようじゃないか」
「ありがと……」
……バタッ。
……
…………
………………
淡い命の灯火が消え、影も形も分からぬ程の暗闇の中、道化師……“死神”は舌舐めずりをしながら不気味に嗤うのだった。
「次は、一体全体誰の番かな?」
『この病院には、死神がいる__』
……という訳で、落語「死神」の病院アレンジでした。如何でしたか?
拙い部分は多々あれど、怖がって……じゃなくて、楽しんで頂けたのならば幸いです。