第1章 悔しさ
剣術修練場にて
「それでは両者構えろ」
ジャリ
いつものように後ろに剣を出し、前かがみになるカイト。
スッ
右足を前に出し、左手を腰に添えて、剣を縦にして前に出し、背筋を伸ばすアルベルト。
(いつもセニカと試合をやっているから結構見慣れたな、吠えずらかかせてやるぜ)
「尚ルールは剣術や体術のみとする。魔法や身体強化、それと闘気は一切禁止だ」
「はじめっ!!!」
両者一歩も動かない。
(オルフォルト流でもアイツの主体は守りとカウンター)
(だったら、、)
剣を構えるのをやめて、あぐらをかき挑発する。喋ってはいけないルールはない。
「あーあ、そんなとこで突っ立って?何もしないのか?それとも闘気を纏ってる俺にビビりでもしたかぁ?ガーッハッハッハ、お前が平民と罵る俺に一歩も動くことができないとはとんdっ!!」
話終わる前に飛びかかってくる。
(へっ、やっぱ貴族はみんな挑発には弱いな)
そのまま立ち上がり、飛びかかってきたアルベルトにステップでこちらからも近づき、、、
ガキンッ
ジリジリジリ
「くっ!やっぱ重いなっ」
「ふんっ、この程度で挑発など取るに足らん」
すぐさま、剣を受け流し、すぐに斬りかかろうとすると、、、
(クソ、もうカウンターの構えになってやがる、、、やっぱ魔法が使えたら、、)
(ったくどうしたらいい、むやみに突っ込んでいっても返り討ちにあうだけだ)
(とりあえずカウンターだけを意識する程度に軽く打ち込んで、隙を伺うか)
「オラァ!」
シュイン!
カイトの剣を右に受け流され、すぐさまカウンターの突きがくる、それをしゃがんで回避し、すぐさまタックルする。
ドスッ!
(よし!今がチャンスだ!)
タックルをくらい、バランスを崩しかけているアルベルトにすぐさま近づきそして、、
「もらったー!」
斬りかかる
「馬鹿め」
「なんだとテメェ」
すると、バランスを崩していたはずのアルベルトはすぐさま体制を整えた。
「貴様を誘うためにワザとよろけたフリをしていたのだ」
(やばいこのままじゃ)
「まだまだだな、平民」
剣を叩き落とされ、喉元に切先をつけられる。
「勝負あり!」
「まぁ所詮闘気を纏ったぐらいでいい気になっている貴様にはいい教育だったろ」
「ぐぬぬ、このやろ!もう一本だ!今度は何でもありでぶっ飛ばしてやる!」
「だったら決闘でも申し込んでくるのだな、まぁ弱い奴を人前で完膚なきまで叩きのめすのは私の趣味ではないから受けないがな」
「惜しかったよカイトも」
「惜しくなんかねーよ、あーあ勝てると思ったのになー」
「アルベルト君の戦い方は私でも苦戦するからね」
「そういえばセニカと戦い方が違うよな、セニカは自分からくるけど、アイツのは受け身なんだよなー」
「多分あれがアルベルト君が自分に合わせたオルフォルト流の形だと思う」
「んーオルフォルト流って攻守バランスのとれた流派じゃねーの」
「そうなんだけど、それは教えてる人達によって違うの、元を辿れば攻守バランスのとれた流派なんだけど、守りとカウンターがアルベルト君にあってるんじゃないのかな」
「やっぱ先生の言った通り、相性あるんだな流派にも」
「だから最近私も何か新しい流派を見つけなくちゃって思ってて、学校内の武活探しているの」
武活とは放課後に様々な流派や武術のスペシャリストが持っている道場で稽古をつけてくれる、前世の部活みたいなものだ。
「武活かー、俺は今のところ我流でいいかなー」
「えーカイトも一緒に探すの手伝ってよ〜1人じゃ、その、、心細いっていうか、その、、」
「面倒くさいし、魔法の練習もあるしパスするわ、ありがとう誘ってくれて、それじゃあこれから先生に修行の成果見せてくるからまた後でな!」
「あぁ、そうですか」
(あれ?まずい事言ったかな?)
女心が分からないカイトであった。そして少し早めに着いたカイトはどう戦うか頭でシミュレーションをしている。
「待たせたな」
「あ、来ましたね!それじゃあ早速手合わせいいですか!?」
「やけにやる気だな今日は?」
「ふふん、いつまでも一本取れないまま終われないっすからね」
「今日は一味違うようだな、言っておくけど今まで1、2年生で俺から一本取れた生徒はいない」
「って事は3年生はあるんですか?」
「あぁ、油断してな、後から聞くと五星と言われるこの学校の中でも特別強い生徒だった、あれは将来化けるな」
「まさかガルハートって人ですか!?」
「違うな、名前はヴェルトーバといって、確かアルベルトの兄と聞いてる」
「え!?」
(嘘だろおい、七バカの兄ってそんな強い人なのか)
「よし、始めるか」
「あ、はい!」
(そんな事はどうでもいい、今は一本取る事に集中だ)
一気に勝負をつける。まずはいつも通り魔力を全身に集中し身体強化をする。奥の手を使うには色々準備がいる。
(今日こそは一本もらいますよ)
左手に魔力を集中させ水の初級魔法アクアショットを放つ。
ブクブク
パシュンッ
スパッ バシャーン
もう一度撃とうとすると、走ってこちらにくるが、打ち続けるが、全て斬られていきながら距離が縮まってくる。
バシャバシャバシャ
「そんなもので俺から一本取るのは無理だぞ」
「へっ分かってますよ!」
すぐさま右手に火の魔力をかなり圧縮し高熱にする。左手に水魔法のアクアショットを形だけ大きくしたものを作る。
「いくぜぇ!」
アクアショットを撃つ、大きさは先生の体の半分。
「効かん!」
そういって斬りかかろうとした途端、アクアショットの後ろから何かが飛んでくる。
嫌な予感がしたヴァイスは少し後ろにステップしようとするが、、、
「間に合わないな、、」
バァン!!!!
爆発が起こった。カイトが使っていたのは火魔法と水魔法を使った水蒸気爆発だ。あたりに煙が充満する。少しすると剣を振りかざし、剣風で煙を消すがカイトの姿が見えない。
「上か」
そう言って上を見上げると、身体強化で10メートル飛んでいるカイトがいた。
「これで終わりだ!」
そう言ってジャンプした時に予め練っておいた雷魔法エレクトロンを発動させる。
「エレクトロン!!」
バチバチバチ
「なんだあれは」
しかしヴァイスは微動だにしない、なぜなら得体の知れない魔法はヴァイスの少し後ろに向かっている。
「クソっ!!」
カイトが叫ぶ。
「それがお前の切り札だったか、当たらなければ意味はっ!!」
バチンッ
ビリビリビリッ!!
(んだ、、、身体が、、、、)
初めて感電をしたヴァイス、自分の体に何が起こっているのかわからない。
(魔法は確実に外した筈だ、、)
「後で説明するんで、とりあえず一本」
「貰うぜぇ!!!!」
「う、うらぁぁぁぁ!!!」
ドンッ
自分の体内の魔法を放出して無理やり感電を解いたヴァイス。そして上からくるカイトに向かって飛んで迎え撃つ。
「先生なら、その魔法が解けるって信じてましたよ!」
「なに!?」
ガギンッ
剣が重なる。
バチバチバチッ!
「おま、え、、剣にも、、」
「頂きぃ!!」
刹那、今までのヴァイスから感じたことのない気が発せられた、そうそれはまさしく闘気であった。
「見事だカイト、一本はやれんが代わりに少しお前に俺の本気を見せなくてはならなくなった」
「なっ!!」
「誇りに思え、俺に実力を出させたのはこの学園でお前が初めてだ」
「それでも、、それでも一本取る!諦めねぇぞ!!!」
ジリジリジリ
「オラァァ!!!」
「な、、おも、、すぎるっ」
そして、アルベルトの時みたいに剣だけではなく身体ごと吹き飛ばされる。
ドゴォン
「ぐはっ!」
スタスタスタ
「クソ!ついついやり過ぎちまった」
「まだ、、、やれ、、ま、、、」
ドサッ
「ったく焦るな、お前はこれからもまだまだ強くなれるんだ」
======================
「、、っく、、、」
「、、、負けたのか」
「、、あいつにも、、先生にも」
「気付いたかい?」
「ん?あ、誰だっけ」
「ラムカだよ、そしてここは診療所、1ヶ月でまた気絶なんてだらしないわね」
「また気絶したのか」
(ここの世界に来て多いな、気絶の回数)
「今度は誰にやられたんだい?」
「あぁ、ヴァイス先生と試合していて、ギリギリまで追い詰めたんですけど、最後の方に、、本気出されて、、、負けたんです」
(全力を出して負けたのか、、今日こそは、いけると思ったんだけどな)
(なんでこんな疲れてるんだろ)
「もう目覚めたら出ていきな、外で女の子が心配そうにして待ってんだから」
(きてくれたのか、セニカ)
「今は誰にも会いたくないんで、、先に帰って行ってと伝えて貰えますか?」
「バァカもん!!くよくよしてんじゃないわよみっともない!」
「だいたいヴァイス相手に勝てると思ってんのがおかしいんだよ!向こうは手加減するだろそりゃ!あいつが本気出したら学園の生徒全員でかかっても勝てるわけないのに!」
「ま、まぁそうすけど、、でも、、」
「ったく、、仕方ないわね、待ってな」
コツコツコツ
そう言ってどこかへ行くラムカ。
3分後
コツコツコツ
「アイツはここにいるよ」
*「大丈夫なんですか?私が来ても?」
ガチャ
「カイト?大丈夫?」
「え?セニカ?」
「どうしたの?元気ないよ?」
「ごめん、今は誰とも話したくないんだ、、、」
コツン
セニカに軽く小突かれる。
「いて」
「どうしたのカイト?」
「、、、、」
「はぁ、こいつはヴァイスと試合やって負けて凹んでんだよ」
「そっか、、でもヴァイス先生はかなり強い人だし、、カイトもわかってるでしょ?」
「、、、、」
「毎日剣や魔法の練習を死にものぐるいで練習してるけど、もしかしてこの前死にかけた事と何か関係あるの?」
「っ!!」
「聞かして貰えないかな、カイト?」
「、、外で話そう」
そう言ってラムカにお礼をした後、診療所を出る。
「俺さ、やっぱりおかしかったかな」
「ちょっとね」
「正直あの時べへモスからばあちゃんと逃げる時、すげぇ怖かったんだ、それもう身体中震えまくってたし、かなり焦ってた」
「そして、一緒に逃げた男が叫んだせいで囮になる羽目になって、そのあと必至にアイツから逃げたけど、何にもできなかったんだ」
「結果倒れて来た木に足が埋もれて身動き取れないまま一歩、また一歩と死が近づいてくるんだ」
「結果助かったんだけど、助かった時思ったんだ、もしまたあのような状況に陥って、自分の家族や友達がいたら何が出来るんだろうって、また囮になる事しか出来ないのかって」
「初めて自分の無力さに腹が立ったよ、それから自分では意識してないけどやっぱり心の何処かで、焦っている自分がいたんだ。セニカに言われて確信したよ」
「ごめん!変に気使わして!」
「え?いいよいいよ私なんか、、別になんとも思ってないし」
「本当か?」
「うん、今はカイトが元に戻ってくれたのが嬉しいし」
そう言って笑ったセニカ。
ドクン
「あ、あとさ」
「まだ何かあるの?」
「俺多分セニカの事好きかもしれない」
「うん」
....
.........
「ちょちょちょ、何言ってるのカイト!?!?バ、バカじゃないの、、、先生と戦って、、バ、バカに、なったんじゃないの!?」
「なんか走馬灯に出て来た時から、、いや多分初めて会った時からかな、走馬灯に出て来て改めて綺麗だなって思って、ルフトと仲良くしてるの見てると目を逸らしたくなるし、そんでセニカが俺に向かって笑ったら心臓がバクンってなるんだ」
「、、、、、」
顔が真っ赤で少し震えて何も言えないセニカ
「こういう経験ないからルフトに聞くと、それは恋だよって言ってめちゃくちゃバカにされたから殴ったけど、やっぱりそうなのかなって」
「、、そ、、、それで、わ、私はど、どうしたいい、、の?」
「付き合って欲しいけど、、、今はいいかな」
「え?」
「これ言ったら傷付くかもしれないけど、今は剣と魔法の修行でいっぱいいっぱいで、それにこの学園生活は俺の中ですごい大事な時期なんだ。もちろんセニカともし付き合えて、仮に恋愛するのも凄くいいけど、寧ろそうしたいけど、けど、、ダメなんだ」
「俺はこの学園を卒業したら自分の目的のために旅に出ようと思っている。だから告白はその時にする。そして俺と一緒に旅に出て欲しい」
「そっか、よかった、私も同じ事思ってたの、この学園で強くなるまでは色事はしないようにって」
「で、でも、、カイトと知り合って、徐々にその、頑張ってるところに惹かれるっていうか、一緒にいると落ち着くし、わたしも、、その、、、好きかも、、、しれない」
(やべ、本気で可愛い、、、)
(だめだ、冷静になれ!今お付き合いすると絶対修行どころではなくなる。それだけはだめだ!)
「そっか、セニカも同じ事思ってくれてたのか、、、なんか照れるな、、」
「、、、、」
「、、、、」
「授業、戻るか」
「うん」
この後2人はその日一日ずっと喋ることは無かった。