第1章 闘技大会本戦2日目 Ⅲ
2日目の最終戦はホウケンの勝利で幕を閉じ、気を失ったセニカをヴァイスと共に医療室へと運んだカイト。
「師匠、、」
「大丈夫だ、このまま寝ていればちゃんと回復する、それよりお前はもう平気なのか?」
「はい」
「そうか、ならよかった」
ガチャ
「パパ!セニカさんは無事!?」
「あぁ」
「シエルちゃん、、それにシェインさんも来てたんですね」
「あぁ、見事だったぞカイト」
「えぇ、、」
「にしても流石にあそこまでやりに来るとはな」
「あいつとあたったら絶対にぶっ飛ばしてやる」
「それにしてもなぜあのホウケンとやらをそんなに敵視しているんだ?1日目からやけに拳術科のやつらを意識していたが」
「え?あー、それはその〜、優勝候補って聞いて〜」
「カイトさん」
シエルが涙を含んだ目でカイトを見る。
「言った方がいいかな、、」
頷くシエル
「実はー、、」
カイトは大会予選の日に起きた出来事を全て話した。
「なるほどな、それで私とヴァイがあいつを殺しに行くと思って言わなかったのか」
「知っていたら確実に今日殺しにかかってたな」
「ばかもの、セニカがやられそうになったのを見て、殺しに行ってただろ、全く危うく正体バラして止めに入る所だったぞ」
「にしても、拳術科の先生もどうかしてましたね、何というかあの人からは変な感じがしました」
「確かにゴウケンは変わっている」
「師匠は仕事仲間みたいなもんですよね、どんな人なんですか?」
「5年ほど前から俺と一緒にこの学校に赴任してきたんだが、当時はまだ拳王で今と違い無骨な男だった。たしか3年前に再び拳を極めに行くという名目でこの学園を去ったんだが、今年拳聖になって戻ってきてからどうも様子が違うのだ」
「修業して強くなったからとかではなくて?」
「分かりやすくいうと、人が変わったな」
「人が?つまりべつ」
コンコン
「あんた達?今から診察を始めるからもうその辺にしておいたら?」
「すまない、それじゃあカイト俺たちは帰る、お前も寄り道せずに明日に控えろ、大事な一戦だろ?」
「おつかれさまです!バイバイシエルちゃん」
「もう私は平気ですから、もうお2人は無茶しないでください」
「うん、、、」
ヴァイス達はその場を後にした。
「俺も帰って明日に備えるか、、、」
((今日の修業はいいのか))
((あぁ、なんかそんな気分にならねーんだよな))
((てっきりお前の事だから、修業してぶっ潰すとかいうかと思ったぜ))
((なぁ、お前精霊だからあの先生からなんか感じるか?))
((嫌な奴ぐらいなんもねーが?どうしたんだ?))
((いや、なんでもない))
(あいつからなんかべへモスに襲われた時に助けてもらったあの人とおんなじ感じするんだよなー)
(まぁいいか、明日はアルベルトと勝負だ、絶対負けねーぞ)
「セニカは大丈夫だったか?」
「うぉっ、、なんだお前達かよ」
医療室の外にはラゼッタとルフトとアルベルトが一緒にいた。
「なんでお前達が一緒に?」
「たまたまお前を待っていたらこの人達が来たのだ」
「うぃーっす、セニカ大丈夫だった?」
「あぁ、お前達はどうだったんだ?」
「俺は負けたよ〜」
「あたしはボロがちで〜、次ルフトに勝ったやつと当たって仇をとるんだ〜!」
「よっ!さすが今のとこ唯一傷1つ負わずに勝ち進んだ姉御さん!!」
「もっと敬いなさいあたしを〜!!おーっホッホッホ」
「セニカが無事だったらいい、俺は帰る、明日は本気でお前を倒しに行く」
「ばーか、勝つのは俺だよ〜、大人数が見ている前で恥かいて負けねー様に気をつけるんだな」
「バカは貴様だ」
一言残して去っていくアルベルト。
「んだとぉーこの野郎、初日からボコボコにされて気絶してた奴がなーに偉そうにしてんだよ」
「気絶してたのはお前もだろカイト」
「言うじゃねーよバカルフト」
「それにしても拳術科の奴やり過ぎよね〜」
「全くだよ、後半見ていられなかったし」
「あんたが気絶していてよかったって思ったわ〜、いてたら確実に舞台に上がってたし」
「まぁな、実際倒れてるセニカを見た後、アルベルトに状況聞いた後飛んで行ったし」
「見ていたこっちがヒヤヒヤするわ」
「全くだよ、小さい頃からトラブルとかにはすぐ突っ込んでいくから、、」
「まぁとりあえずセニカは無事だ、次はやめに当たるとしたらラゼッタだろ?セニカの分きっちり返してやれ〜、んじゃ俺は帰るわ〜」
「任せて〜!あたしがあんな奴ボッコボコにしてあげるわ!じゃあね!」
「お疲れ〜」
家へと帰るカイト。
「まだみんな観戦してるのか」
家で久しぶりに1人になるカイト。
『どうしたんだ?暗い顔して』
「なんかほんと、久しぶりに何にもしてないなって思って」
『確かにな、ここんとこずっと修業に明け暮れてたからな』
「なんもしてないと、色々考え事とかするようになるよな」
『考え事でもあんのか?』
「あぁ、誰にも言えねーどデカイ秘密がな」
『気になるじゃねーか、なんだ?』
「アッシュ、お前ってさ、この世界の他にまだ別の世界があると思うか?」
『あるだろ、だって多分俺が他の世界から来たと思うし』
「そっか、、じゃあさ、俺がもし別の世界から来たって言ったら信じるか?」
『信じるし、てか俺も多分そうだって言ってるだろ?』
「だよなー馬鹿げた話、、、え?今なんて?」
『だから、お前の話は信じてるって』
「ありがとう、、いや、その前だよ」
『俺も多分ほかの世界から来たって話か?』
「ええええええ!?!?」
『いきなり大声出すなよ』
「いやいや、お前他の世界から来た精霊かよ!」
『あぁ、多分そうだ、最近少しだけ記憶が戻ってな、今いる世界と空気や雰囲気も違うし、空は青くなかったし』
「どんなやばいとこから来てんだよ」
『それよりお前も他の世界から来たのか?』
「うん、分かりやすく言うと転生者だ」
『転生者か、、、それはまずいな』
「なんでだ?何か知ってるのか?」
『俺みたいに自分の力や他の誰かに呼ばれて転移してきたんじゃなくて、死んでからの転生は確か、とんでもねぇ力を持った奴の仕業だ』
「なんでだ?自分で他の世界に転移できる奴も大した奴だし、危険視するだろ?」
『分かりやすく言うと転移は、物や生物を違う世界に呼び出したり、あるいは自分から移動したり偶然で起きる事多い、しかし転生者は一度死んでいる、死んだ奴を他の世界で生まれ変わらせれる事ができる力なんかこの世には存在しねぇ』
『できるとしたら俺たちより遥かに優れた、それこそお前達の言う神なる存在の力によるものだ、いいか?お前達はその神の気まぐれか、はたまたなんらかの目的を持って転生してきたに違いねぇ、だからこの世界の連中はそういう事を踏まえた上で転生者を恐れている』
「神、、、そんなのにあった事もないし、見たこともねぇぞ」
『まぁそれで全員がお前の言うことを信じたらいいんだがな』
「まぁとりあえず俺は今は学園生だが、卒業したら自分の元いた世界に帰れる様に今頑張って強くなってる途中だ」
『それがお前の言ってた考え事か?』
「あぁ、向こうにも家族がいてな、たった1人の妹が」
『そうか、それは早く帰ってやらねーとな』
「って言ってももう10年くらい時間が経ってるからどうなってんのか分かんねーけどな、このまま時間が長引くほど向こうでは妹が寂しくしているかもしれないしな、っていうのをいつも考えちまう、修行を絶え間なく続けているのは多分少しでもこの問題から目を背けたいからなのかもしれないかもな」
『だったら早く強くなって、妹に逢いに行ってやらねーとな』
「それもまた難しいんだよ」
『何がだ?』
「ここの家族も捨てられねーんだ」
『お前はどっちの方が大事なんだ?』
「そんな事聞くなよ、、、まぁ最初は向こうの方が最初の家族だし向こうが大事だったけど、こっちの家族も過ごしていくごとに大事になってな、、」
『難しい事だな、いっそのこと転移できるすべがあったら妹をこっちに連れて来たらいいんだよ』
「それも考えたけど、向こうももう大人になって家族とか持ってたらって思うし、向こうにはいけるけど帰ってこれるすべはあるのかっていうのもまた問題なんだよ」
『問題だらけだな、お前の人生』
「勘弁してほしいよ」
『こんな悩みを作った張本人を見つけたら殴っちまおうぜ』
「俺を転生させた理由によるけどな、しょーもねー理由だったらぶっ飛ばしてやるからな」
その後もカイトとアッシュは日が沈むまでお互い語り合った。
ガチャ
「たっだいまー!!」
「おかエリー」
「なんだ今の?面白くないぞ」
「渾身の親父ギャグが通じない!?」
((ブワァハッハッハ!!))
(まぁ意味を教えたコイツは大爆笑なんだがな)
((親父ギャグ最高だぜ!!))
「どうだった今日の試合?」
「お前の試合はヒヤリとしたぞ、途中でエリーが泣きそうになって見てたしな」
「ないてないもん!!」
「そうだったか?ねーねは聞こえてたぞ〜?にーに、まけないでって」
「ん〜、、ねーねのいじわる!」
「エリーをからかわないの、ルミ!こっち来て料理手伝ってちょうだい!」
「わかったわかった叩くなエリー、ねーねが悪かったよ」
「アルト〜、今日のにいちゃんかっこよかったか〜?」
「ぶわぁ!」
手を広げ、伝えようとするアルト。
「にいちゃん凄かったろ〜!」
「あぃ!」
やがてご飯が食卓に並びみんなで食べる。
「そういや、明日の対戦同じクラスの首席の子?」
「そそ、うちのクラスで1番強いんだけど明日からは俺が1番だ」
「口だけにならない様にな、今日の戦いを見たがあれはかなりの鍛錬が積まれていて、動作を洗練されている」
「わかってるよ姉ちゃん、俺が1番近くで見てきてんだから」
「一応お前の事を思ってだな」
「きのうのきんいろのかみのおねーちゃんかわいそうだった!」
「エリーも見てたのか?」
「途中で目を隠したんだけどね、確かに酷かったわ」
「俺は気絶から目覚まして、すぐに会場に戻ったらあんな感じだったからな、はじめはビックリしたよ」
「その後向こうの生徒に飛びかかっていたな」
「うん、だってセニカはこい、、じゃなくてルフトと同じくらい仲がいいからな」
「へぇ〜、仲がいいだけかしら?」
「にーにのかのじょー?」
「ブフッ!!どこでそんな言葉知ったんだよ、どうせルフトだろ?」
「私だ」
ルミラがこっちを見てドヤ顔をする。
「まだ子供だからそんな言葉教えるなよ」
「んでどうなの実際?どこまで行ったの?」
「いったって、そんな質問息子に、、」
「なるほどねぇ」
ぷいっ
「おい、エリーこっち向いてくれよ」
「にーになんてだいきらい」
「あらあら、エリーゼだけのカイトだったのに」
「かわいそうに、エリーゼを怒らせるとは、絶対に認めんぞ、でしょ?母さん」
「えぇ」
「エリー、セニカねえちゃんもにーにもきらい」
「え〜、それは困るよ〜」
「困る?って事は〜」
「ちょっ、、そういう意味で言った訳じゃないって!」
「じゃあどういう意味だ?」
「それはその、、」
「つまりそういうことね、耳が赤いわよ」
「ふんっ」
結局その日、カイトはエリーゼに嫌われたまま、次の日を迎えるのであった。
「く、、そぉ、、なんでお前が、、」
*「、、、、」
暗闇に佇む2つの影。その目の前で倒れ込むウォルト。
『ソウルイート』
シュゥゥゥ
ウォルトの体から出てきた何かが2つの影に入り込む。
*「やっぱ人間のソウルはうめぇなぁ」
*「あぁ」
やがて影はウォルトを運び暗闇へと消えてゆく。