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ありきたりな勇者召喚・方言ver.

作者: ぱにこ

ありがちな異世界召喚の話を、地元の方言を使って書いてみました。

方言で話すのは、主人公のみです。

 学校からの帰り道、突如、異世界召喚とかでありがちな、魔方陣が現れる。

「おっ♪これ、よくあるやつやんっ。ここ、潜ったら『勇者様~世界を魔王の手から、お救い下さい』ってなやつ」

 躊躇いもなく、魔方陣に足を突っ込む少年の名前は『石井 健人』17歳の高校生、普通にアニメやゲームを好み、漫画を読み、友達と遊び、高校生らしい生活を送っている。

 少々、後先考えない行動が、目に余る程度の、普通の少年なのだ。


 浮遊感を感じ、眩い光に包まれ視界がひらけた後、目に入ったのは四方を石に囲まれた、カビ臭い一室だった。

 胡散臭そうな部屋に、たたずむローブをまとった老人。

「なんか、想像とちゃうわ……こういうのんは、姫さんが居てるもんやろ」

 そんな本音を吐露する少年。

「おおー勇者様!召喚の儀に応じてくださりありがとうございます」

 老人がそう告げると。

「おっ!やっぱり、勇者召喚ってやつやな♪『応じる』って言うけど、日本人男子の6割くらいは、魔方陣が現れると、飛び込むもんやで♪」

「異世界の方はそういうものなのですね」

 健人少年の言葉を、真に受ける老人。

「勇者様、事情を説明したく思いますので、お寛ぎ頂ける部屋へご案内いたします」

「まあ、こんなカビ臭い部屋で、立ち話もなんやし、茶でもすすりながら、話、聞こか」

 カビ臭いと言う言葉に、ぴくっとする老人。

 勇者の機嫌を、損ねる訳にもいかないので、聞かなかったフリをする。


 薄暗い廊下を歩き、階段を上ると、城の中庭に出たのだった。

「ちょ、えらい階段昇ってきたけど、地下に掘りすぎなんちゃうん?!地盤沈下とかするで」

「ご安心ください、勇者様。魔法で、補強しています」

「魔法とかあんねんやったら、階段なんか使わんと、ワープとかしたらええやん」

「そういった技術は、王家の者のみ、使用可能でございます」


 少年健人は考えた。

(これは、あかんパターンの勇者召喚かも知れん。勇者召喚でええパターンは、まず、姫さんが可愛い。で、ほんまに、魔王とかに苦しめられてて、仲間を集めつつ旅をする。こん時、もちろん姫さんは『聖女』として同行や。ほんで、あかんやつは、魔王退治は口実で、隣国とかのいざこざに、勇者を使って治めようってパターン……これは、王様が、私利私欲に走る悪党ってやつやな。だいたい、大事な勇者様やのに、ワープも使えへんとか、ないわ~ほんまないわ~)

 まだ見ぬ王様の好感度が、だだ下がりだった。

(あっ!でも、召喚の時に、姫さんは居てへんかったけど、謁見の間とかに居てるって事もあるな♪)

 そんな期待をして、老人に尋ねる。

「なあ、じいちゃん。王城には、可愛い姫さんとか居てるん?」

 唐突に『じいちゃん』と呼ばれ、戸惑う老人。

「申し訳ございません。召喚の儀が成功し、興奮のあまり名乗っておりませんでした。私は『マリユス』と申します。この王立魔法研究所に勤めさせていただいております」

「ご丁寧に、どうも。俺は『石井 健人』って言います。普通の高校生です」

「イシイ様ですね、それで、ご質問への返答ですが、現在、王家には姫様はいらっしゃいません。2年前、隣国へ嫁がれていった末の姫様が最後でございました」

「ええーっ!勇者の旅には、姫さんとか、魔法使いの女の子は付きものやん」

「旅への同行者に関しても、王よりお言葉がございますので、それから判断されてはいかがでしょうか?」

「たしかに、今、理想を押し付けてもしゃあないしな」


 会話をしながら歩いていると、ひと際大きな門の前に出た。

 左右に、銀色に輝く鎧をまとった騎士がたたずんでいる。

「召喚の儀に応じて、いらっしゃってくださった勇者様だ。お通ししろ」

 マリユス爺さんがそういうと、騎士が門を開ける。


「うわーすげえ!ザッ王城!って感じやん。やっぱり、床に赤い絨毯が敷かれてるし、天井は高いし、よくわからん像も置かれてるやん。あっ!あの奥に、王様が居てはるん?」

 豪華な王城の中に案内され、貧相な感想しか述べられない少年健人。

「はい、あの奥が謁見の間となっておりますが、イシイ様には、お寛ぎ頂ける様、非公式で、王がお会いになられるそうです」

(非公式って……砕けた口調OKとかの、豪快な王様パターンか?それとも、私腹を肥やして、ついでに体も肥やしてる胡散臭い王様?)

 そんな、思考をめぐらせつつ、マリユス爺さんに案内された部屋に入って行く。


「ささ、こちらでお茶でも召し上がりながら、王の到着をお待ちください。それまで私が、イシイ様の質問にお答えいたしますので、何かございましたら、お申し付けください」

 促されるまま、ソファの真ん中に、ドンッと座る少年健人。

 メイドさんの様な人が持ってきた茶を受け取り、寛ぎ始めた。

「あっ、紅茶かあー、あんま、好きやねいねんけど。流石にコーラとかあるわけないもんなぁ……」

 そう言いつつ、砂糖とミルクを入れて、出されたお菓子も美味しそうにいただく。

「んー優雅やわ。この菓子も、見たことないけど、ミルクティに合うわ」

 まるで、我が家の様に寛ぐ勇者を(勇者という者は、これ程に剛毅なのか……)と考える、マリユス爺さん、素朴な疑問を口に出す。

「イシイ様、お伺いしても宜しいですか?イシイ様の様な方は、異世界でも稀なのでしょうか?」

「ん?言うてる意味が、よくわからんけど、俺みたいなのは、ようさん居てるで」

「異世界には、勇者になりうる人材の宝庫と言う事ですか?!」

「ああ、そっち。そうやなー、異世界は、(アニメやゲームの)勇者についての情報がいっぱいあるねん。もう、生まれて物心ついた時から、人はみんな『勇者』予備軍として、(戦隊ヒーローを見て)戦う練習をすんねん。(魔女っ娘アニメを見て)女の子も魔法で戦う練習をしてるし。大人になったら、勇者や魔法使いになる夢を、諦める人は居るけど、心の底で眠ってるだけやと思う」


 そんな話をしつつ、出された菓子を平らげていると、執事っぽい人に「王がおいでになりました」と言われ、慌ててお茶を飲み干す。

 口をもごもごしながら、王を迎えるのは、流石にないだろうとと思った、少年健人。

 部屋のドアが開くと、金髪で、青い目をしたちょっとマッチョなおじさんが現れた。

 王冠をかぶっているので、きっと王様だろうと、とりあえず腰を曲げて挨拶をする。


「おお、そなたが、異世界の勇者様か。遠路はるばる、ようこそおいでくださった。私が、この国の王『ロラン・カサール』である」

「初めまして。異世界より来ました『石井 健人』ともうします。『石井』が姓で『健人』が名です」

 王様がソファに腰掛けるのを見て、少年健人も座り、マリユス爺さんも座る。

 ちなみに、この部屋には、メイドさんと執事さんを抜くと、3人のみの密談になる。


 メイドが新しい茶を入れてくれたので、それを飲みつつ話を聞こうと、王様の方へ視線を向ける。

 その視線に促され、王は話を始めた。

「勇者様、この世界には、危機が迫っている。魔族を束ねる魔王が、次々と国を支配し、もうすぐこの国にもやってくるだろう。魔族は、人族、獣人族、ドワーフ族、巨人族、エルフ族を蹂躙し、この世界の統治者となろうとしてるだ。絶望する民達に、せめて希望をと考えていたところ、神よりお告げを賜ったのだ。そして『勇者召喚』の儀をおこない、勇者様が参られたというわけだ」


 なんか、結構深刻?軽い感じで、冒険ってのを想像していた。


(獣人、ドワーフ、エルフは居てると思とったけど、巨人族ってなんなん?種族の垣根を取っ払って、大戦争すんねんやろ?!こ、こわっ……俺、普通の高校生やねんで。虫は蚊くらいしか、殺した事ないし、喧嘩らしい喧嘩もした事ないねんで。小学校、中学校は野球部やったけど、高校になってからは、帰宅部で、運動神経すらもあやしいのに……)

 不安しかない少年健人。

「あのー、王様。色々聞きたいねんけど、まず、巨人族って、でっかいん?ほんで、戦うにしても、勇者になんや特別な力でもあるん?俺、この場で嘘ついても、しゃーないから、正直に言うけど、喧嘩すらしたことないから、弱いと思うで」

 そんな少年の不安を拭う様に、王は返事をする。

「勇者様は『光魔法』が扱えると聞いた。光魔法は、魔族にとって『毒』のようなもの、その他の種族にとっては『癒しの加護』なんだが……一先ず、ステータスを見て判断してくれると助かる。『ステータスオープン』と心の中で念じると、見えるはずだ。後、巨人族についてだが、人族の3倍くらいの大きさで、魔物の様に大きいという訳でもない」

 ステータスオープンという言葉にだけ、食いついて、テンションを上げる少年健人。

 早速、念じてみる。

(ステータスオープン)

-----------------------------------

 石井 健人 17歳


 職業:勇者

 LV:※※

 HP:999

 MP:999

 力 :999

 魔力:999

 体力:999

 知力:※※

 速さ:999

 運 :※※


 スキル:言語魔法・聖魔法LvMAX・アイテムボックス


----------------------------------

「あの~。強いかどうかが、わからんのんですけど。ちなみに皆さんの、力や魔力はどないなってるんですか?」

 比べる相手がいないと、ステータスも意味不明。

 文字化けの部分もあり、不安が募る少年健人であった。


 その問いに答えた、マリユス爺さん。

「私で宜しければ、お答えします。私の力は78、魔力は285となっております。この人族のなかでは、一番の魔力を持っていると言われております」

「えー、俺は、運、知力、Lvが文字化けして見れんけど、その他は999ってなってんねん。これって、勇者として戦える感じ?」

 聞いた数値に、驚き息をのむ、王とマリユス爺さん。

「おおーさすがは勇者様です」「想像以上に、頼もしいな」

 二人から、賛辞を貰って、少し照れる。文字化けの部分の事は、すっぽりと忘れるのであった。


「ほんで、戦えるとして、剣も持った事ないし、これからの予定とか教えてもらえますか?出来ればでええねんけど、仲間と一緒に旅をしつつ、魔王城へ行って、討伐ってのが俺のプランですねん」


「勇者様。仲間を募り、旅をなさりたいとの事ですが、この戦いには、国を挙げての総力戦と考えております。侵略され落ち延びた、他国の兵士たちも、この国で力をたくわえております。剣術や魔法に関しては、行軍中に身につけていただいて、勇者様は切り札として、魔王討伐のみ参加していただけますか?」

 そんなマリユス爺さんの話を聞き、ホッとする少年健人。

(そんな感じでOKなんや。ほな、サクサク終わらせた後に、旅をするんもええな)

「えっと、世界が平和になった後、俺は自由にしてええの?」

「はい。お帰りになりたいとの事でしたら、送還の儀式を行います。この国で、ゆるりと過ごしたいとの事でしたら、支援は惜しみませんので、お申し付けください」

(これ、完全にええパターンの勇者召喚やんっ。正直、魔王はめっさ怖いけど、軍隊と一緒って心強いわ。平和になって、旅をしてる時に、彼女とか作れるかも)

 気楽に考える少年健人。


「ほんで、いつ頃魔王討伐に行くんですか?」

「行軍の準備は整っていますが、勇者様の体調を万全にして頂くため、明日はごゆるりとお過ごしください。明後日には、出発いたします」

 割と差し迫った、スケジュールをさらりと言うマリユス爺さん。

 王様は、うむうむと頷いているだけだった。

「勢いは大事って言いますし、間が空くとビビッてしまうかもしれんし、了解しました」



 ◇  ◇  ◇

 剣術や魔法に関しては、行軍中に会得した。

 行軍中の戦いにも、少年健人は最後尾に居たので、血を見る事もなかった。

 蚊以外の虫も、殺めたことがない少年健人。

 訳も分からぬまま、切り札として魔王と対峙する。

 初めての痛み、初めて肉を切る感触、共に戦う兵士たちのうめき声。

 吐きそうになる少年健人、死にたくないと足掻く少年健人。


「無理、無理、無理ーーーっ!!!なんでやねんっ!なんでこんな目にあうねんっ!」

 この状況に憤怒する。

「みんなで仲良くしたらええやんっ!なんで、戦争すんねんっ!魔族だけの世界って面白いんかっ?!」

 魔王の考え方に対して、強い憤りを感じる。

「あかんっ!剣で切っても、気がすまへん。拳で殴ったる!」

 肉を切る感触は気味悪く、けれど、憤りは収まらない。

 少年の拳が魔王の顔を打つ。

 勇者の光魔法を纏った恐ろしい拳だ。

 バコーンッ!!

 ガンッ!ボコボコッ!!

「オラーーーーッ!よく考えろやっ!!色んな人間が居てるから、面白いんとちゃうんかーっ!何か統一者じゃっ!何が魔王じゃっ!勇者1人に、ボコボコにされとうのに、お前に何が出来んねんっっっ」

 魔王は瀕死だ。

「謝れーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 バコーーーーーーーッ!!

「-----ご、ごめんなさい」

「……(はあ、はあ)よし、許したる!」


 ◇ ◇ ◇

 こうして世界は平和になった。

 魔族と他の種族の仲は、よいとは言えない。

 蹂躙される側の心の垣根を取り払うには、長い年月が必要だろう。

 しかし、また魔族が暴挙に出る時、大規模な異世界の勇者召喚を行うと脅してある。

 少年健人が言った。

 異世界とは、勇者予備軍の国なのだと……


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