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好きだった、ありがとう

作者: 須田ミヨ

真っ暗な画面に私の顔が映った。

ああなんて貧相な顔なんだろう。

こんなふうに思うのは疲れている証拠。疲れていると自分の顔がぶさいくに見える。今日すごくかわいいなと思うときもあるから、きっとそう。


電車のなかは手に持った機械の画面を触る人たちばかり。私もその一人。真っ暗だ、車内から見える景色も手元の画面も、なにもかも。



駅からおりたら、ずっと叫んでるおばさんが南口にいた。お姉ちゃんと、呼んでいた。私はああ、この人はイカれた人だ、と思った。ずっと通り過ぎたとき、はたと気づいた。あの人、傘を持ってなかった。この大雨のなか傘も持たずにお姉ちゃんを探していた。



あの人のお姉ちゃんは、この雨のなかにいるんだろうか。



私の折りたたみ傘は小さすぎて、ごろごろと引いているスーツケースはびしょ濡れだ。私の家はあともう少し、なのに。

なんだ、この喪失感は。

膝から崩れ落ちそうな、頭が破裂しそうな。



ああ、いけない。とても疲れいる。



私の傘は、私1人を雨から守ることさえ危うい。あの人の大きな傘は2人で入っても大丈夫だった。

なんてことだろう。

わかっていたことのはずだった。




いつかあなたからもらったキーホルダーは、あなたばかりを思い出させる。そして同時に浮かれた私も思い出してしまう。悲しさと恥ずかしさでどうにかなりそうだ。


今の私には何もない。

あったとしても、もういらない。

歩きながら息をした。お気に入りの靴は濡れて、太ももまで雨は染み込んでいる。

昔は雨、好きだったのにな。水溜りとかわざわざ足を突っ込みに行ってた。

これが大人になるということかしら。大人になるって悲しいことだと思った。



乗り込んだエレベーターのガラスに私の顔が映る。

いつかこの顔にも皺が刻まれていく。

私という容れ物は年月とともに古くなってしまう。取り替えの効かないもの、私は日々使い続けている。


ふらふらしながら、玄関の鍵を開けた。

かばんのなかから、あの人にもらったキーホルダーを取り出した。なぜか冴えた頭で、キーホルダーをごみ箱へ入れた。

これが私の強がりだったとしても、もうなんでもいい。心のなかで別れを告げた。


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