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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

飴玉

作者: 篠宮 碧海

飴玉


彼女は、いつもいつも飴を舐めていた。


どんな時もだ、登校、下校、遊びの時も。

もちろん旅行の時も。



僕は彼女と幼馴染で、とても仲良くしていた。



初めてあった時は5歳の頃だった。

その時も彼女は飴玉を舐めていた。



彼女はいつもいつも飴玉を舐めていた。



口に含んでピンク色の小さな頬をぷくんと膨らませているのだ。




僕はそんな彼女が大好きだった。

彼女は僕と毎日毎日遊んでくれた、笑顔が可愛くて、性格も優しくて‥‥とにかく僕は彼女が大好きだった。


その時も彼女は飴玉を舐めていた。



この頃の大好きというのはまだ幼かったから恋という感情ではなかったのだが、今ではその感情が恋に変貌してしまっているのだ。



僕は思春期に入ってから彼女のことが姓的な対象になっていた。

これはよくあることだろう、当たり前のことだ。



彼女は小さい頃と変わらず接してくれるが、僕からしたら好きな人のそばに毎日いる、好きな人がすぐ手の届く場所にいる。

そんな幸せな思いだった。




彼女はいつもいつも飴玉を舐めていた。



飴玉を舐める彼女はとても可愛らしく、小学校でも中学校でも男子の注目の的だった。



だけど、彼女は告白されてもそれを全て断り、毎日僕のそばにいてくれるのだ。


僕は友達から羨ましい羨ましい、とさんざん言われた。

僕は既に彼女の虜になっていた。




彼女はいつもいつも飴玉を舐めていた。



もちろん彼女の飴玉が気になったことは何度かある。


小さい頃、彼女に僕にも飴玉をくれと頼んでみたのだ。




「えぇー!ダメだよぉ!この飴玉は!私専用なの!」




と、僕にはくれないようだった。




もう少し経った頃に彼女にもう一度飴玉を貰おうと試みたのだが。




「そんなにこの飴玉が欲しいなら!将来私のお婿さんになったらねぇ!」



と彼女らしい冗談で返されてしまった。

僕はその時に決めたんだ。


彼女と結婚しようと、それは飴玉の理由を知りたいから‥‥という理由もあるが、やっぱり僕は彼女に恋をしていた。




彼女はいつもいつも飴玉を舐めていた。



そう、今でも彼女は飴玉を舐めている。



僕の隣で、僕のそばで。



将来は絶対に僕のお嫁さんになってもらうんだ。




そのために‥‥今日こそ‥‥。








彼女はいつもいつも今でも飴玉を舐めている。



「な……なぁ…」



僕は真っ赤な顔で彼女に話しかけた。



「ん?なーに?」


彼女はやはり頬をプクりと飴玉で膨らませていた。



「あ……あの…さ…よかったら今日、家に泊まりにこない?」




意を決して僕は言った。

恥ずかしかった、顔から火が出そうだ。

心臓がバクバクと大きく音をたてる。



別にお泊まり会に誘うことが恥ずかしいわけではない。



彼女は前からよく僕の家に泊まっていたから。



だけど‥‥今回はそういうただのお泊まり会なわけじゃないんだ。



「うん!いいよー!」



彼女はニッコリ笑ってOKサインをした。



「じゃ、じゃあ!七時に僕の家で!」



彼女は頷いて、タッタッと家に向かって走り出した。








そして、夜の七時。



彼女は可愛らしい私服で僕の家に入ってきた。



僕はそのまま彼女を僕の部屋へ案内した。




彼女はいつもの定位置のベッドに座る。





「なんか久しぶりだよねぇ!六年ぶりくらい!」


彼女は懐かしそうに僕の部屋を見渡す。


とても嬉しそうな彼女を見て僕も嬉しくなった。





「あ……あのさ……」



僕は緊張して声が震えていた。




「僕……………」





言うんだ。


今ここで。

これまでの思いを……。




「僕!君のことがずっと前から好きでした!!……え…えと……よ、よければ付き合ってください!!!」





言った。



言ってしまった。





僕は顔が真っ赤になって火照っていた。

顔が熱い‥‥。



頭に血が上る。

クラクラする‥‥。



暑い、熱い、恥ずかしい。




彼女に全く反応がないので顔を上げてみた。






すると、そこには顔を真っ赤にした彼女の姿があった。



「え………えぇ……っと!…………その……」






彼女はモジモジしながら僕を見つめる。





反応あり……?

なのか?






「わ……私も……好きだったから…………」




「うそっ……!」






僕は驚いてそうつぶやいた。




まさか、彼女と両思いだったなんて…………!


僕は天にも昇りそうな気持ちだった。




「じゃ!じゃあ!!」




「う…うん………よろしくお願いします………!」







や……やった!!


ついにやった!!




恥ずかしさが喜びになり、熱が興陽へとかわった。




やっと伝えられた。



彼女は僕のものになった…!!


今ここで叫びたいくらいだが、彼女の前でそんなことはできない‥‥。






時計を見ると、もう夜中の0時を過ぎていた。



僕は顔をペチペチと叩き、彼女に言った。




「も…もうそろそろ……寝よっか………///」




「うん……///」




僕と彼女は顔を真っ赤にしていた。






いつも泊まる時は、一つのベッドで寝ていた。


それが普通だった。






でも今は違う‥‥。



まったく違う感情なのだ。



それは‥‥きっと彼女も。




僕がベッドに横たわると、彼女がテッシュペーパーを1枚とり、人差し指と親指で口の中の白い飴玉を取って、テッシュペーパーにくるんだ。




「あ……あれ…?飴玉いいの?まだ大きかったけど………」



と僕は彼女にそう言う。



彼女は僕を見てニッコリと笑った。



「うん………だってもう…………私”専用の飴玉”ができたんだから………」





………え?それってどういう‥‥。





と、彼女は僕の鎖骨をチロリと舐めた。





「えっ///!?」




僕は驚いて変な声を出してしまった。




「えっ!鎖骨は飴玉によく例えられるじゃん!」



と彼女はイタズラに笑って言った。




「えっ………えっ!?えっえっ!?」



僕は混乱して考えられなくなっていたが‥‥たぶん彼女の冗談だろうと思った。





彼女はフフと笑うと。




「冗談だよ……寝よっか?」



と悪戯な顔で僕を見た。





僕はふぅと息を履くと、その後すぐに睡魔に襲われた。












それから何時間経っただろうか、僕は不意に目を覚ました。



キョロキョロとあたりを見回すと、彼女の姿は無かった。





少し僕の部屋のドアが空いていたので、ドアを開けて1階へ行こうとした。



彼女はどこに行ったんだろう‥‥。






階段を静かに降りる。










クチャ………クチャ……







なにかの音がする。




何かを食べる音。









クチっ……クチュ…クチャ………………





ズルズルと啜る音も聞こえる。



なんだろうこの音は‥‥。




階段を最後まで降りると、ゴロゴロと何かが転がってきて、僕の足に当たった。




「いてっ…なんだよまった……………く…」





足元を見ると、








それは胴がない母親の生首だった。



「ひっ…!?うわあああああああああああああああああああ!!!!!」




僕は思わず叫び、腰が引け、尻餅をついた。



足がガクガクと震える、正体不明の恐怖に一気に襲われた。


怖い‥‥怖い怖い‥‥。





すると、リビングのほうからクチャクチャと何かを食べる音と、足音が聞こえてきた。




何かが来る‥‥






クチャ……クチャ…







来る‥‥なにかが‥‥来る‥‥来る来る来る来る来る!!!






クチャクチャクチャ








「ぁっ………!」





そこには母親の胴の鎖骨に齧り付く彼女の姿だった。




彼女は僕を見て、ニッコリと笑うと、母親の鎖骨をブチんと口でちぎった。







彼女はコリコリと音を立てて母親の鎖骨を口で砕いた。






「あ…あ………あ……」

僕はうまく声が出せなかった。





「あれ、起きちゃったの?」





彼女は悪戯な笑顔で僕を見る。


いつもの彼女の笑顔だ‥‥。



この食人鬼は彼女‥‥彼女そのもの‥‥。





彼女は帰り血まみれで、右手に大きな包丁を持っていた。





「言ったよね………お婿さんになったら…飴玉の秘密を教えてあげるって………」




彼女はぷっと口から鎖骨を吐き出した。






「正体は鎖骨……………人間の鎖骨って……コリコリしてて美味しいの。」




彼女は母親の胴を捨て、僕に寄ってきた。







僕は声も出ず動くこともできなかった。



「…ふふふ」






彼女は僕の鎖骨をなでた。





「可愛い……私専用の飴玉…………」




彼女は僕の鎖骨に顔を近づけた。







「これからはずっと私のものよ………」









彼女は僕の”飴玉”をチロリと舐めた。









END‥‥。

僕の連載作品の《街角アンブレラ》のほうも読んでくれたら嬉しいです!

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