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B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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76/90

旅立ち:保志(side:美彩)


保志が中学2年生。

少しの反抗期。

「お父さんに言いつけてやる!」

「……ぐっ。分かったよ!時間通りに帰ってくればいいんだろ?」

親しい友人もいない。まるで若いころの遠矢だ。

なのに、どこに行くのか帰りが遅い。

相手も契約もなく、女の子と遊んでいるのでは?

「母さん、あのさぁ……」

睨んでいる私に、あきれたような視線。

「何よ!ぐすっ……私が悪いの?うっ……息子が反抗期……っ……うぅ~~」

弱さとは違う何かに、涙が止まらない。

悔しい……もう、どうでもいいや……

遠矢が仕事で家に居ないから、いっぱい泣いたって!

「ちょっと、泣かれると困る……俺、じいちゃんに女性には優しくって叩き込まれてんだけど?」

……ん?何を言っているのかな?

涙を流したまま顔を上げた。

同時に。【ふわり】

保志は私を優しく抱きしめ、頭を撫でる。

「泣かないで。ごめん……俺が悪かったよ。母さんに泣かれると、どうしたらいいのか分からない。本当に困るんだって……」

……【きゅ~~ん】

何、この……可愛い?

違う……護ってあげなきゃ?みたいな!!

息子にドキドキする。

何だろう……遠矢が、円華を私だと叫ぶ気持ちが分かったような……

懐かしい、あの頃の遠矢……


「俺の美彩に手を出してんじゃねぇ!!」

遠矢が保志の後ろに立ち、脇に手を入れて持ち上げた。

久々の……さすがに高い高いはできないかな。

保志の重さも増えたし、背が伸びて。

勢いを付けたら頭をぶつけてしまう。

「下ろして、父さん……俺は無実だ。」

無実ではない。

遅い時間に帰ってきたのは、叱ってもらわないと。

「……ん?美彩!何で泣いて……保志に抱きしめられて泣いたの?そんな弱さ俺に見せないのに?……ふっ……ふふふ……くすくすっ」

……あれ?何だか雲行きが怪しいぞ……

「遠矢、何……笑っているの?ね……」

遠矢は保志を床に下して、片手を自分の腰に当て。

もう片手は二階を指差す。

「ハウス!」

保志は素早い動きで二階の部屋に逃げた!

遠矢は私に笑顔を向ける。

けれど怖い。怒りの露わな笑顔。

器用ですね、ふふ。

「美彩、おいでよ……」

手を広げ、怒りの伝わる低い声。

私は大人しく、その手の中に入る。

片手で抱き締め、もう片方の手が私の頬に。

【ぐいっ】

顔を上に、少し乱暴に向けられ……激しいキス。

「んっ……んん~~っ……っ……」

【ぷはっ】

目がグルグル回る……酸欠……

「美彩、何で俺がいないところで泣いたの?……泣きたいなら……」

遠矢は私に軽い足払いをし、バランスを崩したのを受け止めて。

流れるような軽やかさ。

一瞬でリビングの床に寝ていた。

緑色の目で私を上から見つめ、優しく触れる。

今までにない強引な押し倒し方で、痛みを感じない優しさ。

「ふふっ」

つい嬉しくて、微笑んでしまった。

普段、こんなところで求められると拒むけど……どうでも良くなってしまう。

「ね、俺……怒ってるんだよ?どうして余裕で笑うの?俺だけが無様だ……」

拗ねたように、私から視線を逸らす。

かわいい。愛しい……私の遠矢……あの頃から何年経つだろう。

「遠矢……保志も、あなたに近い。とても自由。それを見たら、あなたの若い頃を思い出して……今のあなたを、もっと好きになるわ。」

手を、遠矢の頬に近づける。

遠矢は、視線を戻し機嫌を直したように微笑む。

「本当?」

可愛いなぁ~

「くすっ……内緒。」

「……美彩、もっと子どもが欲しい……」

え、もっと?

……何かあった……

遠矢は私の胸に顔をうずめ、甘えるようにすり寄せる。

首元に遠矢の髪が触れて、くすぐったい。

遠矢の頭に両手をのせ、そっと撫でる。

「遠矢……」

【がちゃっ】

ドアが開いて、リビングに入ってきたのは采景。

……。

「ごめんなさい、二階に上がるね。」

全てを察したかのような視線。冷静な声。

ドアを閉め、去って行く小学生の采景。

「うわぁあ~~ん!違うのよ、采景~~!!」

数分後のリビング。

正座した遠矢が、私に必死で謝る。

「……もういい、しばらく何もしない!あぁ、恥ずかしい……息子に見られるなんて。遠矢が悪いんだからね!!」

「えぇ?それは、ないよ!!……元はと言えば。保志めぇ~~覚えてろ……」

保志が悪いのかな。発端ではあるけれど。

保志の反抗期……どこに行っているのか、私達に言おうとしない。それは。

保志は、いつか旅に出るつもりなんだろうか。

それも当然な時期。

遠矢は高校の進学と同時で家を出て、この土地に来た。

子ども達は大人になる。いずれ家を巣立つだろう。

それでも、ここが帰る場所であって欲しい。

遠矢が望んだ家族……

「……美彩、本家から連絡があった。」

胸が騒ぐ。

遠矢の目は、私に真っすぐ向けられて。

「結論は、旅に出なくてもよくなった。順を追って話すね……」

本家の許しが出た。旅に出なくていい?

動いたのは学園なのかな。

遠矢は正座をくずして、私を抱き寄せた。

伝わる少しの震え。

私は遠矢の背中に両腕を回す。

「墨から情報が入った。学園は『かぐや姫』を、希東高校に迎えるそうだ。」

希東……私たちの母校。そして保志の志望校でもある。

「先見が何者なのか、学園の目的も分からない。けれど俺達にとって、呪いに関する情報が最優先。」

学園の庇護。それが何を意味するのか。

遠矢の予測。多分、大上家の呪いに関係している。

別の何か……複雑に絡んだ呪い……

「本家も全貌を知らない呪い。残る子孫の少なさ。呪いの増幅。……学園の保護した雑種が、情報を持っていたと。」

学園の庇護に、増える呪いの関係者。

当事者の本家より、呪いに積極的に絡んでくる学園の願いは。

……本家も呪いの解放に関係する『かぐや姫』の為に……保志が留まる事を認めた?

では、采景は……

頭が追い付かない!

「美彩、落ち着こう……俺も、頭の整理が出来ない。だけどね。情報は確かに間際で必要な時に、必要な分だけ……これから、こんな事が何度もある。美彩……正直に言うと、怖い。共に戦えるだろうか?」

遠矢の抱きしめる腕の力が強くなる。

こんな事が、これから何度も。

二人の覚悟が必要……

私は遠矢の背に回した手を、上下に撫でるように動かし、ポンポンと軽く叩いてみる。

「ふぅ。」

遠矢の口から息が漏れた。

そして呼吸を何度か繰り返し、少し落ち着いたような表情を見せる。

私も少し落ち着いて、遠矢に微笑む。

「一緒に見守りましょう。私達の子が、呪いに勝てることを願って。」

「あぁ。……愛しているよ、美彩。」

「私も愛しているわ。」

保志が『かぐや姫』と契約し、心を手に入れなければ……一生独り……

呪いの当事者の二人にしか、過去に何があったのか分からない。

呪いの全貌は見えていない。

雑種の知っていた情報は、物語の全貌を思い出すきっかけになるだろう。


【かぐや姫は、おおかみに食べられた】

物語の一部は学園に広まる。保志の環境を整えるように……

その呪いの詳細は『かぐや姫』と保志だけが知る。

呪いを解放する者だけが、その呪いの詳細を知り。解放する。

円華と諷汰、そして采景……

それぞれが解放する呪い。各々に課せられた運命。

得られる情報は常に間際で必要な時に、必要な分だけ。

その状況を見守る。

呪いからの解放。私と遠矢が選んだ道。

子どもに、それを課すのを知って。

共に生き、共に立ち向かうと誓った。願うのは……






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