旅立ち:諷汰(side:遠矢)
本家から、諷汰の旅に出る日が決まったと連絡が入る。
それまで何度か本家へ円華を連れて行ったが、諷汰に合わせることはなかった。
今まで円華は本家の庭が好きだと言い、本家について来ることを喜んで見せた。
諷汰の記憶と共に、池で溺れた記憶も消えているようだったが。
好きだという庭を何度も巡り、池に向かう道を避ける。
どうしてなのか小さなころに尋ねたら、返事は返ってこなかった。
記憶の奥底に、何かがあるのか?
そんな状態で20歳になったとき諷汰を受け入れられるのか?
記憶を思い出したりすれば。
呪いの告げる相手とはいえ、本当に諷汰を好きになるだろうか。
まして愛情を注ぐことなんて……
諷汰を選んでも円華は……
自分の事のように考え、不安は尽きない。
「遠矢、円華を空港に連れて行くの?」
夜、会社から家に帰り。
美彩にも本家から連絡があったのか、不安そうに尋ねる。
「あぁ、そのつもりだよ。円華が、空港に着いて来てくれるかどうか……」
新たな呪いの情報は手に入らない。
保志の旅に出る年齢が近づく……
しきたりが俺達から子どもを奪うなど許さない。
絶対に闘ってやるんだ!!誰も旅には出さない……
休日に、円華と料理をしながら。
「円華、今度……俺と二人で、デートをしないか?」
何だろう。俺の誘いに微妙な笑顔。
デートって言ったのが悪かったかな。
「二人で?」
嫌なんだろうか?何が、いけないのかな……
成長して、出会った頃の美彩を思い出して見つめた事?
それとも美彩と重ねて妄想したから?
「駄目かな。」
「……嬉しい。お父さん、かっこいいから好き。」
……くっはぁああぁ~~!!激カワ!
思わず『美彩』と叫びそうになった。
「円華、欲しいものがあれば何でも買ってやるぞ!!服とか……買い物しよう、その後に食事も行こう!」
「もう……そんな、大げさだよ。……ね?それより、急に……どうして?」
……核心……何かを感じているのか。
美彩に似て勘が良いのかな。
「大切な取引先の人が、海外に出る……長い旅になるんだ。」
諷汰に円華を見せておきたい。
円華は手を止めて、俺の目を見ながら話を聴いている。
「見送りに行くんだけど、空港まで距離があるだろ?円華の気分転換に、ドライブでもどうかと思ったんだ。保志は最近、じいさんに捕まっているし……ね?」
「ふふ……おじいちゃん、お父さんに似た保志が優しい男になるように躾けるんだって。」
笑顔の円華。俺達の愛情を受けた娘。
円華は俺を、かっこいいと褒めたけれど。
美彩の側、魔女の家系が関係してるのか。
どこまで顔を認識しているのだろう。
円華は強い子に育った。美彩が身に着けていた護身術もそうだけど。
弟達の面倒を見て世話をし、家事炊事も嫌がることなく。
優しさと強さ、美彩と同じ瞳の輝き。
大上家の呪い……常に恋愛に呪いが付きまとう。
諷汰は本家の呪いが色濃く、感情がない。
相手の円華は、諷汰に感情を与える“役目”。
理解できない感情を受け……それは心に留まり、増えるのだろうか?
契約をしていない諷汰は生まれて間もない時、円華を相手だと認識した。
初めての感情。それは歓喜なのか、呪いを願うほどの想い。
失えば一生、独り。
同じ大上家なら、緑色の目の役割は契約は……
見送りの日。
空港に着き、円華は大きな窓を見上げた。
「お父さん、私は旅に出ても良いと思ってる。」
予想してなかった言葉。
返事に戸惑う。
円華は窓に両手を置いて、空に向け飛び立つ飛行機を目で追い。
「お父さんが旅に出たように……今日、誰かが旅に出る……いずれ私や保志、采景も。だから、お父さん達は本家と闘っているんでしょう?私は旅に出ても良い……」
「許さない!!」
感情は醜く、独占欲の塊……
これは俺の願い。欲しかった俺の家族といつまでも。
俺の我儘……俺は昔から変わっていない。
……そうなのか?その願いは俺だけなのか?
「円華……本当に、そう願うのか?どうして……俺は……間違っているのか?」
家族を護ると言いながら……
旅を、子どもが願うとも考えなかった。
「……違う……願ったりしない!一緒に居たいよ。でも、いつも……本家に行った帰りは、お父さん……お母さんも辛そうだった!」
……いつから気づいていたんだろう?
そうだよな……普通じゃない。
本家に、ただ庭を好きなだけで通ったりしないよな。
安心していたんだ。円華が何も尋ねないから……
俺たちの感情を汲み取っていたのか……くそっ!!
諷太には感情がない。そんな奴と共に過ごす時間に、円華の幸せはあるのか?
「……俺も美彩も、お前たちと共に過ごす時間を望んでいるんだ。お前は本家から、旅に出なくていいと言われている。」
「保志や采景は?」
「本家が何と言おうと関係ない。旅には出さない!……それを、お前たちが望む以外は。」
円華は俺に抱き着いて涙を流す。
「……ごめんなさい。何も知らず、旅に出るなんて……」
「いや、きちんと子ども達にも言っておくべきだった。ごめんな、心配しなくていい。大丈夫だ。」
抱きしめる円華は、まだ感情の不足した女の子。
ダメだ!旅には出せない……子どもたちが出ることを願っても、近くにいるべきだ。
相手が、あの諷汰なら……
「円華、ここで待っていて。見送る旅を、お前に見せたくないんだ。」
頭を撫で、涙を拭ってやる。
円華は微笑みを俺に向けた。
美彩とは違う、円華の個性的な笑み。
「うん、ここで待ってる。どこにも行かない。」
円華は、また窓から外を見上げた。
そこには飛び立つ飛行機。
俺は、諷汰との待ち合わせ場所に向かった。
そこには本家の保護者を装う一人の男と諷汰……
あの時のまま。5歳くらいの姿のまま成長が止まった、変わらぬ無表情。
池でおぼれた円華を危険にさらし、俺が怒っているから諷太に会わせないのだと思っていた。
諷太にとって大事なのは、俺ではなく円華だから。
疑問にも思わず。本家の呪いに寒気がした。
「遠矢さん、後で……円華ちゃんを見に行っても良いですか?」
「あぁ、見ておけ。……諷汰、何度も円華を見ているよな。何を思う?」
感情のない事、それが何を意味するのか俺はわかっていなかった。
「思う、ですか?それは父が見ておくようにと言うので、その通りにしていました。」
何も……感じない?
そんなはずはない!あの日……生まれたばかりで、円華を認識したはず。
……理解していないんだ。
心にあるのに。何かを表現できないんだ……
駄目だ、このままでは!!
「諷汰、約束しろ!海外で感情を学ぶんだ。沢山……知識として学べ。円華から受けた感情が理解できないなら、お前の感情は増えたりしない。円華から受けたものを、理解できずに流してしまうなら呪いには勝てない。この言葉も理解できなくていい。とにかく詰め込んで帰ってこい!!いいな!」
「はい。感情を学ぶと、約束します。次に円華ちゃんと会える婚約の時まで、沢山の感情を知識として蓄えます。」
諷汰は、円華の場所も聞かずに走って行く。
あぁ、ずっとそうだった。
理解していない感情に、動かされ。呪いが求めるように、円華を探す。
呪いは、呪いなんだ……それでも愛情の鎖に違いない。
保志や采景は、旅を望むだろうか?
本家との争いを理由に旅を選んでほしくない。
旅の目的は、呪いの告げる相手を探すことだから。
呪いの全貌は見えず……
俺は子ども達を身近で見守りたいんだ……




