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⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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妊娠・出産:采景(side:遠矢)


「美彩、3人目が欲しいな。」

「ん?お腹にいるよ。言ってなかった?」

……酷いや……

子どもたちの呪いと闘うのを、一緒に見守ろうって約束したのに。

「嘘だよ~~。まだ検査の結果が出てないけど、多分いるよ?」

美彩の意地悪な笑顔。

「また本家に呼び出されるかな?」

「でしょうね。……遠矢、最近……本家の様子がおかしくない?」

保志が生まれて、男だと聞いた時の本家が示した異様な反応。

円華の時に似た何か……

保志を旅に出さないと言い切る俺に、何度も本家の執拗な呼び出し。

特に保志が生れた前後。

しかし会話の内容と言えば、諷汰の事……そして周りの様子を探るような質問。

確かに変だ。

「……美彩。保志の相手は、近くにいるんじゃないだろうか?」

本家が何かを隠しているのは確か。

呪いに関する事……俺達の知らない情報。

俺は窓を開け呼びかけた。

「墨、いるか?」

墨は俺の声に反応したように、壁を飛び越えて姿を現し、綺麗な着地。

やるじゃねぇ~か。

「情報屋は、現役かな?」

小さな不安が、大きな波のように感じる。

「遠矢、不安を顔に出すな。俺の主に、そんな情けない顔は似合わない。」

信頼できる存在。学校を卒業しても続く主従関係。

墨は立ち上がり、警戒しながら周りを見渡す。

「本家なのか、ここを探ってるやつがいる。気をつけろよ、学園の庇護にはあるけれど。」

学園の庇護……それは何を意味するのか。

ずっと学園は会社の利益や、そういった繋がりのおこぼれを狙っているのかと思っていたけれど。

「遠矢……本家の動きは俺も見ているが、向こうの守りも堅くてね。学園は、すでに動いている……子どもたちの旅も止めることが出来るだろう。」

学園が、何故そこまで。

先見か……

「墨!居るなら子どもの相手をしてよ。手伝って!次が産まれるのよ。」

墨を捕まえた美彩が、家に引き込んだ。

美彩のお腹には子どもがいる。

墨は不意をついた美彩を振り払うことも出来ず、逃げることも不可能。

墨は主従関係を気にして、家に入ったことが無かった。

寮の俺の部屋には入っていたのに。

家庭と学園の中では、何か違うのだろうか。

いつも見事に逃げられ、俺達は作戦を考える度に失敗に終わっていたが。

やっと捕獲に成功した。

裏で生きてきた墨の抱える闇。

墨は俺達の家族と言ってもいいほど、助けられてきたから。

だから墨の闇を理解しない。俺だって我儘を通したいんだ、信頼してるから。

「……」

墨はリビングに座り、無言の圧。

明らかな不機嫌。

「墨、機嫌を直せよ。ほら、可愛い円華が微笑んでるぞ!!」

墨の膝に円華をのせ、腕に保志を抱かせた。

子育てしていた先輩なだけあって、手慣れてるな。

「……卑怯だ。ぐすん……美彩ちゃん、覚えてろ?遠矢の喜ぶ嫌がらせをしてやるんだからな。俺の主は遠矢だけなんだぞ!!くすん……俺の信念が……いつだって覆すのは遠矢だったのに。」

口調は俺に劣らず子どもじみてるけど。

「もう!そんな弱さを見せないで頂戴!!」

美彩が、どんどん強くなっていく。

子どもたちを上手にあやしながら、墨は俺に真剣な視線を向ける。

「遠矢……かぐや姫を知っているか?」

親は色々な本を揃えていたが、聞いたことがない情報。

黙って首を振る俺の横から、美彩が顔を出し。

「それって……月に帰った話の?」

月に帰ったって、宇宙人?

どんな話なのか。

「いや、童話とは違う。遠矢が知らないのは、家系一族が惑わないように見せなかったんだろう。120年に一度生まれる女の子……呪いを解放すると聞いた。学園が探している。」

呪いを解放する女の子……

「その相手が、保志だと……役員級は思っているよ。」

「学園は、その子を探してどうするんだ?保志の相手だとしても、学園にどんな関係が?」

学園の望みは何だ?

本家でさえ手に入れていない情報。先見は何を知っている?

120年に一度……今まで繰り返されてきた呪いの解放を背負う……保志が?

失えば……

「墨、情報を集めてくれ。」

「命に代えてでも。」

「え、死んだら許さないよ?」

真面目な俺達に、美彩が怖い笑顔で睨んでいた。

美彩のお腹には新しい命。

子どもたちは旅に出さない!

本家に対抗できるのは学園だけ。引き換えを何でも望めばいい。

家族を守れるのなら、何でも与えてやる!

呪いと闘う子ども達……本当の解放は何だ?

雑種の存在、感情のない本家の子、120年に一度生まれる女の子。

複雑に絡む呪いの全貌も見えないまま……

俺は美彩を抱きしめる。

「遠矢……3人目は、私が名前を決めるね。采景さきょう。“さ”は、私の字の半分……景色を集めるように物事を見て欲しい。」

生まれたのは二人に似た男の子。

景色を集めるより、人の視線をさらうような男になるだろう。

本当の呪いの原因となった家系の心を、捕らえて離さない。

本当の解放をもたらす……呪いの全貌を見せる采景……






反抗期:保志(side:美彩)


円華は女の子だからかな?

イヤイヤ期はあったけれど、楽だったと思う。

保志が産まれた時には、嬉しそうに世話をしていた記憶しかない。

保志は、采景に意地悪をする。

「ダメよ!まだ采景は食べられないのよ?」

おやつのホットケーキの切れ端を、采景の口に押し付けていたのを発見し、慌てて止めた。

「どして?おいしいって!もっとあげる!」

今回は、お兄ちゃんとしての優しさか。

美味しいものを分けてあげたいなんて、保志も成長してるんだな。

「保志、あのね?采景は、まだ食べられないのよ。だから食事の時は、采景はいつも飲んでいるだけでしょう?」

「ミルク!」

きちんと教えれば分かってくれる。

保志の頭を撫で、安心したのも束の間。

「じゃ、ぼくも!」

私の胸に飛び込んで、抱き着いてきた。

赤ちゃん返りだろうか。

半ばあきらめた私から、保志の体が浮いてビックリする。

遠矢が保志の両脇に手を入れて、回収したのだと理解した。

「ほ~ら、お前の好きな高い高いだぞ~。」

勢いよく振り上げ、天井近くまで掲げ。

これは、前にも見た光景。

「……うっ……ぎゃぴぃ~~~~!!」

遠矢は嫌がる保志を平然と片手で抱き、真剣な目で諭す。

「美彩の胸は俺のだぞ。」

……この男たちはぁ~~。

本当に成長しないんだから!

「いい加減にしなさい!!」

保志を受け取り、遠矢を正座させた。

私の膝の上に保志を乗せ、頭を撫でてなだめる。

そんな騒ぎを聞きつけた円華。

さいは、円華が見ているね。」

円華は采景の寝ている布団に寝ころび、手を握って頬にチュウ。

少し気になる。

「円華、口にチュウは駄目よ!」

「は~い!」

可愛い返事だ。

さて、こっちが問題か。

「いい?遠矢……あなたは、お父さん!子どもが多いと愛情が分割されちゃうの。」

私の説教に不機嫌な顔。不満を言いたげ。

黙っているのかと思ったけど。

「俺は美彩の子どもじゃない。夫だ!愛情が欲しいのは、子どもだけじゃないだろ?」

……確かに、正論だけども。

騙されないぞ!

「今、怒ってるのはね……保志が欲しがる愛情を、邪魔しちゃダメ!って事。幼い采景に注がれている分、足りないのよ……」

遠矢は、視線を逸らし……何かを考え(企み)ニッコリ。

不気味だ。

「よし、保志!父さんが相手をしてやるぞ。」

「やだ!」

……。

保志の即答に、引きつった笑顔の遠矢。

またしても保志を抱えて、天井近くまで勢いよく振り上げる。

「ぎゃっぴぃ~~~~!!!!」

この時の記憶があるからか大きくなった保志は、あまり遠矢に反抗をしなかった。

これで良かったのだろうか?


一悶着が落ち着き、食事やお風呂を終えて。

子ども達は就寝。二人の時間に、今日を振り返る。

「たくっ……保志は一体、誰に似たんだ?」

「……我儘なのは私かな?顔は遠矢そっくりよ。」

「……美彩、俺が前に保志を『かわいくない』って言ったの覚えてる?」

私は黙って頷いた。

「ずっと自分の言葉に自己嫌悪で、話題に触れるのも逃げてきた。墨に相談したんだ。……墨もさ、息子が『かわいくない』って思うことあるって聞いて。少し安心したんだ。『自分の分身であり、自分とは違う個体』なんだって。自分の子だから行動パターンが同じだと思ったり、自分とは違う個体に嫉妬したり。」

私は遠矢に寄りかかり、黙って話に耳を傾ける。

「美彩は、円華に対してある?」

「ふふ。お父さんは、私より円華が可愛いのかな?とか思ったこともあるよ。」

「そっか。子育ては難しいね。」

遠矢は手を絡めるように繋ぎ、キスを落とす。

「美彩、みんな寝ちゃったし……ね、良いだろ?」

何がでしょう?

「疲れたから、寝る!遠矢は明日から出張でしょう?」

布団に入り体を逸らす。

「だから、さみしくないように……ね、愛情を頂戴?」

……保志の変な甘え方は、遠矢にそっくりだ!!




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