妊娠&出産:保志(side:美彩)
学園の大学病院から連絡が入る。
「……二人目。」
お腹に新たな命。私と遠矢の子。
私が戦ってきた強さは、受け継いでくれるだろうか。
片手をお腹に当て、もう片手を円華の頭に置く。
円華は真っ直ぐな視線を私に向け、優しく微笑む。
円華の相手は呪いで感情がない。
感情を与えるのは円華。それを育むのは私と遠矢。
このお腹の子も呪いと戦うのだろうか……
「円華、お姉ちゃんになるよ。」
「……まどか、おねえちゃん?」
「ふふ……うん。パパが驚くよ!帰ったら言ってあげてね。」
「はい!」
可愛い挙手で応える。
私にはない素直さ……きっと、私にだってこれくらいの頃にはあったはず。
遠矢にだけ、だと思うんだよなぁ。恥ずかしいんだよね。
『ピンポーン』インターホンが鳴る。
玄関に出迎えると、遠矢は疲れた表情。
「お帰りなさい。」
「パパっ!おねえちゃん!!」
円華が興奮して、勢いよく遠矢に抱き着いた。
「うぉ!……お姉ちゃん?」
「そ、お姉ちゃんよね。」
「うん!まどか、おねえちゃん。」
遠矢は抱き着いた円華を、片手で抱き直して頭を撫でる。
「きゃぁ~~。くすくすくす。」
円華は機嫌よく笑っている。
遠矢からの愛情を、どれほど得ているだろうか。
遠矢は円華の相手をしながら、私に聞く。
「出来たの?」
「うん。病院から、さっき連絡が来たわ。……多分、本家にも連絡が行ったと思う。」
遠矢は嬉しさの中に、影を一瞬落とし……私を抱き寄せた。
「闘おう。子どもは旅には出さない。……護る。どんな手を使っても……呪いと闘うように、本家とも。」
「うん。ふふ……どっちだと思う?」
「もう分かるの?」
「うぅん、まだ!ね、私は遠矢に似た男の子が良いな。」
「ふふ……俺が嫉妬しちゃうよ?」
「くすすっ。イジメたら赦さないよ?」
「ははっ。酷いや……今日は栄養のある物にしようか。美彩、無理をしないで。俺の家族を頂戴……護るから……」
「遠矢、愛してるわ。」
遠矢は円華を後ろ向きにして抱き直し、私にキスを落とした。
「チュウ!チュウしてるの?」
【びくっ】
円華の声に二人が慌てて唇を離し、見つめて微笑む。
「円華、頬チュウしちゃうぞ!」
「きゃぁあ~~。パパ、くすぐったい!!」
呪いは、愛しい娘へのキスも制限を加えるのだろうか。
前に尋ねたとき、遠矢自身もどこまでなのか分からないと言った。
全貌の見えない呪い……私たちは、子ども達は勝てるのだろうか?
「美彩、必ず情報は手に入る。焦らず見守ろう。俺達の強さは、子どもたちの強さに増し加えられる。」
遠矢は、昔を思い出すように呟いた。
「二人で戦うと誓ったよね。ずっと子ども達を見守る……今、出来ることをしましょう。」
「まどかも!おねえちゃん!」
子どもが生まれたら、家族は3人から4人になるんだな。
どんどん賑やかになっていく。
食卓に食器を並べ、遠矢の作った美味しいご飯を皆で食べる。普通の幸せ。
大上家のしきたりは16で旅に出る事。
遠矢は自分の家族を望んだ。
自分が失った家族との時間を、子ども達から奪うことを許さない。強い決意。
食べ終わり、一緒に洗い物をしながら。
「美彩。子どもが男の子だったら、名前は保志にしたいな。」
遠矢は微笑む。
「意味は?」
「志を保てるように。言い聞かせる……強さを保てる男になって欲しい。俺の迷いが、美彩を苦しめた。そんな想いを味わって欲しくない。美彩、ごめんな……」
「謝らないで。強さを頂戴?」
手には泡がついた状態。
遠矢は私に身を寄せ、軽いキスを落とす。
「美彩、愛してるよ……」
「愛してる……遠矢、私の支え……」
「まどかも!!」
イスに座っていたはずの円華が、いつの間にか近づいて私たちの足に飛びつく。
「あ、こら……円華、暴れるな!皿が割れる!!」
泡のついた手で円を抱きかかえる遠矢。
「きゃぁあ~~ふふふ。くすくすくす……ダイスキ!!」
円華の服が少し濡れてしまったけれど、楽しそうに笑う円華につられ。
私たちは笑顔で見つめる。
「俺の大切な娘、円華、パパも大好きだぞ~。」
愛しき我が子。
呪いと戦う運命を背負わせると分かっていて、生んだ。
円華は相手に感情を与える。見てきた愛情を、相手に注ぐ。
私たちから受けた愛情を与え、呪いを塗り替えていく。
お腹の子は、どんな呪いと戦うのか。
本家のしきたりに対抗できるだろうか?近くで戦う姿を見守れるだろうか。
不安は尽きない。それでも未来を信じて……
生まれたのは、遠矢に似た男の子。
「保志……呪いに負けないで。戦う時、いつも自分に言い聞かせて。志を保てるように……呪いに勝てる強さを願って欲しい。」
腕に抱く小さな命。
120年に一度、巡り逢う。呪いが告げる相手は、かぐや姫。
失えば一生……独り。
必要な情報はギリギリ……
本家の隠してきた呪い。逃げてきたモノ……
呼ぶのは……(side:遠矢)
保志が話し始め、美彩を見つめて呟く。
「……ミサ?」
「きゃあぁ~~!保くん、もう一度!」
「ミサ。」
喜ぶ美彩に対して、笑顔を振りまく息子を後ろから抱きかかえ。
「ほらパパだよ~。高い高いしてやろうなぁ~。」
天井近くまで掲げて、俺なりに遊んであげているつもり。
「ぎゃぁあ~ん!!」
「なっ?何をするの!!」
美彩に睨まれ、苛立つ。
保志も何で泣くんだよ。
俺は何をしているのか?そんなの。
「俺以外の男に美彩と呼ばせるなんて、嫉妬が分からない?」
「分かるわけない!!」
泣いて俺から逃げようとする保志を、美彩が奪い返し。胸元に抱きかかえ。
保志は美彩の胸元に頬をすり寄せ、安堵の笑み。
コノヤロウ……
「円華には、そんな事しないでしょ?」
するわけがない。
そもそも美彩の胸も俺のだ!
「……なんか、かわいくない。」
思わず出てしまった言葉。
それに対して美彩の表情が固まる。
「ごめん、違うんだ。」
望んできた家族。俺に似た息子。
なのに。
『ポロッ』
え?
自分の目から涙が零れ落ちた。
「……遠矢、大丈夫。誤解したりしないよ。」
自分の幼さに嫌気。
俺は、この件があって子ども達の前では、美彩を『母さん』と呼ぶようになった。
自分をパパと言うのはいいけど、美彩をママと呼べない謎の壁……




