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⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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妊娠&出産:保志(side:美彩)


学園の大学病院から連絡が入る。

「……二人目。」

お腹に新たな命。私と遠矢の子。

私が戦ってきた強さは、受け継いでくれるだろうか。

片手をお腹に当て、もう片手を円華の頭に置く。

円華は真っ直ぐな視線を私に向け、優しく微笑む。

円華の相手は呪いで感情がない。

感情を与えるのは円華。それを育むのは私と遠矢。

このお腹の子も呪いと戦うのだろうか……

「円華、お姉ちゃんになるよ。」

「……まどか、おねえちゃん?」

「ふふ……うん。パパが驚くよ!帰ったら言ってあげてね。」

「はい!」

可愛い挙手で応える。

私にはない素直さ……きっと、私にだってこれくらいの頃にはあったはず。

遠矢にだけ、だと思うんだよなぁ。恥ずかしいんだよね。

『ピンポーン』インターホンが鳴る。

玄関に出迎えると、遠矢は疲れた表情。

「お帰りなさい。」

「パパっ!おねえちゃん!!」

円華が興奮して、勢いよく遠矢に抱き着いた。

「うぉ!……お姉ちゃん?」

「そ、お姉ちゃんよね。」

「うん!まどか、おねえちゃん。」

遠矢は抱き着いた円華を、片手で抱き直して頭を撫でる。

「きゃぁ~~。くすくすくす。」

円華は機嫌よく笑っている。

遠矢からの愛情を、どれほど得ているだろうか。

遠矢は円華の相手をしながら、私に聞く。

「出来たの?」

「うん。病院から、さっき連絡が来たわ。……多分、本家にも連絡が行ったと思う。」

遠矢は嬉しさの中に、影を一瞬落とし……私を抱き寄せた。

「闘おう。子どもは旅には出さない。……護る。どんな手を使っても……呪いと闘うように、本家とも。」

「うん。ふふ……どっちだと思う?」

「もう分かるの?」

「うぅん、まだ!ね、私は遠矢に似た男の子が良いな。」

「ふふ……俺が嫉妬しちゃうよ?」

「くすすっ。イジメたら赦さないよ?」

「ははっ。酷いや……今日は栄養のある物にしようか。美彩、無理をしないで。俺の家族を頂戴……護るから……」

「遠矢、愛してるわ。」

遠矢は円華を後ろ向きにして抱き直し、私にキスを落とした。

「チュウ!チュウしてるの?」

【びくっ】

円華の声に二人が慌てて唇を離し、見つめて微笑む。

「円華、頬チュウしちゃうぞ!」

「きゃぁあ~~。パパ、くすぐったい!!」

呪いは、愛しい娘へのキスも制限を加えるのだろうか。

前に尋ねたとき、遠矢自身もどこまでなのか分からないと言った。

全貌の見えない呪い……私たちは、子ども達は勝てるのだろうか?

「美彩、必ず情報は手に入る。焦らず見守ろう。俺達の強さは、子どもたちの強さに増し加えられる。」

遠矢は、昔を思い出すように呟いた。

「二人で戦うと誓ったよね。ずっと子ども達を見守る……今、出来ることをしましょう。」

「まどかも!おねえちゃん!」

子どもが生まれたら、家族は3人から4人になるんだな。

どんどん賑やかになっていく。

食卓に食器を並べ、遠矢の作った美味しいご飯を皆で食べる。普通の幸せ。

大上家のしきたりは16で旅に出る事。

遠矢は自分の家族を望んだ。

自分が失った家族との時間を、子ども達から奪うことを許さない。強い決意。


食べ終わり、一緒に洗い物をしながら。

「美彩。子どもが男の子だったら、名前は保志やすしにしたいな。」

遠矢は微笑む。

「意味は?」

「志を保てるように。言い聞かせる……強さを保てる男になって欲しい。俺の迷いが、美彩を苦しめた。そんな想いを味わって欲しくない。美彩、ごめんな……」

「謝らないで。強さを頂戴?」

手には泡がついた状態。

遠矢は私に身を寄せ、軽いキスを落とす。

「美彩、愛してるよ……」

「愛してる……遠矢、私の支え……」

「まどかも!!」

イスに座っていたはずの円華が、いつの間にか近づいて私たちの足に飛びつく。

「あ、こら……円華、暴れるな!皿が割れる!!」

泡のついた手で円を抱きかかえる遠矢。

「きゃぁあ~~ふふふ。くすくすくす……ダイスキ!!」

円華の服が少し濡れてしまったけれど、楽しそうに笑う円華につられ。

私たちは笑顔で見つめる。

「俺の大切な娘、円華、パパも大好きだぞ~。」

愛しき我が子。

呪いと戦う運命を背負わせると分かっていて、生んだ。

円華は相手に感情を与える。見てきた愛情を、相手に注ぐ。

私たちから受けた愛情を与え、呪いを塗り替えていく。

お腹の子は、どんな呪いと戦うのか。

本家のしきたりに対抗できるだろうか?近くで戦う姿を見守れるだろうか。

不安は尽きない。それでも未来を信じて……


生まれたのは、遠矢に似た男の子。

「保志……呪いに負けないで。戦う時、いつも自分に言い聞かせて。志を保てるように……呪いに勝てる強さを願って欲しい。」

腕に抱く小さな命。

120年に一度、巡り逢う。呪いが告げる相手は、かぐや姫。

失えば一生……独り。

必要な情報はギリギリ……

本家の隠してきた呪い。逃げてきたモノ……







呼ぶのは……(side:遠矢)


保志が話し始め、美彩を見つめて呟く。

「……ミサ?」

「きゃあぁ~~!保くん、もう一度!」

「ミサ。」

喜ぶ美彩に対して、笑顔を振りまく息子を後ろから抱きかかえ。

「ほらパパだよ~。高い高いしてやろうなぁ~。」

天井近くまで掲げて、俺なりに遊んであげているつもり。

「ぎゃぁあ~ん!!」

「なっ?何をするの!!」

美彩に睨まれ、苛立つ。

保志も何で泣くんだよ。

俺は何をしているのか?そんなの。

「俺以外の男に美彩と呼ばせるなんて、嫉妬が分からない?」

「分かるわけない!!」

泣いて俺から逃げようとする保志を、美彩が奪い返し。胸元に抱きかかえ。

保志は美彩の胸元に頬をすり寄せ、安堵の笑み。

コノヤロウ……

「円華には、そんな事しないでしょ?」

するわけがない。

そもそも美彩の胸も俺のだ!

「……なんか、かわいくない。」

思わず出てしまった言葉。

それに対して美彩の表情が固まる。

「ごめん、違うんだ。」

望んできた家族。俺に似た息子。

なのに。

『ポロッ』

え?

自分の目から涙が零れ落ちた。

「……遠矢、大丈夫。誤解したりしないよ。」

自分の幼さに嫌気。

俺は、この件があって子ども達の前では、美彩を『母さん』と呼ぶようになった。

自分をパパと言うのはいいけど、美彩をママと呼べない謎の壁……




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