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⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ1】おおかみはかぐや姫を食べた

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誠志と、落ち着いて話をしないと・・。

私以外の女性が、あなたの心にいる・・。


『だから?』


だから、一緒にはいられない・・。

知ってる・・。あなたが優しいこと。


そして、あの人も。でも、どうして・・。どうして、一人ではない?


オオカミ、あなたは・・本当に一人だけ?

杏が言っていた・・。心を、手に入れる方法があると。

もしそうなら・・。逃げ道を捜そう・・。


人知の及ぶところではない美しさ・・の『かぐや姫』か。

想像できないな。



 学校の中庭を、通り抜ける。

桜は、緑の葉に埋もれながらも・・花びらが少し残っている。

生れて初めて見た桜・・。心を奪われる美しさだった。

そんな世界・・まだ見ぬ美しい世界に、出てきた。知識ではない、実際の世界・・。


私は・・いつまでココに・・。


・・?白雪?

校舎の影に、白雪を見つけた。


「白・・っ?」


誰かと一緒・・。見覚えのある人・・、誠志。

心が・・黒く染まる。

分っている・・。私に、何か言える権利は無い。


体が、思うように動かない。この場から、一刻も早く去りたいのに・・。

足は動かない。


誠志は、白雪の唇にキスをした。


『汚い。奴の唇は、もっと・・。赤い美しい唇に触れた。』


「呼んだ?」


!!?!


「オオカミ・・!」


呼んでない・・けど。


「狙ったの?」


タイミングが良すぎる。

オオカミは、妖しく微笑む。ドキッ・・

て、何でだ!と、自分突っ込み。


「ふ~ん。なるほどね・・。」と、校舎影を見ながらオオカミ。


視線を逸らす。


「・・手は、出来るだけ出さないつもりなんだけど・・。」と、小声。


・・?

あまり、聞こえなかった・・。


・・?


【グイッ】


引き寄せられ、ひょいと・・担がれる。

・・??


流れるように自分の身が、オオカミの肩にある。

え?


「ちょっ、・・」


ええ?!!

何が起こったのか、わかった時・・すでに遅い。

私がわめく前に、地面に足が付く。


が、・・・・。

以前の空室。に、【ガチャっ】・・鍵の音。


「・・あの~、オオカミ・・様?・・お、お話・・しましょう?」と、後退る。


オオカミは、鍵を閉めたドアに寄りかかり・・

私を見つめる。


ぞわっ・・。


出来るだけ、距離を取ろうとして・・壁で止まる。

オオカミは、私を見つめたまま・・。

鼓動が・・速くなる。目は、緑ではない。が、安心できない。


「・・あの~、オオカミ様?

ナニカヨウデショウカ・・。」


何故だ?

オオカミに見つめられると・・見透かされているように感じる。


「・・ふっ、心は分らないよ?」


・・ひ~~。怖い・・怖いぃ~~!!


「さて、心に隙間があるなら・・

ねぇ?歌毬夜・・君が悪いんだからね?」と、オオカミは体勢を直し・・

一歩足を出す。


「ヤダヤダ!!来ないで!お願い!!」


必死の私に、オオカミは足を止めた。


「・・~?」


そっと、目を開ける。

・・目が、緑!!


「いいよ。聴いてあげる・・。」


オオカミは、その場で動かない。


「お願いの替わりは、何?

・・ふふ。取引?可愛い歌毬夜・・。君は、俺と取引できる?」


余裕の笑顔。

・・オオカミと、取引?無理・・けど、しなければ・・?


ここは、密室。

出入り口は、オオカミの後ろ。しかも、鍵がかかっている。

私の後ろの窓は、天井近く・・小さい。


逃げるための交換条件・・?


「時間切れかな~?」


オオカミは、意地悪に微笑む。


「じゃあ、何なら・・逃がしてくれるの?」と、訊いてみた。


「・・・・。」


意外なことだったのか、オオカミは考え込む。


「え?こんなチャンス、無いよね。

可愛くお願いなんてされると、理性・・飛ぶよ?」


き、訊くんじゃなかった~~。まともな返事じゃない!!


「さ、心の準備は・・出来たよね?」と、最高の笑顔。


ドキッ・・

一瞬、どうでも良くなった・・?いけない、しっかりしないと・・。


「叫ぶよ!!」と、涙目。


「いいよ。出来るなら・・。」


・・?

言ってることは分らないが、息を吸って「き・・っん・・んん。」


叫ぼうとした私の口は、塞がれた。オオカミの、柔らかい唇で・・。

私の抵抗する手は、オオカミの手に捕まる。


「ん・・はぁ。」


唇は、離れ・・顔が近い距離で止まった。

嫌じゃない自分がいる・・?


緑色の目。

きっと、この目に・・惑わされてる。


私は、目を薄く細め・・彼の唇を待つ。

オオカミの目も、優しく閉じ気味になり・・私の唇を求めた。


【チュ・・】


そっと触れる。

私は、目を閉じた。オオカミの目は、見えない。


オオカミの右手が、押さえていた私の左手を離す。

彼のその手は、私の後頭部に。髪を優しく撫でる・・。

そして、唇は・・強く押し付けられる。


「・・ん。はぁ・・」


私は、目を開ける。

オオカミは、目を閉じ・・もう一度キス。


「・・ん。」


【ピクッ】


・・恥ずかしい、唇が反応した。


「・・や、やっぱり・・ダメ。」と、離れた左手を彼の胸に当て・・押した。

が、動かない。


私は、顔を背けようとした。


「歌毬夜・・。」


名前を呼ぶ彼の・・瞳に、自分が映っている。

胸が・・キュ~ン・・とする。


・・愛しい。

つい、上目で・・彼の目を見てしまった。


オオカミは、子供のような笑顔で「いい・・?」と、聞いたと・・同時。

優しくキス・・。

今度は、私の上唇と下唇の間の線に沿って・・舌でなぞる。


・・ゾクッ。


「んぁ。・・駄目。ヤ・・んんっ。」


舌が、口の中に入ってきた。

嫌・・?かも?


でも、彼の目に映るのは私だけ・・

もっと・・。私を・・モトメテ。


「はぁ。」


オオカミの方が、息が切れてる・・?

いつの間にか、壁際に座り込んだ私たち。

オオカミは、自分の左手の甲で口を拭きながら・・私の口に付いた唾液を、右手の指で拭う。


私は、じっと優しく微笑むオオカミを見ていた。

オオカミは、私の右肩に額を載せ・・もたれる。

自分にかかる・・彼の重さが心地いい。


・・・・。

懐かしい・・?


静かな部屋に、二人の呼吸が落ち着いてくるのが分かる。


・・?

デジャブ・・?コレ・・知ってる・・。

自分でもよくわからない・・不思議な感覚。・・曖昧な・・捉えどころのない・・。


ただ、・・懐かしい。私の意識が・・知っている。

・・あれは、いつだったか・・


「歌毬夜・・?え・・寝たの?」


・・遠退く意識の中、オオカミの声を聞いた。




「・・ポチ~?ポチ、いないの?」


満月に近い月の夜・・。

月明かりの明るい庭に、小さい声で呼んだ。


最近・・いつも、この時間に餌を求めてやってくる。大きな犬。

しかも・・。


「これは、姫。私を呼んでくださるとは、光栄ですな。」と、話す。


「いらっしゃい。見つからないように、上がっていきなさいな?」


座敷の戸の隙間からスルリ。


「姫、食事は・・きちんと取られたほうがよろしいですよ?」と、獣に・・身を案じられる。


くすくす・・。

最近、笑っていないことに気付き・・ポチを抱きしめる。


「ポチ、今日は泊まっていく?

それとも、いつものように・・私が寝てしまうといないの?」


「姫、私も・・獣とはいえオス。そういうわけにも・・」




 開けた目に・・


「ポチ・・。」


「俺、犬・・?」


・・・・。


「え・・?・・!!」


わ、私・・寝てた?


「・・・・。」


オオカミは、何故か無言で・・不思議そうに私を見ている。

座り込んだ床・・。


私にもたれていたオオカミに・・

いつの間にか、私がもたれている。


「・・!!」


かぁああ~~。


「・・ごめん。・・忘れて~~」


寝る前の・・さっきのことが思い出され、恥ずかしい。


・・鍵を開け、部屋を出た。

オオカミは、追いかけてこない。


・・体に、彼の温もり。そして、何故か懐かしい・・香り。

胸が・・締め付けられるように感じる。


・・どうしよう。この気持ち・・。緑の目のせいに出来る?

私・・彼を求めた。

恥ずかしい・・今度、オオカミの前でどうしたら・・?


好きじゃない・・好きじゃ、ないもん!!

・・違う。違う、こんなの・・恋じゃない!!




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