新婚(side:遠矢)
帰巣本能(side:遠矢)
結婚式は形だけって思っていたけれど、して良かったな。
すでに婚姻届けを出して子どもが生まれて……
やっと円華が落ち着いた時期。
何か変わるわけでもないような気がしたけれど。
美彩の両親に呪いについて報告したとき、結婚を反対された時のような反応はなく。
來名の事が頭によぎった。
美彩のいとこ。どちらかが大上家の呪いを解放するのだと、親族なら知っていて当然か。
海外に行った來名が美彩の記憶から消えて、不自然な日常に戸惑うのも見ただろう。
美彩の両親には覚悟があったのかもしれない。
円華が生まれる前から落ち着くまで、美彩は実家で生活するようにと言われ。
やっと結婚式も終えて。新婚ウキウキで会社から家に帰る。
今日から美彩と円華の三人で、やっと新居での生活がスタートするんだ!
そんな俺は家の前で固まった。
電気がついていない。匂いがしない……
今日は円華の検診で病院に行くと言っていた。
そのついでに買い物もすると。
美彩は、まだ新居に慣れないとも言っていた。
まさか何かあった?
美彩!円華……
学園の管理する大学病院、周辺の駅やビルを必死で探し、息を切らした俺が見つけたのは2時間後。
美彩と円華がいたのは、彼女の実家。
汗だくの俺に、美彩はかじったアイスを差し出しながら。
「どうしたの?これ食べる?」
のんきに微笑む美彩を睨み、いら立ちを抑えて尋ねる。
「ね、どうしてここにいるの?」
美彩は俺の質問に答えるより先に、アイスを口に含んで食べきった。
「やっぱ家で食べるアイスが一番だよね。」
視線を逸らして小さな声。
「答えてくれるかな、美彩ちゃん?」
俺のひきつった笑顔に、視線を横目でチラリと向けて逸らす。
「駅近くで迷子になったの。」
小さな声。
迷子になった?
「タクシーで帰れば良いだろ?それに、もうここは美彩の家じゃない。」
「歩いていたら、ここに着いたからいいじゃない!」
怒っているのは俺なんだぞ、いいわけあるか!
しかも。
「駅からここに来る途中で、家の前を必ず通ったはずだ。」
不思議そうに美彩は首を傾げた。
……。
「へ?」
「え?」
二人、沈黙で見つめる。
玄関で言い争っていた俺たちに、美彩のお母さんが近づき。
「美彩は、ここに帰れるようにお父さんが訓練したのよ。ふふふ……どこからでも、ここになら帰れるの。」
穏やかに笑う美彩の母。
隣の和室で、俺に背を向けたじじいが優越感を漂わせていた……
新婚でチュ!(side:遠矢)
仕事が終わり、家に帰る。
新居に明かりがついているのを見て安堵した。
「ただいま。」
「おかえりなさぁ~い!」
玄関に、円華を抱いた美彩が出迎えた。
幸せを感じる。
高校の入学と共に、寮で独り暮らしして家族の愛情を疑った時期もあったが……
本家での会話が、受けてきた愛情を思い出させた。美彩のおかげだ。
「むふふ……遠矢、先に食べて!くふふふ……」
食べて?
「くすっ……美彩、円華が起きているのに……大胆だね。」
【ベシッ】
抱き寄せ、キスをしようとした俺の顔に手のひら。
「痛い……」
何だか、懐かしい気がする。
「もう!もうぅ~~~~違うの!今日はね、料理をしてみたんだ。くふふ……」
嬉しそうな笑みで、俺の手を引いていく。
机には、何か分からない料理。
「ね、食べて?」
俺は、美彩を見ながら。
「戴きます。」
「あの、料理はそっちだよ?」
睨む美彩に、思わず微笑んでしまう。
椅子に座って、料理を口に入れた。
【モグモグ】
やっぱり。
「どう?」
「美味しいよ。」
迷いなく口に入れたのは、美彩の舌が確かだから。
美彩は、俺を試すような視線。
「何?」
俺は理解したように尋ねる。
「面白くないぃ~~。」
とか言いながら、ご機嫌だ。可愛い。
「ふふ。美彩、試したんだ?俺が躊躇すると思った?」
「思った。だって、見た目が悪いし……料理したことないでしょう?」
「ふふ。美彩は、美味しいものを知っているからね。」
「……遠矢の料理、好きだよ。」
お、かなりの好印象。
好きって言ってくれるなんて、余程のことだ。
「料理だけ?くすくすくす……俺の愛情を、疑って……俺も本気になっちゃうよ?喰ってもいいかな……」
「……円華が寝たら……いいよ?」
やった!くふふ。
美彩のご機嫌に、強引な事しちゃおうかなぁ~~
「ね、遠矢?お願いを聞いて?」
いつもはない甘えた声。
あれ?何だか、今日はいい感じ。
「何でも、聞いてあげる……その代り、美彩も俺のお願いを聞いてくれるかな?」
約束をしたら美彩は守る。
負けず嫌いだからね、念には念を!
「本当?良いよ……遠矢、怒らない?」
「俺が怒ったこと、少ないと思うけど?……」
嫌な予感に、嫉妬で良い雰囲気を壊しそうになって口を閉ざす。
「あのね……その……ふふ?」
視線は台所の方。
……まさか……
立ち上がって移動する。
目にしたのは、とんでもない惨事の台所。
「何でもするから……許して?」
くすん。今日は体力が残らない……
「約束だからね!」
くそうぅ~~美彩の計画か?
掃除が終わったのは、夜中……
「ね、遠矢……お風呂、一緒に入る?円華は寝ちゃったよ。」
「……入る……」
結局、美彩には甘いんだ……俺。
ウキウキで、お風呂へ向かうけど!
「美彩、料理は禁止!これでも言いたいことは、抑えてるつもりだよ?」
「うん……私もだけど!」
「くすくす……ふふ。知ってる……美味しい思いを味わうね。」
美彩が、いつもしない料理……俺の為に何かをしたくなったんだろう。
台所は凄いことになっていたけど……それだけ美彩の一生懸命な姿が目に浮かぶ。
出来上がった嬉しさと、俺に楽をさせたいのに結果が、あの惨事。
ふふ……何でもするって、負けず嫌いな美彩が約束した。
もちろん手加減はしない!今日は、俺のお楽しみ。
美彩の愛情のこもった料理を味わったように……美彩との貴重な甘い時間で、たっぷり愛情を味わう。
負けず嫌いな美彩を、少しだけイジメて……くふふ……
今日の美彩は嫌だと言えない。言っても、今日は止めない。
こんなチャンスは二度とないかもしれないから。
明日は、会社を休んででも……君への愛情を注ぐ……
幸せを味わいながら……
逆転?(side:遠矢)
今日の晩御飯。少し仕事が長引いて遅くなったので、目を輝かせて待っている美彩。
円華も椅子で大人しく待っている。幸せな家族の時間。
後は、野菜に火が通るのを待つだけ。
出汁の味を確認するが、自分では何か分からない違和感。
小さな肉が浮かんでいたのをすくい、粗熱を取って指でつまんだ。
口に運ぼうとした瞬間、視線を感じる。
「ね、遠矢!それ、ちょうだい!」
美彩は俺のすぐ横に駆け寄り、口を開けて無防備。
俺には別の欲求がわいてくる。
美彩は、俺の視線に口を閉ざして首を傾げた。
もっと見たかったなぁ。
美彩の空腹を知って、悪戯心がウズウズ。
少し屈んでニヤリ。
「美彩、チュウしてくれたら……」
【ちゅ】
軽く触れた柔らかい唇。
思考の止まった俺に、ニッコリ。
あまり見せない最高の笑顔。
「頂戴?」
不意打ちに、自分の顔が今までにないほど赤面しているのが分かる。
悔しいなぁ。絶対に、俺の方が美彩を好きだという自信がある。
美彩は俺の指から肉を奪いモグモグ。
「美味しい。遠矢、大好き!あとちょっとだけ甘さ欲しいな。」
「……嫌いだよ。美彩は、俺を無様にするんだ。」
素直な美彩に、物足りない何か。
俺には、もっと愛情の甘さを頂戴……
(Side:美彩)
仕事が休みの遠矢はご機嫌で、おやつ作り。
円華はお昼寝中。リビングにまで広がる甘い香り。
「美彩、味見しないか?」
「する。」
円華が起きない程度の声で即答。
遠矢の元に駆け寄った。
すると嬉しそうな笑顔で、スプーンを近づけてくる。
「あぁ~~ん。」
……口を開けろと?
ぐぬぬ。いつも、その手で甘えさせられてきた自覚がある。
「美彩、俺の事……好き?」
あぁ、もう。なんでいつまでも愛情を試すような質問なんだろう。
「嫌い!」
遠矢の眼差しが優しいから素直になれないのは、しょうがない。
そんな可愛げのない私に優しく微笑み。
私は近づけられたスプーンを口に入れ、とろける甘さを味わう。
「……美味しいよ。」
「そ、良かった。」
素直に出せる言葉は、味の事だけ。
たまに甘えることも大事……
「遠矢、キスして……いいよ。」
恥ずかしくて簡単に好きだと言えず、受けた愛情を返せていない自覚はある。
あなたは呪いが解けた時、私に愛想を尽かすかな?
「ふふ。可愛いね、美彩は。愛しさに狂いそうだ。」
甘い香りに包まれ、遠矢からのキスを受け入れて。
幸せ。大好き。
あなたには私だけ。私にも、あなただけなの。
言葉にしなくても心が伝わればいいのに……




