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⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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想いをかみしめて

『想いをかみしめて』(side:美彩)


久々の呼び出しに、やる気満々で勇んで行く。

前に口元を怪我し、その時に取り囲んでいた数名は学校から処分を受け、その家族は学園都市から重い罰を受けたらしい。

それが表に出ることはなかったけれど、風の噂は広がり少しの平穏が訪れた。

多分、今までなかった動き。

それは今、遠矢の環境に由来するのか。私には告げられていない。


向かった先に居たのは、見知らぬ男子生徒。

私なんかに告白する人が、まだいたんだ。

しかも遠矢と付き合っているのに……

「周りの女の子に、ひどい事をされてまで付き合うの?」

私の味方みたいに言うけれど。

きっと周りが落ち着いたからだろうな。

「私の選択よ。」

「見ていられない!あいつは、見て見ぬふりじゃないか!」

「ふっ……」

笑みが、こぼれてしまう。

「何がおかしいの?」

「あなたには分からない。あなたは私を知らない。試練は、私のもの。私の……だから遠矢でも、手を出したら赦さない。」

「あいつの呪いのせいだろ?そんな冷たい奴……」

「ごめんね。彼への愛しさに、胸がいっぱいになる……彼の子を願うの。」

私の返事に、理解できない……そんな表情で去って行く。

そうね、呪いとそれに付随する諸々……それなのに。

この高揚感。今までにないドキドキ。前にはなかった余裕。

自覚した途端に……遠矢、どうしよう……素直になれそうだ。

このまま姿を見たら、胸に飛び込んで自分からキスをしたい。

くすぐったい……この胸のフワフワ……

「み・さ・ちゃ・ん♪」

【ビクッ】

急に私の横でニヤニヤと、意味ありげな笑顔の。

「ぎゃぁあ!墨?」

思わず叫んで、後ずさり距離をとる。

「これ、なぁ~~んだ!」

墨の手には、録音の機器。

「……まさか!!」

さっきの会話を録音していたの?

「……くふふふ……」

墨の腹黒い企んだ笑顔がそうだと告げる。

一気に走り寄り、墨の手から奪おうとするが。

背の高さに、届かない苛立ち。体に勢いをつける。

【ヒュッ】

「なぁ?い、今……」

足を振り上げたが避けられた。

「回し蹴り?ちょ、その身長で……やめなさい!パンツが見えたら、俺が遠矢に殺され……ひぃっ!!」

墨は、私とは違う方向の気配に身構えた。

「ふふっ……見たの?記憶を消すか……くくっ……死んじゃう?」

遠矢、いつ来たのだろうか。

墨の油断をついたけれど、取り戻すのに失敗した。

「ぎゃぁっ!見てない!!そんな余裕は……あ、遠矢。パス!!」

もともと遠矢に渡すつもりだったからか、墨の判断が早かった。

録音の機器が、弧を描いて飛ぶ。

「あぁ!!」

私の頭上を呆気なく飛び越えて、遠矢の手に渡る。

「何だ、これ?」

ナイスキャッチの遠矢に駆け寄り、手にある機器を覆うように、私の手を重ねた。

「お願い!何でもするから、これを頂戴!!」

必死の私に、遠矢はキョトン。

一瞬、墨の方を見て私に視線を戻す。ゆっくり笑顔を見せて。

私は言って、しまった……

後悔を見られないように視線を逸らすが。遅かった。

「何でも?」

上からの視線と声がするけど。

視線を逸らしたまま、重ねたままだった手を離す。

「いやぁ、そのぉ……」

視線を遠矢に向けると、緑色の真っすぐな視線。

そして私に録音機器を手渡し、その手を握って逃がさない圧力。

負けず嫌いの私の口は、撤回を知らない。

「……何でも。」

あぁ、私のバカ……

「そう……ふふ。墨、下がれ。」

遠矢の命令に、気配を消すように下がる。

……本当に、いなくなったのか怪しい。

「さて、美彩ちゃん?」

「なぁに?」

負けず嫌いだけど、今日は何度も視線を逸らしてしまう。

意気揚々と、遠矢に対する愛しさが増し、愛情を与えたいと思ったのは本当なんだけど。

「どうして顔を背けるの?嫌がることは、しないつもりだよ……」

逸らした視線に入り込んで、優しい笑顔。

けれど緑色の目が怖いほどに妖艶で……

背中がゾクゾクして、危険信号を感じています!!

「そうだ、二択ね?100回、俺に『好き』と言うか、美彩からのチュウ。もちろんキスは舌を入れてね?さ、どっちがいい。」

ほぼ最後は、疑問形ではない有無を言わせぬ圧力の二択。

100回好き?嫌いを言い続ける私が……

負けたみたいで悔しい。まだ、これを遠矢に渡して……

いや、まだ100回好きの方が耐えられるのか。

おのれ録音機器……

1回のベロチュウ……したあと、それで終わるのかな?

録音機器には、私の告白……絶対に遠矢には聞かれたくない。

繰り返し聞かれるとか、どんな拷問ですか。恥ずか死ぬ!!

100回好きも……満足した遠矢は、私を好きだと言ってくれないかもしれない。

答えは。

「チュウ!するから、屈んでよ!!」

睨んだ私に、ゆるんだ笑み。

自覚のある私の可愛げのない言動に、嬉しそうな反応。

普段より幼く見えて。年相応。

なんて愛しいのだろう……素直に言わないけど!

「美彩、おいでよ。」

遠矢は私の手を引いて、木陰に設置されたイスに導く。

遠矢が先に座り、私を膝に横向きで座らせる。

「美味しいチョコを手に入れたんだ。俺の口から取って?それで、許してあげる。」

優位に腹が立つけど、文句は言えない。

遠矢が、私の性格を知っての事……

遠矢の唇に挟んだチョコを、舌を出して舐める。

じっと、観察するような視線。妖艶な光を放つ緑色の目。

息詰まるような苦しさ。

チョコが遠矢の口に入るのを追うように、舌を入れる。

キスされるのと違って、何だろう?ドキドキするような……

違う。何だか分からない……甘さの所為?目を閉じてるからだろうか。

気持ちいい……私、変になりそう。

「……んっ……んん?」

チョコを取ろうとするが、あれれ?

目をうっすら開けると、遠矢の意地悪な視線。緑が深い色に見える。

私の後頭部に手を添えて、簡単には逃げられない。

チョコを奪えないし!ここで止めればいいのに……負けず嫌い。

それに加わった何か……チョコは遠矢の口の中で溶けた。

口を離し、息が漏れる。

「……ごち……美彩も、食べる?」

遠矢の手が一粒のチョコを私の口に運び、今度は遠矢からのキス。

甘さを得る……





甘さをかみしめて(side:遠矢)


美彩の匂いを辿って、歩く。いつもと違う甘さ。

……誘うような香り……興奮する。

美彩の今までにない感情が、そんな匂いになっているのか?

まさか俺以外の誰かに……?

見つけた美彩は、墨に回し蹴り。離れた場所から、パンツが見えた。

何とも言えない……燃えるような妬み。

憎しみに近い感情が、墨へと向けられる。

「回し蹴り?ちょ、その身長で……やめなさい!パンツが見えたら、俺が遠矢に……」

今更、そんなことを言うんだ。

墨め、美彩とイチャイチャしやがって……

「ふふっ……見たの?見たのなら、記憶を消すか……くくっ……死んじゃう?」

俺の殺気にも気づかないで、仲良しか?

「ぎゃぁ!見てない!!そんな余裕は……あ、遠矢。パス!!」

墨は思い出したかのように、俺に何かを投げた。

「あぁ!!」

美彩は焦ったように叫ぶ。

「何だ、これ?」

いつも墨が持っている録音機器。

美彩が駆け寄る。

「お願い!何でもするから、それを頂戴!!」

必死の美彩……これを奪い合っていたのか。て、ことは……

この中には、美彩の知られたくない内容が入っている。

知りたい……しかし美彩は、これのために『なんでもする』と言う。

墨の方をチラリ……

確か墨は、録音と同時に録画も楽しむ。

墨は理解したように、俺にVサイン。

くくっ……

美彩に視線を戻し、ニッコリ笑顔。

録音機器を渡しながら美彩に問う。

「何でも?」

俺の圧力に、美彩は視線を逸らさず小さな声で。

「……何でも。」

何でも!!負けず嫌いの美彩から言質頂きました!

「そう……ふふ。墨、下がれ。」

静かに下がりながら墨が向けた笑顔は、俺達に貴重な時間を与えた満足感か、穏やかに見えた。

やるじゃねぇ~か。録画は後で、高額で買い取ろう。

まずは、お楽しみが先だよね!!

「さて、美彩ちゃん?」

「なぁ……に?」

珍しく視線は合わせず、顔まで逸らす。

「どうして顔を背けるの。嫌がることは、しないつもりだよ?」

視線を戻した美彩は、無理した笑顔。

「そうだ、二択ね?100回、俺に『好き』と言うか、美彩からのチュウ。もちろんキスは舌を入れてね?さ、どっちがいい。」

今度は、無言で眉間にシワ。何かを考えながら、俺を睨む……

そんなに嫌なの?普段、嫌いしか言わないから『好き』を味わいたい。

美彩からキスを受けたことはあるけど、舌は入れない軽いもの。

どちらにしても。とにかく愛情が欲しい!

付き合っているし、結婚も約束して……子どもの話もする。

な・の・に!!愛情に飢えるのは何故?

ようやっと結論が出たのか、美彩は怒ったように叫ぶ。

「チュウ!するから、屈んでよ!!」

素直じゃないのが可愛い……美彩からのキス……考えただけでドキドキする。

美彩は背が低いし、受けるキスを味わえないかもしれない。

どこか場所を移動して……

木陰に設置されたイスを発見。

「美彩、おいでよ。」

手を引いて歩くと、美彩は素直についてくる。

約束は守る。そんな決意の強さが、好き……

その真っ直ぐな目に俺を映して、俺をいつも翻弄するんだ。

イスに座って美彩を抱きかかえ、膝に横向きで座らせる。

胸ポケットから包装された箱を取り出す。

「美味しいチョコを手に入れたんだ。俺の口から、取って?それで許してあげる。」

俺の優位に、悔しそうにしながらも……優しく俺を見つめる。

かわいい!!

包みを開け、唇にチョコをはさむ。

美彩は遠慮気味に、そのチョコの端を舐めた。

小さく出した舌に欲情する。

俺はチョコを口の中に入れた。

そのチョコを追うように、美彩の舌が入ってくる。

美彩は伏せ気味の目で、無意識なのか俺の首に腕を回して抱きついた。

今までしてきたキスが、比べものにならないほどの感覚……

言葉にできない。幸せと甘さと……満たされる想い……

美彩は、チョコを奪うことだけを狙ったようなキス。

俺だけが必死なのか?

悔しい。簡単には、終わらせないんだからな……

「……んっ……んん?」

俺の意地悪に必死で対抗……

愛しさに、すべてを赦してしまいそうになる。

甘いチョコが溶けてなくなって……

終わり、なのかな。もう味わえない?

美彩の後頭部を押さえていた力を緩め、口を離した。

「……ふぅ……」

美彩の息が漏れる。

「……ごち……美彩も、食べる?」

一粒のチョコを美彩の口に運ぶ。

口を開け、素直な視線……愛しい……

顔を近づけ、唇を重ねた。拒絶はない。

今度は俺からのキス。美彩から受けた甘さを返す。

美彩も受ける甘さは、俺と同じだろうか……



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