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B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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58/90

被らない(side:遠矢)


美彩を抱き寄せて、触れる温もりに安堵する。

甘い香りに包まれ、手に入れた幸せに酔いしれて。

頬に指を滑らせ、真っすぐ見つめる美彩の視線を捉えた。

「……逃がさないよ?もう俺だけのものだ……子を生んで、得た幸せを守るから。試練も二人で見守ろう?」

「うん。それまでは、失うことのないあなたの心……呪いが解かれても、私の心は変わらない。」

「まるで俺の心は美彩にないみたいに聞こえるけど?」

すねた俺に、美彩は穏やかに微笑み。

「呪いの解放後は考えない。幸せをいっぱい頂戴……それで生きていくから。」

俺を煽っているんだろうか。

揺らぐことのない決意の見える眼差し。美彩の強さ。

「覚悟しとけ?俺以外なんて考えられないようにしてやる。俺の心は、美彩と同じ……呪いなんか関係ない。誓う……呪い以上の愛情を。愛しさに苦しむのは君への愛。呪いを背負いながら……一生に一人……俺の唯一の対。」

美彩の唇に口づけ、手を制服の上着の裾から入れたタイミングで。

「もう教室に、入ってもいいかな?」

「そうね、準備も整ったし?」

「時間がないから、邪魔しても良いんじゃない?」

3人は遠慮なしに入ってくる。墨・情報屋・來名……

もちろん、人がいると甘い時間など望めない。美彩の恥ずかしさの抵抗。

美彩が俺から距離をとる。

あ……温もりが逃げていく。サミシイ……

これからだったのに。

「準備って、取りやめだろ。俺、海外に行く意味がなくなったけど?」

「海外に行くつもりだったの?」

すねた俺に、まさかそんな遠くだとは思っていなかったのか美彩は詰め寄る。

墨が俺たちの足元に屈み。

「その話は後程、ご説明を。主。今一度、一生の忠誠を誓います。」

「墨のおかげだ、ありがとう。これからも俺たちを助けてほしい。」

美彩は墨を見ても、黙ったまま。

今度は情報屋が墨の隣に屈んで。美彩に挨拶。

「美彩さん、初めまして。情報屋です。今後、学園や呪いの情報が欲しい時は私に聞いてください。そうね、例えば。遠矢の偽彼女は、私が選んだ学園の役員だったとか。」

「役員?」「情報屋、墨などは役職名。この学園……姉妹校を合わせた秩序を護るの。彼女は生徒代表のひい……」「そんな人が彼女役……それだけ遠矢が素敵なんだよね。私、もっと頑張らないと!」素敵……美彩が、俺を素敵って褒めた!そんなに頑張らなくても、俺は美彩以外を選んだりしないのに。何故……「美彩さん、学園の情報を握る私が保証する。自信を持ちなさい。遠矢と、お似合いよ。」「そうそう。可愛げないかと思ったけど、あんなに愛を囁かれたら……ぐふふ……」墨は立ち上がり、逃げる前提の態勢で俺を見て笑った。「何、聞いてんだよ!どんな耳をしてんだ?この野郎……」墨を逃がすまいと飛び掛かり、捕まえた。俺に胸元の服を掴まれ、首を絞められる墨は何故か嬉しそうに見える。情報屋はあきれたように、ため息を吐いて。「遠矢、じゃれているところ悪いんだけど。時間が来たわ。私とソレ、この場を離れるから……返してくれるかな?」また時間……情報屋は墨と並んで、言葉を交わしながら教室を出て行く。美彩に視線を向けると、二人の後ろ姿を見ている。何を考えたのだろうか。俺の視線に気づき、目を合わせて穏やかな微笑み。少しの違和感。とてもかわいくて、穏やかなのに。寂しさ?不安?読み取れない感情。それが不安になるなんて。美彩は俺の表情をじっと観察しているようだ。ずっと黙っていた來名が、ため息を吐く。俺の視線は、美彩と來名を交互に何度かさ迷い。言葉が出ない。なんだか責められているような緊張感。


「さてと、時間だわ。美彩、おいで。」

來名は両手を広げ、美彩のすべてを受け止めるような優しい雰囲気。

美彩の視線が俺から來名に移り、表情はどこか沈んでいるように見えた。

「……うぅん。いい……甘えちゃダメな気がする。」

今までに見たことのない美彩の弱さ。

「ふふっ……本当に勘がいいね。そう最後なの……お願い、私の支えを頂戴。」

最後……?

「……ヤダ!何、最後って。」

その言葉に俺以上の不安や、二人にしかわからない関係からくる悲しみの感情が分かる。

俺は黙って二人を見守る。

「海外に行くのは、私。美彩、もう一つの未来が私にはあるの。行かないと……あなたは、これから試練に耐える。あなたの支えは私ではない。私がいては……いけない。」

「來名、本当に外国へ行かないといけないの?」

「えぇ……残った力は、一つ。すべては、あなたの為……この時までのすべてを見ていた。美彩、手をとって?」

美彩は、來名の差し伸べた手をにぎる。

引き寄せられて來名に身を預け、抱きしめる來名との抱擁に何を考えたのだろう?

もう……君の決意が、來名との別れにも揺れないのを俺は見た。

「美彩、一日……私への悲しみを抱いて。刻んで……その心に。辛い時、あなたの心を支えるのは遠矢だけだと。独りでは、試練は乗り越えられない。時が来るまで、私を忘れて……大事ないとこ、大切な友達。あなたを。美彩に似た、呪いを解放する強さを持った子どもたちを、信じているわ。あなた達が、子どもたちを見守ることが出来ると……」

俺に聞こえるように言ったのは、ここまで。

俺に聞こえない何かを美彩の耳元に呟くと、気を失ったように崩れて。

來名は美彩の身を支えながら、俺を手招きで呼ぶ。

「あげるわ。私の美彩……泣かせるあなたには、呪ってやりたい憎しみを……くすくす……思い知ればいい。ふふ。」

最後まで、俺にはそんなセリフなのか?

これ以上は呪わないでくれよ。

美彩を抱えなおし、穏やかに眠っているのを見つめ。

額にキスを落とす。

「遠矢、また……あなたと会う。覚えておいて。『必要な情報は、必ず……必要な時に』得られると。」

俺の腕によりかかって寝ている美彩に微笑み、背を向けた來名……

これが美彩にとって最後。

「必ず美彩を護る……誓うよ。」

彼女は振り返らず、声も出さずに去っていく。

将来、來名と会うことになるのは俺……

美彩は眠っているのに、俺の腕の中で涙を零す。

温もりと匂い。

手に入れた得た幸せを、必ず護ってみせる!!

近い未来、俺たちの子が呪いを解放する……まだ分からない呪いの全貌。

『必要な情報は、必ず……必要な時に』

「美彩、愛している……呪いが解かれて、君の心を失うことを恐れているのは俺なんだ。」

美彩の唇にキスを落とすと、ゆっくり目を開けて俺に微笑み……キスを返した。

そして感情が溢れたのか、目から涙が落ちる。

次々と流れて止めどなく。

「……っ……うぅ……ふっ……うぅあぁあ~~~~」

『美彩は、弱い……覚えておいて』

來名の姿を探す素振りを見せず、彼女のための涙……

嫉妬してしまう。

『呪ってやりたい憎しみを』

今、泣かせているのは來名では?

どう慰めていいのか、なんと言えばいいだろう。

「美彩、好きだ……愛している。」

「今日、私を独りにしないで……」

「……俺には一生、君だけだ。美彩を独りにしない。」

「……抱いて。頂戴、あなたのすべて……」

「俺にも頂戴、美彩のすべて。大事にする、護るから……」


呪いが告げた相手。一生の対。

契約を確認するように、美彩と唇を重ね……






呪いは言いました。

『解放への開放の道。……大上家よ、呪いは必ず解かれる。それまでは、どんな手を使っても手に入れろ!この呪いを刻む……一生一人……対なる者。ウシナエバ、一生……』



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