被らない(side:遠矢)
美彩を抱き寄せて、触れる温もりに安堵する。
甘い香りに包まれ、手に入れた幸せに酔いしれて。
頬に指を滑らせ、真っすぐ見つめる美彩の視線を捉えた。
「……逃がさないよ?もう俺だけのものだ……子を生んで、得た幸せを守るから。試練も二人で見守ろう?」
「うん。それまでは、失うことのないあなたの心……呪いが解かれても、私の心は変わらない。」
「まるで俺の心は美彩にないみたいに聞こえるけど?」
すねた俺に、美彩は穏やかに微笑み。
「呪いの解放後は考えない。幸せをいっぱい頂戴……それで生きていくから。」
俺を煽っているんだろうか。
揺らぐことのない決意の見える眼差し。美彩の強さ。
「覚悟しとけ?俺以外なんて考えられないようにしてやる。俺の心は、美彩と同じ……呪いなんか関係ない。誓う……呪い以上の愛情を。愛しさに苦しむのは君への愛。呪いを背負いながら……一生に一人……俺の唯一の対。」
美彩の唇に口づけ、手を制服の上着の裾から入れたタイミングで。
「もう教室に、入ってもいいかな?」
「そうね、準備も整ったし?」
「時間がないから、邪魔しても良いんじゃない?」
3人は遠慮なしに入ってくる。墨・情報屋・來名……
もちろん、人がいると甘い時間など望めない。美彩の恥ずかしさの抵抗。
美彩が俺から距離をとる。
あ……温もりが逃げていく。サミシイ……
これからだったのに。
「準備って、取りやめだろ。俺、海外に行く意味がなくなったけど?」
「海外に行くつもりだったの?」
すねた俺に、まさかそんな遠くだとは思っていなかったのか美彩は詰め寄る。
墨が俺たちの足元に屈み。
「その話は後程、ご説明を。主。今一度、一生の忠誠を誓います。」
「墨のおかげだ、ありがとう。これからも俺たちを助けてほしい。」
美彩は墨を見ても、黙ったまま。
今度は情報屋が墨の隣に屈んで。美彩に挨拶。
「美彩さん、初めまして。情報屋です。今後、学園や呪いの情報が欲しい時は私に聞いてください。そうね、例えば。遠矢の偽彼女は、私が選んだ学園の役員だったとか。」
「役員?」「情報屋、墨などは役職名。この学園……姉妹校を合わせた秩序を護るの。彼女は生徒代表の妃……」「そんな人が彼女役……それだけ遠矢が素敵なんだよね。私、もっと頑張らないと!」素敵……美彩が、俺を素敵って褒めた!そんなに頑張らなくても、俺は美彩以外を選んだりしないのに。何故……「美彩さん、学園の情報を握る私が保証する。自信を持ちなさい。遠矢と、お似合いよ。」「そうそう。可愛げないかと思ったけど、あんなに愛を囁かれたら……ぐふふ……」墨は立ち上がり、逃げる前提の態勢で俺を見て笑った。「何、聞いてんだよ!どんな耳をしてんだ?この野郎……」墨を逃がすまいと飛び掛かり、捕まえた。俺に胸元の服を掴まれ、首を絞められる墨は何故か嬉しそうに見える。情報屋はあきれたように、ため息を吐いて。「遠矢、じゃれているところ悪いんだけど。時間が来たわ。私とソレ、この場を離れるから……返してくれるかな?」また時間……情報屋は墨と並んで、言葉を交わしながら教室を出て行く。美彩に視線を向けると、二人の後ろ姿を見ている。何を考えたのだろうか。俺の視線に気づき、目を合わせて穏やかな微笑み。少しの違和感。とてもかわいくて、穏やかなのに。寂しさ?不安?読み取れない感情。それが不安になるなんて。美彩は俺の表情をじっと観察しているようだ。ずっと黙っていた來名が、ため息を吐く。俺の視線は、美彩と來名を交互に何度かさ迷い。言葉が出ない。なんだか責められているような緊張感。
「さてと、時間だわ。美彩、おいで。」
來名は両手を広げ、美彩のすべてを受け止めるような優しい雰囲気。
美彩の視線が俺から來名に移り、表情はどこか沈んでいるように見えた。
「……うぅん。いい……甘えちゃダメな気がする。」
今までに見たことのない美彩の弱さ。
「ふふっ……本当に勘がいいね。そう最後なの……お願い、私の支えを頂戴。」
最後……?
「……ヤダ!何、最後って。」
その言葉に俺以上の不安や、二人にしかわからない関係からくる悲しみの感情が分かる。
俺は黙って二人を見守る。
「海外に行くのは、私。美彩、もう一つの未来が私にはあるの。行かないと……あなたは、これから試練に耐える。あなたの支えは私ではない。私がいては……いけない。」
「來名、本当に外国へ行かないといけないの?」
「えぇ……残った力は、一つ。すべては、あなたの為……この時までのすべてを見ていた。美彩、手をとって?」
美彩は、來名の差し伸べた手をにぎる。
引き寄せられて來名に身を預け、抱きしめる來名との抱擁に何を考えたのだろう?
もう……君の決意が、來名との別れにも揺れないのを俺は見た。
「美彩、一日……私への悲しみを抱いて。刻んで……その心に。辛い時、あなたの心を支えるのは遠矢だけだと。独りでは、試練は乗り越えられない。時が来るまで、私を忘れて……大事ないとこ、大切な友達。あなたを。美彩に似た、呪いを解放する強さを持った子どもたちを、信じているわ。あなた達が、子どもたちを見守ることが出来ると……」
俺に聞こえるように言ったのは、ここまで。
俺に聞こえない何かを美彩の耳元に呟くと、気を失ったように崩れて。
來名は美彩の身を支えながら、俺を手招きで呼ぶ。
「あげるわ。私の美彩……泣かせるあなたには、呪ってやりたい憎しみを……くすくす……思い知ればいい。ふふ。」
最後まで、俺にはそんなセリフなのか?
これ以上は呪わないでくれよ。
美彩を抱えなおし、穏やかに眠っているのを見つめ。
額にキスを落とす。
「遠矢、また……あなたと会う。覚えておいて。『必要な情報は、必ず……必要な時に』得られると。」
俺の腕によりかかって寝ている美彩に微笑み、背を向けた來名……
これが美彩にとって最後。
「必ず美彩を護る……誓うよ。」
彼女は振り返らず、声も出さずに去っていく。
将来、來名と会うことになるのは俺……
美彩は眠っているのに、俺の腕の中で涙を零す。
温もりと匂い。
手に入れた得た幸せを、必ず護ってみせる!!
近い未来、俺たちの子が呪いを解放する……まだ分からない呪いの全貌。
『必要な情報は、必ず……必要な時に』
「美彩、愛している……呪いが解かれて、君の心を失うことを恐れているのは俺なんだ。」
美彩の唇にキスを落とすと、ゆっくり目を開けて俺に微笑み……キスを返した。
そして感情が溢れたのか、目から涙が落ちる。
次々と流れて止めどなく。
「……っ……うぅ……ふっ……うぅあぁあ~~~~」
『美彩は、弱い……覚えておいて』
來名の姿を探す素振りを見せず、彼女のための涙……
嫉妬してしまう。
『呪ってやりたい憎しみを』
今、泣かせているのは來名では?
どう慰めていいのか、なんと言えばいいだろう。
「美彩、好きだ……愛している。」
「今日、私を独りにしないで……」
「……俺には一生、君だけだ。美彩を独りにしない。」
「……抱いて。頂戴、あなたのすべて……」
「俺にも頂戴、美彩のすべて。大事にする、護るから……」
呪いが告げた相手。一生の対。
契約を確認するように、美彩と唇を重ね……
呪いは言いました。
『解放への開放の道。……大上家よ、呪いは必ず解かれる。それまでは、どんな手を使っても手に入れろ!この呪いを刻む……一生一人……対なる者。ウシナエバ、一生……』




