一つの終わり(side:來名)
美彩、あなたは呪いと闘う。
“彼”が選ばなかった私との未来……
それが正しかったのか、私には分からない。
私には、もう一つの未来があったから……
美彩、あなたの未来は一つ。
聞いて。私の呪いの悲しみを。
大上家の雑種が抱える呪いを……
“彼”の名前は、悠。
魔女の家系が原因で、呪いの増幅『雑種』になった者。
学園が引き合わせたけれど、悠は呪いと増幅の原因になった魔女を憎み、復讐を誓って私に近づいた。
悠には私が一生の相手かどうかも分からず、常に呪いからの解放を望み……
私たちのお互いの想いは呪いのように、深まる愛情は真実を求め……
私たちの関係を作ったのは呪い。
そして壊したのも……
「俺と付き合ってくれ。」
その告げる目に、愛情がないことは分かっていたの。
でも求めずにはいられない存在だと思った。
あなたの視線は鋭く、憎しみに闇を伴い……それでもその美しさに心を奪われた。
いつか本当に好きになってくれればいい。
時間を共に過ごすだけでもいい。
「悠……」
告白をしたのはあなたなのに、私が甘えても決してキスをしない。
私に触れられることも、最初は嫌っていた。
想いを込めて見つめ、あなたの名を呼んだ。
あなたの心が欲しい。
必死に、呪われたように。
想いは徐々に……
通いあう視線、彼から触れる手。
私の髪をすき、指に絡めてキスを落とす。
見つめる視線……体に熱を帯び、物足りない何か。
「來名……」
あなたは私の名を呼び、手を繋ぐように重ね。
引き寄せて自分の頬に導き、すり寄せた。
悠の腕が私を抱き寄せて。
温もり……香り……
私にはないはずの、懐かしい記憶。
遠い、遠い昔の……愛しき日……
失う悲しみと、手に入らない苦しみ。
呪いの始まりと、呪いが求める代償を。知った。
「どうして泣きそうなの?」
優しいあなたの問いかけに、涙が零れる。
「幸せすぎて怖い……」
あなたに言えない。その呪いを憎んで来たのだから。
呪いに苦しんだのは魔女も同じだった。
この時間を失いたくない。
「來名。俺……好きだ。本当に……気持ちが、こみ上げて抑えられない。もっと触れても良い?」
「嬉しい。」
悠の視線を上から受けて。
閉じ気味になる目に、少しでも映っていることを望みながら。
唇が優しく触れ、重なる。
幸せを味わうように目を閉じた。
心を、手に入れたんだ……
キスが止まり、目を開けた。
目前にある悠の目は移ろい、彼は両手を耳に当てて取り乱す。
「……んだ?これ……この声……」
雑種の宿命……
呪いが、犠牲として彼を選ぼうとしていた。
「悠?」
「……來名……ごめん、離れて……何をするか、分からない。君を、傷つけたくない……お願い。」
離れるんじゃなかった。
あなたと呪いを共にするなら……
私には覚悟があっただろうか?
後悔はしても遅いんだと……何度も、何度も私を苦しめる。
私がみた、過去の呪いの始まり。
呪いの代償を知ったあなたが、未来の決断を独りでしてしまうなんて。
悠は私の前に、獣の姿となって現れた。
白い大きな狼。
それは呪いが見せた過去の姿と同じ。
最期だったのに……
私は、あなたの言葉にただ耳を傾け、言葉が出なかった。
「來名。君以外の人に、キスをした……呪いの増幅だ。これで、いい……君を愛したのは、呪いだったんだ。君もそう……呪いに、狂っただけ……解放してあげる。自由に生きて……君は、俺以外も選べるのだから。……逃げたんだ。俺は、弱い……呪いが、俺を……俺たちを犠牲に選ぶと言ったんだ。」
犠牲に選ばれた者の結末……
呪いは告げる。
「お前たちの子どもに試練を与える」と。
耐えられないなら幸せはない……
呪いに苦しんできたのに。
それ以上の苦しみが私たちと、子どもにまで降り懸かる。
悠は呪いと闘うことから逃げた。
私は同じ問いに、どう答えただろうか?
ただ、もしもの話は意味がない。
もう時間は過ぎてしまったから。
悠の言葉と悲しみの瞳……何度も、何度も夢をみる。
悪夢であることを、何度願っただろう……
呪いは取り返しがつかない。
だから。
「美彩、あなたは自分と子どもの苦しみに耐えられるかもしれない。でも、遠矢は?あなたは知っている……彼が得た幸せを、家族を失いたくないことも。これ以上の幸せを、彼に与えるのは残酷……悠は言った。呪いは、近々解く者が必ず現れると。」
ごめんね、美彩……あなたの決意は大事なの。
試練に耐えて……これから、あなたは試練を何度も経験する。
その時、私に頼ることは出来ない……
あなたの支えが、遠矢だけだと知って欲しい。
美彩、あなたは強い……でも、弱い。
愛しさに身を引き、時に独りで立ち向かう強さ。
誰かの支えなくては、呪いに勝てない弱さ。
見守るわ。
あと少しの時間……




