表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/90

呪いの元凶


別れ際の美彩の表情は、俺に連動するかのような、不安と悲しみの伴うものだった。

寮に独り。静かな部屋。

「遠矢、大丈夫か?」

余程、今の俺は情けない姿なのだろう。

「墨……教えてくれ。それは俺が知るべきことだろう?情報料がいくらでも出す。願うなら、俺のすべてを犠牲にしても……」

【ぺしっ】

頭に軽い衝撃。

「ばぁ~~か!ガキが、大人みたいなことを言ってんじゃねえ。可愛くない!」

視線を向けると、すねたような顔の墨。

「……墨……」

「いいか、誓え!俺の主なら。呪いを乗り越えると。」

「はっ……はは。」

あまりに偉そうなのを無理してるのが分かって、笑いがこぼれてしまう。

「ふっ……笑ってろ!俺の主は、堂々としてるのがいいんだ。俺の価値が下がるだろ?」

「くっ。下がる評価もないくせに?」

「最近は、あるんだよ!で、誓うのか?」

「……あぁ、誓う。乗り越えるためには情報が必要だろ?」

墨のおかげで、俺は少し気力が戻ったようだ。

「雑種を調べたよな。」

「あぁ、今まで墨や情報屋が会話に触れながら、はぐらかす様な態度だったから。聞いても答えると思えないし、あえて深堀せず。自分のルートで。しかし隠されたかのように手に入らない。」

墨はうなずき、驚きもしない。

「時ではないのでしょう。知るべき情報は、必要な時に必要な分だけ……」

この言葉は、俺の一生に何度聞くことになるだろうか。

「雑種の事を教えるのは俺や情報屋ではなく、“彼女”だよ。」

やはり俺は、自分が逃げてきたのだと自覚する。

思い当たる人物が近くにいるのに。逃げるように、かかわろうとしなかった。

「墨、俺は怖かった。『雑種』……そんなものが存在するのだとすれば。呪いは、俺が思うより複雑で根が深いような。闇深さに恐怖が生じたんだ。」

俺は両手を見つめ、少しの震え。手をぎゅっと握りしめ、目を閉じた。

吐き出すように言葉を続ける。

「呪いが告げるのは、対になる一生の相手。失うなら一生独り。呪いに抵抗したのか、何らかの原因で対とは違う者を選んだのか……その『雑種』に該当する者がいるのかと。……美彩以外の女性と?出会った後なら、まだ一生独りの方がマシだ。出会った奇跡。安易に試すなど……」

吐き気がする。

「遠矢、俺や情報屋が近くで見守っている。学園に、先見がいるんだ……未来は、お前次第。誓ったよな、呪いを乗り越えると。できるさ、遠矢なら。」

俺次第。

やはり学園に未来を知るものがいた。

墨や情報屋が味方でいてくれる。独りじゃない。

美彩は呪いが怖くないと、強い視線で真っすぐ俺を見つめた。

彼女の決意と強さ。それを覆すような……弱さ。

これから何が。


『來名は……出会った頃、それどころじゃなかった……』


……來名、君が“彼女”だという確信がある。

顔を認識できる存在。

きっと美彩と出会ってなければ、俺は誤解していたかもしれない。

美彩に似た存在。匂いはしないのに。呪いが告げないのに。

表情を理解できる異性の存在が、どれだけ特別か。



次の日、朝早く寮を出て、來名を待ち伏せた。

俺の姿を見て、すべてを知っているかのように手招き。そして人気のない校庭の方に足を向けた。

それを追いかけるけれど。來名の後ろ姿が美彩に重なり、不安を煽るようで逃げたい衝動。

足を止め、俺と対峙する來名。

「遠矢、心配しなくても私が邪魔をすることはない。けれど今から私が話すことを、先に美彩に告げた事は知っておいて。未来を選ぶのは二人だから。」

雑種の情報を美彩が知って、どうなるというんだ。

俺たちは契約の後だし、呪いの告げた相手は美彩で間違いはない。

來名は美彩と同じ、俺に真っすぐな視線を向ける。

「私たち……私と美彩は、大上家に呪いをかけた魔女の家系なの。」

呪いの元凶、魔女の家系。

いきなり考えもしなかった言葉。

「ちょっと待ってくれ、理解が追い付かない。」

俺は視線を逸らして、髪をかき上げた。

「だめよ、時間がない。言ったよね、美彩にも同じ話をしたと。……待ってくれないわよ。」

緊張で体が重く感じる。

視線を戻すと、真っすぐ見つめる來名の目に涙。

『雑種』……失えば独り。それは。

「大上家に呪いの詳細がないように、私たちの家系も同じ。ただ魔女の家系の、魔力を引き継いだ数人が呪いを解放する役目を担うのだと聞いたわ。先に役目を受けたのは私だった。私と……美彩に魔力はないけれど、どちらかが、その呪いを解放する子どもを産むのだと告げられて。私が出会ったのは、あなたと同じ大上家の呪いを受けた人。あなた方の家系は早々と旅に出て、連絡を絶つから知らないでしょうね。私と美彩のような、いとこだと思う。」

大上の……俺のいとこ。父に兄弟が。

16には旅に出て、連絡も絶たれる。

父に家族の意識がないのか、雑種になったのならなおさら……知らなくて当然なのか。

「考えれば考えるほど、あなたの戦わなければならないものが増えていく。……私の相手は雑種だった。その重みに耐えられず、私たちは失敗したの。」

つまり美彩が、呪いを解放する子どもを産む役目を引き継ぐ。

このままいけば俺たちの子が!!

だめだ、旅には出さない。出せない。

俺たちの知らない場所で、俺たちが経験する以上の苦しみを乗り越えなければならない。

そんな役割に選ばれるなんて。美彩は……

「美彩は呪いと闘い、乗り越える覚悟があると言った。けれど、あなたは?苦しむ美彩を見て、それでも貫けるかしら。役目から外れた私には、別の道がある。」

美彩も俺以外を選べる?

それなら……役目を背負わせず、幸せを願って身を引き、俺が独り生きることも。

『必ず見つける。一生に一人の対なる者。手に入れろ。どんな手を使っても……』

頭に響くのは女性の声。この呪いをかけた魔女。

「手に入れてほしくて、呪いをかけたんだろ?緑色の目は……君たちにとって、探していた相手の印じゃないのか?わかんねえよ!どうすれば良いかなんて。ただ、美彩が欲しい。來名、お前に嫉妬するぐらい。誰にも渡さない!!」

これは……呪い……俺の覚悟は遅かった?もう手に入らない?

すれ違う想いは同じなのに……

緑色の目……君の心が目に見えて、秤で量れればいいのに。

呪いが俺たちを試すなら……結末が答えなのだろうか?


『知るべき情報は、必要な時に必要な分だけ……』


あれだけ手に入らなかった情報。

解禁されたのか、呆気なく手元に届く。


【―雑種― 大上家の呪い。16で旅に出る慣習。それは呪いの告げる相手を探すのが目的の為、旅に出ると元の家族との連絡などは一切絶たれる。一生の対を必ず手に入れるため。契約のキス。発動される緑色の目は、相手の心を惑わす(といわれている)。注意すべきは。相手以外の契約が呪いを増幅させる事。“異種”となり、ある者は緑色の目を持たず。ある者は匂いさえ判断できずに。能力を失う……それを受け継ぐ家系が『雑種』である。調査では呪いをかけたのが魔女であり、その家系は今も魔力を持った者が数人。魔女も“おおかみの家系”に惹かれ、手に入れようと画策する。呪いの解放を願いながらも、呪い連鎖と増幅に苦しむ者たち……】


おおかみ?だから雑種なのか……

どれほどの長い年月、繰り返してきたのか。

俺の知らない……いとこ。詳しいことは分からない。

ただ、その雑種……一人の男の話。

学園の手引きで來名と出会い、自分の相手だと思い契約するが、雑種には確信がない。

彼女の愛情も、“呪い”に感じるようになる。

そして未来は、自分たちの子が呪いを解放する役目を担うのだと告げられ。

雑種も16で旅に出る。呪いの増幅を受け継ぐ『雑種』の家系。

緑色の目も持たず、匂いも判別できず。

自分の生きてきた不利な状況を、子どもが引き継ぐ恐怖。

選んだ道は、自由を彼女に与えること。

そして、独りで生きる覚悟もないまま……命を絶った。

相手を選べる“彼女”を残して……

來名を選んだ契約を無視し、他の者を選んだ大上家の者。

亡くなった時の姿は、狼だったのだとか。

“おおかみ”……呪いに抗い、増幅を繰り返した結果が獣と化すなど。

どんな手を使ってでも。

それは俺たちの家系だけではなく、呪いをかけた魔女の側も『手に入れたい』と願う故。

これは呪い……

呪い?緑色の目で、心を惑わせる?心は手に入らない?手に入れない方がいい?

真実もわからない。嘘もわからない。

では、正否の基準はどこにあるのか。答えは……






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ