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B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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幸せ


俺は美彩の教室に向かい、ドアを開けた。

「……な、今は授業中だぞ。」

先生の言葉も無視して、美彩の席に行く。

彼女の軽い身を肩に抱きかかえ、抵抗も声も理解できない。

触れる温もりに、意識が集中する。

これで、触れるのが最後かもしれない……


「遠矢!!」

どれだけ夢中だったのか。

気が付けば、廊下の行き止まり。後、数センチで壁。

俺は一歩下がって、美彩を下す。

「もう!私のお尻がなかったら、壁と当たってたよ?それに、授業中……何なの?」

美彩は下から睨んで不満を告げるけれど、さっきの拒絶の雰囲気はない。

いつものように、真っすぐ俺を見つめて。

その視線に安堵。

けれど、伝える言葉を受け入れてくれるとは限らない。

気を引き締める。

俺も真っすぐ視線を向けて。

「美彩、俺と真剣に……結婚を前提で、付き合ってください。」

「……え?」

俺の言葉に思考が追い付いていないのか、固まった表情と間。

俺の言葉の意味が伝わるかのように、美彩の頬が、みるみるうちに赤くなる。

「……い……」

また、“いや”?

それは、これが呪いだから?美彩の本心が知りたい。

「美彩、呪いが怖い?」

「怖くない!」

負けず嫌いな、挑むような視線。

君の強さ。でも君は弱い。

「誓う。例え呪いが君を選んだのだとしても。俺には呪い以上の、美彩を好きになった感情がある。美彩を失ったら一生 独りで生きる。俺に望みがないなら……今、覚悟をしたいんだ。」

美彩は目に涙を溜め、上を向いて手の甲で顔を隠す。

「……卑怯だ。どうして、私の心に委ねるの?」

美彩の心が知りたいだけだ。

委ねるのとは違うと思う、出会いが呪いだから。

そう呪いが君を選んだから。卑怯なのかもしれない。自分に生じる矛盾。

「美彩……」

「泣いてない!泣かない……涙は、零れていない。」

自分が予想のもしない言葉が返ってきた。

それは君の強さと弱さの表れ。

愛しさで胸が一杯になるのに、俺が美彩を辛くさせているのかと思うと悲しみが生じる。

俺の中に増えていく複雑な感情。

「……うん、零させない。俺が、全部……呑み込んであげる。すべて俺に委ねて。絶対に幸せにする。護るから……」

美彩は口をぎゅっと堅く結んで震え、涙を我慢して耐えている。

手を伸ばし、目元を押さえている美彩の手首を優しく掴んで持ち上げた。

見えるのは、悲しみの表情。眉間にシワをよせ、目元に溜まった涙……

愛しい……

「……ふっ……ぅ……」

美彩は声を殺し、限界を超えたのか涙を零した。

慌てて美彩の頬に両手を当て、すべての涙を受け止める。

生じたのは罪悪感。胸が痛む。

そっと顔を近づけ、美彩の目元に唇で触れた。

俺に対する拒絶はない。

涙が溢れて流れそうになるのを吸い取る。

呑み込んだ涙に酔いそうだ。

俺の両手に、美彩の両手が添えられ……涙目で、無意識なのか君は微笑んだ。

言葉にならない。この、こみ上げる感情が何なのか。

呪い?違う……恋も、心を少しずつ染めていく。相手のことで、いっぱいになる。

幸せを願い、手に入れたくて……感情は同じ。病のよう。

「美彩、好きだ。好き……俺の事、嫌いなの?」

美彩は、俺の目を真っすぐ見つめたまま。

「……嫌い……な、わけない。言わない……」

「言って欲しい。」

「望んでしまう。あなたの心が欲しいと……あなたは呪いで私を見ている。」

美彩が見ているのが緑色の目であるなら。

「違う、呪いは俺の心を惑わさない。それとも美彩は、呪いで俺の心が欲しい?」

「……違う。違うわ……呪いに負けない。契約の前から……」

契約の前……から?

「好き。」

俺が欲しかった言葉。

じっと見つめ、静かな時間が流れる。

目を閉じ気味にして、顔を近づけると美彩も応えるように目を閉じていく。

そっと重なる唇。

心を満たす。幸福感。

あぁ、美彩の心を手に入れたんだ……

目を開けると、視界が霞む。

……?

「……どうして、泣いているの?」

泣いている?俺が……?

自分の手を目元に当てると、涙が零れ落ちた。

美彩が手を伸ばして俺の頬に当て、悲しそうな表情。

「悲しくないよ、幸せなんだ。美彩、ありがとう。」

俺は急に恥ずかしくなる。

弱い自分に、美彩があきれるのではないかと。

照れなのか、視線をさ迷わせてしまう。

「遠矢、誓いは守ってね。」

視線を戻すと、美彩が穏やかに微笑んだ。

「あぁ、守るよ。」

君を。一生……

この雰囲気なら許してくれるだろうと思い、美彩を抱えた。

少し身長差が腰に辛く、言い出しづらくて。

「ふふ。私の方が上にいる。」

上から美彩の視線を受ける新鮮さから、俺も微笑みが漏れる。

美彩から頬に軽いキスを受けた。

「……へへ?」

美彩は照れたのをごまかすような笑み。

かわいい!!

お互いに微笑み……何度も優しいキスを繰り返す。


『失えば、一生……独り』







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