悲しみ
心は手に入らない。手に入れない。
呪い?緑色の目で、心を惑わせる?
真実も解らない。嘘も判らない。
では、正否の基準はどこにあるのか。
答えは・・・・
お昼。
いつもの時間に同じ部屋。
「美彩、話がある。」
「私が先・・いいかな?」
美彩の眼は、まっすぐ・・欲しい視線。
「遠矢、私たち・・別れよう。」
美彩が俺を見つめ、俺が聞いたのは別れ。
「美彩、俺には・・君、だけなんだよ?」
頭の中が真っ白だ。
美彩は、俺の緑色の目を見つめたまま・・
「嫌いになったの。」
【ズキッ】
今の状況なんか、思い描くことも出来ないほど動揺する。
「なかったことにして欲しいの。」
「出来るかよ!」
嫌だ・・苦しい・・
失いたくない。
「・・簡単よ。私が、あなたの前から消える。」
どうして?君の心は、この手にはなかった?
緑色の目は・・
一生、独り・・
「認めない!!好きだ、俺の目を見ろ!」
「見ているわ!
心は、惑わされない。嫌い、嫌い!嫌いなの!!」
「うるさい!黙れ!!」
「大っきら・・んっ」
唇を重ねて、口を塞いで言葉を遮った。
こんな状況なのに、甘くて幸せになる。そして悲しくて苦い・・
「美彩・・俺のモノになって・・」
もう一度 重ねた唇・・
舌を入れようとするが、美彩は口を硬く閉ざして抵抗する。
しかし、抵抗とは違う美彩の眼・・分かる。
「可愛いなぁ。
どうしても欲しくなるよ?そんなことされると・・」
唇に、舌を這わせ・・強く押し当てる。
息が出来なくなるように。
「ん・・んん~~」
抵抗が弱くなっていく。
「っ・・はっ・・んんっ・・」
息継ぎに、口が開いた・・当然、舌を入れる。
気持ちいい・・
「っ!!」
舌を噛まれた??
はぁ・・はっ・・
息が切れる。
美彩は泣きそうな顔で、唇を手の甲で押さえながら・・睨む。
「俺は、呪いで狂いそう・・いや、狂っているんだ!
美彩も、俺に身を委ねて・・ね、俺のモノになってよ。」
「・・呪いで狂って、私をどうするの?」
「手に入れたいんだ!」
机に、美彩を押し倒す。
首元に、キスを落とした。
【ビクッ】
反応はあるが、抵抗ではない。
手を胸に押し当てる。
やわらかい・・もっと、触れたい。
もう片方の手は、足首から膝に滑らせる。
女の子だ・・すべすべで、舌を這わせてみたい。
【ふわっ・・】
美彩が、俺を求めるように優しく抱きしめる。
嬉しくて、キスをしようとした。
「美・・」
俺を冷静にしたのは、美彩の眼・・
真っ直ぐではない。どこか、遠くを見ているような。
それでも、強く輝きを保って・・何かの決意・・
言葉が出ない。
触れた身体に、感覚なく触れている・・恐れが、俺を襲う。
違う!!
「・・遠矢。求めて・・応えるから。
ただ・・」
『一度だけ』
・・頭に、美彩の声が響く。
“イチド ダケ”
俺の愛情を持って、君はどこに行くの?
その一度で、君は呪いから・・俺から、去るんだ・・
俺にはいない、他の誰かを探すの?
「美彩、俺の事・・好き?」
「好きよ。呪いに狂っているのは、私・・
お願い。抱いて・・」
俺は、美彩の唇に軽いキスを落とす。
「・・さようなら。美彩・・
俺の、一生の対。ごめんね・・君の自由を願う・・」
契約のキスが始まりなら、このキスで閉じよう・・
呪いを、願うほどの愛・・その呪いは、結局・・呪い。
愛情の鎖
俺は、切ることを選んだ。
美彩の苦しみに、呪いを貫くか 独りで生きるか
選んだ結果は・・
『一生の対・・ウシナエバ、一生・・ヒトリ』
side:美彩
私に手を差し伸べたのは、カッコイイ男の人。
年下だと思わなかった。落ち着いた雰囲気で・・
本当は、その瞬間で恋に落ちていた。
初恋・・その想いを知るまで、誰とも付き合いたいと思わなかった。
周りを見ると、幸せそうなカップル・・
あの人は、無理・・私なんか・・
こんな小さな、可愛げのない私を好きになるはずがない。
告白は、何度かあったけど・・何が目的なのか分からなかった。
考えるチャンスをくれた人・・
そして、優しそうな人が私に想いを告げる。
「好きなんだ。付き合ってくれないかな?」
私を好きになってくれた人・・きっと、あんな一瞬の出逢いを塗り替える。
もう、会っても・・あの人は、私を覚えていないだろう。
そうだよね。この人は、こんなに私を想って・・顔を真っ赤にして・・
私も、てれてしまう。
「よろしく、お願いします!!」
まさか、人の心が・・そんなに簡単に変わるなんて・・
私に告白したのに、私を置いて逃げて行った。
そして、そこに現れたのは彼だった。
何?からかっているの?
キスと・・緑色の目・・見つめられて、違和感に抵抗をした。
勘だ・・出逢った時に奪われた心を、必死で隠して・・
遠矢・・好き・・
「嫌い!!」
大好き・・
「嫌い!!」
甘く囁く彼の声が、心に響く・・
繰り返す呪文のようで、幻を見ているんじゃないかと思う。
あなたは、彼のように・・去るだろうか?
去るかもしれない・・呪いで、私を好きなら・・
呪いが解けた時・・あなたに、私への愛情はないかもしれない。
あなたの存在が、呪いのように私をむしばんでいく・・
恋?これが?
苦しい・・愛しさに、何もかも許してしまいたくなる。
この唇も・・触れるすべて・・もっと・・求めて。
私に愛を囁いて・・
夢から覚めても、その夢見た時間を大切にするから・・
好き・・足りない。
愛している・・足りない。
言葉に出来ない・・
狂ったように、感じる。
呪い・・呪い・・私が呪われたの?
あなたの呪いが、私を苦しめる。
それでもいい・・あなたの目に、私が映るなら・・
私は、呪いと闘う・・何度も自分に誓った。
この心は、最初からあなたを求めていたのだから。
あなたは・・違うのよね?
「美彩、俺の事・・好き?」
好き・・大好き。
尋ねるときの視線と、声・・私の返事に、悲しい顔をするのね・・
胸が痛みながら、安堵するの・・酷いでしょう?
こんな私を知らない・・
あなたが、こんな風にした。
責任を取って・・一生・・
呪いに縛られたまま・・私を好きでいれば良い。
何度も、何人も女の子が・・同い年も、年下も・・
男の子や、先生までが言う。
「呪いの所為だ。」
呪いの闇に、手さぐりで・・何を信じればいい?
あなたは、私の手を捕って・・どこへ導くの?
行先も判らず、ただ・・身を委ね。
気が付いたら、深い谷間に上ることも出来ない大きな壁。
あなたの声が聞こえる。
「俺の事、好き?」
好き・・愛しているの・・
その緑色の目を見る度に、深まる感情が愛ではないような気がする。
呪いに縛られたあなたに、安堵するの。
『呪いの所為』
それでいい・・それがなければ、私のモノにならない。
手に入らない人・・遠矢・・
遠矢、好きよ。私は、どうすればいい?
このまま、本当に・・ずっと、幸せが続くの?
幸せなのかな?
苦しい・・怖い・・失いたくない。
だから、闘う・・呪いや、皆の声と。
この心に、あなたがいる限り・・頑張れると、信じていた。
その自信は、儚く・・脆い・・
「來名・・私は、呪われてるのかな?」
「呪った家系よ・・」
來名の失った“同じもの”・・大上家の呪い。
失う恐怖に、私は惑う。弱い自分・・
逃げたい。
失うぐらいなら、体に・・温もりを頂戴。
一生・・あなたの想いを抱いて生きていく。
他の誰かを、選ぶ時が来るとしても・・あなたを愛したことを後悔しない。
だから、お願い・・抱いて・・
残酷なあなた・・
違うわね。残酷なのは、私・・
もう、泣いても良い?
弱さをさらけ出しても、呪いに負けたことにならない?
ねぇ・・誰か、教えて・・答えを、頂戴・・
私は、どうしたらいい?