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B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】(改)おおかみは羊の皮を被らない

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49/90

一生の相手

呪いが刻む

『必ず見つける。一生に一人の対なる者。手に入れろ。どんな手を使っても……』




希東けひがし高等学校一年生。

大上おおがみ 遠矢とおや


16の歳に親元を離れ、一生の相手を探す旅に出る大上家のしきたり。

16は来ていないが、最近では高校の入学時期に慣行されている。

食っていける財源を手に、俺は中学までに会社を設立させ軌道に乗せた。

それは一生の相手なんかに縛られず、自由に生きるためだった。

呪いか何かは知らないが、群がってくる女は顔の判別ができないほどに興味がない。

お年頃は事実で、皆に合わせた何かはある。

だから馬鹿にしていた。

一生の相手?

何がだ!!そんなに必死になってきた奴らの気がしれないと。

彼女に出逢うまで。


呪いを望むほどの愛……

出逢った奇跡。

俺の相手。生を共にする。

求めるのが義務のように、その呪いさえ心地よい……


『手に入れろ。どんな手を使っても……』


緑色の目……

抗うのは、どうしてなの?

ね、君は……どうして俺を選んでくれないの?

俺の気持ちが呪いの所為?本当に?

選んだのは俺だ。

独りで生きる覚悟があるんだよ?

その気持ちが嘘?偽り?

信じてほしい……君一人を愛すると誓うから……



入学が決まって早々、麻生学園の理事長室に呼ばれ、俺に役員(の監視)がつけられた。

「遠矢様、学園の案内を……」

理事長の前では丁寧だったけれど、明らかに俺に対して無関心なのが分かる男。

その後ろを歩きながら、広大な敷地に多くの学校施設が並ぶのを見てため息。

この麻生学園は特別……初等部から大学までエスカレータ式。

小学校は二つ連なり、中等部からは進路によって姉妹校などに分散される。

姉妹校は6つ。希東・太西・結南・冬北・反中と海外。

中高一貫や寮・宿舎などもあり、外部から来た俺のような中途者など諸々の対応可能。

巨大な組織の統制の為、表と裏に役員がいて数え切れないほどの人間や情報で秩序を護るのだとか。

そんな麻生学園の望みは果てしない。

俺も、その基礎の一つ。

利用されるように、利用する。


俺が通うことになった姉妹校の希東けひがし高校は、総合的なレベルは低いが、特別な何かを持った者を集めた場所。

旅に出た扱いの俺に、保護者はいない。

けれど今の俺では、独りで生きていけない。分かっている……

ここに学園の望む対がいるんだ。

呪いが告げると思われる俺の相手。

くだらない……


視線を前に戻し、適当に施設の説明を延々と語る男の後ろ姿に、またため息。

俺とは違う世界で生きてきたんだろうな、コイツ。

「墨……そんな説明、お前だって望んでないだろ。」

もく……学園の秩序を護る為に存在する、裏の役員衆の一人。

足を止めて振り返る視線は鋭く無表情。

学園の決めた主従関係にそぐわない、とても反抗的な態度。

それは学園に対するものか、年下の俺に対してか。

思わず試してみたくなる。

「本名を教えろよ!」

裏の役員、その存在と境遇を情報では知っている。

けれど、それをどう思っているのか……

生まれた家系で、決まった未来……俺に似た存在。

ケンカ腰の俺に対する反応は。

「ふふ。知りたいの?俺の情報は高いよ?」

嘲笑。

それは主従関係のない素の感情を露骨に表し、殺気を伴っていた。

「……キスは、どうなのかな?」

「え!?チュウ、くれるの?」

俺の探る視線も関係なく。何故に嬉しそうですか?

探った俺も驚くくらい呆気なく。殺気が消えて、腹の見えない笑顔。

コイツも俺の情報を知っているのだと確信する。

それで、この返答か。

「……呪いは、どこまでの基準なのかと。」

嘘じゃない。

俺ですら知らないんだ、呪いの詳細を。当事者なのに。

墨は俺の不安など一切おかまいなしで。

「じゃ、試す?」

目を輝かせて、俺の両肩に手をのせた。

試す……か。試しているのは、どっちなんだか。

「くっ……俺に勝てたら、試しでしてやるぜ?」

肩に置かれた墨の両手を払いのけ、俺は後方に下がって戦闘態勢。

それに応え、墨は上着を脱ぎ棄て、手足を振り準備運動。

俺にとって、初めての殴り合いの勝負。

自信のある奴に、力を示すのは主の仕事。

こいつがどこまで本気かはわからない。

けれど、だてに呪われてないんだ、俺は!

呪いを生き残る手段なのか身体能力は並じゃないんだ、よ!!


さすが裏の役員、俺の攻撃に押されながらもかわしていく。

体力もあり判断力もあり、簡単には当たらない。

だからこそ腹への一撃は重く。

墨は片ひざをついて、腹を押さえながら悔しそうな表情。

「……参りました。」

「当然だ!」

呪いが告げる相手は一生の相手。

口づけで契約がなされ、発動される緑色の目。

心を手に入れるために惑わせるのだとか。

それでも失うなら、一生独り……

手に入らない可能性が示唆されている。

俺にとってキスは死活問題。試すには相当の覚悟が必要。

それを安易に『試すか』と、乗るのは……俺との主従関係など、その程度と捉えている証拠。

まぁ、負けるなら俺もその程度だっただけの事……



寮生活・学校にも数日で慣れた。

反抗的ではなくなった墨が傍にいる事にも違和感がなく、油断していたのかもしれない。

呪いが告げる相手も現れず、何にも不足しないはずなのに……お年頃。

欲求はないが試してみたい好奇心……

「墨、可愛い女の子は誰?」

顔の認識できない俺に、墨が素直に教えた時点で疑うべきだった。

聞いた俺が馬鹿だった……

言われるがまま呼び出して。試しに人目につかない場所へと連れ込み、抵抗もなく。

触れた胸には何も感じず、俺の中での検証を終えて早々に解放した。


次の日。

群がっていた女性の顔などは認識できないけれど、数人の入れ替わりが分かる。

明らかに体系の偏り。

「遠矢って、顔より胸派なんだね……」

……流れた噂に脱力。

茫然とする俺を見て、墨は笑い続けた。

苛立ちが募る。

「俺の評価は、お前の評価だろ?」

「そう!けどねぇ……ぷぷぷ……今更、落ちるものはないだなぁ、これが。知らなかった?俺の評価は最悪!!わかんだろ、こんだけ調子にのった俺だぜ?てか、マジで認識できないんだ。笑える……」

自慢げに何を言うのやら。俺だって呪いさえなけりゃ。

まだ笑ってやがる。

それにしても笑いすぎだよなぁ……イラっとくる。

ちょっと主として、矯正しなきゃだな。

「あぁ、そうそう……楽しそうなとこ悪いんだけどさ。お前に言ってないことがあったの忘れてたわ、ごめんごめん……」

悪びれた素振りも見せず口だけの謝罪の俺に、墨は笑い続けて出た涙を拭うように目をこすり、視線を合わせた。

思い当たる節がないって顔だな。

「俺、情報屋に接触したんだ。」

「え!?いつ……てか、マジで?」

予想外だったのだろうな。

一瞬で青ざめ、俺に詰め寄り狼狽える。

「あぁ、安心しろよ。胸には触れたが感じなかったぜ。」

舌を出して意地悪な顔をした自覚がある。

ざまーみろ。調子にのんな。

「ばかぁ~俺の妻に手を出してんじゃねえ!!」

主の首元の服を握りしめ、俺より高い身長差でみる上からの焦った表情。

「くっ……くくく……俺の監視も儘ならない。お前の子どもは、俺に目を輝かせていたぞ?」

情報屋も裏の役員で、墨の嫁さんだった。

子どもは将来、墨の称号を引き継ぐ。

俺の家系と同じように、受け継がれる役目の連鎖。

それはこの墨も同じく経験した理不尽なもの。

「うわぁ~ん。俺の威厳は……イメージが……」

取り乱した姿は、年甲斐もなく幼い。

役員は特別な訓練を受けていると言うが……

俺の仕返しも落ち着いて、墨の裏の役員としての役割を考える。

俺が何を考えているのか、察したのだろうか。

「……遠矢、役員に推薦を受けただろ?」

真剣な表情で、何かを探る視線。

少し前に打診はあった。

墨はその時に上から聞いていたけれど、俺に聞くタイミングを見ていたんだろうか。

「興味がない。誰かを護る?はっ……くだらねぇ。俺は独りで生きていくんだ。」

そう、俺は呪いなどに振り回されるつもりはない。

抗ってみせる。連鎖を断ち切るんだ。

墨は表情を曇らせ、視線を逸らして小さな声を絞り出す。

「……俺、昔……お前の家系を見た。雑種も……」

「雑種?」

俺が知らないのを予測していたのか、墨はこめかみにシワをよせて目を閉じた。

口に手を当てて、言うのを戸惑っている。

「墨……教えてくれ。」

墨は首を横に振り。

「……大上家は、逃げてきたのかな?旅を言い訳にして……」

ただ、そう言って口を閉ざした。

表情は暗く、視線は逸らしたままで。重い空気。

雑種……俺の知らない存在……

呪いに俺は……抗ってみせる。

相手なんか見つけない。手に入れたいなど願わない。

例え見つけて手に入れても、絶対に子どもは旅に出さない。


その決意が、逃げてきた呪いと対峙する結果になったのだろうか?

……まだ、知らない未来……それは。


旅に出たと言っても親が近くにいないだけで、学生寮に入っている他の生徒と大差ない気がする。

変化のない毎日。独り暮らしも寮だし不便はない。

女が必要なのは、男の欲望か?

呪いは、ある意味便利だ。その欲望さえない。

相手以外に反応しない。女の区別がつかない。何が楽しいのかな?

触れた胸は、確かに柔らかいが。

キス、相手ではないのにしたら……どうなるのかな?

一生独りでも別に構わない。

契約……か。

一生を誓い、どれほどの欲望が芽生えるのか。

父は母と仲が良かった。

もう会うこともない……別れが当然のように用意されていて、何かが納得できない。

父は母がいれば……一生の相手さえいれば、それで良かったのだろうか?


「遠矢……この時間さえ、操作されていると言ったらどうする?」

コノジカンサエ、ソウササレテイル……?

言っている意味が分からず、視線を向ける。

考え込んだ俺を心配してか、口が滑った。墨はそんな表情。

それも一瞬で、切り替えたのか覚悟の見える強い視線。

「俺さぁ、ここにお前を引き留めるように言われたんだ。時が来たんだよ……主、あなたの相手がここを通る。」

そう言って視線を移動させ、指さした。

俺も視線を向ける。

誰も居ないじゃねぇーか。

視線を戻すと墨の姿もなく……呆気。

何だ、騙されたのか?単に逃げられただけ?

【トスンッ】

なんだ、またふざけたのかよ。

背中に軽い衝撃を受け、振り返る。

しかし、また姿がない。なんだ?

「……痛い。」

女の子の小さな声が……下から?

視線を移すと、可愛いパンツ……白い肌……

【ドクンッ】

理解できない感覚。今までにない違和感。

普段、誰かに優しくするとか考えたこともないけれど。

俺にぶつかって転んだのは確か。

彼女は、はだけたスカートを直し、足を打ったのか撫でながら痛みを我慢しているように見えた。

「……大丈夫か?」

手を差し出した俺に、顔をあげて手を握り返す。

その瞬間に衝撃。どこが痛んだのか。

手?胸?心臓?なんだ、これは。

「大丈夫、ありがとう。」

肩までの長さのストレートな黒髪。

目はパッチリ、二重で下まつ毛に薄っすら涙が……

判別できている。顔が分かる。

鼻は高くなく小さくて、口も小さく濃いピンク色。

涙目で微笑むと片方だけのえくぼ。かわいい……かわいい!!

動揺なのか引き上げようと力を入れすぎ、彼女はバランスを崩してしまった。

慌てて、つないでないほうの手を差し出した。

【ふにゅ……】

俺の手が脇に入って、抱き起す際に胸に触れてしまった。

また痛みのような衝撃。

「……どこ、触ってるの?!」

いきなり暴れだしたので、そっと落とさないように、彼女の足が地に着くのを確認した。

感情も状況も理解できない俺を、下から睨んで。

触れた胸……この感覚……

「はぁ……」

息が苦しい。

「ちょっと!!大丈夫なの?」

胸を触ってしまった俺に対する怒りよりも、様子のおかしな俺を心配して覗き込む。

何だ、匂いが……甘い匂いが。さらに思考を乱す。

頭に声……響いているのは、君の呼ぶ声と……

『必ず見つける。一生に一人の対なる者。手に入れろ。どんな手を使っても……呪いが刻む……』

あぁ……やっぱり君なんだね。呪いの選んだ相手……

複雑な感情が入り混じる。

呪いに抗うような悔しさと、思いもよらない見つけた時に生じた喜び……俺の覚悟も一瞬で決まっていた。

これは呪いじゃない。俺の何かが知っている。

表情の見えるのが、なんて心に響くのだろう。

俺を心配して、どうしようかと戸惑い、必死で呼びかける君……

なんて愛しい存在だろうか……足りないものが埋まるような安堵。

これが俺の対なんだ……


少し息苦しさが落ち着き、彼女の全身を眺めて把握する。

背が低くて小さいな……まさか。

「……小学生か?」

つい言葉が口に出たと同時。

手も出てしまい胸に触れる。あぁ、柔らかい。しっかり大きさもあるな。

再確認大事。

「ばかぁああ~~!!」

【バシッ】

彼女は胸に触れていた俺の手を払いのけるように叩いた。

小さい体の、どこにこんな力が?

しかも的確な狙い目。意表を突かれた。

「心配したのに!!こんなに……こんな、なんで……」

顔を真っ赤に、俺を下から睨んで頬を膨らませた。

(かわいい)

目に入ったのは、三年生を示す胸元の青色のリボン。

「え、二つも年上?」

その言葉に一瞬、目を見開き思考が止まったような無。

あ、傷つけたんだ……今まで認識できなかった女性の悲しみの表情。

何とも言えない胸の違和感。罪悪感のような苦しさ。

痛い……彼女の表情一つで、俺の胸も痛んだのだと理解する。

他人など気にせず生きてきたのに……この俺が。

彼女は言葉を出そうと口を開き、それを出さず飲み込むように口を固く閉ざした。

そして視線を逸らし、俺に背を向ける。

あぁ、ずっと彼女は俺から目を離すことなく真っすぐに見つめていたんだ。

顔が認識できるからわかること。

増し加わっていく愛しさ。

傷つけた痛みを癒したいと願いながら、どうしていいか惑う不安。

彼女の表情すべてに、ついていけない俺の感情はかき乱されていた。

冷静ではない俺が引き留める間もなく、髪を揺らして走り去った彼女。

後ろ姿を見つめ、自分の情けなさを思い知る。

匂いが遠ざかり、息苦しさと欲求が信じられない程に増す。

「はぁ……はっ……」

彼女が欲しい……

近くに、ずっと置いておきたい。俺の対……

逃がしてしまった。

これが、欲求?

初めての感覚。呪いのせいなのか……思考がまとまらない。

俺は、相手を見つけたんだ……


欲求が治まるまで時間がかかった。

立っていられなくて座り込み、感情を落ちつけようとするが……思考に呪いが語る。

『手に入れろ』と。

大上家の呪いで……心を惑わしてまで、手に入れる幸せに永遠はあるのだろうか?

それでも願う……俺の対……

呪いに身を委ねても、君が手に入るなら……

矛盾する思考に抗い。呪いを望むほどの愛。

俺が狂うほどに、君も受け入れて……

必ず手に入れる。大切にする。

得る幸せは、すべて……手放さないと誓うから……






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