す・れ・ち・が・い!
本家から始まって大上家全体に、私の記憶が戻り・・大騒ぎ。
結局、本家から高校に通うことになった。
「麗季、体調は大丈夫?」
諷くん・・幼いとき、そう呼んでいた。
「うん。不思議・・どっちにしても、お兄ちゃんね?」と、笑う。
「あぁ、円華と結婚したらな。」
本家は、隠された家系の調査を始めた。
・・何かが、引っかかる。・・何かが欠けた記憶・・。
太西学園高等部。羊二と同じ学校・・。
寮から出てきた羊二と、目があった。
「おはよう。」
優しい笑顔の羊二・・。幸せな時間。
まるで、試練なんかないような・・終わってしまったように感じる。
「おは・・っ?!」
【グイッ】
急に、お腹に手が回され引き寄せられる。
「おはよう。麗季、大人になったんだ・・?」
この声、草樹??
「草樹、放せ!!」
耳元で囁く・・
「オイデ・・
休みたいときは・・オイデ・・」
草樹は手を放し、走ってくる羊二に言う。
「諦めない。まだ、心に・・隙間が出来るから。」と。
・・デキル・・?
身を翻し、中等部の方へ歩いていく草樹。
呆然と、見送った・・。
「麗季?
隙、ありすぎ!襲うよ?」と、服に手をスルリと入れ、胸に滑らす。
「ちょっ・・バカ!」
振り払って逃げる。
「はぁはぁ・・」
胸を押さえ、涙目で羊二を睨む。
・・スケベだ!
「変態・・H・・~~・・恥ずかしいじゃない!!」
ケロリとした、涼しい顔で・・
「今度は、誰かに先越されるなんて嫌だからな!
ちっ・・嵐め。子供だと、一番安心していたのに・・。」
と、羊二は自分の手を見つめている。
「・・?羊二?」
ニヤッ・・
【ゾクッ】
本能が、何かを知らせた。
鼻歌が聞こえる。
何故、嬉しそうなのか・・訊くのが怖い。
ぽそっと呟いた言葉は、聞こえない振りをした。
「小学校の時の身体も良かったけど、やっぱり・・大きいな。」
・・なんて、きっと空耳。
私、一生の相手・・間違えたかもぉ??
必死で我慢していた羊二が、懐かしい。悲しい想いをしたけど・・
自分の身が、持つのか・・??
許していいのか・・
羊二が、任務で授業を抜けた。私は、待機・・。
綾と、今度はいつ会えるかな?
学校の授業は、問題なかった・・。きちんと、アメリカで学んだ記憶がある。
進学校でも十分通用する。
羊二が、そろそろ戻ってくる時間・・
廊下に出る。
・・え?
羊二は、綺麗な女の人と話しをして・・笑っている。
【ズキッ・・ン】
痛い、胸が・・締めつけられるように痛い・・。
足が・・動かない。声も出ない。
「あっ、麗季!」
二人で仲良く、私のところに来る。
【ズキズキ・・】
胸・・心?・・が、痛い。
「紹介する。今日から、任務に加わる矢城さん。」
「はじめまして。矢城 美衣です。宜しくね?」
・・美衣・・さん?
「・・はじめまして。」
綺麗な人だ。嫌な予感がする・・。
「じゃ、放課後・・現地で!」
・・現地・・?
「羊二?今日は、任務・・終わりでしょ?
・・私・・任務、聞いてない・・よ?」
まさか・・もしかして・・
「え?おかしいな。今回は、違うチームなのか?
・・麗季、ヤキモチ?」と、ニヤニヤ。
「ちっ、違うもん!!」
羊二は笑う・・
けど、思い過ごしならいい。嫌な感じがするの・・。
何か、意図的な・・何か。
・・欠けている・・
重要なことが・・何?
放課後、本部へ足を向ける。
任務の連絡はない・・大上家の呪いは、役員なら情報を知っている。
まして、ボスの耳に入らないわけはない・・。
「ボス!任務は・・」
【ドクッ】
身体が固まる。
そこに草樹が、立っていた。意図的な・・ナニカ・・
「あぁ。丁度いい・・話が」
「・・や・・嫌・・だ。」
ボスの話も聴かず、その部屋を飛び出し・・必死で走った。
草樹が、あの場にいて・・丁度いい?
・・羊二と美衣さんが同じ現場?偶然なんかじゃない!
「はぁ・・は・・」
涙が溢れる・・
大人になったのに・・悔しさで、涙が零れ・・止まらない。
「麗季・・、追いついた。」
草樹・・
「来ないで!ボスに何を言ったの?
嫌よ!話は聴かない。したくないことは、絶対に」
言葉を飲み込んだ。
草樹の雰囲気が変わる・・
「麗季、可愛い名だ・・。
本家の子・・美甘とオレの子孫・・。」
美甘さんと・・『呪いの始まり』の子孫?
二人・・の?
「呪いの最初なんて、遠い話だ・・。オレにも消えかけている。
麗季・・オレを選んで・・」
「嫌!あなた、間違ってるわ。
あなたの相手は、私なんかじゃない・・――・・?」
何か、今・・頭をかすめた・・?
「・・っ、とにかく!嫌!」
「・・今はいいよ。言っただろ?無理にはしない・・
任務は、俺が決めたんじゃない。
君が高校生になったから、重要任務に移ったんだ。
君は、もう小学生じゃない・・ヒツジに護られなくても良くなった。
それだけのこと・・。
麗季・・本当に君は・・純粋だ。
隙だらけ・・。麗季・・いつでも・・オイデ・・」
私をその場に残し、いつものように後姿・・。
・・オイデ・・
「草樹・・」
「誰の名前を呼んだの?」
後ろからの低い声・・けど、羊二だ。
ピリピリと緊張したような空気に、恐る恐る振り返る。
「・・羊二?
ど・・うしたの~?確か、任務・・じゃ・・?」
怖い顔で、私を睨み・・無言。
「・・や・・ヤキモチ・・?」
朝の仕返し・・とか、可愛いものではなく。
怖くて、会話の糸口に出た言葉・・。
失敗した・・
「分かってるんだ?ふふっ・・よかった。」
ふふっ・・って、顔が・・笑ってないよ?
羊二さん??
「ヒツジ?」
ちょっと、可愛く呼んでみる。
・・無言。
「どうしようかな・・?」
と、考える羊二は、まだ怖い雰囲気。
「あの・・羊二?」
どうしようとは・・?
「ね、麗季・・俺のこと、好き?」
・・・・。
私が、いつも訊いていた言葉??何故??
「・・好き・・よ?」
恐る恐る・・答える。
この空気が、いつ和らぐのか・・
「キス・・して?」
・・へ?
「・・なん・・」
言葉を飲み込む。
羊二の目が真剣・・
「・・う・・ん」
そっと、近づいて・・背伸びして【チュッ】
軽く重ね、すぐに離れた。
背が、高くなったから出来ること・・
私は、それだけで嬉しくて・・微笑んだ。
「・・くっ・・可愛い顔して・・」
・・?
羊二は、私の両腕をつかまえ・・引き寄せてキスをした。
「・・んっ・・」
まさか、また・・激しい・・??
「んんん~~!!」
まだ、馴れなくて・・羊二が嫌なのではないが、抵抗する。
押さえる腕は、やっぱり男の力・・。
唇を硬く閉ざしたのに、無理やり開き・・舌を入れる。
「んんっ。・・やっ・・ヤダ・・」
「はぁ・・
何でだよ・・くそっ!!
麗季、俺はお前が好きだ。麗季・・。」
嬉しい・・
けど、気持ちが追いつかない。
「私も好き・・だけど・・」
きっと、羊二の聞きたいことと・・私が言いたいことがすれ違っただけ・・
そう、それだけ・・たった、それだけのこと。
「そんなにあいつがいいなら・・もう、俺なんかに・・」
「・・嘘つき!!」
違う・・
こんなことが言いたかったんじゃない!!
大人になったつもり・・感情が、記憶が・・ついていかない。
羊二を傷つけた・・。
小学生でも、いいと・・言ってくれた。好きだと・・消えるなと。
羊二・・好き・・愛している。
あなたの心が手に入らないぐらいなら、消えてもいいと思うぐらいに。
やっと、心が通じたと思ったのに。
まだ、あなたの心が手に入らない。
手にあるのに・・落としそうだ・・・・




