あ・つ・め・る!
麗季Side
羊二・・あなたが正しいの?
判らない・・本当の私は、まだ・・
記憶が欠如し・・本当の姿を保つのは今晩だけ。
後、少し・・記憶さえそろえば。
今でもいいでしょ?
・・羊二・・どうして?どうして駄目なの・・?
私が高校生でも駄目・・?
あなたは、私に・・憐れみで優しくした?
・・苦しい・・
この心は、どうしたらいい・・?休みたい・・
オイデ・・
次の日。
体中に痛みと、熱が私を苦しめる。そんな私に、記憶が波のように押し寄せた。
「はぁ・・はっ・・はぁあ・・
っっつ!!・・痛い・・苦し・・い・・」
私のうなされる声に、家族がやってくる。
優しい手・・温かい・・痛みが、和らぐ気がする・・。
聴こえる・・
声・・誠志さん・・?
『このカケラが・・記憶を呼ぶかもしれない。』
・・イラナイ・・
もう、必要ない・・彼の心は、手に入らない。
関係ない・・年齢なんか・・
私・・私が、ダメなんだ・・。私のこと、好きじゃない。
大きくなっても、希望は・・ない。手も、出して・・もらえない。
きっと、軽蔑された・・。
『こんなこと・・』
どうしたらいい?もう・・手に・・入らない?
・・手に入らないなら、独りで生きるぐらいなら・・消えたい・・
あなたは、いずれ・・私ではない・・誰かと恋をする?
その・・私の触れた唇に、あなたがキスをする?
私に触れなかったあなたの手・・温もりを・・誰が・・手に入れる?
・・考えたくない。
羊二・・羊二・・どうして、優しくしたの?
呪い・・?一生の相手になってしまったから?
解放されたら、その優しさも・・失った。
望んだ解放が、私を苦しめる!!
重なる記憶・・
保兄。
『物語の敵は・・お前じゃない』
・・保兄は、父さんから・・何か聴いていたんだろうか・・。
本家から隠された『生と死の垣根』
誠志さん・・
どうして自分を“狼”と言うの?ポチのこと・・どうして知ってるの?
『見守り、伝承を消すことなく・・解放を望んだ。』
歌毬夜さんは、どうして・・雑種と婚約していたんだろう?
偶然・・?
私は、保兄の記憶を伝い・・呪いを知る。
断片的な記憶を紡いで、私の記憶を作っていく・・
草樹にある呪いを消すために・・。
今は、私の存在価値はそれでいい・・
予見者が、私を見つけた。
これは、試練・・選ばれたおおかみ・・
それでいい。
歌毬夜さん・・『おおかみの目を見てはいけない。耳を傾けてはいけない・・決して』
そう決して・・
オイデ・・
定行さんの記憶・・
ある年齢から狼になる。
満月の夜のキスで・・月の光・・人間の姿に戻った。
この時の娘が、『かぐや姫』の家系の始まり。繰り返される120年。
・・竹の花の寿命と同じサイクルは、16歳に巡ってくる。
この加わった呪いも『生と死の垣根』から来た。
『彼女も、隠された【生と死の垣根】の子孫。』
魔女は、おおかみの心を手に入れた。
だから、一つの呪いが解放された。
けど、最初の呪いとは無関係。
諷汰さん・・私の兄。
千弐さん自らが科した呪い。
『同じ家系を選び、呪いを軽減せよ』解放するのは、同じおおかみ・・
円華姉の記憶。
初めての禁忌。緑の目から解放された菜乃さん。悲しい裏切り。
だから、すぐ近くに留まった・・彼女の心は、おおかみの心と共に大上家へ継がれた。
『心を君に残していく。
いつか君に逢えたら返して。必ず、君の許に還るから。』
本家・・諷汰さんの遅れた成長と感情の欠如。
預かった心を、返す円華姉・・。
『私は、呪いで諷太を好きになった訳じゃない。
必ず、幸せになるための・・呪いの解放の道。出逢うべき相手。』
この言葉が、私の記憶のカケラへの・・鍵だった。
『生と死の垣根』万樹さん・・。
『惹かれるのは必然だった。
自分の家系の呪いが、想いを決して叶わないものにした。禁忌・・。
自分の目の前で、愛した男が消えた。一生の相手に心を残して。
欲しい、手に入れたい・・。16で結婚し、呪いの所為だと諦めた。』
ただ、愛されたいだけだった。
『すべてを忘れればいい・・』
その笛は・・呪いと関係ある・・?
采兄・・の記憶。
魔女の呪い・・苺愛さんの役目・・。
『自然に出逢い、惹かれるだろうか?
本当に出逢うべき相手なら。見つけるなら、奇跡。
出逢うべき相手・・心を手に入れたことになる。』
常に、おおかみは『生と死の垣根』に記憶を消された・・。
試される・・想い・・。
何度も、必ず・・その人を・・見つける。
一生に・・ヒトリ・・の相手。
万樹さんの笛・・苺愛さんの声・・
『生と死の垣根』の力。
椋さんと美甘さん・・2人の物語は欠如している。
采兄・・気がつかなかったんだ。緑色の目の始まりが、まだ謎のままだと。
そして、美衣さん。
あなたですね、予見者は・・。
『そうよ。』
そして、草樹。
解放した呪いが、自由になって動き始めた。
『一生に一人の相手を手に入れろ』
・・羊二・・
アナタノ心は、テニハイル?
羊二Side
「・・・・。」
優貴さんは、口を開けたまま・・俺を見つめる。
信じられないものを見るように。
「はっ!やばい、どこか行ってた。
こほっ。え~、羊二クン?君、おかしいよ!」
俺の両肩に手を置いて、揺らす。
「な・・何がですか?」
本当は、分かっている。
視線を逸らし、揺れるのに身を任せ・・小さい声で訊いた。
「据え膳・・もごっ」
口を押さえる。
俺は、優貴さんの口を押さえながら周りを確認した。
口を押さえられた優貴さんは、俺を白い眼で見る。
ぐっ・・何も言えなかった。
肩を落とし、落ち込む・・
「はぁ・・」
ため息。
手を離し、「麗季が、大事なんです・・。」と、目を見て言った。
その俺を、真剣な眼で「そうかもしれないけど、言い訳だろ?」と。
「はい。」
その通りだった。
「羊二・・
いいか?麗季ちゃんは、不安なんだ・・。
お前が、関心ないと思っている。呪いの引け目もあるんだ。
お前の優しさが、少ないからこそ・・感じたことを信じる。
お前の一言が増えるたび、否定的な言葉が・・どれほど傷つくか。」
「俺の気持ちは・・」
「羊二・・。手を出せ!」
・・?
俺は、右手を優貴さんに掌のほうを向けて出した。
「・・バカ。違う!いや、待て・・」
と、ズボンの後ろポケットから出したモノを、俺に握らせる。
「いいか?・・襲え!」
・・・・。
「え?」
えぇ??!!!!
「いや、ちょ・・それは・・」
手には、アレが・・。
「使い方、わかる・・よな?」
優貴さんの目が、真剣で・・怖い。
「・・・・。」
返品できず、優貴さんがいなくなった後も、しばらく握った手の中のモノを透視する・・。
優貴さん・・?
どうして、常備なんですかぁ~~?と、叫びたい。
「はぁ・・」
どうしようか・・どこに捨てれば?
「使うとか、言わないですよね?」
【ビクッ】
「そ、草樹?!・・いつから・・
って、お前に関係・・くそっ!」
俺が、これをどうしようが・・。
畜生!!
「使うって言ったら、邪魔するのか?」
「はい。」
・・即答しやがった!
「火に油だぞ?」
「ふふっ。さっきの様子や、昨日の状況を考えたら・・無理でしょ?」
・・ムカッ!!
「草樹、お前は・・どうして・・。」
言葉を飲み込む。
俺の視線の先に、小学生の麗季・・。
その気配を感じていた草樹・・は、俺に言った。
「あなたの中で、麗季は・・女じゃない。
呪いで、一生の相手に選ばれてしまったから・・麗季が、可哀相で優しくしたんだ・・」
違う!
「麗季、違う・・。」
「・・どっちでも・・いい。
見てくれた?・・『さようなら』しに来たの・・」
・・言葉が出ない。
「疲れた・・。
もう、ダメ・・。草樹・・」
「何?」
「あなた、言ったよね?
疲れたら、休めば良いって・・」
「あぁ。」
・・オイデ・・
オイデ・・ヤスメバイイ・・
「私ね・・一生・・一人を選ぶわ。
・・この気持ちのまま・・消えてもいい・・」
草樹の顔色が変わる。
「麗季!駄目だ!!それを選ぶな!」
麗季は、空・・太陽を見つめる・・
太陽が暗く陰りだす。
「麗季?!」
俺にも判る・・。
このまま、何かが進めば・・麗季は。
「麗季、好きだ!」
君を、失いないたくなくて・・叫んだ。
麗季は、俺を見る・・
涙が零れ・・微笑んだ。
「ごめん・・ね。」
太陽は、皆既日食を始め・・闇に一瞬包まれる。
光が、照らしたのは・・狼。
「麗季・・?」
「羊二、君に任せる・・。
これ以上、俺が関与すると・・麗季は消える。
これで留まったのは、奇跡だよ・・。
覚えておいて。まだチャンスは、逃さない・・。」
草樹の声を脳裏に置きながらも、狼に近づく。
草樹の言葉から、この狼は・・麗季。
「麗季?」
狼の大きさは、子供・・
涙を零し、話す。
「羊二の・・バカ・・」
「麗季・・」
服は、狼の周りに落ちている。
これ・・裸・・なのか??
とりあえず近づいて、目の前にしゃがみ視線を合わす。
【ガルル・・】
歯をむき出し、うなる。
今にも噛みそうな雰囲気だったが、麗季を信じて・・躊躇無く抱っこした。
「・・!!??!」
ジタバタと抵抗するが、強引に・・放さずに歩く。
「・・どこ、行くの?」
「麗季の家・・」




