表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 大上家シリーズ】 おおかみは羊の皮を被らない  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ0】おおかみは羊の皮を被らない
4/72

迷い


 いつもの使用されていない教室。

俺の前で、美味しそうにお弁当を食べる美彩。

その様子を、じっと見つめる。


食べ終わった美彩は、俺に首を傾げ・・額に手を当てた。


「熱は、ないね。どうしたの?」


心配する表情・・愛情を感じ、顔がほころびる。

この幸せも、一生手に入れず・・独り・・


「遠矢?」


この、声で・・名を呼ばれることもない。

匂いを味わうことも、触れた唇を味わうことも。

温もりに、幸せを感じることさえ・・一生・・


「美彩、俺のこ・・」


言葉が出ない。


「好きよ。

言わないといけない・・今、そんな気がするのはどうしてかな?

遠矢、私の事・・好き?」


口を開くが、言っていいのか戸惑う。

結局、呪いなんだ・・このまま、美彩を解放した方がいいのかもしれない。

美彩は、俺以外の男も選べるのだから・・


視線を逸らし、教室の壁にある時計を見る。


「美彩、そろそろ時間だ。行こ・・う!?」


視線を戻した俺に、制服のリボンを解きボタンをはずし終える美彩の姿。


「な!?」


「・・何が不安なの?

体を手に入れたら、安心する?だったら、触れて。いいよ・・」


上目で、少し緊張した笑顔。

夢?罠??


匂いが、美彩の心を伝える・・

愛情の・・俺を求める匂い。


俺は、美彩の座っている椅子の横にかがむ。

白い肌・・そっと、指で首元に触れる。


【ピクッ】


視線を、恥ずかしそうに逸らし・・それでも、拒絶はない。

顎に指を滑らせ、顔を近づけ・・キスを落とす。

もう片方の手を、わき腹に滑らせる。


「・・んっ・・」


ゾクゾクする・・

触れる美彩の肌は、温もりから熱に変わる。

重ねた唇を、舌でなぞった。


「・・ふぅ・・」


気を許したように、唇が開いて・・俺を誘う。


「・・遠矢・・もっと・・ぁ」


・・シアワセ・・

ウシナウカモシレナイ・・一生


「・・ッ・・

美彩、愛している。欲しい・・手に入れたい。」


「・・いいよ。どうして迷うの?」


君は、勘が良いんだね。


「・・呪いだから・・」


「言って・・正直に。

抱えないで・・私は願うわ。呪いさえ・・」


俺の腕の中、すべてを委ねる彼女の存在の大きさ。


「・・幸せすぎる。

このまま、死んでしまいたい・・」


「遠矢・・

奪わないで。今日は・・ただ、キスを頂戴。いっぱい・・

遠矢を感じることが出来るように。」


繰り返すキス・・

優しく・・深く、何度も・・求めるように。


ただ、今得ている幸せを感じるままに・・



 俺の迷いが続くなんて・・呪いから逃げる道を望むなんて。

・・そんな弱い自分を知らない・・誰かを護れる強さが欲しい。

独りで生きていく決意なんかせず、周りと係わってきたら・・何かが違ったのだろうか?

今までの守れる自信が、何で出来ていたんだろう?

それも思い出すことができない・・


「遠矢、大丈夫か?」


「墨・・“彼女”のこと、教えてくれ。

それは、俺が知るべきことだろう?」


「・・情報料をもらう。」


「いくらでもいい。願うなら、俺のすべてを犠牲に・・」


【ぺしっ】


頭に軽い衝撃。


「ばぁ~~か!

ガキが、大人みたいなことを言ってんじゃねえ。可愛くない!」


「・・墨・・」


「いいか、誓え。

俺の主なら・・呪いを乗り越えると!!」


「はっ・・はは。」


笑いがこぼれてしまう。


「ふっ・・笑ってろ!俺の主は、堂々としてるのがいいんだ。

価値が下がるだろ?」


「くっ。下がる評価もないくせに?」


「最近は、あるんだよ!!

で、誓うのか?」


「・・あぁ、誓う。

乗り越えるためには、情報が必要だろ?」


「では、主・・遠矢様に、報告を。

雑種・・調べられましたね?」


「あぁ、自分のルートで。

しかし、隠されたかのように手に入らない。」


「時ではないのでしょう。

知るべき情報は、必要な時に必要な分だけ・・」


この言葉は、俺の一生に何度聞くことになっただろうか?




―― 雑種 ―― 

大上家の呪いで、相手を探し契約をする。

相手以外の契約は、呪いを増幅させる。

異種となり、ある者は緑色の目を持たず。ある者は、匂いさえ判断できずに。能力を失う・・


呪いの解放を願いながらも、呪いに苦しむ家系・・選んだ契約を無視し、他の者を選ぼうとした。

本当の幸せはない・・と聞く。


詳しいことは分からない。ただ、その雑種・・一人の男の話。

自分の相手だと思い、契約するが・・雑種には確信がない。

彼女の愛情も、“呪い”に感じるようになる。

取った道は、自由を彼女に与えること。

そして、独りで生きる覚悟もないまま・・命を絶った。

相手を選べる“彼女”を残して・・




「・・來名・・今、何て?」


「試練の始まり・・

手に入れられなかった魔女の話。

私も願う・・呪いのように。

あなたは、家系から遠い・・呪いの解放はできないけど、開放の道。

試練に耐え、乗り越える覚悟は・・」


「あるわ!!」


「・・知っている。

でも、くすくすくす・・“あなた”の道は、一つ・・私の道は二つあった・・」




・・呪い・・


俺の覚悟は、遅かった?もう、手に入らない?

すれ違う想いは同じなのに・・


緑色の目・・


心が目に見えて、秤で量れればいいのに・・

呪いが俺たちを試すなら・・それが、答えなのだろうか?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ