か・い・ほ・う!
采兄が、呪いを解放した・・。
私の知らないところで、物事は動いていた。私には、ただ・・
采兄との接触が禁じられた言葉だけだった。
その解放は、日中というより・・平日の朝だった。
采兄・・どこで、ナニをしているのやら・・。
あっけない・・解放。
私には、理解できなかった。
疎外されたような気分。子供は、蚊帳の外・・。
伝承は、いい加減・・
満月の夜・・それが、解放の条件。守られたのは、保兄のときだけ・・。
どうでもいいか・・私には・・。
解放されても、羊二が好きだ。変わらない・・
例え、呪いの決めた・・一生の相手だとしても・・。
私は、彼以外の人に・・心を許さない。他の誰も・・好きにならない。
亡くしたら、一生・・独り。
「麗季。屋上なんかにいると、風邪引くぞ?」
「嵐・・。」
「何だよ?俺じゃ不満か?」
同じクラスの嵐は、自覚がないが・・もてる。
そして、私に想いを持っている。
「私に係わらないで・・。」
嵐のためにならない。他の人を好きになるべきだ。
解放された私に、羊二は・・そう言うだろうか。
怖い・・彼に知られるのが。彼が、拒絶しきれないのは・・憐れみ。
大上家の呪いを知っている。一生に・・ヒトリ・・
優しさに、甘え・・期待する。
緑色の目なんかなくても・・彼の心を手に入れられると・・。
「麗季、俺・・お前のこと・・」
「嵐、ごめん・・何も・・言わないで・・」
「好きだ・・」
「・・っ。ごめんね・・」
涙が零れる。
言葉に出来ない感情に、心が壊れそうだ。
「ヒツジなんか・・やめちまえ・・」
走り去る嵐の声は、かすれていた・・。
「ごめん・・」
放課後。
任務のために、現地に着く。ここには、今日・・二人。
羊二は、まだ来ない。
・・学校が長引いているのだろうか?今日の任務は、重要ではないんだな・・。
遠くに、羊二を見つける。
姿を見るだけで・・幸せだ・・。
自分のもとに、任務のためだが・・やってくる。
「待ってないよ?」
「・・訊いてない。」
いつもと同じ、素っ気ない言葉。
「麗季・・」
でも、見つめる眼が・・熱い。
「何?」
ドキドキする。
「解放されたのか?」
【ビクッ】
体が、固まる・・。
何故、彼が知って・・。
言葉が出ない。
「・・そうか。・・任務・・行くぞ。」
何故・・訊いたの?何故・・
それ以上・・何も言わないの?
・・終わる・・?
この、憐れみの・・優しさも・・私には・・
「ごめ・・
もう・・無理・・羊二・・」
逃げた・・
怖い・・私は・・
消えたい!!涙が止まらない・・苦しい・・
頭がおかしくなりそうだ・・。
「麗季!」
【グイッ】
手をつかまれたと同時、羊二の声。
追いかけてくれた・・嬉しい・・
例え、それが・・任務の為だったとしても・・。
でも、涙を見せたくない!
「やっ、離して!どうして・・
あなたの前じゃ・・どんなに頑張っても・・大人になんかなれない!!」
「・・関係ない!」
羊二の、意外な大きな声。と、熱い・・彼の腕の中。
心臓の音・・これは、私・・?それとも・・
「・・っ・・っ・・くっ・・」
声を、必死に我慢する。
「いいよ、泣いても・・。
幻滅しない・・君が、子供なんて・・思わない。
ごめん・・無理をさせたのは・・俺だ。」
今までにない優しい口調。
沢山の言葉が、聞こえる。
「麗季、俺・・」
「取り込み中、お邪魔するね。
でないと、手が出せなくなるから・・。」
私たちの前に、「連・・歌・・?」
彼は、私に微笑む。
雰囲気が・・違う?
「双子の草樹だ。
はじめまして、麗季・・解放された呪いが、選んだ・・おおかみ・・。
見つけた・・」
選んだ・・おおかみ・・?解放された呪いが、選んだ?
・・采兄が解放した呪いは・・本当に・・消えた?
「麗季、君も解放された・・。」
草樹は、私の様子を見ながら言う。
「あなたね?羊二に、解放のことを言ったのは・・」
私の質問に、ただ・・微笑んだ。
それが、大したことのないように・・。
いや、わざと・・?
「何が、目的なの?
あなたも、解放されたでしょ?連歌と双子なら、雑種として・・」
「ふふっ。連歌が、話したの?」
目が、緑色に変わった?!
「あなた・・」
「麗季、見るな!」
私の両目を、羊二は両手で覆う。
何が起きているのか・・頭がついていかない。
「今日は、挨拶だよ・・。
ヒツジ・・か・・。くくっ。・・時間はあげたよね。
後悔するといい・・。君には、無理だから。
麗季は、オレのモノだ!」
遠退く足音。
見えない視界が・・広がる。
「羊二・・」
「名・・、
いや・・いい。呼んで・・」
「羊二・・私のこと、好き?」
「・・・・。」
卑怯だ・・。期待させる沈黙。
知ってる・・本当は、私のこと・・
「嘘つき・・」
見つめる羊二の眼が・・温かい。
名を・・呼んでもいいと・・言ってくれた。
「麗季・・。・・っ・・」
言葉を飲み込む彼が、辛そうで・・。
きっと、これから・・羊二の一言が・・何もかも変えてしまう。
「任務だ・・」
「はい。」
家。
父を捕まえる。
「父さん、話があるの・・。」
父は、風呂上り・・。
保兄や円華姉は、本家に呼ばれて留守・・。
呪いが解放されたから・・きっと、采兄も呼ばれている。
「あぁ。・・何だ?」
冷蔵庫に手を入れ、ビールを出しながら父は訊く。
「呪いは、解放された・・。自由になったの?」
私の言葉に、ビールが床に落ちる。
「母さん、外してくれ・・」
父の雰囲気が変わる。
テレビの前で洗濯物をたたんでいた母は、私たちの話を聴いていなかった。
「お話するの?
じゃ、後・・お願いね♪」と、何故か嬉しそうにリビングから出る。
「座りなさい。」と、父。
「・・座ってる。」
冷静な私に、父は周りを見る。
冷蔵庫を閉め、床に転がったビールを机に置き・・倒す。
「・・落ち着いて。」
「・・あぁ。すまん・・。
コホンッ・・どこから、話せばいいかな。」
「全部、最初から・・。」
どこか感じていた違和感が、私に衝撃より・・
納得に換えた話が・・始まる・・。
「まだ、本家も知らない。・・『生と死の垣根』さえ。」
私が蚊帳の外だと思っていたことが・・私に降りかかる。
「采景が、解放した呪いは・・麗季・・君を試す。
解放された過去の狼が選んだ・・おおかみ」
「と・・」
父さん・・
言葉を飲み込んだ。多分、私の予想が正しければ・・
「麗季・・。
お前は、家の子じゃない・・。」
やっぱり・・
「まだ、言えないことがあるが・・いずれ、解る時が来る。
麗季、一生の相手を選んだね?」
「はい。」
「信じていい。惑わされるな・・。
後、何があっても・・お前は私たちの娘・・末娘・・麗季だ・・。」
「・・はい。父さん・・」




