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⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ3】おおかみは七匹目の子ヤギを狙う

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誰だ?


「・・美衣・・?」


俺の熱くなった体が、凍ったように冷たく・・固まる。


「・・くくっ、あははは・・」


?!!


雰囲気が一気に変わる。

でも、美衣だ。


俺を押し退け、ベッドから立ち上がる。

乱れた服を気にせず、俺の方に向いた。

白い肌が露出しているのに、恥じないで立っている。


「お前は、誰だ・・・」


「はっ、つまんない・・。」


俺の知っている美衣・・。


「危ないとこだったわぁ~。

記憶を戻されたら、私が消えちゃうじゃないの。

采景、気分が変わったわ!またねぇ?」と、入り口へと向かう。


「・・おい!」


入り口には、鍵が・・


「開けて!いるんでしょ?」


入り口の、ドアの開く音が聞こえた。

誰かと話している・・?まさか、鍵って・・


美衣は、部屋を出て行き、誰かが入ってくる気配がする。


「・・草樹・・」


草樹の表情は、いつになく真剣で・・重い空気が、何も聞けない雰囲気にした。

ただ、黙って・・ベッドの端に腰を下ろす草樹。

俺は、重い口を開いた。


「あいつは、誰だ・・?」


「美衣だよ。

・・君は、誰を見つけた?

見つけて・・お願いだ。解放してくれ・・頼む。」


祈るように、涙を流す。

美衣の中に、俺の捜す・・アイツがいる


。一体、誰だ・・?

め・・?



 朝。


「おは・・やぅ~~」


あくびをしながら、草樹はいつも通り。


「はよ。」


美衣は、どこで寝たのだろうか・・?


「朝食は、食堂のおばちゃんたちが準備してくれてる。

さ、着替えて!授業に遅れるぞ?」


「あぁ。」


クラスによっては、晩御飯を失敗して弁当を頼むところがあったとか。

で、最近・・朝食だけは、学校側が準備してくれる。


「はらへったぁ~~」


早く起きた奴から、学校の食堂へ向かう。

美衣は、列に並んでいた。


「もう、起きたらビックリ!美衣が、横に寝てんだもん。」


「ははっ、寝ぼけちゃった。

良かった、男のところじゃなくてぇ~」


雑魚寝に混じったのを知って・・安心する。

美衣は、俺と目が合って・・投げキッスをした。

いつも通り・・の、美衣だ。


「Aセット。ドレッシングは、ゴマね!」


美衣も、草樹も・・いつも通り。


『記憶を戻されたら、私が消えちゃう』


俺には、失った記憶がある・・?


『・・見つけて。解放してくれ・・』


誰を見つける?失った記憶の・・ダレ・・か?

解放・・?誰を?

草樹は、それ以上・・何も言わなかった。


美衣ではない・・誰かを捜して・・求める。

この、心に開いた隙間を求める。隠れている・・お前を狙って・・


必ず見つけてやる!

覚悟しておけ?俺に、こんな感情を持たせたのは・・オマエだ。

容赦しない・・

喰ってやる。骨の髄まで・・残さず、俺のモノだ。


【ズキッ・・ン】


「っつ・・」


激しい頭痛が襲う。


「何・・だ?」


倒れそうな俺を、草樹は支える。

遠退く意識・・遠ざかる声・・


『七匹目は・・犠牲・・

呪いは、消える・・だ・・ろう・・か・・?』


呪い・・?


『時間がない・・早く!速く!

・・お願い・・見つけて・・解放を望むモノが・・多いから・・。』


『お前は誰だ?』


『僕は、君の味方・・。ヒントをあげる。

君が捜すあの人は・・もう、近くにいる。でも、決して・・決して焦らないで・・。

間違った選択は、すべてを・・失う・・から。

お願い・・間違わないで・・

解放の希望・・七匹目の犠牲を・・捧げて・・』



「ん・・」


目が覚めたとき、寮の自分の部屋だった。

何だか、夢を見ていた・・。


『決して・・焦らないで』


近くに、いる・・

俺の捜す・・七匹目?


「あっ、目が覚めたんだ。

今ねぇ、何と!美衣が、料理作ってるんだ!」


美衣が、料理・・?

草樹は、また・・余計なことを。

ベッドから下り、頭を押さえる・・。痛みが少しあるようだ。


「・・和食の・・匂い?」


台所で、手際よく片付けに入っていた美衣は、ふんぞり返る。


「私、これでも料理は得意なの!皆、知ってることよ?」


草樹は、隣で・・うんうんと、うなずいている。


「で?俺、台所・・他人に触られるの、嫌い。」


ちなみに、掃除されるのも・・。


「うざっ!

あんたみたいな、男・・一生結婚できないわよ?」と、草樹がキモイ声で言う。


「・・・・。」


「こほっ・・」


外したことに、草樹は変な咳払いでごまかした。

コンロ周りや、水周りは満足なほど・・綺麗だ。

これが、美衣・・?


「美衣・・」


「何?」


美衣は、机に食事を整え振り返る。

・・違和感。


「何故、ここに来た?」


不思議だ。草樹は、何故・・美衣を?

美衣も、何故・・ついて来て、ここまでする?


「は?一食5千円出すって・・。嘘なの?!」


・・金・・か!!


「いただきまぁ~~す!」


嬉しそうなのは、草樹だけ・・。


味噌汁に、手を伸ばし・・一口。

ん?


「美衣、出汁からとったのか?」


しかも、匂いが高級感を物語る。


「おっ、判るね!お母さんの・・」


嬉しそうに目を輝かせ、口を開きかけ・・閉じる。

母親・・?


「何故、黙る?」


「言いたくない。」


「はぁ?言えよ!気持ち悪いだろ?」


「さっさと食べて!」


火花が散る中、草樹は「ごちそうさまぁ!」と。


「草樹!」


何か、整えられた場面に・・順序良く駒を進められているような・・

そんな気分になる。


「見て、珍しいイチゴを手に入れたんだ!」


「・・私、イチゴ・・嫌いなの。」


イチゴが嫌いなんて、珍しい気がする。

ニヤッ・・悪戯心が働いた。

一粒とって、後ろ向きの美衣に近づく。


【ポンッ】


肩を叩く・・


「な・・んぐっ」


振り返る美衣の口に、押し当てる。

赤い汁が床に落ちた。まるで、スローモーションのように・・

潰れたイチゴも、地面に・・落ちた。


「駄目・・よ。赦さない・・」


美衣の目が、緑色に光る・・。


緑色の・・目。

見つめる目に、ひとつの名が浮かぶ。


「ダメ!!」


口を手の甲で拭い、俺を睨む。


「・・呼ぶな。・・その名を・・

口にするな!」


草樹は黙って見ている。


『焦るな・・』


けど、これは・・

違う。呼ぶべき時だ。


「め・・苺愛・・?」


名を呼んだ後、耳鳴りが一瞬。


「っ・・?」


「うっ・・うあぁ・・まだ、駄目・・

まだ・・よ。違う、違うわ・・。まだ、見つかっていない。

嘘、嘘よ・・。」


「苺愛!」


「いやぁ!」


俺の手を払い、後退る。

拒絶・・


涙が零れる。

ただ、呼んだだけの名に・・胸が熱くなる。


記憶が、今までの記憶と重なり・・

失った段階にしたがって・・繋がっていく。


「苺愛・・見つけた。

逃がさない、間違わない・・。

お前は、どっちだ?

気を抜くなよ?苺愛・・

次は無い!逃がさないからな。容赦もしない・・。」


「くくっ。間違わない?

面白いことを言うのね。逢えると思っているの?

消えた人格を、無理やり呼び起こして・・。」


消えた・・?


「どこに消えている?

お前に、見え隠れするのは・・俺を愛している苺愛だ。自覚がないのか?

ふふっ、可愛い女だ。時間をやる・・。次は無いがな!

くくく・・勝つのは、俺だ。

苺愛・・愛しい、苺愛・・。愛している・・」


自分の目が、緑色に変わり欲情しているのが分かる。


「うるさいっ、うるさい!!私に、近づくな!」


部屋を飛び出した。


「追いかけなくてもいいのか?」と、バニラアイスを食べながら草樹は訊いた。


「あぁ。俺の分、当然あるよな?

で、何で隣に住んで・・同じクラスなんだよ?」


「ははっ。訊く順番、違うくねぇ?」


草樹の謎も、もうすぐ・・知ることになる。

そして、本当の・・呪いの解放者も・・


俺たちではないと・・。いや、解放の後・・

麗季に、待っているものが・・




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