誰だ?
「・・美衣・・?」
俺の熱くなった体が、凍ったように冷たく・・固まる。
「・・くくっ、あははは・・」
?!!
雰囲気が一気に変わる。
でも、美衣だ。
俺を押し退け、ベッドから立ち上がる。
乱れた服を気にせず、俺の方に向いた。
白い肌が露出しているのに、恥じないで立っている。
「お前は、誰だ・・・」
「はっ、つまんない・・。」
俺の知っている美衣・・。
「危ないとこだったわぁ~。
記憶を戻されたら、私が消えちゃうじゃないの。
采景、気分が変わったわ!またねぇ?」と、入り口へと向かう。
「・・おい!」
入り口には、鍵が・・
「開けて!いるんでしょ?」
入り口の、ドアの開く音が聞こえた。
誰かと話している・・?まさか、鍵って・・
美衣は、部屋を出て行き、誰かが入ってくる気配がする。
「・・草樹・・」
草樹の表情は、いつになく真剣で・・重い空気が、何も聞けない雰囲気にした。
ただ、黙って・・ベッドの端に腰を下ろす草樹。
俺は、重い口を開いた。
「あいつは、誰だ・・?」
「美衣だよ。
・・君は、誰を見つけた?
見つけて・・お願いだ。解放してくれ・・頼む。」
祈るように、涙を流す。
美衣の中に、俺の捜す・・アイツがいる
。一体、誰だ・・?
め・・?
朝。
「おは・・やぅ~~」
あくびをしながら、草樹はいつも通り。
「はよ。」
美衣は、どこで寝たのだろうか・・?
「朝食は、食堂のおばちゃんたちが準備してくれてる。
さ、着替えて!授業に遅れるぞ?」
「あぁ。」
クラスによっては、晩御飯を失敗して弁当を頼むところがあったとか。
で、最近・・朝食だけは、学校側が準備してくれる。
「はらへったぁ~~」
早く起きた奴から、学校の食堂へ向かう。
美衣は、列に並んでいた。
「もう、起きたらビックリ!美衣が、横に寝てんだもん。」
「ははっ、寝ぼけちゃった。
良かった、男のところじゃなくてぇ~」
雑魚寝に混じったのを知って・・安心する。
美衣は、俺と目が合って・・投げキッスをした。
いつも通り・・の、美衣だ。
「Aセット。ドレッシングは、ゴマね!」
美衣も、草樹も・・いつも通り。
『記憶を戻されたら、私が消えちゃう』
俺には、失った記憶がある・・?
『・・見つけて。解放してくれ・・』
誰を見つける?失った記憶の・・ダレ・・か?
解放・・?誰を?
草樹は、それ以上・・何も言わなかった。
美衣ではない・・誰かを捜して・・求める。
この、心に開いた隙間を求める。隠れている・・お前を狙って・・
必ず見つけてやる!
覚悟しておけ?俺に、こんな感情を持たせたのは・・オマエだ。
容赦しない・・
喰ってやる。骨の髄まで・・残さず、俺のモノだ。
【ズキッ・・ン】
「っつ・・」
激しい頭痛が襲う。
「何・・だ?」
倒れそうな俺を、草樹は支える。
遠退く意識・・遠ざかる声・・
『七匹目は・・犠牲・・
呪いは、消える・・だ・・ろう・・か・・?』
呪い・・?
『時間がない・・早く!速く!
・・お願い・・見つけて・・解放を望むモノが・・多いから・・。』
『お前は誰だ?』
『僕は、君の味方・・。ヒントをあげる。
君が捜すあの人は・・もう、近くにいる。でも、決して・・決して焦らないで・・。
間違った選択は、すべてを・・失う・・から。
お願い・・間違わないで・・
解放の希望・・七匹目の犠牲を・・捧げて・・』
「ん・・」
目が覚めたとき、寮の自分の部屋だった。
何だか、夢を見ていた・・。
『決して・・焦らないで』
近くに、いる・・
俺の捜す・・七匹目?
「あっ、目が覚めたんだ。
今ねぇ、何と!美衣が、料理作ってるんだ!」
美衣が、料理・・?
草樹は、また・・余計なことを。
ベッドから下り、頭を押さえる・・。痛みが少しあるようだ。
「・・和食の・・匂い?」
台所で、手際よく片付けに入っていた美衣は、ふんぞり返る。
「私、これでも料理は得意なの!皆、知ってることよ?」
草樹は、隣で・・うんうんと、うなずいている。
「で?俺、台所・・他人に触られるの、嫌い。」
ちなみに、掃除されるのも・・。
「うざっ!
あんたみたいな、男・・一生結婚できないわよ?」と、草樹がキモイ声で言う。
「・・・・。」
「こほっ・・」
外したことに、草樹は変な咳払いでごまかした。
コンロ周りや、水周りは満足なほど・・綺麗だ。
これが、美衣・・?
「美衣・・」
「何?」
美衣は、机に食事を整え振り返る。
・・違和感。
「何故、ここに来た?」
不思議だ。草樹は、何故・・美衣を?
美衣も、何故・・ついて来て、ここまでする?
「は?一食5千円出すって・・。嘘なの?!」
・・金・・か!!
「いただきまぁ~~す!」
嬉しそうなのは、草樹だけ・・。
味噌汁に、手を伸ばし・・一口。
ん?
「美衣、出汁からとったのか?」
しかも、匂いが高級感を物語る。
「おっ、判るね!お母さんの・・」
嬉しそうに目を輝かせ、口を開きかけ・・閉じる。
母親・・?
「何故、黙る?」
「言いたくない。」
「はぁ?言えよ!気持ち悪いだろ?」
「さっさと食べて!」
火花が散る中、草樹は「ごちそうさまぁ!」と。
「草樹!」
何か、整えられた場面に・・順序良く駒を進められているような・・
そんな気分になる。
「見て、珍しいイチゴを手に入れたんだ!」
「・・私、イチゴ・・嫌いなの。」
イチゴが嫌いなんて、珍しい気がする。
ニヤッ・・悪戯心が働いた。
一粒とって、後ろ向きの美衣に近づく。
【ポンッ】
肩を叩く・・
「な・・んぐっ」
振り返る美衣の口に、押し当てる。
赤い汁が床に落ちた。まるで、スローモーションのように・・
潰れたイチゴも、地面に・・落ちた。
「駄目・・よ。赦さない・・」
美衣の目が、緑色に光る・・。
緑色の・・目。
見つめる目に、ひとつの名が浮かぶ。
「ダメ!!」
口を手の甲で拭い、俺を睨む。
「・・呼ぶな。・・その名を・・
口にするな!」
草樹は黙って見ている。
『焦るな・・』
けど、これは・・
違う。呼ぶべき時だ。
「め・・苺愛・・?」
名を呼んだ後、耳鳴りが一瞬。
「っ・・?」
「うっ・・うあぁ・・まだ、駄目・・
まだ・・よ。違う、違うわ・・。まだ、見つかっていない。
嘘、嘘よ・・。」
「苺愛!」
「いやぁ!」
俺の手を払い、後退る。
拒絶・・
涙が零れる。
ただ、呼んだだけの名に・・胸が熱くなる。
記憶が、今までの記憶と重なり・・
失った段階にしたがって・・繋がっていく。
「苺愛・・見つけた。
逃がさない、間違わない・・。
お前は、どっちだ?
気を抜くなよ?苺愛・・
次は無い!逃がさないからな。容赦もしない・・。」
「くくっ。間違わない?
面白いことを言うのね。逢えると思っているの?
消えた人格を、無理やり呼び起こして・・。」
消えた・・?
「どこに消えている?
お前に、見え隠れするのは・・俺を愛している苺愛だ。自覚がないのか?
ふふっ、可愛い女だ。時間をやる・・。次は無いがな!
くくく・・勝つのは、俺だ。
苺愛・・愛しい、苺愛・・。愛している・・」
自分の目が、緑色に変わり欲情しているのが分かる。
「うるさいっ、うるさい!!私に、近づくな!」
部屋を飛び出した。
「追いかけなくてもいいのか?」と、バニラアイスを食べながら草樹は訊いた。
「あぁ。俺の分、当然あるよな?
で、何で隣に住んで・・同じクラスなんだよ?」
「ははっ。訊く順番、違うくねぇ?」
草樹の謎も、もうすぐ・・知ることになる。
そして、本当の・・呪いの解放者も・・
俺たちではないと・・。いや、解放の後・・
麗季に、待っているものが・・




