始まり?
首を傾げ、俺を誘うように目を細める。
「知りたいの?」
俺は黙っていた。
「ゲーム・・しましょ?」と、ニッコリ笑う。
「ゲーム・・だと?」
俺は、警戒しながら訊く。
「どんな?」
「ギリギリを試すの。
この体と匂いは、苺愛の本来のもの。人格が戻っても、苺愛に記憶はある。
つまり、今も意識の奥に苺愛は存在する。
手を出したあなたに、どう反応するのか・・」
「美衣・・。お前の目的は何だ?
俺は、過去を見た。呪いの始まりが、俺の思った通りなら・・
そのゲームは却下だ。苺愛に戻れ・・。」
「選んだと解釈するわ・・」
美衣?雰囲気が、苺愛に戻った?
匂いが消える。
「苺愛・・?」
「あなたが選んだ人格は、消える・・。これが最期・・。
私は、七匹目。あなたの心を、手に入れた。
一生・・あなたは・・独り・・」
苺愛は、意識が遠退き・・前に倒れこむ。
慌てて、受け止めた。
意識のない彼女を抱き上げ、俺の寮の部屋に運ぶ。
『最期』・・?
この、腕にいる女は・・俺の一生の相手ではない・・?
俺は、一生・・独りなのか?
心は、まだここにある・・。
呪いとは、一体何だ?
俺は、苺愛のことを・・何も知らない。
俺たちは、本当に・・一生の相手だったのか?
・・ 苺愛・・
寮。
苺愛を抱えたまま、ドアに鍵を挿す・・
「開いて・・あぁ、草樹か・・」
ドアを勢いよく開け、中に入る。
・・?
不思議な臭いと、草樹の匂い。
漢方だろうか?薬草の匂いが、複数に・・。
部屋に足を進めた。
中には座った草樹と、立ってお辞儀をする黒衣装の女。
「お帰りぃ。
さ、矢城さんをベッドに寝かせて。話があるんだ!」
事情を知っていたのか・・。
苺愛をベッドに寝かせる。
寝息が聞こえ、生きているのを実感しながら・・不安が襲う。
草樹の前に座り、立っている女に座るように促す。
「これが仕事なのか?」
草樹はうなずき、ニッコリ笑う。
何故か、それが俺を安心へと導く。
「あぁ、最初から・・この時のために近づいた。
気に入ったのは、本気だけどね・・。
呪いの解放を望む人は、多い・・から。」
呪いの解放を、俺や苺愛に望む人間・・。
苺愛は七匹目。
俺は、呪いの所為で・・苺愛に惹かれるのか?
「采景様。試練は、これからです・・。
苺愛は、美衣の中にいます。
記憶の一部も無く、呪いが一時解かれた状態で・・苺愛を捜してください。
探して、手に入れ・・心が通じたとき、初めて解放の時となる。
大上家に無かった想いを培って育てる事・・。」
俺の意識が遠退いていく。
苺愛の声が、俺を眠りに誘ったように・・『生と死の垣根』の声が、頭に響く。
『自然に出逢い、惹かれるだろうか?本当に出逢うべき相手なら・・。
でも、隠された・・七匹目を・・見つけるなら奇跡。出逢うべき相手・・
信じて・・苺愛・・あなたは、心を手に入れたことになる・・から・・』
「あぁ!今日のハンバーグ・・が・・」
朝。
目が覚め、起き上がる。珍しく、妙にすっきりしている。
ベッドから下り、ラフな格好で台所に立つ。
冷蔵庫から卵二つに、ベーコンを出しフライパンへ。
レタスとトマトを洗い、適当に切って盛り付ける。
トーストを焼きながら、簡単なスープを作る。
【ガチャッ】
いつものように、巧妙な業で入ってくる草樹。
「おは・・やぅ~~」
あくびをしながら・・
隣の部屋に入っているのに、いつも俺の部屋にメシを食べに来る。
しかも同じクラス・・だが、嫌な気がしない。
「ほら、コーヒー飲め!」
「サンキュ~」
何だ?
何か、違和感が漂う。
そわそわして、冷凍庫を開ける。
が、おかず用に調理された食材が、整然と並んでいる。
だよな・・?
「采景、遅刻するぞ~。」
幸せそうに、コーヒーを飲みながらの草樹。
いつものように、二人で学校へ。
「おはよぅ!采景くん、草樹くん!!」
「おはよぅ。」
愛想のいい草樹は、返事を返す。俺は、いつものように素通りする。
そんな俺に、いつもの光景が目に入る。
「美衣ちゃ~ん。今日も、可愛いねぇ・・。俺と付き合ってよぉ?」
「いや、俺と今日・・映画行こうぜぇ?」
「ふふっ。いいわよぉ?」
遊んでいる女、矢城 美衣。遊んでいる俺が言うのもおかしいが・・。
何故か、美衣を見ていると腹が立つ。
「采景、何見てるんだ?
あぁ、美衣ちゃんね・・。気になるの?」
「はっ、俺が?馬鹿バカしい・・。」
俺は、足を速めて教室に向かう。
その隣についてくる草樹は、囁いた。
「彼女・・体も、心も許していないって・・」
気分が軽くなるのを不思議に感じながら・・
「どうだか・・」
授業は、滞りなく進んでいく。
窓際の後ろの席・・。外はいい天気。
運動場で、体育の授業が行われている。平和だ・・。
そういえば、もうすぐ校内研修・・。
この学園の整った合宿設備で一泊し、親睦を深める目的で行われる学年恒例の行事。
寮より離れた所に立っているので、少し面倒臭い・・。
授業は通常通りで、そこに泊まって食事やレクを楽しむだけの事。
休み時間。
俺は机に腕を乗せ、頭を横にする。
「ね、采景・・。
くじで、雑魚寝じゃない部屋が当たるってさ!」と、草樹の声。
体勢をそのままにして、目を開ける。
丁度いい目線に、即席で用意したのか・・お菓子の箱。そこに、くじが入っている。
「面倒臭い・・」
また目を閉じ、身動きをしなかった。
「じゃ、俺が変わりに引くね~?」
遠退く声・・が・・
目が覚めた時は、授業が自習で、みんな研修のレクの話で盛り上がっていた。
うるせぇ・・
「ふぁ・・」
伸びをする。
「はい、采景に決まり!」と。
・・・・?
みんなの視線が集まる。
「はぁ?」
黒板に、調理担当・・と。
その横には、美衣の名前?
「お前、料理出来んのかよ?」
右後ろの席を見る。
「ふぅ。だから、無関心なんて言われるのよ。」と、ため息。
ムカッ・・可愛くねぇ!!
料理は、当然カレーだよな?
「?!!??」
通常、こういう時って・・カレー・・だよな??
黒板には、和食と書いてある。
ご飯・味噌汁(豆腐)・焼き魚・茶碗蒸し・出汁巻き卵・・と、次々書き込んでいる草樹。
「草樹!!
おまっ・・ちょっ、待て!こらっ!!」
ニッコリ、俺の方に向きながら
「嫌なら、俺の納得するのを考えて!」
放課後。
「なぁ、カレーで良いだろ?」
「カレーだけは、却下って言ってたわよぉ?」
何故か、美衣と二人で打合せ。
美衣は、髪の枝毛を探しながら・・俺の前に足を組んで、座っている。
短いスカートで、太ももの白い部分が目に入る。
「ハヤシにすれば・・って、ねぇ?どこを見てるのぉ?」
上目で見てくる美衣に「太ももだけど?おいしそうだよな。」と。
ふっ、と・・余裕の笑み。
「舐めてみる?」
「はっ、毒でも盛ってそうだ。遠慮しとく・・」
草樹の言葉を思い出す。
『体を許さない・・』
ふぅん・・おもしれぇ。
イスから立ち、美衣の前に行って
「いや、死んでみるのも面白れぇか」と、太ももに手を滑らす。
【ビクッ】
「ぁ・・」
俺の手に反応し、漏れる声に興奮する。
「ちょっ、冗談よね?」
両手で阻まれる。
その両手を、片手で押さえつけ・・舌を白い脚に這わせる。
「やっ・・~~」
もう片方の手は、上着に滑らす。
「やめ・・て!」
涙声が意外だったのか、心に罪悪感・・??
苦しい・・えぐられるような痛み・・
「ちっ・・不味い女!」
苛立ちが募る。
なのに、美衣の顔が見れない・・。
こんなこと思ったことがない。
感じたことも・・。
美衣を解放した。
「帰る!!」
バタバタと、音を立てながら美衣は走っていく。
遠退く足音を、その場に座り込みながら・・聞いた。
「俺・・?」
静かな教室。
自分が信じられない・・。
気持ちに、名前を付けることが出来なくて・・
嫉妬・・いや、全然違う。罪悪感・・?嫌われたくない・・?
まさか!何故、俺が・・美衣に?
痛くも、かゆくも・・ない・・はずだ。
避けられる・・だろうか・・




