『生と死の垣根』?
あるところに、ヤギの親子が住んでいました。
母親ヤギが、子ヤギ7匹に言いました。
「用事で出かけるから、狼に気をつけなさい。
声はがらがらで、足が黒いからすぐに分かりますよ。
絶対に、鍵を開けてはいけませんよ!」
狼はチョークで声が滑らかに・・小麦粉で足が真っ白に・・
で、家に侵入して6匹を食べ・・おなかが一杯に。
母親が戻ってきて・・
「はっ・・バカバカしい。
俺が、その狼?俺が食べたいのは、七匹目だ!他はいらない。
分かった・・ヤギを探して、どんな手を使っても手に入れろってことだな?」
物語にこだわり、話を進めてみる。
「結論は、母親に殺されるかもってことかな?」
なんて言いながら・・
草樹は3つ目のアイスに手を付け、幸せそうな顔。
「おい、食いすぎだろ?」
朝。
「おい、学校遅れるぞ?」
結局、草樹はあのまま泊まった。
ゴミ箱に、アイスの箱が山盛り。
「ふぁああ~~。
やっぱり、6つはきついわ。狼の気持ち分かるよ~。」
まだ、あの話か・・。
「そうだな・・一匹目はおいしく感じた。こんな味なんだろうと・・。
でも、二匹目からはそんなにおいしくなかった。
いや、味は一緒・・。本当は気が付いていた。
6匹目まで、意地があっただけ。吐き気がするまで食った・・。
もう要らないと・・思っていた。だから、気が付かなかったんだ・・七匹目に。
一度失敗して、死ぬほどの想い・・七匹目を・・それでも狙う。」
草樹は、優しい目で俺を見る。
「草樹・・。遅刻するぞ?」と、時計を見せた。
「うわぁ!!ちょ、何で、もっと早く!!わぁ~~~」
騒々しい朝。
時計に隠れた・・ヤギ。違う話だろうか・・?
数を数える狼に、時計の針を動かして・・
【ボーン・ボーン・・】
数が分からなくなって、助かった動物が・・。
知恵比べか?
面白い!絶対に手に入れる。
覚悟しておけ・・ヤギ、容赦しないから。
「先に出るぞ!また、遊びに来るから!」
太西は、遠い・・。
ここは結南、学校の裏にある寮。ヤギは女子寮だ。
【キーン・・】
いきなりの耳鳴り。何だ・・この・・感じ。
はぁ・・
体が・・熱い・・
『かぐや・・赦さない・・
呪いの解放・・
私を、どうして選ばない?大上家の心・・が、欲しい。
手に入れろ・・。
求めればいい・・』
いくつもの女の声が頭に響く。
『かぐや姫』・・?
呪いの解放・・だと・・?
気持ちが悪い。
俺は・・
血の気が引いて、床に倒れこんだ・・
気がついたとき、車の中だった。
「気がつかれましたか。本家の命令です・・」
一つの呪いの解放の時。
俺に直接関係するなんて・・。
いつからが始まりだった?俺たちは、出逢うべきではなかったのか?
まだ知らない・・大上家の、隠された伝承。
苺愛・・
愛しい。俺の、一生の相手。
お前は望んでこなかったのか?
君は抗う・・
『犠牲には、ならない』と。
家の二階から、嗅いだことのない匂いに・・
我を忘れそうになる。
「麗季、これが『かぐや姫』か?」
「えぇ。さっき、保兄が・・
采兄、いつ契約したの?」
俺の緑色に変わった目に、麗季が問う。
「昨日だ。」
麗季や俺・・父さんまで、感情のコントロールが難しくなる。
契約を交わしたからなのか・・?
未契約の円華姉は、匂いに心地よくなっている程度。
匂いが落ち着き、階段を下りる音・・。
俺たちは通常に戻り、保兄の近くに集まる。
「まだ、期限が来ていないから」
保兄の照れた表情を初めて見た。
「へぇ。オメデトウ。じゃ、俺・・寮に戻るから。」
と、嫉妬心を含む・・冷たい言い方になる。
「やだ、采兄。触発されちゃったんだ。襲いに行っちゃダメよ?」と、一番早い契約済みの麗季。
「・・お前だろ。」
「うん?ふふっ。その会議でしょ?」
小学6年生の台詞ではない。
行き先が決まったが、泣きそうな円華姉。一番年上なのに・・。
「「「あいつは気にしないだろ?」」」
父さんと俺と麗季の声が重なる。
「解散!!」
目を逸らす父。
俺は寮には帰らず、ヤギのいる女子寮に向かう。
『かぐや姫』の匂いに触発された。
鍵は、草樹の講義の通りにすると簡単に開いた。
匂いが告げる。ここが、ヤギの部屋。
隠れる余裕なんてない。警戒心なく、くつろいでいるヤギ・・。
ご馳走は、目の前に!
そっと、気配を消し・・近づいたつもり。
「何しに来たの?」
後ろ向きのヤギが、冷静に振り返る。
面白くない・・。
「なぁ、お前・・何者なの?」
獲物のヤギが落ち着いているのは、腹立たしい。
「教えたら、係わらないでくれる?」
俺は、にっこり笑う。
「あぁ、約束する。」
もちろん嘘で、それに騙される彼女ではない。
「呪いの源よ!
帰って、でないと・・呪うわ。『生と死の垣根』魔女の家系なの。
あなたの感情は、呪いに反応しただけ・・。
私を本当に愛しているわけではない。」
それで、『犠牲には、ならない』か。
「それで話は終わり?
そっ。じゃ、俺のこと・・好きって言えよ・・」
「言えばいいの?」
素っ気ない返事で距離をとる。
甘い匂いに酔う・・頭がおかしくなりそうだ。
「お前が、欲しい・・。」
後退る彼女に、ゆっくりと近づく。
「体だけならあげる・・
でも、心は駄目。」
その言葉で、欲するものに気付く。
「ふざけんな!
渡せ、お前の心・・すべて、俺によこせ!!」
こんなに感情的になったことがあるだろうか?
狂いそうだ・・
綺麗に片付けられた可愛い部屋。
ベッドに押し倒す。
「や・・駄目・・」
体はあげると言ったのに・・
抵抗されると、欲情する。
「はぁ・・。
前にも、心は駄目って?・・良いよ。とりあえず、体だけ頂戴。
ね?俺を感じてくれたらいい。」
抵抗する両手を、その辺のリボンで縛る。
「いやっ!待って。駄目、お願い!!」
涙目でお願いなんて、煽っているのか?
「何を願う?
聞いてやるよ・・叶うかは、分からないけどね・・。」
ヤギの匂いが増し、俺の理性なんて残っていない。
欲しい・・足りない・・
手に入れろ!
はぁ・・
体が熱い・・俺は、上着を脱いだ。
その様子に、ヤギの顔が青くなる。
無理やりして、心は手に入るだろうか?
逃がさなければいい・・。
俺だけを感じて欲しい。
「・・苺愛・・愛している・・」
初めて呼んだ名・・
俺の心を・・それだけで幸せが満たす。
「呼んで・・お願い・・これを解くから・・」
苺愛は、縛られた両手を俺に近づける。
それを、解く・・。
苺愛は、手をついて起き上がり・・俺の頬に両手で触れた。
「あなたは、私の心をどうする?
もし、呪いが解かれた・・んっ」
我慢できず、唇に吸い付いた。
拒絶はない。
どこか、確信があった・・。
唇を強く押し付ける。
苺愛の息が切れ・・開いた口に舌を入れる。
「むっ・・んんんっ・・ヤ!
はっ・・んんっ」
甘い・・柔らかい・・
すべてを手に入れたい。
俺の・・苺愛。
「呼んで・・名前。
・・采景・・って・・」
「ん・・采・・きょ・・はぁ・・采景・・」
服に手を入れ、胸に触れる。
【ビクッ】
・・俺に反応する苺愛の体が、熱い・・。
服のボタンを外す。
【携帯のコール音】
円華姉?
すぐに出る。
「はぁ・・は。・・何?」
息の切れたまま。
下にいる苺愛が、色っぽい姿に、涙目で俺を見上げる。
つい・・苺愛の胸を揉んだ。
「ヤッ・・ん」
可愛い声が漏れる。
それが円華姉に聞こえたのか『采景。そんな時は、電話に出るな!!
いい?緊急なんだけど、朝でいいわ!諷汰の会社に来なさい。』と、電話が切れた。
続きのため、携帯をベッドの端に投げる。
「苺愛・・?」
さっきまで、俺を受け入れていた瞳が・・厳しい眼に変わる。
「気は済んだ?
さ、退いて!時が来たの・・。」
状況がつかめず、呆然とする俺を押し退ける。
ベッドから立ちあがり、服を整えた。
そして【ふぅ】と、大きく息を吐く。
「私の声を聴いて・・。
眠って。明日の朝は、早いから。」
心地いい声・・
朝。
「采景・・大上家に、私も行くわ。
その前に、話しておくべきことがあるの。」
寝ぼけた俺に、コーヒーを入れながら苺愛は言った。
夢?
「ね、聴いてる・・んっ」
真剣な表情に、欲情してしまった。
「んんん~~」
硬く閉ざされた唇に、舌を這わせる。
「いっ」
色ボケした俺の舌を、苺愛が噛んだ。
「今度、ふざけたら噛み切るわよ?」
「いいよ。苺愛なら・・」
本気だ。
苺愛に殺されるなら、それでいい・・。
苺愛は、何故か泣きそうな顔になる。
視線を逸らして、話し出す。
「私は、大上家の呪いの源。
伝承から隠された魔女の家系・・。今『かぐや姫』を狙っているのも、その一人。
あなたたちの家系で呪いを受け継いできたのと同様・・
私たちも、掛けた呪いに悩まされている。
私は、解放の為の犠牲・・七匹目。」




