七匹目?
大上家・・第三子。次男。大上 采景
私立結南学園 中等部二年生。
俺は、孤独が好き。一人で生きていく。
呪い?一生に一人の相手?バカバカしい・・。
唇にキス・・契約の始まり。それさえ気をつければ、女と遊ぶことも出来る。
所詮、おおかみ・・獣だ。
残念なことに、顔の基準が分からない。
ただ、狙うのは・・噂。
綺麗な子・可愛い子・胸が大きい子・優しい子・・後、何だったか。
男が噂する女の名前・・そいつが告白してきたら、つまみ食い。
いつからか・・?
想像に任せる・・。覚えていないから。
顔なんか覚えていない。どこまで食ったか、覚えていないな・・面白くないし。
本能的なモノ・・感情なんか関係ない。
くだらない・・飽きてきた。
最近、イライラする。
同じクラスの、矢城 苺愛。
こいつだけは、顔の認識が出来る。しかも、甘い・・匂いが強い。
誰も、気が付かないのか?
「大上君、今日提出の・・」
不意に近づかれ、突き飛ばす。
「寄るな。お前、臭いんだよ!」と。
床に座り込んだヤギは、自分の腕を鼻に持っていく。
「臭い??」
クラスの奴らが、寄ってくる。
「臭くないよ!」
「よな!」
ある男が、ヤギの手を取り・・立ち上がるのを手伝った。
イラッ!!
「はっ、くだらない・・。」
俺は、寮に足を向けた。
家は近いが、一人が楽で・・距離の入居制限のない寮に入るため、この学園を選んだ。
家族は父・母・子供四人・・姉、兄、俺、妹。
家族が嫌いなわけじゃない。月一回の帰宅も、嫌ではないし・・面倒臭いと思ったこともない。
ただ・・
何かが、俺を・・呼んだ。
「大上君!レポート!!」
叫ぶヤギの声。
こいつでは、決してない!!
立ち止まり、振り返る・・。
「レポートはメールで、昨日・・提出済みだ!」
「そうなんだ・・」
急に匂いが増す。
俺の思考を乱し、何かが俺に言う。
『必ず見つける。一生に一人の、対なる者。
手に入れろ。どんな手を使っても。』
こいつが・・?
「大上君?・・む」
俺は、無意識だった。
ヤギの唇に・・
唇を重ねた。キス・・契約の開始。
今までにない幸福感。
分かる・・俺の、一生の・・相手。
「はぁ・・」
彼女は、冷静に言う。
「私は、七匹目。逃げ切ってやる・・」と。
今の・・現状が、現実なのか夢なのか?
のどが渇いたように、何かを求める。欲しい・・もっと・・
手に入れたい。これが、初めての欲情・・。
はぁ・・
息が苦しい・・。
七匹目・・?何のことだ?
逃がさない、絶対に手に入れる。
「大上くん、大丈夫?手、貸そうか?」
香水の嫌な臭いに、嫌気がする。
「触るな。」
判る・・
ヤギの匂い。甘く、俺を誘う匂い。
匂いを辿り、俺は七匹目のヤギを狙う・・おおかみ。
どんなことをしても、手に入れてやる。
「大上、目が・・緑色だぞ?!」
契約の証・・緑色の目。
一生の相手の心を手に入れる力。
頼るつもりもなかったが、試してみたくなった。
教室に戻る途中のヤギを抱きかかえる。
ヤギは、一瞬静かで・・状況がつかめたのか抵抗する。
「降ろして!降ろしてよ!!」
使用されていない教室に入り、ヤギを降ろす。
地に足をつけた途端、ヤギは俺を睨む。
「私に係わらないで!」
ヤギの態度にイライラする。
少子化で、使用されなくなった教室に・・机が普通に並んでいる。
その机に押し倒す。
「なぁ、知ってるよな?大上家の呪い・・。
その俺とキスをした。お前は、逃げる・・?ふっ、逃がさない。」
湧き上がる欲情。
この緑色の目は・・心を惑わすと言う。
「無駄よ・・。」
俺に押さえつけられ、見つめる目を逸らさず・・
ヤギはそう言った。
「知らないのね?」
緑色の目が、どうやら利かないみたいだ。
「知らないな。
でも、別にかまわない。ヤギ・・お前を、必ず喰う。
言い残すことはないか?」
「先に言っとく。心はあげない・・」
俺は、その言葉を遮るようにキスをした。
言っている意味が分からなかった・・。
後で知る・・
手に入れたいのが・・心だと。
でも、今は・・重ねる唇だけで幸せが包み、満たされた。
「はぁ・・」
息が切れ、全身がヤギを感じているのがわかる。
夢中でキスをした。
「ん・・やっ・・」
抵抗しようとするヤギに、自分の邪魔をされているように感じ・・苛立つ。
「はぁ・・はっ・・
ヤギ・・体は、いいんだろ?・・はぁ・・大人しくしてろよ。」
押さえつけていた手に力が入る。
「痛い!・・離して・・」
匂いが薄れ、幸福感が失われる。
「ちっ」
初めてのことに、イライラする。
上手くいかない。
ヤギの手を離し、距離を取って背を向けた。
「はぁ・・。」
一気に冷静になる。
今までみたいに、冷めたわけではない・・。
解らない感情が、俺を制御しようとする。
ヤギは起き上がり、机の上から降りた・・
音や気配で分かる。
「大上家の呪いを・・。」
ヤギの小さな声が途切れたので、思わず振り返る。
「何だ?
言いたいこと、言えよ!お前は、何だ?
はっ。まさか、呪いに関係しているとか言わないよな?」
軽い言葉だった。
「犠牲には、ならない・・」
悲しそうなヤギは、そう言い残して教室を出た。
立ち尽し、時間が・・どんどん静かに流れていく。
知らなかった呪いの元凶・・その家系。
『生と死の垣根』・・魔女。
俺は、一生の相手として君を選んだ。
七匹目・・
何のことだ?
「珍しいな、机にむかって勉強か?・・どうかした?」
眉間にしわをよせたまま、振り返る。
ここは、寮の俺の一人部屋。
「鍵、増やしたつもりなんだけど?」
「あぁ。ちょっと時間が掛かった!どこで手に入れたの?」
と、泥棒のようなテクニックを持った松木 草樹。
何故か気に入られ、やって来る無関係な男。
「何度も言う。ここは、結南の寮!
お前は、太西学園だろ?友達になった覚えもないぞ!
それに、お前の双子の連歌?
妹の友達に付きまとうなんて、迷惑な・・って、何勝手に冷蔵庫開けて!」
自分の部屋のように、くつろぐ。
本当は、悪い気がしない。
「あっ、アイス食って・・ひひ?」と、口に入れながら訊いた。
「食うな。戻せ・・」
「へぇ~~。
食い放題が祟ったんじゃないの?6匹食った奴は、嫌いだとか?
自分が7匹目になりたくないとか?」
あっけなく草樹に相談した、その答え。
「食った数なんか覚えてないし・・。どこまで食ったか。
はぁ・・面倒くせっ。」
俺もアイスを口に入れ、和む。
「で、一生の相手はどうだ?」
草樹は、ニヤリと笑う。
「あぁ、感じる。欲情が止まらない。」
「ぶっ・・」
口に含んで溶けたバニラアイスが、床に転々と。
「汚いな。雑巾は、トイレの前だ!」
草樹は、急いで雑巾を取ってきて・・拭きながら
「はっきり言うんだな・・。聴いてる俺が恥ずかしい。
お前、初恋かぁ・・相手の気持ち、少しは考えてやれよ?」と。
「それは、次のある奴が言うんだ。
俺には、一人・・代わりはいない。どんな手を使っても・・」
そう・・だから、緑色の目がある。
全く手に入れることが出来なければ、大上家は消えていただろう。
一生の相手を見つけに、旅に出る・・昔だけではない。
見つけても、喪うこともある・・。
「で、緑色の目が効かないのは、どうしてなんだ~?」
拭き終わった雑巾を洗いながら、遠くから訊いた。
呪いの関係者?
伝承は『かぐや姫』が、16で効かなくなる?
あいつは、俺と同じ中二・・13か14。
「で?どうして、効かない?」
次のアイスを食べながら戻ってきた草樹は、黙っていた俺の前に座る。
「さぁ?呪いの関係者・・かも?」
ヤギは言っていた『犠牲にならない』・・と。
「狼と七匹のヤギ・・か。懐かしい話だな。」
草樹は、雑誌に手を出し・・読みながらアイスを食べる。
「何だ?それ・・」
【ポトッ】




