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⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ2】おおかみ女と一匹の子狼

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求めるモノ

円華Side



 私は、記憶の中を漂っていた。

遠い・・遠い、菜乃さんの記憶。呪いが、私に語る・・。


『呪いを、解放せよ・・』と。


千弐さんは、禁忌を犯し・・その後、どうなったのだろうか?

村は、飢きんから救われた。菜乃さんの記憶を、マキさんが消した。

でも、菜乃さんのお腹には・・彼の子供がいた。

記憶は・・消えるはずがない。

悲しみが、辛い・・


呪いが語る。


『千弐は、マキを愛することはなかった。たった数日・・

自ら科した呪い・・彼の成長と、記憶が後退した。誰にも、止めることは出来なかった。

彼は、子供の姿も見ず・・愛するはずだった者達への感情を、失った。

菜乃は、手に入れる・・彼の心を。必ず、返すと・・呪いのように刻んだ。

マキは、呪う・・自分の家系の者に・・願いを託し。』




「ん・・」


目が覚め、起き上がる。


「おはよう。」


・・?


「よ・・嘉野・・先輩?」


寝ぼけている?

見覚えの無い、狭い部屋。

ベッドの上に、私。端に、座り・・私の方を向いている嘉野先輩。

狭い通路に、小さい窓と・・出口のドア。

ここ・・ホテル??


慌てて、自分の服を見る。

・・?私の服ではない・・が、服は着ている。

諷汰の用意した服??記憶が曖昧・・


前に捕まった、歌毬夜が幼いときに育った場所ではない。

・・?消えかけた歌毬夜の匂いに、保志の匂いまでする。


「円華ちゃん?」


嘉野先輩から、また・・あの匂いがする。


「嘉野先輩・・?」


前にも感じた・・覚えがある・・と。

でも、この人じゃ・・ない。


はぁ・・。

息が苦しい。何故だ・・


「知りたい?どうして、相手ではないのに・・匂いがするのか?」


意識が、思考が鈍る。

そんな中、嘉野先輩の雰囲気が変わる。そして、匂いが増す。


はぁ・・はっ・・

苦しい。息が切れる。


「何・・どうし・・て?」


嘉野先輩は、私の両手を押さえる。


「・・ん。」


契約した相手以外に触れられ、体が反応した・・?


「くすくすっ・・

抑えるの、苦労したんだ。この時を待っていた。」


ベッドの上・・

嫌だ!諷汰じゃなきゃ!!


「ははっ。解ってる?

心が、彼を求めれば・・君の匂いが増す。欲求がそれに比例するんだ。

さ、もっと・・彼を求めて・・。意識が、俺を忘れるぐらい。」


やっと判った。


「あなた、『生と死の垣根』ね・・?

この匂いは、何・・?待って・・魔女の家系は・・大上家の心を・・?」


「当たり。でも、そんなこと考えなくて良いよ。

求めて、俺を・・ね?」


考えろ・・。意識を保つんだ!

大上家の男の心を、手に入れたい魔女の女たち。

でも、大上家の心が手に入るなら・・。

魔女の家系の男たちは、大上家の女でも・・良い?


「ふふっ、すごい汗・・。

大丈夫・・?くすくす・・くくっ」


「こんなことをしても、心は・・手に入らない。

私の心は、諷汰にある・・。匂いが・・違う・・違う、あなたじゃ・・んっ」


諷汰ではない人の唇。

判る・・感じない・・この人は、私の相手ではない。

唇を硬く閉ざし、彼を受け入れない。


匂いが強くなり、彼が私を求めているのが分かる。

でも、惑わされない。


そうか、私は・・呪いで諷汰を好きになった訳じゃない。

必ず、幸せになるための・・呪いの解放の道。

出逢うべき相手・・。


【キーン】


耳鳴りと、同時。記憶が戻る。


嘉野先輩の匂いが完全に消え、欲求が治まる。

冷静になった私に、嘉野先輩の目から涙が降ってくる。


「記憶・・戻ったんだ?

どうして、手に入らない・・」


起き上がり、彼の頬に触れる。

一体、私たちの呪いは・・どうしてこんなことになるのだろう?


「ごめんなさい。」


彼が悪いわけではない・・。

万樹も、求めるものは・・ただ、愛されたい気持ち・・。


匂いがする。

一切感じ取ることの出来なかった、諷汰の匂い。

涙が溢れる・・


「諷太が、近くにいる・・?」


嘉野先輩はうなずき、出口を開けてくれる。


「行って・・。

俺は、本当に・・君が好きだった・・」


「ありがとう・・」


私は、諷汰の匂いを辿り走った。


「円華!」


遠くで、私の姿を見つけた諷太が呼んだ。

愛しさに、心が熱くなる。


「諷汰ぁ~!!」


細い通路。私は、諷汰に飛びついた。

諷太は、強く抱きしめてくれる。これが、現実だと・・分かるように。


「諷汰・・記憶が戻ったよ!」


嬉しそうに笑う諷汰が、私を見つめる。

その瞳に映るのは・・私だけ。

諷汰の目が閉じ気味になり、唇が近づく。

目をそっと閉じ、諷汰を受け入れた。


【チュッ】


軽いキスの後、強く押し付けられ・・気持ちが高揚する。


「ぐっ・・?」


諷汰の成長・・大きさは、変わらないが・・

雰囲気が、以前より大人っぽい。いや、色気が増した!?

動機が激しくなってしまう。


「円華、どうして緊張してるの?」


【ドキッ】


記憶を無くしていた時のことが、記憶に思い起こされる。


「そ・・れは・・。

そんなことより、万樹は?」


諷汰は、私を見つめたまま無言。


「・・・・。」


沈黙が重い。


「ここから、出ましょう・・ね?」


少し、不機嫌な諷汰の手を取って引っ張った。


「円華、そっち・・円華が来たほうだよ?

出口は、こっち・・。」


明らかに、拗ねた表情。


「はい・・。」


大人しく、諷汰の後ろについて走る。


大きな部屋に出る。

私たちは、匂いで分かっていた。


「万樹・・。」


黒服の大人・・

20人ぐらいが武装し、万樹の後ろで待機している。

保志の言っていたことを思い出す。ここから出るには、力が足りない。

そして、きっと・・私が足手まとい。


「万樹、いい加減にしろ!

何故、過去にこだわる?大上家の人間の心・・お前が欲しいのは、それじゃない。

判っているんだろ?」


そう、万樹が望むのは・・自分を心から愛してくれる人。


「呪いなの・・。

マキは、手に入れたつもりだった。でも・・」


明かされるマキの心。


「マキの先祖が愛した男・・。惹かれるのは必然だった。

自分の家系の呪いが、マキの想いを・・決して叶わないものにした。

禁忌・・。

自分の目の前で、手に入らない・・大切な、愛した男が・・消えた。

一生の相手に・・心を残して。

欲しい・・手に入れたい・・。この想いが解るか?

16で・・結婚し、呪いの所為だと・・諦めた。」


万樹は泣き崩れる。

呪い・・緑の目の元凶は、大上家の者を愛した『生と死の垣根』。

伝承に残っていない・・真実は、まだ闇の中。


「苺愛・・大上家の一生の相手として、目覚めた。

・・何故、今・・?私は・・うぅ・・」


「私では、駄目なのかな?」


優しい大人の声が、響く。


「・・あな・・た・・?」


紳士なおじさん・・どこかで遭った?

匂いが・・近い?


「お母様・・。

父様は、あなたを選んだのよ?どうして、信じないの?」


歌毬夜と保志が、おじさんの後ろから歩いてくる。

歌毬夜のお父さん??


「万樹、君のわがまま・・すべて、君の悲しみだと知っていた。

娘を犠牲にしても、お前を愛するほどだった・・。

万樹、俺が幸せにする。俺の心は、万樹だけを愛している。

手を、取って・・選んで欲しい・・」




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