『生と死の垣根』
朝。
私の携帯が鳴る。
「はい。
え・・?もう、諷汰の会社に?・・何、どういうこと??」
電話の相手は、采景。
諷汰の会社に、采景とその彼女・・保志と歌毬夜が来ていると。
何が起きているのか・・
昨日の電話の事?でも、采景の彼女まで・・?
私は、急いで準備をして諷汰の家を出た。
通路わきに、諷汰の会社の人が待機している。
呪いに関係したこと・・?
諷汰の会社の会議室。
ドアを開けると、緊張した空気。
「円華、ここに座って。」
用意された席に着く。
隣に、見たことのない女の子。
「はじめまして、矢城 苺愛です。」
・・眼鏡を掛け、地味な雰囲気を作っている。が、綺麗な・・子。
采景の・・一生の相手。何故、この子まで・・?
「円華姉、こいつ・・魔女だよ。」
・・?
魔女・・??
采景は、説明をしてくれる。
「今日は、苺愛の家系の話。
本家の伝承で、隠されていた部分なんだ。
俺が知ったのは、苺愛と契約した後だった。
『かぐや姫』の呪いが加わって、減った・・元々の呪い。
緑の目の契約・・は、魔女の呪い。
歌毬夜さんは、伝承と同じような環境で育った。
今回、それを楽しんで・・呪いの解放を阻止しようとした魔女がいたんだよ。」
呪いをかけた魔女・・?
話についていけない。
「とにかく、大上家の呪いは一つ解けたんだけど・・。
『かぐや姫』にも、呪いがあって・・。」
保志は、口を閉ざす。
「16まで、生きられないかもしれないの・・。」
ずっと黙っていた歌毬夜が、口を開く。
伝承の一部に、緑色の目の力が効かない年齢は16と・・。
「魔女の家系の彼女に、意見を聴こうと思ってね・・。」
諷汰は、この段取りに動いていたんだ。
私のいない間に、ほとんどの話が終わっていた。
「円華。歌毬夜と、行ってほしい所がある。」
諷汰から、地図を受け取った。
「車を外に待たせている。今すぐ行ってくれ!
必要なものは、後で何とかするから・・。」
私は、歌毬夜を連れ・・黙って移動した。
車の中、歌毬夜から・・詳しいことを聞けばいい。
魔女・・。
『生と死の垣根』
大上家の、隠された伝承。本家の諷汰も知らないことだった。
呪い・・どうして始まったのか。
すべての呪いの解放の鍵を握るのは、彼女・・苺愛か?それとも、歌毬夜の継母か?
歌毬夜を護り、情報を集めるんだ。
保志は、歌毬夜を失えば・・一生・・独り。
私は、耐えられるだろうか?
契約して、身を切るような想いを知った。
大上家の呪い。一生の相手以外には、何も感じない。
私は、諷汰を選んだ。
今まで、諷汰に出逢うまで・・誰にも心が動かなかった。
周りが、恋をしていても・・何も思わなかった。
諷汰の心は、呪いで・・すべての感情がなかった。
麗季は、小等部6年・・12歳。一生の相手は、高校生・・。
でも、年齢に関係なく・・契約すれば、一生に一人を愛し続ける。
「歌毬夜、詳しい話を・・?」
隣に座っていた歌毬夜の顔色が、とても悪い。
「この道・・。」
行き先が違うことに気が付いたのは、その時だった。
油断していた・・。
運転手は操作して、後ろの座席を隔てる。
閉じ込められた空間に、何かが流れ込む・・。
私たちは、気を失った。
・・諷汰・・ごめんね・・。
まさか、大上家の本家に・・紛れ込むなんて・・。
意識を取り戻したのは、数時間後。
心配そうに見つめている歌毬夜は、涙をずっと流していた様子・・。
「ごめんなさい・・。」
私たちは、小さな部屋に閉じ込められているが・・
縛られているわけではない。
「大丈夫。
諷汰や、保志が助けに来るわ。泣かないで?」
歌毬夜を慰めながら、部屋を冷静に分析する。
小さな窓が一つある。
逃げられるだろうか・・?
「ここの道に、覚えがあるの?」
【ビクッ】
歌毬夜は、体を硬くし・・青ざめる。
「ここは、私が小さい時・・閉じ込められて育った場所です。
病弱な母が亡くなったすぐ・・。私が5歳でした。
父が、16歳の・・今のお母様と再婚した時に、ここでの生活が始まりました。
それから、11年間・・高校に入学するまで。
数えるほどしか、外に出たことはありません。」
伝承の『かぐや姫』と・・同じような環境。
それを楽しんだ・・魔女。
今、彼女は・・27歳。何故、歌毬夜に固執するのか。
伝承に隠された部分に、一体何が?
「実は、昨日・・。私の携帯に、お母様から連絡が入りました。
大上家の呪いの一つが解放されたと同時に、私の呪いが始まったと・・。
誕生日までに、呪いを解かないと・・命は途絶える・・と。」
私たちの目的地は、その呪いを解くためだったのか。
「歌毬夜。
目的地に着いたら、すぐに呪いは解けるの?」
歌毬夜は首を振り、涙を落とす。
「分かりません・・。誕生日までには、日があります。
すぐに解けるから、お母様はこんなことをするんだと・・。
もし間に合わないなら、私の苦しむ姿を見て楽しまれますから・・。」
私は、歌毬夜を抱きしめた。
大上家の呪い・・緑色の目の契約は、魔女の呪いだった。
一生に一人の相手・・失ったら、一生に独り。
大上家の過去・・
魔女を愛した者がいたのか。魔女に愛されたのか。
この呪いも、いつか解かれるのだとしたら・・
その役目は、采景にあるのかもしれない。
私たちは、呪いを解くために存在するんじゃない。
出逢った相手は、本当に・・相手なのだろうか?
「円華さん。逃げるチャンスがあれば、私を置いて行ってください。
私は、ここから・・出るべきではなかった。
父に願った・・最後のお願いだった。
命に関係なく・・外にいられるのは、誕生日までの約束だった。
父は、知っていたんです。
お母様が、父を・・愛していないと。でも、心奪われて・・。
私は・・保志と・・出逢えてよかった。
伝えて・・」
「歌毬夜・・。」
慰めようとしたが、言葉が出ない・・。
【ガチャッ】
鍵の開く音の後、ドアが開く。
「ふふっ。捕まえた。逃げられると思ったら、大間違いよ。」
この人が、歌毬夜の継母・・魔女。
27にしては、派手な外見のせいか・・もっと年上のように感じる。
付き添う私に目を向けた彼女は、驚いた顔をした。
そして・・
「アオノ・・?
くっ・・あはは!」
アオノ・・?
彼女は、気味が悪いほど・・高笑い。
誰と間違えている・・?
それとも、まだ・・知らない伝承に、私も関係している?
「私は、万樹・・皮肉だな。
過去と同じ名で、お前に逢うなんて。名は?」
挑戦的な眼。
「大上 円華・・」
「円華・・契約しているのか。
くくっ。そうか、見つけたのか・・彼を。
面白い・・。また奪ってやるよ・・。」
また・・奪う?彼って・・
諷汰のこと?
『かぐや姫』は、過去の呪いを120年サイクルに繰り返してきた。
大上家の呪いも繰り返され、解放を願う。
過去と同じ名・・マキ?では、アオノは・・私・・?
『欠けたものを取り戻し、呪いを軽減せよ。』
何かが、記憶の奥にある・・。
思い出せないが、万樹に・・込み上げる憎しみが黒く・・黒く染まっていく。
「許さない。大上家の男を絶対に赦さない・・。
歌毬夜、あなたがいることを知って・・魔女の一族に、私は16歳で結婚させられた。
ふふっ・・。お金も男も不自由しない。けど、呪ったマキが望むものが手に入らない。
一族の誰かが手に入れないと・・。
そうね、もうすぐ手に入る・・
苺愛が手に入れる。それまで私は・・求める・・どんな手を使っても。」
苺愛・・。彼女も魔女の一族だと言っていた。
采景の一生の相手・・。
手に入るのは、大上家の男の心・・?
契約し、二人の気持ちは・・?
采景は何も言わないから、分からない。
私のいない間に話が出たのだろうか?
「さ、二人を迎える準備をしないとね。
あなたたちを助けに来る、王子様たちを・・ね。
心を奪ってやるわ。すべてを忘れてしまえばいい・・。」




