1つの解放の時
甘い・・
匂いがする。これ、もしかして・・。
「円華。『かぐや姫』・・だ。」
諷汰は、どこかを見る。
「・・え?」
【キィーン・・】
耳鳴りがする。
「円華・・」
諷汰も、耳を押え・・その場に座り込む。
「・・『かぐや姫』・・?」
私も我慢できず、諷汰のそばに座る。
・・意識が・・遠退いていく・・。
呪いの・・1つの解放の兆し・・。
『かぐや姫』からのキス。
目が覚めた私は、車に乗っていた。
運転手は、私に話しかける。
「気が付きましたか。
本家からの連絡です。家に戻り・・事実の確認、及び解放の手助けをするように言われています。
本家も、協力を惜しまないと・・お伝え下さい。」
保志が、解放の糸口を見つけた。
もうすぐ、長い歴史の中・・引き継いできた一つの呪いから・・解放される?
その時が・・来た。
家の中は、騒然としていた。
「母さん。ちょっと、買い物に出ていなさい。」
父が、特に緊張していた。
「・・はい?」
母さんを、無理やり外へ追い出した。
二階から、嗅いだことのない匂いに・・我を忘れそうになる。
「麗季、もう『かぐや姫』がいるの?」
「うん。さっき、保兄が・・」
麗季の目が・・緑色に変わる。
「大丈夫・・。コントロールしてるから。」
「采景?あんた、寮から・・わざわざ?」
月に一回の帰宅は、終わったばかり。
「あぁ。大上家の一大事・・だからな。
はぁ・・。苦しい。」
弟のくせに、色気が・・駄々漏れる。
緑色の目は、呪いの元凶。
私は、まだ運命の人に出逢っていない。
いや、出逢ったことに・・さっき、気がついた。
契約を交わしたかどうかが、今の状況を大きく左右している。
父親は、コントロール・・出来ていないか。
「はぁ。母さんを外に出しといて、正解だった。」
・・・・。
『かぐや姫』に、保志は・・どれほど・・。
「・・?匂いが落ち着いた・・?」
階段を下りる音・・。
3人は、通常に戻り・・保志の近くに集まる。
「『かぐや姫』だろ?」と、父。
「あぁ。」
保志の照れた表情を、初めて見た。
「じゃ、一つの呪いが解かれるの?」
「あぁ。まだ、期限が来ていないから。」
保志は、幸せそうに笑う。
この後、二人の時間が待っている。
でも、まだ・・私達は知らなかった。
大上家の本当の敵・・呪いの原因を・・。
知るはずがない。
本家の諷汰でさえ、知らなかったのだから・・。
『生と死の垣根』・・
それは、『かぐや姫』からきたのではない。
私達、大上家の呪いが・・歌毬夜を苦しめた。
「父は、母さんと行く。円華、お前は諷君の所へ。」
呪いの解放に、家族・・大上家として協力しないといけない。
・・?
「え・・?
嫌よ!こんな匂い付けて行ったら・・。私、嫌ぁ~~。」
今日の、先輩の匂いをつけていた時のことを思い出す。
男の匂いではないが、『かぐや姫』の匂い。
緑色の目、契約した家族の反応を思い出す。
小学生の麗季でさえ・・。
「いやぁ~~。」
泣きそうな私に、「「「あいつは気にしないだろ?」」」父と弟妹は冷たい・・。
父は、目を逸らし「さ、行き先が決まった。解散!!」
みんなが、一斉に立ち上がる。
友達・・いや、いっそのこと・・合宿に行こうか。
でも、また諷汰に・・バレたら?
ちょっと待って!何で、諷汰を気にしなきゃいけないのぉ~~?
いつの間にか、流されてる!!
「あ、円華姉。頼みがある・・。」
私は、話しかけた保志に【ギラッ】鋭い眼差しで睨んだ。
「いや、あいつ・・。下着・・つけてないんだ。」
!!?!
「や・・保志・・?」
私は、疑いの目で見る。
「違う!!俺じゃない!
・・ちょっと、あって。
買ってきてくれないか?麗季や、母さんに頼めないし・・。」
「でも、サイズが・・。」
保志は、にっこり笑う。
「あぁ・・」
保志は、その辺にあった紙にサイズを書いて渡した。
「・・・・。」
諷汰の時のことを思い出す。
「保志、正直に答えなさい。
あなた、どうして・・サイズ・・知っているの?」
「え?円華姉・・そんなこと・・。俺の口から・・。
てへっ・・何度か、手を出したとき・・?こう・・手の・・感触?」
自分のことのように、怒りが込み上げる。
この・・オスが!!
【コンコン・・】
客室をノックする。
「はひ・・」
中から、緊張した声。
私にも分かる。匂いが増した・・。
「入るね?・・えと、私・・保志の姉の円華よ。
必要なもの買ってきたから、使って?・・サイズは、その・・」
言いづらい・・。
彼女は紙袋を受け取り、中を見る。
赤面した顔で、私を見た・・。
「ごめん。・・知っていたわ。」
私も、恥ずかしい・・。
「はあぁ・・。
ホント、いい匂いね。私までドキドキする・・。」
こんな匂いをつけて・・
本当に諷汰は大丈夫なんだろうか?
「いけない。私、行きたくないけど・・行かないと・・。」
お風呂に入る時間はないか・・。
「いってらっしゃい・・?」
この綺麗な女の子が、『かぐや姫』・・。
保志の心を受け止めた。
私は、諷汰の心を受け止められる?
一生の相手・・諷汰。
父・母・弟妹は、すでに出て・・家にいなかった。
鍵を閉めた私は、門に車が停まるのを見る。
まさか・・?
「円華、乗って。」
諷汰だった。
・・逃げ場がなく車に乗る。
「・・・・。」
何を言っていいのか分からず、黙っていた。
「いい匂いだな・・。
『かぐや姫』築嶋 歌毬夜か。」
今度は、諷汰に何を言われるのか。
気が気ではない・・。
「円華・・。何故、緊張してるの?」
【ギクッ!!】
何故?
・・意識しているからだ。
「してるよね?
呪いで、契約したときから・・円華の匂いを知っている。
俺にとって、いや・・本家にとって『かぐや姫』より・・俺を誘う。
円華、覚えておいてね?」
私が知らない・・
車の行き先までの道程は、無言だった。
『匂いが誘う』
契約をした弟妹も言っていた。
私は、このまま・・諷汰を選んでいいのだろうか。
諷汰から、甘い匂いがする・・。
呪いが、痛いほど私に告げている。
『必ず見つける。一生に一人の・・対なる者。
手に入れろ。どんな手を使っても・・。』
呪いが私を刻む。
「円華?
匂いが、異状だ・・。大丈夫か?!」
欲しい・・。
初めての欲情。強く、甘い匂いに・・狂いそうだ。
「ちが・・う。まだダメ・・。」
私は気を失った・・。
愛しい・・声が聞こえる。
遠い記憶の奥の、懐かしい・・あなたの声が聞こえる。
『菜乃、菜乃・・。
愛している。一生にお前一人・・』
『千弐・・。
好きよ、離さないで!ずっと一緒・・ね?お願い』
約束したのに・・。
嘘よね?
酷い!どうしてあの人を選ぶの?
赦さない!
呪いから解放?
いいえ、私はあなたを忘れない。幸せにはなれない。
『俺の心を君に残していく。
いつか君に逢えたら・・返して。必ず、君の許に・・還るから。』
千弐・・あなたを呪うわ。
忘れないで・・あなたの心を、私が持っていることを。
あの人は、あなたの心を・・永久に手に入れることはない。
『生と死の垣根』・・呪いの魔女。
いつか大上家の心を手に入れ、呪いから解放するだろう。
でも、千弐の心は渡さない!
『・・弐・・」
見覚えのない天井。
ベッドの・・私の横に、また少し大きくなった諷汰が寝ている。
いつの間にか、日が沈み・・薄暗い部屋。
「諷・・」
月の光が、ベッドの上に・・優しく・・
「・・ぐっ」
諷汰は、体を押さえ・・苦しむ。
寝ているのに、感情が加わった・・?
成長が続き、言っていた年齢・・19歳ぐらいに見える。
「あぁ、今日は・・満月か。」
満月・・?
呪いの解放の条件の一つ。
「円華・・。
心を・・返して・・。キスして欲しい・・。」
契約のキス。
「諷汰、約束し・・て・・うっ・・」
【キィーーン】
耳鳴りが・・する?
何の・・音・・
「一つの呪いが・・解かれた、解放だ。」
諷汰も同じように耳を押さえ、教えてくれる。
大上家の『かぐや姫』との叶わない悲恋の結末が、幸せに変わった時。
「円華・・。」
諷汰の匂いが、私を求める想いの強さを語る。
満月・・
一時的に、諷汰は元の姿に戻っている。
初めて見る姿に、ときめき・・どうしていいのか分からない。
まだ諷汰の感情は、すべて揃ってはいない。
このまま・・諷汰を受け入れてもいいのだろうか?
「円華が、欲しい・・。」
私の一生の相手。
「諷汰・・。」
手を伸ばし、諷汰の頬に触れる。
愛しい・・。欲しい。私も、諷汰の心が・・欲しい。
「約束してくれる?
私・・だけだと・・。私だけを、愛してくれると・・。」
風汰の目が緑色に、美しく輝く。
「あぁ、約束する。円華、お前だけだ・・。
一生に一人、円華だけを愛すると・・契約に誓う。」
私は目を細め、颯太に顔を近づけ・・唇を重ねた。
私の、一生の・・相手。
「諷汰・・。好き・・よ。」
諷汰の体の重みが、私をベッドに横にならせた。
「円華、嬉しい・・。」
優しいキスが続く。
何度も、私を求めるように・・。
軽く重ね、押し付け・・吸うように・・。
「はぁ・・」
息が漏れる・・。
気持ちいい 心地よい 幸せな時間・・。
「・・もっと・・」
諷汰の手が、優しく私に触れる。
頬に首筋、胸に・・
「・・んっ・・」
体が、反応する・・諷汰を求めて。
「ピピピピピピ・・~」
【ビクッ】
部屋の電話のコール音・・?
それが、非常音のように鳴り続ける。
「・・っ・・はぁ。
円華、ちょっと・・待って。」
よほどの緊急なのか、諷汰は私から離れ・・電話に出る。
「・・わかった。
本家にも連絡してくれ。あぁ、円華がいる。
・・そうか、訊いてみる。」
私・・?
起き上がり、自分の服が乱れているのが恥ずかしくなる。
「円華。采景君に連絡して、すぐにここへ・・。
いや、会社に呼んで欲しい。」
采景・・?
「でも、こんな時間じゃ・・
わかった。」
多分、緊急事態なんだ・・。
諷汰の緊張が伝わる。
私の返事に、諷汰は何箇所か電話で連絡を取った。
「あ、采景?・・」
珍しく電話に速く出たと、思ったら・・
『はぁ・・は。・・何?』
・・息の切れた、色っぽい声。
『やっ・・ん』
私たちと同様・・仲良くしている・・最中?
「采景。そんな時は、電話に出るな!!
・・いい?緊急なんだけど、朝でいいわ!諷汰の会社に来なさい。」
女の子の声が、まだ・・聞こえる。
慌てて、采景の返事を聞かずに切った。
全く、うちのオスどもは!!
・・人のこと、言えないか?
結局、契約をした私も・・諷汰を求めた・・おおかみ女。
大上家の呪い・・。
諷汰に、采景は朝一に会社に来るように言ったと・・伝えた。
「そうだな、こんな時間だし・・。
けど、俺は出るよ・・。円華も、明日・・朝に会社へ来てくれ。」
諷汰は、スーツに着替える。
そして、そろえていた小さいサイズのスーツを手に持って出口のほうへ。
ドアのところで振り返り「あ、円華?続きは、またね。」
最高の笑顔。
【キュ~~ン】
可愛い!!




