一生に一人
『明確なヒエラルキーの意識。(強い奴が少なくて、弱い奴ほど多くなる組織構成)。
オス同士の権勢意識も、とても強い。万が一、他犬との闘争にもなれば、とても危険。
・・飼い主が、リーダーとして主導権を握っていれば、むやみに人畜を襲うことはない。
警戒心が強い。仲間と認めたものとは、極めて良好な関係。
知性は、非常に高いが独立性が強い。』
「歌毬夜、何・・読んでるの?」
白雪は、私から離れない。私も、出来るだけ動かないでいた。
「ん~。狼犬の飼い方の本。」
白雪は、真剣に「オオカミ様を、飼うの?」と。
「あはは、・・まさか。
面白そうだから、見てたの。結構、当てはまるよね。」
彼に、私が主導権を持つなんて・・。
「オオカミ様。どうして、記憶ないのかな?」
笛の作用は、切れる・・?
保志Side
何だ・・?イライラする。
いや、何かが・・欠けたような。足りない・・。
何だ?呪いか・・?まさか、あの時会った・・契約の相手・・?
すっきりしない・・。
「オオカミ様~~。」
言い寄ってくる女が、前より増えた?
「俺は、女に興味はねぇ。」
いつものように言ったつもり・・。
「築嶋さんに、興味持ってから・・優しい~!!」
奇声が耳に響く。
言っている意味が、解らない。
優しい・・?築嶋・・に、興味を・・持った?
・・契約の女か。ふん。記憶がないが、女に興味を持った・・か。
足りないのは、満たされない・・欲求。ナニカ・・を、求め。
「ふ~ん。おもしれぇ。
試してやるよ。まず、お前・・。」と、適当に女を選んで・・空き室に連れ込む。
何かが、心に掛かる。足りない物に・・近い?
「オオカミ様ぁ~~」
顔の区別はつかない。綺麗なのか、可愛いのか・・基準が判らない。
この女の唇に、口づけさえしなかったらいい・・。
何だ・・?
デジャブ・・。
足りない・・。首筋に唇を近づけるが・・止めた。
理解できない苛立ちが、募る。
手を柔らかい胸に触れる・・。
「・・あん。」
・・・・。
肉・・。
・・違う。
一気に覚めた。
「感じない・・。」
俺の渇望は膨らむが、満たされない。
何人か試したが、同じ・・。いや、触れることさえ・・嫌気がする。
あいつと、どこが違う・・?
朝・・一度だけしか会っていない・・。でも、顔を・・覚えている。
さっきまで、連れ込んだ女たちの顔なんか、覚えていないのに・・。
試すか・・?
【ドクッ・・ン】
自分の、奥深く・・血が・・ざわめく。
欲しい・・。
「オオカミ!!あんた、いい加減にしなさいよ!!」
・・何て言うんだっけ、これ。
あぁ・・
「飛んで火に入る夏の虫」
俺に、何されるか知らないで。
「女の子連れ込んで、触ったりして・・
『感じない』って・・失礼でしょ?聞いてるの?」
匂いがする。
微か・・だけど、知っている。
何故だ・・?こんなに集中しているのに、微かな匂いのまま。
・・足りない。
「あんた、名前は?」
「築嶋 歌毬夜!
・・って、聞いてる?人の話!!
まったく、あんたが記憶を無くしてるから安心してたのに。」
「安心・・て、俺が・・
歌毬夜以外に、手を出さないこと?」
はぁ・・。
息が、切れる・・。上手く、息が出来ない。
「ば、・・バカじゃない?!
私にさえ、近づかなければいいのよ!でも、人を傷つけるのは・・むっ・・ぐ?」
契約の・・相手。
俺は、何のためらいもなかった。
不思議・・いや、当然なのか?
重ねる唇は、甘い・・。
何とも言えない、満ちていく・・心。
「はぁ・・。」
唇を、少し重ねただけ・・。
「歌毬夜・・」
名を口にし、更に・・何かが増す。
歌毬夜の瞳が、俺を受け入れている。分かる・・。
俺は、もう一度・・唇を重ね・・強く押し付ける。
「ん・・。やぁ・・」
【ドクッ・・】
はぁ・・。
可愛い・・愛しい・・。
欲しい、手に入れたい・・。もっと、もっと・・。
「オオカミ・・記憶、もど・・んっ・・んん~」
彼女の会話の途中・・舌を入れ、絡ませた。
「ん、や・・むっ・・んん」
俺は、右手を制服の上着に入れた。その間も、唇は・・求めたまま。
右手は、お腹から・・胸に滑らす。
「ひゃ・・」
可愛い声だ・・。
ブラジャーをずらし、柔らかい胸に・・手が触れる。
「はぁ・・はあぁ。」
欲情・・。
これが、俺の・・一生に、一人の相手。
「歌毬夜・・歌毬夜・・」
足りない・・。
「も・・ダメ。まっ・・て。やぁ・・」
恥らう歌毬夜に・・理性が飛ぶ。
「ねぇ、歌毬夜?欲しい・・。ね・・、いい?」
「嫌ぁ!!」
さっきまで受け入れていた歌毬夜が、急に態度を変える。
【ズキッ】
・・何だ?一気に現実・・。
他の女たちの時とは、明らかに違う。痛みが、俺を襲う。
知ってる・・何度か経験した。
キオク・・にある。
歌毬夜の両腕を、地面に押さえつける。
「オオカミ・・?ごめ・・違う・・違うの。」
彼女の言い訳に、余計に胸が締め付けられるように感じる。
彼女も、俺が感じたキオクを気にしている。何度か、あった事。
「何が、違うの・・?
まだ記憶は、ないよ?けど、俺は解っている。お前だ・・
俺の対、一生に一人の相手。お前だけにしか、感じない。欲情しない。
歌毬夜、ひどい女だ。
さっき、何て言った?『感じないって失礼』・・?
ふっ・・。笑える。
じゃ、君は?俺の求めに、受け入れ・・応えていた。
『感じて』おきながら、踏み込んでは・・駄目・・だって?」
歌毬夜は、上にいる俺の目を見たまま・・涙を流す。
許してしまいたい・・。
そうやって、何度・・俺は言葉を飲み込み・・傷ついてきた?
この涙が、止まるなら・・。
俺を傷つけてもいい。甘やかしたい・・。
けど、口に出てしまった感情は止まらない。
「・・何度目、なの?」
「うっ、うえ・・ん。ごめ・・なさ・・いぃ~・・うぅ・・」
欲しい言葉は・・。




