かぐや姫
お父様・・。
どうして?
お母様を、愛してるって・・言ったのに。
どうして?どうして・・一人ではないの?
アナタは、もっと酷い。
お父様を・・愛してはいない。
嫌だ、汚い・・。
触らないで!!
お父様、どうして信じてくれないの?
出して、お願い・・。独りにしないで!!
お父様・・。
私は・・ワザワイ・・なの?お母様は、私の所為で死んだの・・?
オオカミ・・。
あなたは、私一人・・。
でも、期限がきたら・・。私は、また・・。
誠志が、逃げ道だった。
お父様の、唯一の愛情。期限も、あの人が戻るまで・・。
竹の花。それが、期限の開始・・。あの人が、もうすぐ戻ってくる・・?
オオカミ・・。繰り返される伝承は、・・あなたとの恋愛だろうか?
夢は、見ない。
現実は、目の前・・。でも、・・。
次の日。
不機嫌なオオカミに、みんなが近づけないでいた。
「歌毬夜、失敗したでしょ?」と、杏。
「・・・・。」
話しかけてくれて、ほっとする。
「何したの?」
かぁ~~。
言えない。オオカミを求めたなんて・・。
「全部はいいわ。怒っている原因よ!」
原因?
「え?恥ずかしくなって・・拒んだから・・かな?」
そうだ、彼の気持ちを考えてはいない・・。
最初に笛を使ったとき・・。その時、期限が頭にあった。
心を許していたのに、それを閉ざすのは・・どうしてか。
彼は、私に訊いた。
私は、ただ・・理由も述べずに拒んだ。
そして、今回・・。
自分が、恥ずかしいという感情で・・彼を拒んだ。あんなに彼を・・求め、受け入れたのに。
確かに、ひどいのは・・私。
私は、いつまで逃げるのだろうか・・。
「杏、ちょっと・・頭を冷やしてくる。」
杏と、離れ・・。ふらふらと、細い道を歩く。
気がつけば、以前倒れた・・竹林。
「築嶋さん。ちょっと、いい?」
稜氏くん?
「姿が見えたから、追いかけてきたんだ。
実はね・・。お父様から、預かっているものがあるんだ。」と、笛。
「稜氏くんは、お父様の知り合いなの?」
そういえば、以前も。笛を貰う前・・。
「あぁ。笛を造ったのは、稜氏グループの会社だよ。
これ、犬笛・・なんだ。使っても、害は無い。逃げるには、いいでしょ?」
犬笛って、犬を呼ぶ時の・・?犬・・にしか、聞こえない音。
近くで・・思いっきり吹かなければ、害は無い・・。
逃げる・・。期限まで?
「稜氏くん・・。」
受け取るのを、一瞬ためらう。
が、受け取った。彼を、信じて・・。
稜氏くんは、お父様から頼まれた。受け取らないわけには、いかない。
「そうだ。オオカミの、一生に一人?
信じないほうがいいよ。簡単に、次の人を見つけられるみたいだし。
おっと、時間だ。行くね・・。」
・・・・。
ショックだった。
目の前が、暗い。力が入らない。
その場に、座り込む。
うそ?ではない・・か。
黙っていた、だけ。他の方法が簡単だと・・。
丁度いいじゃない。私が拒んで、怒っている。
気が変わって、きっと・・他のかわいい子を選ぶんだ。
それで、いい・・。
期限が来たら、結局・・いなくなった私のことなんか。
忘れ・・て・・しまう?
「・・ふっ・・う・・。っく・・うぁ~~ああぁ~~。」
声を上げ、泣いていた・・。
感情が、溢れる。
今までとは違う味わったことのない、深い悲しみ。
「何、泣いてるの?」
【ビクッ】
涙が、止まる。
オオカミの声・・怒ったように乱暴な言い方。だけど、解る・・。
背中に感じる視線は、温かい。
「話しかけないで!あなたは、期限の意味を・・知らない。」
彼を背に、立ち上がる。
その私を、優しく抱きしめる。
「教えて。それが、歌毬夜の悲しみなの?」
ダメ。
この温かさ・・優しさに、身を委ねている。
「歌毬夜・・?」
いつから、こんなに心を許してしまった?
この、懐かしい・・香り?温もりに・・?
『簡単に、次の人を見つけられる・・』
ワタシデ・・ナクテモ・・イイ。
信じては、いけない・・?
手に、笛。
オオカミは、知らない。私が、持っていること。
油断している。
誰かの、声・・
ニゲルナ・・ニゲテハ、ダメ。
私は無意識に、笛を・・吹いた・・。
私を抱きしめる手は、離れ・・
彼の体重がかかる。
・・?!!
「オオカミ・・?」
前と、明らかに様子が違う。
顔色は、青ざめ・・体温がどんどん下がる。
携帯を出し、ボタンに指を当てる。
力が入らない。
震える両手で、なんとか・・かける。
「誠志!!・・。」
私は、信じる人を・・間違えた。
私の心に、身を切るような痛みの時が・・続こうとしていた。
杏の言葉を、思い出す。
『信用するなら、最後まで・・自分で責任を取りなさい。』
大事な人を、自分が優先しなかった。
信じるのは、まず・・あなただった。
私は、あなたを傷つけた。害は無い・・なんて。
身を切られるような悲しみと、後悔が襲う・・。
意識を取り戻したあなたに・・
私の記憶は、なかった。
あなたの中から、私が・・消えた。・・いない。
後から知る。
私から、大切なものを奪うのは・・いつもあの人。
稜氏くんは、あの人と繋がっていた・・。疑うはずない・・。
今の自由を、あの人が許しているなんて。
いや、わざと・・見逃した。私を追い詰めるために・・。
私は、失っただけじゃない・・。大切な人の中から・・消えた。
彼の中に、私の思い出・・さえも・・ない。
期限までの苦しみ・・。
あの後・・。
誠志が、築嶋家に連絡し・・車で病院に向かった。
車の中、彼は・・苦しみながら・・私の名を呼び続ける。
彼は、私の手を握る力が弱まり気を失った。
病院に着いた途端、何ともないように起き上がる。
「オオカミ・・。」
安心した私に「誰・・?」と、問う。
血の気が引いた。
私の、気が遠くなる。支えてくれたのは、誠志。
声が、聞こえる・・。
『ポチ。お願いがあるの・・。
私を連れて、一緒に逃げて欲しい。』
『姫、今日は満月・・。いえ、生憎の天気・・。
逃げて、どうするのです?その後の生活は・・。』
『ポチ・・。いえ、名があるのでしょう?
知ったのよ。あなた、人に・・なれるのでしょう?』
ポチは、黙る。
『私は、気持ちに気付いた。あなたを愛しているの。
お願い・・私を、選んで・・。』
「・・ポ・・チ。」
朝。
私は自分の部屋で、寝ていた。
誠志が、心配して家に迎えに来る。
「おはよう。」
私の目に、涙。ずっと・・止まらない。
誠志は、優しく抱きしめる。
「・・大上に、歌毬夜の記憶は・・ない。
戻るか・・解らない。」
稜氏くんなら・・。彼なら、オオカミを元に戻せるはず・・。
「誠志、自分で・・何とかするね。
いつも、ありがとう。」
オオカミは、普通に学校へ来ていた。
私は、覚えられていなくても・・謝りたくて近づいた。
「ふ~ん。あんたが、『かぐや姫』。
契約・・したの?
俺さ、覚えてないんだ。だから、犬に噛まれたと思って・・忘れて?」
私の話に、耳を傾けない。
いつもの優しい瞳や、口調が違うと別人に感じる。
彼の冷たい目は・・私を、見ていない。私が、存在しない。
「歌毬夜、噂は本当なの?」
杏は、私を見つけ・・走ってきた。
「杏、稜氏くんは?稜氏くんは、どこにいるの?!」
「そういえば、連絡・・ついてない。・・どういうこと?」
私は、稜氏くんの会社が造っている笛の話をした。
それが、オオカミの記憶を消した事。
「ちょっと、待ってね?」
杏は、携帯で・・何箇所か電話を掛ける。
「どれも、繋がらない。」
・・・・。
異状。
「歌毬夜、記憶は失っても・・オオカミはおおかみ。
簡単に、他の人にはキスしない。心を変えるのは、狼に戻る覚悟さえ必要なの。
彼は、契約したことを聞いている。
いい?オオカミ様を狙っている人が、例え多くても・・気にしちゃだめよ?
・・私は、潤を捜すわ!
白雪と、一緒にいなさいよ~?」
杏・・。
オオカミ・・の心。
簡単では無い・・。狼に、戻る・・?
やはり、伝承は・・私には隠されている。
あの人・・。きっと、意図的に・・。
何故?何故、私に・・こんなことを?
あの人には、本当の愛かわからないけど・・相手がたくさんいる。
お父様以外の・・男の人たち・・。お父様の留守に、違う男の人が・・たくさん。
・・汚い。
汚い、汚い!!
・・どうして、一人・・ではないの?
どうして・・?




