表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⑫-B 【 大上家シリーズ】おおかみはかぐや姫を食べた  作者: 邑 紫貴
【大上家シリーズ1】おおかみはかぐや姫を食べた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/77

かぐや姫


 お父様・・。


どうして?

お母様を、愛してるって・・言ったのに。

どうして?どうして・・一人ではないの?


アナタは、もっと酷い。

お父様を・・愛してはいない。


嫌だ、汚い・・。

触らないで!!


お父様、どうして信じてくれないの?

出して、お願い・・。独りにしないで!!


お父様・・。

私は・・ワザワイ・・なの?お母様は、私の所為で死んだの・・?


オオカミ・・。

あなたは、私一人・・。

でも、期限がきたら・・。私は、また・・。



誠志が、逃げ道だった。

お父様の、唯一の愛情。期限も、あの人が戻るまで・・。

竹の花。それが、期限の開始・・。あの人が、もうすぐ戻ってくる・・?


オオカミ・・。繰り返される伝承は、・・あなたとの恋愛だろうか?

夢は、見ない。

現実は、目の前・・。でも、・・。



 次の日。

不機嫌なオオカミに、みんなが近づけないでいた。


「歌毬夜、失敗したでしょ?」と、杏。


「・・・・。」


話しかけてくれて、ほっとする。


「何したの?」


かぁ~~。

言えない。オオカミを求めたなんて・・。


「全部はいいわ。怒っている原因よ!」


原因?


「え?恥ずかしくなって・・拒んだから・・かな?」


そうだ、彼の気持ちを考えてはいない・・。

最初に笛を使ったとき・・。その時、期限が頭にあった。


心を許していたのに、それを閉ざすのは・・どうしてか。

彼は、私に訊いた。

私は、ただ・・理由も述べずに拒んだ。


そして、今回・・。

自分が、恥ずかしいという感情で・・彼を拒んだ。あんなに彼を・・求め、受け入れたのに。


確かに、ひどいのは・・私。

私は、いつまで逃げるのだろうか・・。


「杏、ちょっと・・頭を冷やしてくる。」


杏と、離れ・・。ふらふらと、細い道を歩く。

気がつけば、以前倒れた・・竹林。


「築嶋さん。ちょっと、いい?」


稜氏くん?


「姿が見えたから、追いかけてきたんだ。

実はね・・。お父様から、預かっているものがあるんだ。」と、笛。


「稜氏くんは、お父様の知り合いなの?」


そういえば、以前も。笛を貰う前・・。


「あぁ。笛を造ったのは、稜氏グループの会社だよ。

これ、犬笛・・なんだ。使っても、害は無い。逃げるには、いいでしょ?」


犬笛って、犬を呼ぶ時の・・?犬・・にしか、聞こえない音。

近くで・・思いっきり吹かなければ、害は無い・・。


逃げる・・。期限まで?


「稜氏くん・・。」


受け取るのを、一瞬ためらう。

が、受け取った。彼を、信じて・・。

稜氏くんは、お父様から頼まれた。受け取らないわけには、いかない。


「そうだ。オオカミの、一生に一人?

信じないほうがいいよ。簡単に、次の人を見つけられるみたいだし。

おっと、時間だ。行くね・・。」


・・・・。


ショックだった。

目の前が、暗い。力が入らない。

その場に、座り込む。


うそ?ではない・・か。

黙っていた、だけ。他の方法が簡単だと・・。


丁度いいじゃない。私が拒んで、怒っている。

気が変わって、きっと・・他のかわいい子を選ぶんだ。


それで、いい・・。

期限が来たら、結局・・いなくなった私のことなんか。


忘れ・・て・・しまう?


「・・ふっ・・う・・。っく・・うぁ~~ああぁ~~。」


声を上げ、泣いていた・・。

感情が、溢れる。

今までとは違う味わったことのない、深い悲しみ。


「何、泣いてるの?」


【ビクッ】


涙が、止まる。

オオカミの声・・怒ったように乱暴な言い方。だけど、解る・・。

背中に感じる視線は、温かい。


「話しかけないで!あなたは、期限の意味を・・知らない。」


彼を背に、立ち上がる。

その私を、優しく抱きしめる。


「教えて。それが、歌毬夜の悲しみなの?」


ダメ。

この温かさ・・優しさに、身を委ねている。


「歌毬夜・・?」


いつから、こんなに心を許してしまった?

この、懐かしい・・香り?温もりに・・?


『簡単に、次の人を見つけられる・・』


ワタシデ・・ナクテモ・・イイ。

信じては、いけない・・?


手に、笛。

オオカミは、知らない。私が、持っていること。

油断している。


誰かの、声・・

ニゲルナ・・ニゲテハ、ダメ。


私は無意識に、笛を・・吹いた・・。


私を抱きしめる手は、離れ・・

彼の体重がかかる。


・・?!!


「オオカミ・・?」


前と、明らかに様子が違う。

顔色は、青ざめ・・体温がどんどん下がる。


携帯を出し、ボタンに指を当てる。

力が入らない。

震える両手で、なんとか・・かける。


「誠志!!・・。」


私は、信じる人を・・間違えた。

私の心に、身を切るような痛みの時が・・続こうとしていた。


杏の言葉を、思い出す。

『信用するなら、最後まで・・自分で責任を取りなさい。』


大事な人を、自分が優先しなかった。

信じるのは、まず・・あなただった。

私は、あなたを傷つけた。害は無い・・なんて。


身を切られるような悲しみと、後悔が襲う・・。


意識を取り戻したあなたに・・

私の記憶は、なかった。


あなたの中から、私が・・消えた。・・いない。


後から知る。

私から、大切なものを奪うのは・・いつもあの人。

稜氏くんは、あの人と繋がっていた・・。疑うはずない・・。


今の自由を、あの人が許しているなんて。

いや、わざと・・見逃した。私を追い詰めるために・・。

私は、失っただけじゃない・・。大切な人の中から・・消えた。


彼の中に、私の思い出・・さえも・・ない。

期限までの苦しみ・・。



 あの後・・。

誠志が、築嶋家に連絡し・・車で病院に向かった。


車の中、彼は・・苦しみながら・・私の名を呼び続ける。

彼は、私の手を握る力が弱まり気を失った。


病院に着いた途端、何ともないように起き上がる。


「オオカミ・・。」


安心した私に「誰・・?」と、問う。

血の気が引いた。

私の、気が遠くなる。支えてくれたのは、誠志。



 声が、聞こえる・・。


『ポチ。お願いがあるの・・。

私を連れて、一緒に逃げて欲しい。』


『姫、今日は満月・・。いえ、生憎の天気・・。

逃げて、どうするのです?その後の生活は・・。』


『ポチ・・。いえ、名があるのでしょう?

知ったのよ。あなた、人に・・なれるのでしょう?』


ポチは、黙る。


『私は、気持ちに気付いた。あなたを愛しているの。

お願い・・私を、選んで・・。』



「・・ポ・・チ。」



 朝。

私は自分の部屋で、寝ていた。


誠志が、心配して家に迎えに来る。


「おはよう。」


私の目に、涙。ずっと・・止まらない。

誠志は、優しく抱きしめる。


「・・大上に、歌毬夜の記憶は・・ない。

戻るか・・解らない。」


稜氏くんなら・・。彼なら、オオカミを元に戻せるはず・・。


「誠志、自分で・・何とかするね。

いつも、ありがとう。」



オオカミは、普通に学校へ来ていた。

私は、覚えられていなくても・・謝りたくて近づいた。


「ふ~ん。あんたが、『かぐや姫』。

契約・・したの?

俺さ、覚えてないんだ。だから、犬に噛まれたと思って・・忘れて?」


私の話に、耳を傾けない。

いつもの優しい瞳や、口調が違うと別人に感じる。

彼の冷たい目は・・私を、見ていない。私が、存在しない。


「歌毬夜、噂は本当なの?」


杏は、私を見つけ・・走ってきた。


「杏、稜氏くんは?稜氏くんは、どこにいるの?!」


「そういえば、連絡・・ついてない。・・どういうこと?」


私は、稜氏くんの会社が造っている笛の話をした。

それが、オオカミの記憶を消した事。


「ちょっと、待ってね?」


杏は、携帯で・・何箇所か電話を掛ける。


「どれも、繋がらない。」


・・・・。

異状。


「歌毬夜、記憶は失っても・・オオカミはおおかみ。

簡単に、他の人にはキスしない。心を変えるのは、狼に戻る覚悟さえ必要なの。

彼は、契約したことを聞いている。

いい?オオカミ様を狙っている人が、例え多くても・・気にしちゃだめよ?

・・私は、潤を捜すわ!

白雪と、一緒にいなさいよ~?」


杏・・。


オオカミ・・の心。

簡単では無い・・。狼に、戻る・・?


やはり、伝承は・・私には隠されている。

あの人・・。きっと、意図的に・・。


何故?何故、私に・・こんなことを?

あの人には、本当の愛かわからないけど・・相手がたくさんいる。

お父様以外の・・男の人たち・・。お父様の留守に、違う男の人が・・たくさん。


・・汚い。

汚い、汚い!!


・・どうして、一人・・ではないの?

どうして・・?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ