第三幕
被服室。
暗いのが嫌で、カーテンを開ける。
はぁ・・。
「大きなため息だね。何?用事って。」
「ぎゃっ・・」
気配無く、耳元で囁く声。
急いで、距離を取る。
「待って、今日は・・お話しが、アリマシテ。」
「杏から聞いた。伝承を、聞きたいんだろ?
しかも、聞かないと・・。杏たちから、話しもしてくれないって?」
ニヤリと、優位を示す笑い。
冷や汗が・・。
「そうだな~。良いけど、代価は何?
俺、そんなに優しくないよ。ふふ・・。」
オオカミは、ご満悦。
・・ここで、笛は逆効果。脅しても、話しは・・得られない。
・・・・。
「はい、時間切れ。
じゃ、選択肢をあげるね。優しいな~、俺って。ね?」
何?何?・・何を求める気?!!
「・・ソウデスネ。何が・・アリマスカ?
あの・・あまり、無茶は・・その」
「はい、黙って。
いち、歌毬夜からキス。にい、俺と付き合う。さん、」
「無理!!」
つい。
どんどんエスカレートしていく要求のスタートが・・私からのキス?
どれも無理に決まっている。
「歌毬夜、いい度胸だね・・。自分の立場、分かってる?」
分かっている・・。崖に落ちる、一歩手前。
「俺、実は・・怒っているんだ。理由は、分かっているよね・・?」
「まさか、笛・・の事?」
それしか、思いつかない。
「ハズレ。ペナルティ追加ね。」と、一歩近づく。
頭が混乱・・。
「時間は、待たないから。」と、また一歩。
笛の事を怒っていないなら・・。
ポケットから、笛を出し・・口に挟む。
「・・むっ・・ん」
私の唇に、オオカミの唇・・。
オオカミは、笛を口に含んだ。
「ん~・・」
吹いてみるが、空気は動かない。
笛の空気の出口は、彼の舌で押さえられている・・?
笛は、彼の口の中に・・取られた。
そして、そのまま・・舌は、私の唇を舐める。
「んん!!・・ん~。」
唇をぎゅっと閉じ、目も閉じた。
彼の舌と唇は、私から離れる。
そっと、目を開け・・唇に残る感触に、右手の甲で押さえる。
彼は、舌を出し・・その上に笛。
で、どうする?という顔。意地悪に・・。
かぁ~~。
「いらない・・もん。・・ひどいよ。」
右手の甲で押される唇は、まだ・・感触が残っている。
恥ずかしい・・。
彼は、笛を手に持ち・・壊した。
怒っているんだ・・。
「ひどいのは、どっち?・・ねぇ、歌毬夜?」
今、オオカミは・・私の目の前。
私との間に、一歩の距離。その距離が、私に不安を与える。
「な、何を・・私がしたの?」
「分からないんだ・・?」
オオカミは、右手を出し・・私の頬に近づける。
【ビクッ】
触れると思って、目を閉じた。
・・?触れ・・ない?
そっと、目を開ける。
【トン】
オオカミに押され、バランスを崩し・・下がる。
カーテンを開けた窓にぶつかり、止まった。
・・?
「オオ・・カ・・」
オオカミの右手は、私の顔の左側。
左手は、私の右側の腰の辺り。オオカミの顔が、近い。
緑色の目に、私は・・目を閉じることが出来なかった。
じっと、彼の表情を見ていた。
悲しそうに・・見える?・・胸が、締め付けられる。
こんな表情を、私が・・させた。
彼は、目を閉じ気味にし・・唇を近づける。
が、私の唇に・・微かに触れるか触れないか。
ドクンッ・・。
何とも言えない感情・・。苦しすぎる。
微妙な距離で、唇は、頬・・目元へ。私に触れるのは、彼の息だけ・・。
・・もどかしい。
彼の唇は、首筋・・胸元に近づく。微かにさえ、彼の唇が触れることはない。
触れて欲しい・・。
「・・はぁ。」
息が漏れる。
私は、手を・・出す。
両手で、彼の頬に触れ・・。顔を、自分のほうに向かせる。
「・・・・。」
見つめる彼の目に、私が映る。
私は、自分の唇を・・彼の唇に重ねた。自分から・・。
そっと重ねた唇は、彼の柔らかい唇を感じる。体温も・・。
愛しい。
彼は、目を閉じる。私も、閉じた。
受け入れる私の唇に、彼は・・唇を強く押し付ける。
一度、離れ・・
「・・はぁ。」
「歌毬夜・・」
名前を呼ばれ、愛しさが増す。
「このまま、受け入れてくれ・・。」
彼は、私の唇を求める激しいキス・・。
「ん・・。・・もっ・・と。」
?!
今、私・・!!
私・・求めた。しかも、その言葉を・・口にした。
かぁ~~。
一気に、現実が見える。
「また・・逃げるの?」
ドキッ・・。
私の、ぎごちなさを感じ・・オオカミは問う。
図星に、一層うろたえてしまう。
「歌毬夜、どうして?俺が・・。くそっ・・」
彼は、私から視線を逸らす。
距離をとって、方向を入り口へ・・そして歩いていく。
「大上・・?」
彼は、振り返らない・・。




