第一幕
ここからは【大上家シリーズ1】遠矢と美彩の子供、保志の恋物語がスタートします。
『かぐや姫』・・
おじいさんが、竹やぶの中から子供を見つけ育てる。
きれいに成長した姫は、5人の貴公子の求婚。時の帝の召しにも応ぜず・・月に帰った。
「歌毬夜、知ってるか?
本当は、かぐや姫は・・おおかみに食べられたんだ。」と、オオカミは言う。
「食べたのは、赤頭巾ちゃんだろ。
さ、行って・・。フェロモンで、お前を誘ってる。猟師も一緒だ。」
築嶋 歌毬夜。私立 希東高等学校1年。
婚約者がいる。大路 誠志。
本当は知っている・・婚約者のあなたが、本当に好きな人。
優しすぎるあなたに、いつまで依存するのか。
答えを求めるあいつは・・オオカミ。
かぐや姫は、月に帰ったのではなく・・おおかみに食べられた。
築嶋家の伝承もそうだ・・。
「オオカミ・・。私に近づくな。」
・・ふっ、と奴は笑う。
「歌毬夜・・。俺、大上だよ?」
・・!?!!
「顔、真っ赤・・。可愛いね~。ホント・・」
さっきまで笑っていたのに、獲物を見る目に変わる。
「・・食べたい。」
ゾワッ・・
寒気がする。
「お前なんて、獣で十分だ。
・・みんな、オオカミ様なんて呼んでるじゃないか!」
近い手を、払いのける。
「冷たい・・
ね。婚約者にも、はっきり言ってやれば・・?」
・・いつ知られた?私の弱み・・。
いや、本能で知っているのか?心を揺らす。
「黙れ!・・お前には、関係ない!」
するりと、体を寄せ・・耳元に囁く。
「・・誰を見てる?」
!!
知っている。彼が、私の友達を見ていること。
そして、私は・・見ていない。そんな・・彼を。
今はまだ、逃げている。
「オオカミ様ぁ~~」
助かった!
甘い声に、「ちっ」と、舌打ちしたオオカミは私から離れる。
「歌毬夜、俺から逃げられると・・思うなよ?」と、走り去る。
「ちょっと~?築嶋さぁん?」
赤月 杏。
「何?」
「
前にも言ったけど、彼は・・私の獲物なんだからぁ。」と、唇を色っぽく舐める。
女の私でも、ドキッとする。
「・・逃げたわよ?」
「ふふ・・。燃えるわぁ。」と、大きい胸を揺らし・・後を追う。
そして、「杏、ダメだよ!危ないから~」と、べた惚れの稜氏 潤。
「・・・・。」
彼らも、一応親の決めた許婚だと聞いた。
「おはよう。歌毬夜・・?どうしたの?」
そして、私の友達・・林五 白雪。
彼の視線の先にいる・・人。・・気付かないふり。
入学して数日しか経っていない。・・いつ、オオカミに目をつけられた?
誠志は、一学年上。まだ、学校で・・私も会っていない。
・・伝承は、奴の家にもあるのか?
かぐや姫は、月に帰ったのではなく・・おおかみに食べられた。
・・まさか、本当に・・食ったのか?
伝承は、口伝え・・伝言ゲームと同じ。信用度は、少ない・・。
「さっき、誠志さんと会ったよ。」
「そう・・。私は、まだ・・学校で会ってないな。」と、作り笑い。
「ん。誠志さんも、そう言ってたよ?
高校生活は、大丈夫だろうかって・・心配してた。」
にっこり笑う・・白雪。白い肌に、赤い唇・・。
純粋な彼女は、男性が優しくしたいと思うだろう。・・そして、王子様も。
「歌毬夜。きれいな、真っ直ぐの髪・・羨ましい。」と、白雪は優しく触る。
【グイッ】
・・?引っ張られ、バランスを失う。
「え?」
「本当だ。・・ね、白雪。」と。
!!?!
「オオカミ?!」
杏に追いかけられ、いなくなったのは・・ついさっき。
「いい匂い。」と、髪を口に入れた。
「ぎゃ~~!汚い!!」
オオカミの手から、髪の毛を奪い取り・・ハンカチで押さえる。
【ドンッ】と、突き飛ばして・・水道の蛇口に走った。
汚い、汚い~~!!信じられない!
石鹸で洗う。
「歌毬夜・・。必死だね~。」と、オオカミはクスクス笑っている。
お前がしたくせに~~。
「・・?白雪は・・?」
さっきまでいたのに・・?
「あぁ。あの子、天然だね~。
俺が見てるから、教室に入れって・・ぷぷ。あははは・・」
あぁ・・想像がつく。
「男は、ああいうのが可愛いんだろ?」
「・・妬いてるの?」
「・・・・。」
オオカミの手は、また髪に触れる。
「!!」
慌てて、取り上げようとした私の手をつかむ。
「・・放せ。噛みつくぞ?」
ニヤリ・・と、オオカミ。
「いいよ。噛んで・・。」
・・エロい。
何で、同じ言葉が・・いやらしく聞こえるのか。
「はぁ。・・何が目的だ?」
私は、伝承を・・思い出す。
『決して、目を見てはいけない。
耳を傾けるな。決して・・』
オオカミの目の色が、緑色。
「歌毬夜・・。俺の目を見て?聞いて、俺の声を・・」
【ドキンッ・・】
「ぃ・・嫌だ!」
目を背け、オオカミを見ずに・・その場を離れた。
何だ?・・何が、どうなって・・?
心がざわつく。奴の声が・・今も耳に残っている。
何だ、これは・・。
「歌毬夜?・・どうして、ここに?」
誠志・・!
「助けて・・。」
必死だった。




