大樹の伝説
その学園には、一本の不思議な大樹があった。
国を支える大樹は少年の歌を糧に生きるのだった。一度歌が歌われれば、大樹は生まれ変わり、光を帯びて輝くのだという。
その光は、歌い手によって様々にかわった。燃えるような橙色の時も、穢れを知らない白銀の時もあった。歌い手の魂の色を映しているのだと、人々はささやいた。
ある時のことだ。一人の子供が大樹に歌を捧げた。大樹はそれはそれは美しく輝き、宵闇色の深い光が辺り一面を舞った。
人々はあまりの美しさに涙を流した。その美しさは今まで誰も見たことがないものだったからだ。人々は少年を賞賛し、崇め、敬った。誰もが彼のようになりたいと願った。誰もが彼の歌を聞いていたいと望んだ。
けれど、それから一年と経たぬ内に、少年は姿を消してしまった。
その日を境に、大樹は誰が歌を歌っても光らなくなってしまう。
一年経っても、十年経っても。どれだけ歌が捧げられても。
そして次第に、人々は口伝えで話を聞くだけとなり……いつしか一つの伝説ができた。
真実の歌が捧げられ、大樹がそれに応じる時、大樹は美しく輝く、という伝説が。