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少年は闘う。

 翌朝、僕は制服のポケットに地球破壊爆弾を忍ばせながら学校にむかった。


 こいつがあれば、なにも怖くない。お守りというには、あまりに物騒だが、少なくとも僕には「〇〇大社」とか「〇〇天満宮」と書かれたちっぽけなポチ袋よりは頼りになるように思えた。




「おお、高見ちゃんじゃん。昨日、教室でちんこをさらした変態野郎のくせに、よくもまあのこのこと来れるねえ」


 龍二が、感心したようにつぶやく。実際、彼はまさか僕が昨日の今日で学校に復帰できるとは思ってなかったのだろう。


 僕はやはり返事をせずに、教室を見渡す。


 いた。藤崎さんは、心配そうな表情でこちらを見つめている。わかっている。彼女が僕になんらかの特別な感情を抱いているなんてことは万に一つもないだろう。僕もそこまではうぬぼれてはない。


 ただ、藤崎さんは優しいのだ。そしてその優しさは、どんな相手にも分け隔てなく注がれるだけだ。


 要するに僕は、ちょっと女の子に優しくされただけですぐに好きになってしまう、どうしようもない童貞野郎というだけだ。


 だけど、好きになってしまったものはしかたがない。


 ここで気づいた。こんなにもじぶんの心情を客観的に見つめることができたのははじめてのことだった。やはり、ポケットの中のあいつが僕に力を与えてくれているのだろうか。


 そういえば、ちょっかいを出してきた宇野も、うしろで控える大塚もあまり怖くなかった。


 もしかして。僕ははたと気づいた。ヨオゼルは教えてくれなかっただけで、地球破壊爆弾には持つものを強気にする不思議な力も備わっているのではないか。


「おい、聞いてるのかよ!」


 無視されて気持ちを害した宇野が、僕の机を蹴飛ばす。そんな彼のようすが、なぜか今日は滑稽に映って見える。


 言える。そう思ったときには、僕の口は知らずに開いていた。


「おい、やめろよ……」


 慣れない機会で、慣れない言葉を発したためか。語尾が震えてしまった。


 すぐそばまで近づいて来ていた大塚がそれに気づき、小馬鹿にしたように言う。


「おい、無理すんなって。びびってるのバレバレだから」


 バカにしたような表情で、大塚は僕の顔に大きな顔面を近づけてくる。口が少し臭い。今朝、納豆でも食べたのだろうか。がさつな大塚のことだ、もしかすると起きてから、歯も磨いていないのかもしれない。


「――近い」


「あっ」


 開いた彼の口から再度、生臭い匂いが漂ってくるのと同時に、僕は頭をかるく後ろに下げてから、それを勢いよく彼の顔面にぶつけた。


 ガツンといい音が響く。同時に僕の心の靄が一気に晴れたような気がした。


 すっきりした。その言葉がぴったりだった。


 大塚は思わぬ反撃によろめき、尻餅をつく。運動習慣のないもやし野郎でも、頭だけはしっかり固く武器になる。そういえば昔、ちびでひょろい主人公が頭突きを必殺技にして勝っていくヤンキー漫画を読んだことがあるが、

存外あれは正しかったのだな。


 大塚の顔の中心部が赤い。鼻血だ。左手でそれをぬぐい、信じられないといった表情で見つめている。全身がぷるぷると震えはじめた。宇野は、そのようすを心配そうに見つめている。


「てめえ……」


 僕は身構えた。もはや、不意打ちは通用しない。


 だけど、やってやる。なるようになれだ。


 そう思い、見よう見まねのファイティング・ポーズを取ったと同時に、大塚が咆哮をあげながら突っ込んできた。恐怖を覚えたが、逃げようという気は不思議と起きなかった。


 大塚の右ストレートが僕の顔面に刺さる。比喩ではない。あの痛みは、刺さるとしか言いようのないものだった。僕は、それこそ漫画のようにぶっ飛ばされ、机に突っ込んだ。二、三個の机を巻き込み、僕は倒れた。机はひっ

くり返っていた。


 突っ伏しながら、こみ上げる涙を我慢し、僕は大塚のようすをうかがった。大塚は興奮のあまり肩で息をしながらこう言った。


「いじめられっ子が、調子に乗るんじゃねえぞ! 勝てると思ったか、バカが!」


 勝ったはずなのになぜか捨て台詞を吐き、大塚は教室を出ていった。宇野は慌ててあとを追う。その姿をうるむ目で見つめながら、僕はなぜか満足感に浸っていた。

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