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太陽がめいっぱい

「俺をどうするつもりだ!!」

 手術台に拘束された俺の周りに怪しげな医師団が集結していた。

 中にちらほらと見た顔――手術衣姿のアンリや自称唯一神のぬいぐるみも混じっている――が、こちらの叫びを無視して執刀医らしい螺髪(らほつ)の男性に声をかける。

「では、ゴーダマ先生。実験体番号XYZ340号の改造手術をお願いします」

「うむ。任せておきたまえ」

 諸行無常、と唱えられながら迫るメス……ではなくてノミと謎のドリル。

「や、やめろシャ○ーっ!! ぶっとばすぞー!!」





 ◆◇◆◇





「――うわっ!?」

 座ったままいつの間にかウトウトしていたらしい。

 ろくでもない悪夢を見て飛び起きた俺は、早鐘のように鼓動を鳴らす心臓に手をやって深呼吸をしながら気を落ち着け、ふと、気になってチョロチョロと燃える焚き火の向こう側――麻織の毛布に一緒に包まって眠るアンリとレミの二人に視線を向けたが、幸い思ったほど大きな声は出さなかったらしく、二人とも起きる様子はなかった。


 自然、丈の短い毛布から剥き出しになっている二人の白い足に視線が引き付けられ……覗き見しているかのような罪悪感に、俺は慌てて視線を逸らすと、消えかけている焚き火に用意しておいた薪をくべ、それと『結界香』とレミが言っていたドクダミに似た形と臭いの草を一緒に燃やした。

 なんでもこれの臭いは虫や獣除けになるとのこと。この世界(グリアス)であれば常識だそうだが、このあたりアンリも知らなかったみたいでしきりに感心していた。


 そういう面から見てもレミが同行してくれるようになったのはやはりありがたい。アンリはアンリでなんだのかんだの言って魔法(正確には違う上に、本人曰く「この世界(グリアス)では制限があって、ほとんど使えない」そうであるが)や何気ないやり取りで俺たちの支えになってくれてるし……あれぇ?そう考えると、ひょっとして俺いらないんじゃね??


 ・・・むぅ、そこに気づくとは、やはり天才か。


「…あれ?」

 一瞬、自称唯一神の声が聞こえたような気がしたけれど、…どうやら空耳だったらしい。

 まあ、それなのでせめて足手まといにならないよう、二人が寝ている間の番を買って出たわけだが、この体たらくとは我ながら情けない。

 本当に俺なんかが勇者になれるかわからないけれど、せめてこの二人の眠りくらいは護れる強さが欲しい。そう思った。





 ◆◇◆◇





 インド人は牛は食わない。

 アラブ人は豚を食わない。

 天使は殺生を嫌い。

 エルフは菜食主義者(ベジタリアン)

 ・・・そんなふうに思っていた時期が俺にもありました。


 鍋からグツグツと良い香りが漂ってきた。

 野生のハーブと手持ちの調味料とで味付けをして、小枝を削って作った即席のオタマで念入りに灰汁(あく)取りをする。


 手馴れた仕草で鍋をかき混ぜていたアンリは、こんなものかな?という感じで軽く小首を傾げると、澄んだ声と笑顔とを俺達へ向けた。

「二人とも~、タヌキ汁ができましたよー♪」


 異世界で天使がタヌキ汁作るとかシュールだなぁ・・・と思いつつ、念のために周囲を警戒していた俺と近くの森で食べられる木の実を取っていたレミは、焚き火の元へと戻ると適当な石や倒木を椅子代わりに腰を下ろした。


 現在の時刻は2の太陽が落ちて、目測では3の太陽が昇ってだいた2時間といったところだろう。

 朝食に鍋物とか少々重いが、昨日旅立ってからの食事が全て木の実と果物、レミが持参してきた固いクッキーのような保存食だったので、正直動物性たんぱく質で温かいものとかかなり嬉しいチョイスだ。


 ちなみにこの世界(グリアス)の一日はおよそ50時間あり、4つの太陽が規則正しく周回している。

 1の太陽は春の日差しのような穏やかな光を放ち。

 2の太陽は黄昏のような物悲しい光を放ち。

 3の太陽は焼け付く日差しで暴力的なまでに大地を照らし。

 4の太陽はまるで月のような光で闇の中、世界を静かに見守る。


 そんなわけで、基本的にグリアスの人間は1と3の太陽の出ている間に働き、2と4の太陽が昇ると就寝するというパターンらしい。


 なお食事の準備は分担で、今回はアンリが手頃な石で竈を作り枯木を集めて火を起こしてる間に、俺が周囲の安全を警戒しつつ、レミがそこいらに生えていたキノコや野草・山菜の類を集めるという形になった。

 あとは手持ちの保存食を使って……と思っていたが、幸いレミが昨日のうちに仕掛けておいた即席の罠に、食用できる鎧狸(アーマーラグーン)が掛かっていたので、これをレパートリーに添えることにしたのだった。


 で、我に返って思ったのが、キーキー喚く生の鎧狸(アーマーラグーン)を前に、お嬢様方がどう反応するか……てゆーか、天使やエルフって「生き物の命を奪うなんてとんでもない!」っていうイメージがあるから、こんなもん持って行ったら地雷踏みそうな気がするなぁ……。

 まあ最悪、こいつは逃がして、また果物と保存食で腹を満たすしかないかな?


 半ばそう覚悟したのだが・・・


「肉♪肉♪久々のタンパク質ですねー。もうちょっと量があれば保存食に回せたんですけど、少ないので捨てる臓物以外は使い切っちゃいましょう」

「お姉さま、モツはモツで美味しいですよ?」

「ん~~、でも処理が大変なので今回は無理ね」

「残念です」

 あっさり絞め、血抜きをした鎧狸の皮を剥いだり、内臓を取ったりしながらキャッキャと盛り上がる二人。

 

 まあ、アンリが「料理は任せてください、"神の手を持つ料理人”と一部で言われたりしたほどですよ」と自信満々に請け負ったことに一抹の不安を覚えていたが、意外なことに口だけ番長ということはなかったらしい。手馴れた様子で得物を捌いて、野草・山菜の種類を判別して軽く下茹でなどもしながら、ものの小一時間でタヌキ汁(スープ)と、木の実と小麦粉をこねて焼いたパンと、きれいに彩りを加えたサラダとを作ってしまった。


「さあどうぞ召し上がれ。熱いから気をつけてくださいね」

 ドーリアという大きさがバナナの葉の半分ほどで、形は笹に似ている厚くて丈夫な葉で編んで作った即席の器に盛ったスープと小枝で作った箸が差し出された。

 3人分の器がなかったので、お手製で準備したらしい。

 このあたりの気遣いはさすがに女の子――というか、天使な見た目どおり口に銀のスプーンを入れて生まれてきた人種なのだろう。

「ありがとう」

「どういたしまして。お口にあえば良いのですけれど」

 全員分配り終えたところで、おのおのが感謝の祈りやら「いただきます」やらを捧げ食事となった。


「ふーふーっ…うんっ、美味いっ!」

 調味料と言っても塩くらいだが、香草(ハーブ)を上手に使って肉の臭みを消して、シンプルながら上品な味に仕上がっていた。


「ありがとうございます♪ お代わりはまだまだありますので、遠慮しないでくださいね」

 満更でもない様子で、自分の分のスープに口をつけるアンリ。

「お姉さま、美味しいです!」

 見よう見まねで箸を使いながら、レミも顔全体をほころばせた。


(てか、女の子の手料理を食べるなんて小学校の調理実習以来かも……あ、なんか泣けてきた)

「どうかしましたかマスター? 目元が潤んでいるようですけど…?」

「い、いや、これは結界香を焚いた煙で…炎の臭いが身についてむせてるというか…」

 咄嗟にわけのわからない説明をして誤魔化す。


 そんな感じで和気藹々と食事は進み、最終的にスープも一滴残らず3人の腹の中へと消えたのだった。





 ◆◇◆◇





「そういえばこの世界って魔法があって、魔法使いっているんだよなぁ」

 お腹もくちくなり、まったりと食休みしていたが、ふとアンリが初歩的な魔法で作り出した『水球』(ウオーター・ボール)で鍋を洗ったのを見て、この機会に、なんとなく気になっていたことを訊いてみた。

「いますよ」

 あっさり頷いたアンリは、あくまで大雑把な区分けですけれど…と前置きしてから、指折り数え始めた。

「系統に従って体系化して魔術を使うのが一般的な『魔術師(マジシャン)』で、国に雇われたり宮廷魔術師とかいって世俗的な権力をもっているのが『魔法使い(ウイザード)』ですね。邪教とか古代宗教とか世俗の価値観に合わないのが『妖術師(ソーサラー)』で、未開の部族とか少数民族とかが精霊や祖霊の力を借りてると自称しているのが『呪術師(シャーマン)』です。あと実践ではなく研究している人を『賢者(メイガス)』…複数形だとマギとか言ったりします」


 まあ実際のところは、大本は全部同じで大気中の魔素を運用しているだけなんですけどね。と苦笑しながら付け加えるアンリ。


 荷物をまとめていたレミも興味深そうな顔で、こちらの話に耳を傾けている。

 どうやら彼女なりに俺たちが使っている日本語を覚えようとしているらしく微笑ましい。また、俺も逆に旅の合間に簡単な単語をレミから習ったりしている。


「じゃあ俺も訓練とかすれば魔法が使えるようになるわけ?」

 異世界トリップのお約束の魔法力がチートで、簡単に俺TUEEEになれる展開とかちょっと期待してみた。


 するとアンリは静かに微笑んで、

「マスター、あなた疲れてるのよ。常識的に考えて人間が魔法なんて使えるわけないじゃないですか?」

 可哀想な人を見る目を向けられた。


 いきなり剣と魔法の世界を否定する発言がきた!!!


「ちょっとまてっ! さっき魔法も魔法使いもいるって言ってたろう!?」

「…ああ、語弊がありましたね。魔法を使えるのは『魔法使い』という生き物であり、普通に人間は使えません」

 要するに、グリアスでも魔法を使えるのはそういう器官があるごく一部の変異者(ミュータント)であり、もともと魔素の存在しない地球人類は、祈ろうが修行しようが30歳まで童貞を守ろうが無駄ということだ。


「ちなみにここの部分に『魔法袋』という器官があります」

 小枝で地面にちょいちょいと『グリアス人解剖図』と描かれた人間らしき生き物の胃の下あたりに矢印が打たれ、『まほう袋』と流麗な字で注釈された臓器や「口から火を吐いたりする」「手からビームが出たりするかも」と書かれていたりした。

「ウル○ラ怪獣図鑑?!」

「まあマスターから見れば宇宙人も同然ですね。とはいえ、この場合アウェーな宇宙人なのはマスターの方ですけど」

「うえ~・・・」

 黒服の男たちに両手を持たれて力なく、どこぞの基地に連行される自分の姿が想像できた。


「つまり俺には魔法チートはなし、と?」

「現状、マスターの有様は限りなくニートに近いですけどねw」

 誰が上手いこと言えと……。


 まあ使えないものは仕方ないが、そもそもの疑問なのだが、どうやって勇者しろって言うんだろう俺に?

 そこで、ふと・・・今朝見た悪夢を思い出した。

「――そっか、てっきりお前らのことだから、そのあたり…俺の知らない間にチートな改造手術完了済み、とか言い出すのかと心配してたんだけど・・・」


 ガ…ガタガタガタガターーーーッ!!!!


 その瞬間、アンリの手が滑って洗い終わった鍋が地面に転がった。慌てて鍋を拾うレミ。

「……をい?」

 そのまま、吹けない口笛を吹くフリをして、冷や汗を流しながら、なぜか視線を合わせようとしないアンリ。

「おい、まさか…まさか、まさか本当に変身ヒーローとかいうオチなのか?!?」

「そそそそそそそそんなことないですよー!」

 嘘だっ!

「俺の身体になにをした?! 吐けっ!!」

 肩をつかんでガクガク揺らしながら詰め寄ると、さすがに観念したのかしぶしぶ視線を合わせてきた。

「――別に必要のない改造をしたわけじゃあないですよ」

 改造したのは確定なわけな。


「マスターは、“宇宙戦争”っていう古典SFをご存知ですか?」

「あーあれか…蛸みたいな火星人が攻めてくるやつで、スピルバーグが監督でトム・クルーズが主演した映画にもなったっけか?」

「そうですそうです。宇宙人の巨大メカに世界中の軍隊が負けるんですけど、唯一、大阪だけは阪神ファンが寄ってたかって道頓堀に突き落として倒すんですよね♪」

「なにその原作レイプ?!」

 そんな話じゃなかったぞ!


「で、あの火星人って地球のウィルスに感染して自滅したわけですけど、同じように地球にはないグリアスのウィルスにマスターが感染しないように処理をしたのと、あとこちらの世界の食べ物ですけど、地球人には栄養素として吸収できないものも多々あったので、それらを吸収できるようにしたりと」

 ふむ。確かにそれなら納得できる。

 こちらの意向を無視しての暴挙というわけではなく、必要最小限の救済措置といったところだろう。


「まあ、主神様や直接執刀された神仏方は途中、興が乗って暴走しかけましたけど…」

 と安心したところで、例によって不安を煽られる。





 ◆◇◆◇





『定石なら、ぶっちゃけ努力とか才能とかと関係なく、異世界で無双できるくらいの強力な腕力とか超能力とか特典で付けるべきだろう?』

『ふむ・・・まあ、もともと本人のスペック内であればある程度都合はつくが、さすがに人類を超越した能力とかは難しいな』

『なら後付け装備で底上げするか?』

『とりあえず魔力がないことには始まらないので、魔力をもった第三の眼でも移植するか?』

『・・・魔力だけあってもコントロールできないと意味がないのでは?』

『それでは、魔力コントロール用の頭を2~3個外部に増設するか」

『三面六臂形態か、ちょっとありがちで意外性がないな』

『じゃあ顔ON顔で縦に直列繋ぎにして、さらにビーム兵器を付けましょう! なんか天元突破できそうだし!』

『直列か。パワーはあっても寿命が短くなりそうだな』

『だいじょうぶ、彼もきっと勝つためには明日を捨てる覚悟さ』

『なるほど、ところでビームはもちろん目からでる方向で良いのだろうな?』

『ちくビームも捨てがたいところだな』





 ◆◇◆◇





「と、魔改造方向で話がまとまりかけたのですが、ベースが地球人ですので、ぶっちゃけビ○ザムをガ○ダムに改造するくらい難易度が高いということで、今回は必要最小限で見送ったそうですけど・・・どうしましたマスター?」

 安心しすぎて腰が抜けた。


 良かった。本当に良かった。出ちゃいけない場所からいきなりビームとか出たら、その場で舌噛んで死んだほうがマシだった。

「……じゃあ妙なチートとかはなし…なんだな?」


「ええ、大丈夫ですよ」

 自信ありげに頷くアンリ。

「改造なんていっても本当に少しですから…先っぽだけですよ♪先っぽ♪ それに主神様曰く「命の危険が迫った時のための安全装置(ブレイカー)は装備しておいた」といっていたので今後何かあったときでも安心です」


「なにそのザンボットな人間時限爆弾?!」

 一番聞きたくなかった台詞を聞いた!


「さあ? よくわかりませんけど、「命の危険が迫った時」と限定してるので・・・例えば瀕死の状態になるとパワーアップするとか?」

 なにそのサ○ヤ人!?


「激しい怒りで覚醒するとか?」

 クリ○ンのことかーーーっ!!!

すみません魔法の説明だけで目いっぱいになって、予定のバトルまでたどり着けませんでしたm(。≧Д≦。)m

ということで、タイトルも予定を変更しました(;;)

内容的には幕間という感じですね。

そんなわけで、次回こそ『必殺技!?暗黒流れ星!!』(仮)の予定です。

ファンタジーでおなじみのあの初級モンスターもでます。

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