平静と情熱のあいだ
「許せんでござるあの男っ、拙者がなにを言っても『その時間、その場所で該当する凶器を持ってうろついていた赤い人物はお前だけだ』とそればかりで! ――赤けりゃ犯人だったらサンタクロースも海底少年マリンも郵便ポストも全部怪しいでござる!!」
翌朝、保釈後――まああくまで証拠がないので重要参考人として取調べを受けただけで済んだのだが――なお憤懣やるかたないという風で、保養所にある食堂の長テーブルに座ったチハヤは猛り狂っていた。
「というか、海底少年マリンって『♪赤いスーツに』て無理ありますよね~。どーみてもオレンジですよねアレ」
「郵便ポストが出刃包丁持って夜中に歩くわけないだろうJK」
「サンタは確かにドイツの方の民話ではナマハゲみたいな扱いで、悪い子は夜中にさらっていくとか、斧で滅多切りにすると聞いたことあるなー。そう考えると可能性は高いけど、そもそもサンタが赤い服着てるのは某炭酸飲料水メーカーの宣伝で、もともとは緑だった筈……でもまあ一応探してみるか? グリアスになら居そうな気もするし」
「ものの例えでござる! あんなザルな推理というのも烏滸がましい決め付けなら誰でも犯人扱いされるという意味でござる!!」
アンリ、アレッタ、俺の突っ込みと提案に、バンバン机を叩いて反駁するチハヤ。
「ですからうちの備品を粗略に扱わないでと……聞こえてませんわね」
嘆息するクラグィア。
ちなみに長テーブルの片側上座にチハヤが一人で座り、反対側に俺、アンリ、クラグィア、アレッタ、レミ、リリアーナが座り、クリスティーヌが定位置の俺の、ギャリソンさんがクラグィアの後ろに立って控えているという位置取りである。
「……そういえば昨日はなにげに全員で拙者をDISって居たようでござるが」
じろりと座った目つきで見られて、俺たちは反射的にばっと目を逸らした。
「・・・まあ、それはともかく」
ずずずーっと湯飲みで麦湯(炒った麦を熱湯で煮出したもの)を一口飲んで気分を落ち着かせたチハヤが、無理やり平静を装った声で相談……というか半ば意見のごり押しをしてきた。
「このままでは拙者の気が済まないでござる。なんとかあの男に目にモノ見せてやらねば気持ちの持って行き場がないでござるよ」
「「「「「「「え……!」」」」」」」
同時に驚愕とも戦慄ともつかない声をあげた俺たちを不審の目で見るチハヤ。
「それほど可笑しなことでござるか?」
平然と問い返すチハヤを思わず窘める。
「――いや、だっていくら腹の虫が収まらないからって安易に人殺しは、なあ?」
「それはまあ…チハヤちゃんなら夜陰に乗じて後ろからバッサリで、証拠は消し炭まで残らないでしょうけど……」
「ああいう組織は身内が殺されると個人個人がムキになりますから、どこまで押さえられるか正直自信がありませんわ」
「チハヤちゃん、相手の人も仕事なんだから、それで逆恨みして斬るなんてよくないよ」
「先生も言ってたよ、刀は確かに人を殺める道具だけどただそれだけのために使うんだったら刀は必要ない、ただの棒でも人は殺せる。だから自分が刀を託すのは刀を愛してきちんとした目的に使ってくれる人にだって」
「イエス、自分も目の前で理不尽な殺人が行なわれるのを看過できません」
「激しく同意」
「お~~~ぬ~~~し~~~ら。拙者をなんでもかんでも刀で斬って解決する辻斬りかなにかと勘違いしておらぬか!?」
「「「「「「「ええ……っ!!!」」」」」」」
自分では違うと思ってたのか!? と愕然とする俺たち。
「そんなことするわけないでござろう! 拙者が申しているのは、我々の手で真の下手人を見つけ出し、あの無礼な男に土下座させ、挙句『ほーっほほほほっ、本当にお主らこんな犯人も見つけられないなんて、ほんに虚弱貧弱無知無能の税金泥棒でありますこと、空気を吸って二酸化炭素を放出するのももったいないので豆腐の角に頭ぶつけて自殺した方が世のためですわ。おーっほほほっ!!』といった具合に莞爾と高笑いをするという意味でござるよ!」
「……あの、チハヤ様。いまのもしかしてわたくしの物真似でししょうか?」
クラグィアの口元が引きつってるが、まあだいたい合ってたので誰からも異存はでなかった。
「――ということで、全員が一丸となって真犯人を見つけ出すでござるよ! 各々方よろしく頼むでござるっ!!」
そう言って力いっぱい拳を頭上に差し上げるチハヤとは正反対に、緩慢な動作で明らかに全員『うわぁ、面倒臭ぁ~』と思いながら、
「「「「「「「……おー」」」」」」」
力なく手を上げた。
「くっくっくっ……見ているがいい真犯人め、そしてルスめ、当方に迎撃の用意あり。拙者をここまでコケにしたこと、こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か。今宵の紅蓮は血に飢えておるわ・・・!!」
そう独りごちながら刀を抜いて不敵に嗤うその姿はどーみても妖刀に魅入られた辻斬りにしか見えなかった。
それにしてもこのメンバーで殺人事件の真殺人犯探しねえ・・・。
チハヤは容疑者扱いされた八つ当たりから人斬ることしか考えてない。
アンリは勇者とその仲間が活動中に人を殺してもノーカンだと考えてるし。
クラグィアは最終的に金でケリをつければ良いと思っているし。
レミとリリは協力してくれると思うけど戦闘以外は基本的に戦力外だし。
クリスは州警よりも短絡的に夜中に湖の周りいる怪しげな相手を鏖殺しすれば犯人も斃せると考えてそうだし。
アレッタは「わかった!犯人はサムか美樹本だわっ!」と既に捜査を霍乱してるし。
オワタ\(^o^)/ なんか最終的に辻褄合わせに州警の本部が爆破されて『THE END』となる展開しか予想できない。
「……まあ取りあえず、これまで確実にわかっていることを整理してみよう」
はっきり言って迷宮入り前提で俺は適当に口裏をあわせることにした。
それにしても、かつてこんな投げっぱなしジャーマンな探偵役が存在しただろうか?
どっかから死神小学生の腕時計型麻酔薬の針でも飛んでこねーかな、うちの女子なら一緒に行動しても誰も死なないと思うし。
「被害者は昨日…いや、一昨日の晩に酒を飲んで一人で帰宅しようとしていた貴族の三男坊…あれ、四男だっけか? まあどっちでもいいけど、これが深夜に滅多刺しにされて殺された…これが一つ。
犯人は不明だが、その貴族の従者がその場から立ち去る赤い影を目撃している…これがもう一つ。
使用された凶器はかなり鋭利な刃物で、形状から刀に似ている…これが一つ。
同時刻、刀を持ったチハヤが湖の周辺にいたが、どこにいたかそのアリバイを立証する相手はいない…これが最後の一つ。
以上のことから州警の担当者ルスはチハヤをこの地区に現れる謎の通り魔“赤男”もしくは、最低でも今回の事件の犯人と見做している」
ふむ――と、ゆっくり頷いた俺を皆が興味津々と見つめている。
「妥当な判断だ」
「ちょっと待つでござるっ!! 主殿まで拙者を犯人扱いいたすのでござるか?!」
血相を変えるチハヤを「まてまてまだ続きがある」と、なんとか宥め賺して俺は話を進めた。
「あくまで一般論としてだ。実際には知らないだけで他にも刀を持った犯人が潜伏してるかも知れないし、金曜日限定でマスクをかぶった殺人鬼が湖から現れるかも知れない、或いはBF団に所属している仮面の忍者がいたのかも知れない、ひょっとすると聖杯戦争に関連してどこぞの英霊が弓兵として呼び出されたかも――と、とにかく可能性としては無限にあるけど捜査する方では、そうした枝葉とも思える可能性は排除する方針なんだ。
例えばチハヤだって、後で食べようと思っていた菓子がなくなっていて、探したらアレッタの口元に菓子の粒がついていた。問い詰めても『アタシ食べていないし~。寝てる間に誰かが口元に付けてったんだと思われ』とか言われたらどう思う?」
「アレッタ殿の腹をぶち割って中身を確認いたします」
うおっ――と青い顔でお腹を押さえるアレッタ。
「……いや、まあ…普通は信じないだろう? 可能性として一番高いところを疑うわけだ」
「ああ、なるほど“オッサムの剃刀”ですね」
アンリもその論理に覚えがあるのか合点がいった様子で大きく頷いた。
「おねえさま“オッサムの剃刀”ってなんですか?」
他の皆と同様、頭の上に疑問符を浮かべていたレミの質問に、アレッタがありもしない髭をさするようなジェスチャーをしながら答えた。
「良い質問だねレミ君。では質問に答えよう、オッサムという人物、これはもともと貧乏な床屋だったのだよ。毎日毎日赤字続きだったオッサムはある時一計を案じた、神学者でもあった彼は天使や女神が良く通る通り道に毎日毎日ダンボール箱をかぶって潜伏し、目的の相手――幸運の女神が通るのを待ち構えていた。そしてついにある日、目当ての女神が通りかかった!
この時を待っていたオッサムは慌てて飛び出そうとする逸る気持ちを抑えて、女神が通り過ぎようとした瞬間、箱から跳び出し、驚いて逃げようとした女神の後ろ髪を掴んで捕まえることに成功したのさ。
これ以後、女神のお陰で商売は大繁盛したんだけど、自由を奪われた幸運の女神はオッサムの死後、反省と後悔からオッサムが使っていた剃刀で長かった髪をばっさり切って、前髪だけ残してツルツルに剃り上げるというファンキーな髪型に変えてしまったのだよ。
で、ここから転じて“オッサムの剃刀”とは極端なやり方は極端な結果を生む、という意味に使われるようになったというわけさ。何事も単純が一番という意味だね」
「「ウソなので信じるな(信じないように)!!」」
納得しかけた一同に俺とアンリが同時に注意した。
「オッサムは哲学者だ。まあ神学者なのも確かだけど、彼は『ある事柄を説明するためには、必要が無いなら多くのものを定立してはならない・少数の論理でよい場合は多数の論理を定立してはならない』という思考節約の原理を提唱した人物。よーするに不必要に仮説を立てるなという意味だ。
で、今回は殺人という事象に対して、『赤い人物』『刀』『犯行場所』『アリバイなし』という最小限の仮説に該当する人物としてチハヤが当てはまったということだ」
俺の追加説明に『なるほど』と今度こそ理解する一同。
ついでにアンリがアレッタをじろりと横目で見て嗜めた。
「あとアレッタ。貴女ねぇ少しは自重しなさい。幸運の女神のあの髪型は生まれつきなんだから、いちいち会うたびに『いやぁ、女神様今日もハゲしく輝いてるねぃ』とか『太陽拳っ!!』とか変なポーズつけて挨拶するの止めないと、すっかり彼女お冠でそっちの部署に足を運ばなくなって、なんか碌な事ないって直属上司の力天使が嘆いてたわよ」
「パンがなければお菓子を食べればよいではないか、幸運の女神が来ないなら前髪を掴んで引き摺ってくれば良いでゎないか、とレオナルドなダビンチも言ったり言わなかったり」
そんなアンリの何気ない言葉に『幸運の女神がハゲって本当なのか?!』と『アレッタがいると幸運が来ないのか!?』と二重の意味でショックを受ける俺たち。
特に幸不幸が商売に直結するクラグィアとしては看過できない事柄らしく、
「あのアンリエット様、前から一度お聞きしようと思っていたのですけど、アレッタ様って確か貴女がご不在の間の代理でしたわよね? どうしてアンリエット様がご帰還後もこうしていらっしゃるのでしょう?」
丁寧に尋ねているが、「なんでさっさと返送しないの?!」と言外に匂わせていた。
「それについてはあまり気にしないでいいと思われ。あまりしつこいと、どうしてちゃんと言われるお」
本人が気楽に答えるが、さっきの話を聞いた上ではもの凄く気になるんだが。
そうした全員の視線に促されて、アンリがしぶしぶ事情を打ち明けた。
「それがその…当初こちらに戻る日程が本決まりでなかったので、最大100年の幅を取っていたところ、アレッタの直属の件の力天使から、天国の門の前で『当初の予定通り100年くらい戻さなくても大丈夫です! いや、戻さないでくださいお願いしますっ』と手土産の練羊羹と一緒に土下座させられ、場所が場所だけになんとか断ろうとはしたんですけど…」
ここで遠い目になり、深い深いため息とともに続けた。
「『本当にすまないという気持ちで…胸がいっぱいなら…! どこであれ土下座ができます…! たとえそれが…肉焦がし…骨焼く…鉄板の上でもっ……!』と決意を込めた目で見られ、実際に焼けた鉄板まで運ばれてきたもので……」
ああ、断り切れなかったのか。
「うんうん。アタシの出張のために頑張る上司、それに応えないと! 運営乙!」
いや、それ単にお前が職場で煙たがられているだけだと。。。
「まあ、世の中には『不幸だ不幸だ』言いながら、なんとかさんを始めハーレム築いている主人公もいるので、あまりそういうことは気にしなくても大丈夫だと思いますよ」
「そーいや勇者って実際にこれなんてエロゲって感じでハーレム築いてるもんなー」
アンリとアレッタのフォローとも呼べぬフォローに気を取り直して、俺は話の続きを再開した。
「まあそんなわけで州警の見解はチハヤを第一容疑者にしてるが、証拠なんてなくてもそうじゃないのは俺たち全員、言われるまでもなくわかっている」
全員黙って頷く。
「み、みな・・・」
若干目元を潤ませるチハヤ。
「チハヤだったら斬って燃やすもんな」
全員勢いよく頷く。
「お、お主ら・・・」
涙目のまま肩を怒らせるチハヤ。
「そういうことで犯人は別にいるとして、事件を再確認しよう。まずは今回を含めて過去の事例の時間と場所についてなんだが・・・」
「それについてはわたくしの方で調べさせておきましたわ。――ギャリソン」
「はい、お嬢様」
先に準備しておいたのだろう、きびきびとした動きでギャリソン氏がテーブルの上に大きめの紙を広げた。
「過去20年間に遡って、殺人及び傷害のあった場所と時刻をこの地図に記載してございます。この赤い「×」印の部分が事件のあった場所で、過去に13件、うち殺人は今回の件も含めて7件で刺殺が4件、絞殺が2件、撲殺が1件となっております。また残り6件の傷害はいずれも鋭利な刃物によるもので、目撃証言ではやはり赤い影を見たとあります。また時刻は全て夜間のこの時期に集中してございます」
一件一件指差しながらの簡潔な説明に、感心しながらふと気になった点を訊いてみた。
「ほとんど場所が湖の北側に集中しているけど、この辺りってなにか特徴があるんですか?」
「特徴と言うか、なにもないのが特徴ですね。こちら側は基本的に観光以外では湖を含めて立ち入り禁止となっておりますので、夜間はまったく人気もございませんな」
「・・・そういえば拙者が見た湖の光もこの辺りで光っていたような気がするでござる」
難しい顔で考え込むチハヤ。
「――となると。なにかいるんじゃないかな、ここらへんに」
俺は湖の北側を指した。
「なにか……ですの?」
「ああ、化物か魔王軍か変人か。まあどーせこの世界じゃノックスの十戒なんて意味を成さないんだろうし、なんかいると考えて行動しよう」
「なんかマスターもだんだんこの世界に染まって来ましたね~。これを妥協と見るか、進歩と見るか、堕落と見るかは判断に迷うところですけど」
「元はといえばお前のせいだろーが、お前の!」
※ちなみに『ノックスの十戒』というのは推理小説を書く時の基本的なルールのこと。
内容としては、
1.犯人は物語の当初に登場していなければならない
2.探偵方法に超自然能力を用いてはならない
3.犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない
4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
5.C国人を登場させてはならない
6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
8.探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
9.“ワトスン役”は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
10.双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない
というもの。
「なあなあ勇者、なんでC国人は駄目なんだ?」
「『民明書房刊』読めばわかるだろう、昔からあの認識なんだよ…言わせんな恥ずかしい」
「あー・・・・・・」
「ちなみにこの辺りって立ち入り禁止の理由とかあるの?」
ギャリソン氏に代わってクラグィアが応えた。
「風光明媚な滝と真っ白い岩がございます。あくまで民間伝説ですが、かつて天使がその美しさに羽を休め、水浴びをしたという言い伝えの場所で……天使教教徒の多いこの地では半ば聖地のような扱いで、無断の立ち入りや建物の建造は禁じられておりますの」
「ああ、よくある鬼が洗濯した岩とか、偉い坊さんが杖を突いた穴とか、天狗が蹴飛ばした岩とか、昔の武将が入った隠し湯とかの類いだな」
よくある観光地といったところか。
「とはいえその辺りがくさい以上、一度その場所に行って潜って確認するのが手っ取り早い。……となると万一に備えてボートを用意しないと」
そう言った途端、クラグィアは困ったように小首を傾げた。
「あの……先ほども申し上げたとおり、一種の聖域ですので勝手にボートで入ったり、ましてや潜るなど――」
「…………え?」
「…………は?」
お互いに間抜けな顔を見合わせる俺たち。
「……クラグィア。君の両脇に座ってるのは?」
「アンリエット様とアレッタ様です」
「天使が水浴びした場所が立ち入り禁止なら、この前の浜は保養施設も含めて昨日から立ち入り禁止だよな?」
言われて一瞬考え込み、あっ!という顔で改めて二人の翼と光輪――ちなみにこうして比較してみると、アレッタの方はいかにも廉価版という感じである――を見やるクラグィア。
そう身近に居すぎて忘れがちだし、また伝説と聞くと非常にロマンチックに聞こえるのだが、実態としては目の前にいるこいつらを湖に放り込めば完成するのだから、考えてみれば馬鹿みたいにどーでもい話なのだ。
「そんなわけで問題なく潜るということで」
だが、ここで再度クラグィアは困ったように眉根を寄せた。
「ですが、漁師を雇ったとしても、長年禁忌として踏み入れなかった彼らが果たしてその場所に潜れるのか……。難しいと思いますわ」
「…………はあ?」
「…………はい?」
再度顔を見合わせる俺たち。
「別に誰か雇わなくても自分らで潜れば良いじゃないか?」
「は? わたくし泳ぎはできませんけれど・・・?」
「「えっ!?」」
俺とアンリの驚きの声がハモった。
「だったら私を技に追い込んだ、あの3分間の無呼吸連打はなんだったの?!」
「なんなんですの、それは!?」
アンリの素っ頓狂な声に、クラグィアも負けじと噛み付く。
「あの時の勝負ですよ! 私は純粋な力のみで対抗しようと思ったのに、まったく息継ぎしない無酸素連打に途中で真っ二つに折れるかと思いましたよ私は。で、やむなく途中から合気や封印していたデンプシーまで使ったのに、それで泳げないなんて宝の持ち腐れです!」
「余計なお世話ですわ!」
「……おい、二人とも否定してたけど、やっぱバハムートでの殴り――」
「「そんなことしまませんっ、これは単なる女の子同士の話です!」」
バハムート内ではしらを切られ、有耶無耶にされたタイマンの件を確認しようとしたが、今度も息の合った言葉で頭から否定された。
と、残りのパーティメンバーも申し訳なさそうに口々に申し出てきた。
「あ、あたしも泳ぐとか無理です。そもそもこんな大きな水見たのも初めてだし」
「ボクも無理、てゆーか仕事でもないのに泳げる人とか見たことないな」
「拙者も水はちょっと……」
「申し訳ありませんマイロード、水泳は犬掻き程度で潜水は学習しておりません」
そういえば地球の現代社会でも水泳ができるのは小中学校からプールの時間がある先進国のごく一部で、他の国の人間は大多数が泳げないとか、そもそも水に入る習慣すらないと聞いたことがある。
当然グリアスでは水泳人口はもっと少ない筈だが、日本人としての固定観念から誰でもできるものと思い込んでいた。
「そーいや、昨日は浜でちょっと水浴びした後、『試作カキ氷機ver3』の実験をして、その後、本格的に泳ぐ予定があの騒ぎで有耶無耶になったんだっけ……」
確認しておかなかった俺が一番悪いな。
「そうすると泳げるのは俺…」
「あ、私は大丈夫ですよ、結構泳ぎは得意なので」
「ふっふっふ、天界のクリオネと呼ばれたアタシの華麗な泳ぎをついに見せる時がきたのね!」
「…クリオネってああ見えて貝とか小魚とか食う凶暴な肉食なんだよなー」
「…ええ、一見頭に見えるあの部分が捕食の瞬間グロテスクに開いて」
「うおっ、なんか自然な流れでDISられてる?!」
この二人だけか泳げるのは。まあ何かあったとしても飛んで逃げられるし、万一に備えて犬掻きはできるというクリスも連れて行けばなんとかなるだろう。
そう考えて俺は明日の予定として、『湖探索班=俺、アンリ、アレッタ、クリス』『情報解析班=クラグィア、チハヤ』『周辺聞き込み班=レミ、リリ』と分担してもらうことになった。
「拙者は屋敷に居残りでござるか……」
「悪い街に出るとまたルスに難癖つけられるかも知れないから、少し我慢していてくれ」
「……ふう。わかり申した」
「あと、レミとリリは“赤男”について噂話レベルで良いので聞いておいてくれ。どこにヒントが転がってるかわからないし」
「わかりました勇者様」
「まかせておいてよ!」
すみません、今回で終わるはずがまだ続きます。
次回こそ終了予定です。
タイトル予定は『雲に月、心に光、キラキラと』(仮)です。




