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サラマンダーよりはやーい!!

 逃げ出そうとした羽兎(フェザーラビット)が、レミの詠唱銃(キャスティング・ガン)から放たれた気弾(フォース)を受け、「ピッ!」と一声鳴いて倒れた。


「これで3羽目かー。飛び道具はやっぱり有利だなぁ……」

 苦笑する俺の前で弾むような足取りで獲物を掴んで持ってきたレミが満面の笑みで、獲物を頭陀袋に入れながら、

「勇者様も銃を使えばいいのに」

 そういうレミは詠唱銃(キャスティング・ガン)の扱いに天賦の才を示した上、エルフ特有の身軽な動きで敵を翻弄し、特に森や遮蔽物のあるところでは、上空から観察したアンリ曰く、

「立体機動装置なしの天然で立体起動を上回る動きをします。本気を出したら奇行種だろうが超大型だろうがイチコロでしょうね」

 とのことで、実際、アウァールス家私兵団との模擬訓練では、レミ一人が隠れている林の中に足を踏み入れた小隊が半刻(1時間)で全滅するという、シモ・ヘイヘ並みのチートっぷりを発揮したらしい。

 こっちは隊長のオルランドさん相手に3本に1本取るのがやっとだって言うのに。。。


「レミにはとても敵いそうにないから諦めてるよ。その辺りはレミに任せるさ」

 肩をすくめてそう言うと、レミは嬉しそうに頭陀袋を担いで、

「うん。任せておいて!」

 元気良く返事をした。


「……さて。そろそろ夕方だし、今日はこれくらいにして戻ろうか」

「はーーい」

 揃って馬車の轍の跡もかすかな道を歩いて、四半刻(30分)ほど行くと丈夫な丸太塀で周囲をぐるりと囲った瀟洒なログハウスが見えてきた。

 門の隣には『御用の方は紐を引いて呼び鈴を鳴らしてください』『押し売りお断り』『宗教は間に合ってます』『猛少女注意っ!』『勝手に入ると撃たれます』『動いたら撃たれます』『説明しても撃たれます』『死ぬまで撃たれます』と注意書きが書かれていた。


(……う~~む、なんでこんなガンスリンガーな少女になっちゃんたんだろう……?)


 いまは亡き素朴な炭焼き少女を回想しながら門を開けて入ると、庭の菜園に水でもやっていたのだろう、如雨露をもったアンリが穏やかに出迎えてくれた。

「お帰りなさい二人とも」

「ただいまっ。ねえさま、今日は大猟だったのよ!」


 如雨露を地面に置いて、走って抱きついてきたレミを抱き止めたアンリは、差し出された頭陀袋の中身を見て顔をほころばせた。

「まあ、ずいぶんと沢山獲ったのね。せっかくなので今夜は一羽丸ごとロースト……だと面白みがないから、ヨーグルト掛けにしようかしら?」

「ねえさまのお料理はなんでも美味しいから大好き♪」

「あら、責任重大ね。じゃあ腕によりをかけるから、レミちゃんも井戸で手を洗って、夕食の支度のお手伝いをしてね」

「はーい、わかりました。おねえさま」


 ……平和だ。まるでホームドラマの一コマのような平和さだ。

 そう思うと、なぜかこの胸に2の太陽のような黄昏に似た不安が広がって行く。


「どうしたんですかマスター、変な顔をして?」

「…いや、なんか平和過ぎて、気が付いたら足元に開いていた落とし穴に落ちそうな不安が……」

 思ったまま正直に話すと、アンリは憂いを含んだため息をついた。


「マスター、それはPTSDですね。戦いに身を置き過ぎた戦士が罹る心の病です。――でも大丈夫、そんな時のために天使(わたし)がいるんですから!」

「そーかなぁ?……俺って勇者とか言われてる割りに基本その他のドタバタばかりで、中心にいても鹿目○どか並みに戦ってないような……」

 別に働いたら負けだと思ってるわけでもないのに、状況がそれを許してくれないというか。


「何を甘いことを言ってるんですか!」

 真剣な顔で思いっきり顔を近づけ――身長の関係で当然アンリは飛んでいる――力説した。

「この都会(まち)は戦場だから、男はみんな傷を負った戦士なのですよ! マスターにだって記憶にあるはずですよ、ゆとり後の競争社会を生き抜いてきた記憶が!」

「そっりゃまあ、そういう意味なら俺も中学と高校の受験戦争は経験してるけど」

 でも、なんか違うよな?

「そうでしょうそうでしょう。ですから今は心の痛みをぬぐって、小さな子供の昔に帰って、甘えてください」





 ◆◇◆◇





 さて、『第二次邪神大戦』と呼ばれた(誰が呼んだんだ!?)聖剣騒動から一夜明け、アーラ市は3週間後迫った天使祭を上回るお祭り騒ぎとなった。


 なにしろ本物の天使様に導かれた勇者が、復活しようとしていた邪神を伝説の再現で封印したというから騒ぎにならない方がおかしい。

 街は歓喜に包まれ、二代目勇者、天使と呼ばれるようになった俺たちを讃える声は途切れることを知らず、さすがにアウァールス家だけでは匿い切れないと判断した神殿により、神殿所有の広大な森にあるこの隠れ家(セーフハウス)を提供してもらい、聖剣については今後一切触らないように間違っても倒さないように厳命した後、密かにアーラ市を離れてこちらに移り住むことになったのだった。


 当初は神殿に留まり公式行事に参加するよう強く慰留されたのだが、

「だが断る!」

 という俺の強い希望と、

「この邪神の封印が破れかけていたのを見付け、封印できたのも勇者様の鋭い――言うなれば冷凍マグロのトラックが襲われた事件を聞いただけで悪の秘密結社の世界征服の陰謀を察知する某バイク乗りのような――勘と洞察力があればこそです。

 その勇者様がおっしゃっています、脅威はこれだけではない。そうした脅威を取り除くためにも、自分は一度この場から離れた方が良いと」

 同じく面倒ごとを嫌ったアンリの口八丁のフォローによって、無事に騒ぎから逃れることができたのだった。


 ちなみにクラヴィアは今回の事件で急遽天使祭の手順を変えることになったということで、あの勇者ヒョットコともども神殿に泊り込みでリハーサルのやり直しとなったため、残念ながらこちらには来られなかった。

 代わりにギャリソンさん経由で翌日、手紙が届いた。


『マサト様へ

 わたくしは天使祭の準備のためしばらく神殿へ泊り込みで練習となります。

 しばらくはマサト様のお顔が見られません。

 替わりに毎日あのツブレアンパン――もとい、勇者ヒョウ・トコーと顔を合わせていますがだいじょうぶです!(なにが?)


 それと神殿から今回の件の謝礼として500万Pをマサト様へお渡しするようお預かりしました。

 ギャリソンへ預けておきましたので、必要なときには彼か商会に連絡をつけてください。

 個人的には銀行にお預けすることをお勧めします。

 ちなみにアウァールス商会では高金利・低手数料・各種サービス充実の金融業も営んでおります。


 それと、またマサト様が大いなる運命に導かれて戦いに望まれたと聞きました。

 マサト様は運命の殿方、けして負けることはないと信じておりますが無理をされないようお気をつけください。


 わたくしが無事に天使祭の大役が果たせたとき、その時にこそ二人のすべてはここからはじまります。

 ・・・クラヴィアより

 ・・・追伸、浮気したらお恨みいたします。

 それから、ヌーヌーいってる人たちには、気を付けてくださいませ』


「「…………」」

「――この世界って銀行あるんだねぇ。やっぱ判子じゃなくてサインで開設するのかな?」

「この手紙を読んで最初の感想がそれですか?!」

 なぜか戦慄した様子のアンリだった。





 ◆◇◆◇





 そんなわけであれから3日、自給自足の生活にも馴れ、こうしたまったり生活も悪くないかな~と思う今日この頃。皆様いかがお過ごしでしょうか。


 と――小屋に戻りかけたその時、黄昏に染まる地面のそこかしこ――5箇所が突然光だし、直径1mほどの複雑な文様を描いたと思うと、そこから真っ黒なコートとフード、そして不気味な仮面で素顔を隠した謎の集団が現れた。


「くくくくく、勇者マサトと――――ぐはっ!?!」

 口上の途中で詠唱銃(キャスティング・ガン)の凶弾を全身に11連発受けて即死する男の一人。

「アスゥカ――――!!!」

 仲間の一人が慌てて駆け寄り安否を確認するが当然手遅れである。

「おのれ~~! ゴゥロー・アスゥカを殺したのは貴様か!?」

 復讐に燃える男が顔を上げた瞬間、ヘッドショット一発で共にあの世へと旅立った。


「ちょ、ちょっとレミちゃん止めなさい」

 当然、犯人はレミであり、次の相手に狙いを定めようとしたところを、慌てて止めに入るアンリ。

「おねーちゃんどいて、その侵入者殺せない!」

「待って待って。そりゃ見た目は死ぬほど怪しいけど、世の中には怪しい集団が大手を振って宗教やってる例もあるんだし、とりあえず話を聞くだけでも聞いてみましょう。単なる物干し竿の押し売りかも知れないし」

 普通に見た目からは想像できないけど、こっちの世界だと常識なのかも知れないので訊いてみた。

「あのー、竿竹屋さんですか……?」


 すると残っていた3人が一斉に肩を震わせ、

「「「ぐぬぬぬぬぬぬっ」」」

 押し殺した呻き声を発した。

「ほら、「ヌーヌー」言ってます、クラヴィアさんが言ってた悪人ですよ」

 それ見たことかという口調で言うなり、レミは再び詠唱銃(キャスティング・ガン)で手近な一人を撃ったが、男の目の前に半透明な障壁が現れ「キンッ!」と音を立てて弾いた。


「……障壁(バリアー)の魔法? 無詠唱で…??」

 その光景に目を丸くするアンリ。


“無詠唱”とか“詠唱破棄”とかいうとアレか?!

 毎度お馴染みチート主人公が身につけて、やられた相手が「ば、馬鹿なありえん」とかヒロインが「そんなことができるなんて伝説の魔導師でも無理なはず、貴方はいったい?」とか言ってフラグを立てる重要な要素のアレか!?


「無詠唱ってそんな凄いのか?」

 思わず確認してみると、

「キーボードをブラインドタッチできるくらい凄いです!」

「………」

 まあそうだよなー。魔法が普通に技術としてあるんだから、当然早い段階で誰かが考えて試行錯誤するよなー・・・。


「馬鹿め、不意を撃たれなければそんな豆鉄砲がこの我の障壁(バリアー)を貫けるわけが――」

 勝ち誇る男を無視してレミは両手に二丁の詠唱銃(キャスティング・ガン)を構えて、装填された魔石の魔力が枯れるまで連射。

「だから利かんと……」

 抜く手も見せずに腰の後ろに下げていた軽機関銃型の詠唱銃(キャスティング・ガン)を抜いて、フルオートで連射。

「おい、こら、ちょ、ちょっといい加減に……」


「……おかしいですね?」

「どっちが?!」

 その様子に首を捻るアンリに向かって思わず突っ込んだ。

「あの黒尽くめですよ。最初は単なる妖術師(ソーサラー)かと思ったんですけど、人間があんな長時間障壁(バリアー)を維持できるのは変なんです」

「そうなの?」

「ええ、人間の魔法使いは空気中の魔素を使うので、魔法を使うのはぶっちゃけ息を止めて潜水するようなものなんです。だから最初は魔具で補っているのかとも思いましたけど、レミちゃんの火の魔石や氷の魔石、光の魔石の属性攻撃に合わせて障壁(バリアー)の特性を切り替えているみたいですし、ひょっとするとアレって生まれつき体内に魔石を持っている種族――魔族じゃないでしょうか……」


「いいかげん諦めろ、貴様如きの攻撃など……え……おい、ちょっと待て……!!」

 軽機関銃の魔石を使い切ったレミは、いつの間に用意していたのか自分の身長を超える自動小銃に似たゴツイ詠唱銃(キャスティング・ガン)を持ち、すたすたと男に向かって距離を詰めると障壁(バリアー)へ向かい、零(ゼロ)距離で一点に銃撃を押し当てた。


「ぐぎゃあああ――――!!」

 途端、障壁(バリアー)が限界を越え、粉々に砕け散り破片が地面に落ちると同時に、無防備になった黒尽くめの男は蜂の巣となった。

「障壁(バリアー)ってあんな風に割れるんだ……」

「ええ、伝統様式です」


「おのれっ、勇者!! 貴様、どこまでも卑怯な男だ!!!」

 残り二人のうちより偉そうな男が、ヒステリックな口調で糾弾してきた。えっ、いまのって俺が悪いの?


(にしても、気のせいかどこかで聞いたことある声のような……?)

 首を捻る俺に苛立った様子で捲くし立てる。

「我ら魔王軍が長年にわたり計画してきた最終魔法兵器奪取計画を白紙にしたばかりか、参戦布告も聞かずに不意打ちで仲間を血祭りに上げるとは、貴様には恥というモノがないのか?!」


「魔王軍……?」

 そーいえばそんなのもいたなぁ。ここんとこぬるま湯の生活にどっぷり浸かってたので、そんなモン忘れかけてたけど。

 てか、

「……最終魔法兵器ぃ?」

 どこかで聞き覚えのあるフレーズに、俺はギギギギギと首を曲げてアンリの方を見た。

「――いやぁ……まさかここで初日の伏線を回収するとは、まさにお釈迦様でも気が付くめぇという奴ですね」

 いやぁ、参りましたねー。ヤレヤレと肩をすくめるアンリ。


「そもそもだ!」

 あ、こっちもまだ続いてたのか。

「最終魔法兵器奪取は天使祭当日の混乱に乗じて行う予定だったんだぞっ。それを・・・それを、3週間も前に妨害するならまだしも叩き潰すとはどういうことだ!?」

 いや、どういうことだと言われても、そもそもそんな計画も叩き潰した実感もないんですけど。


「さすがは勇者様です!」

 状況について行けない俺を無視してさらにエキサイティングする黒尽くめと、感動の面持ちで目を潤ませるレミ。


「普通、勇者は計画のギリギリになって阻止に動いて、魔王軍(こちら)側とガラスのロープを目隠しで渡るような緊迫感の中、勝つか負けるかの勝負をするものだろうに!! それを貴様、始める前に終わらせるなどどういう了見なんだ!?!」


「いや、そこで逆切れされても……」

「多分あれですよ、格ゲーのBA○ARAXで、いきなり対戦相手が毛利元就を使ってきた様な……」

「ああ、あの『相手が毛利を使ったらそれは「さっさと終わらせて飯食いに行こうぜ」の合図』と言われる公式チートな」

「そういえば晩御飯の支度がまだでしたねー」


 と、俺たちのいつものノリをブルブル震えて聞いていた魔王軍リーダー格の男だが、一転して平坦な……というか陰鬱なトーンの声で、

「その余裕がどこまでも持つかな……。予定を前倒しとなったが、魔王軍子飼いの豚人(オーク)部隊『スアロキン』5,000匹がこれよりアーラ市を襲撃する手はずとなっている。せめてもの意趣返しだ、せいぜいここで歯噛みしているが良い!」


「なんだと!?」

 慌てて腰の剣に手をかけるが……。

「――おっと、貴様らの相手はこいつだ!」


 パチンと男が指を鳴らすと、俺たちと連中との中間に巨大な火柱が立ち、その中からゆらり…燃えるような紅い髪に真っ赤な鎧を着込んだ、身長190cmほどのどこか爬虫類を思わせる長身の男が現れた。


「では、一足先にアーラ市へ戻る(、、)とするか……」

 そう言うと現れた時と逆のプロセスで、足元の魔方陣へと生き残りの2人は消えていった。


(……こいつ人間じゃないな)

 巨大な火柱こそ無くなったものの全身に炎をまとい付かせたまま、悠然と手を組んで立ちふさがる男。

「気をつけてください、この霊圧……精霊のものです」

 アンリが珍しく緊張した面持ちで男を見ながら断言した。


「「精霊!」」

 俺とレミの声がハモる。

「精霊なんてこの世に存在したんですか…?」

「…おい、こらまてエルフ! エルフと精霊って昔から心の友と書いてシンユウというくらいのマブダチだろう?!」

「えええ?! そうなんですか? 私はてっきり魔法少女や宇宙人、シネシネ団のように眉唾な話かと…」

 剣と魔法の世界で、それと同列なのもどうかと思うけど……てか、居ないのか魔法少女。。。おのれ、サノバビッチ!!


「なんでマスターが打ちひしがれているのか良くわかりませんけど、説明するとエルフと精霊が友だなんて、オ○ニーし過ぎたら馬鹿になるってくらい根拠の無い迷信ですよ」

 アンリが呆れた顔でフォローしてきた。

「普通の精霊は肉眼に見えるほど顕在化はしないものですし、見えないものは信じないでしょう常識的に。で、顕在化するような大物は精霊界か神界位にしかいませんから。……まあごくまれに現地で進化した個体がいたり、高位の魔法使いに召喚されることはありますけど」

「つまりこいつは召喚された大物ってことか……」

 その言葉に、男はにやりと笑うと組んでいた手を解いて、やたら芝居がかった仕草でアンリへ向かって恭しく一礼をした。


「――そういうことになりますな。お久しぶりですアンリエット様」





 ◆◇◆◇





 明らかにアンリを良く知る男の馴れ馴れしい態度に、一瞬なぜかいらっときた。

「……知り合いか?」

「――えーと…あー、はいはい、ちょー久しぶり~、元気ぃ?」

 明らかに忘れてるっぽい態度だった。


 刹那、炎の中、男の顔が凍った。

「……まさか、私をお忘れか?」

「え?? えーと……顔は覚えてるんだけど、ちょっと名前までは度忘れかなぁ…? ヒ、ヒントもらえないかな?」

「相変わらずですな、この10年間私は片時もあの恨みを忘れた事などなかったというのに、天上の女神である貴女様にとっては、この火蜥蜴(サラマンダー)随一の戦士である私のことなど些事でしかないと見える!」

 平静を装うとする男の額の辺りに太い血管が浮き出、喋る声には尽きぬ――本人の言によれば10年分の――恨み節がこもっていた。


「えーと、『10年』『恨み』『火蜥蜴(サラマンダー)』『戦士』…う~ん、もうちょっとなんだけどなぁ。もう少しヒントもらえない? 16分割ヒントでピントって感じでw」

 指折り数えながら首を捻って無邪気に笑うアンリの様子に、男の忍耐袋の緒がまとめて切れたらしい。

「ふざけるな――――――!!」

 手の中に炎でできた剣を生み出すと、

「火蜥蜴(サラマンダー)のこの櫺士(れんじ)、生れ落ちて350年これほどの屈辱は――」

 怒りの咆哮とともにその剣をアンリへ向けたが、その瞬間、アンリがやっと喉の小骨が取れたという顔で手を叩いた。


「レンジ…ああああ、なんだ、昔ウチで飼ってた櫺士(れんじ)クンじゃないの!」

「飼ってた?」

「ええ、ほらよくあるでしょう。神様の神獣とか言われている、オーディンの八本足の馬(スレイプニル)とか、日本の八咫烏(やたがらす)、セブンのミ○ラスとか、サトシ君のピ○チュウとか」

 後半は微妙に違うような気がするけど、だいたいの事情はわかった。


「そんな感じで私の騎獣をしている櫺士《れんじ》クンです。ちなみに名前の由来は同じ日に新型の電子レンジを買ったところから来ています」

 アンリの紹介に櫺士(れんじ)は憎憎しげな形相を崩すことなく、

「『騎獣だった』と言うべきでしょうな。主従の契約は10年も前に無効になっていますから」

 その言葉に、初めてショックを受けた様子でアンリが息を呑んだ。

「なにが・・・なにがあったというの?! 10年前に貴方が「コロッケ買いに行ってきます!」と行ったきり行方不明になってから、どれだけ私が心配したことか! 片時も忘れたことなんてなかったのに!!」

「「嘘つけ――――――――っ!!!」」

 思わず一緒に突っ込んでしまった。

 てか、思わず、こいつも苦労したんだろうなー、というシンパシーを感じてしまった。


「…理由が必要ですか……では、お答えしましょう! あの屈辱の日! 貴女様が新たな騎獣として空穂(うつほ)を連れてきた日から私の屈辱の日が始まったのですよ!!」

「ああ、騎獣2号の天星狼(シリウス)の空穂(うつほ)ちゃんですね」

「そうですっ。以来、貴女は事あるごとに空穂(うつほ)を愛用しては、『サラマンダーより、ずっとはやい!!』とか『蜥蜴とか地味よねー』とか『モフモフ最高ーっ!』などとはしゃぎ回る始末! 私がどれほど傷ついたかなど気が付きもしなかったでしょう!!」

「えー? そんなこと言ったっけ?」

 たいがいイジメというのは被害者は覚えているものだけど加害者は忘れるものだからなぁ。


 まあ飼い主としてアンリの方にも落ち度はあるけど、こいつはこいつで被害妄想で歪みまくっているようだ。

 正直、身内の話のようだから口を挟みたくないんだけれど、こいつはこいつで魔王軍に加担して、その魔王軍はアーラ市を襲撃するとか宣言してるから他人事じゃないよなぁ・・・。


「やれやれだぜ」

 俺はため息をついて剣の柄に手をやり、アンリを守る形で前に出たのだった。

次回は主人公が今度こそまともにバトルになりそうな気配ですけど、実力が作者にも未知数なので(ヲイ)どーしたものか悩みどころです。

そろそろ例の能力のネタバレしようかな。

そんなわけで、次回はバレバレな魔王軍の正体がわかる予定でw

いちおうタイトルは「イルカがせめてきたぞっ」(仮)です。

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