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後悔

作者: 里緒

後悔



石鹸を、食べてしまった。

暑い日だったので冷奴が食べたかったが、残念ながら昨日食べてしまったので

形の似た石鹸で我慢することにした。


石鹸に醤油と鰹節をかけると、豆腐にみえてくるものである。

一口食べてみると、ツルンと喉の奥へ入っていく。


私はその日、豆腐に見立てた石鹸を一つ食べ、眠った。



目覚めると、私はカニになっていた。

おそらく中に溜まった泡を外に出すためだろう。仕方がない。


カニになった私の口からは、ぶくぶくと真っ白な泡が溢れてくる。

ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。


泡は大きく膨らんで、シャボン玉になった。

カニになった私は、そのシャボン玉と共に飛ばされてしまった。


私は自分の口からでたシャボン玉に飛ばされ、空を飛びながら眠った。




目覚めると私は海岸にいた。

カニなのだから海にいるのが普通だろうと思ってしばらく辺りを散歩した。


歩いている間も口から泡は溢れ続けている。

気づくと私は全身を泡で覆われ身動きが取れなくなってしまった。


まぁ、ずっと出続けているのだから仕方ないか、と思って眠った。




目覚めると、私は誰かの膝の上にいた。

見上げると可愛らしい少女が私を抱いている。

泡だらけになった私は、プードルになったらしい。

白い、もこもこした毛並みのプードル。


私は洋犬よりも柴犬のような日本犬を好んでいたが、こんな少女と暮らせるならば、我慢しよう。仕方がない。

と思い、出されたミルクを舐め続けた。


冬になり、私は白い、犬用のセーターを着せられるようになった。

最近は犬にも服を着せるのか、と少し驚いた。


白い毛並みに白いセーターを着た私は、

同じようなセーターを着た少女に抱かれて眠った。




目覚めると広大な大地に立っていた。

辺り一面芝生。

どうやら私は羊になってしまったらしい。


白い毛並みに、白いセーターを着せられたのだから、羊に見えても仕方ないだろう。


心優しい彼女は、プードルは飼えても羊は飼えなかったのだ。仕方がない。


羊になった私は、食われてしまうのかと危惧したが、羊といえば肉ではない。毛だ。

カミソリで刈られていく私の毛。

それは元々は泡だったので、軽くて白くて良い香りだと評判になった。



私の遺伝子を持つ羊を大量に育て、出荷量を増やそうという計画もあったが、

残念ながら子どもたちはただの羊に過ぎなかった。

そりゃそうだ。これは私の遺伝子ではない。石鹸によるものなのだから。



幾年が過ぎ、白かった私の毛が、だんだんと茶色く重く、おかしなにおいがするといわれ始めた。

おそらく泡が減り、醤油と鰹節が混じるようになったからだろう。

そうなるともはや私の価値はない。


私は肉として出荷されることになった。

残念ながらこれ以上変身することはできないらしい。

ならば仕方がないと、私は目を閉じた。




暑くて暑くて目が覚めた。

どうやら肉になった私は鍋にされてしまったらしい。

それでも意識があることが不思議だった。しかし、もう死んでいるので怖くはなかった。

箸がどんどん伸びてくる。

しいたけ、にんじん、はくさい、ねぎ、ねりもの、豆腐、私 ・・・豆腐?

私にぴったりくっついているこれは、紛れもなく豆腐であった。

そもそもこれがなかったから、私はこうなってしまったのだ。

では、果てるときはこいつと一緒に果てよう。


私は白く四角い豆腐の中に飛び込んだ。

憧れに包まれて果てるならば本望だ。


私は豆腐に包まれながら、胃酸の海に飛び込んだ。





目覚めると、私は自宅にいた。

私は人間だった。

ここは海でもなく、膝の上でも牧場でも、もちろん鍋の中でもなく、

スプリングが少し出た、私の、ベッドの上だった。


夢であったのか。

出す泡もなくなって、最終的には醤油と鰹のカスに塗れ、

ずっと食べたかった豆腐に包まれて終わる・・・

なんて滑稽な。

なんてばかばかしい。


起床し、会社へ行き、帰る。

今夜は会社の同僚と飲みに出かけた。

私はもちろん冷奴を頼む。あとはつまみを少し。

同僚も私と同じメニューだ。


やっと、やっと食べられる。


同僚が醤油を持って、




私にかけた。



何を、














目覚めたら、私は腹の中にいた。

どうやら、豆腐に包まれた私は豆腐になったらしい。

ずっと食べたかったのであって、なりたかったのではないのだが・・・


悔しいので自分を齧ってみた。





石鹸とは比べ物にならないくらい、うまかった。


やはり石鹸なんて食べるものじゃなかったなぁと思ったが、

結果的に豆腐を食べられたのだから、もう私は満足だ。



私は眠った。












「鰹節も、かけてほしかったなぁ。」



それだけが、私の生涯において唯一の後悔である。

最近あまり書いていないなぁと思ったので、自分で物を見て書いてみました。

今回は風呂場にあった石鹸から始まった話です。おじさんが主人公というのは初めてなので、いつも以上に読み辛いものになっていると思います。すみません。


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 私は、貴方様の書かれる話が大好きです。 特にこの「後悔」という内容はつぎつぎ視点が写ってて。 とても面白く読めました。 つまらん感想ですみません。 失礼いたしました。
[一言] 最後まで、読ませてもらいました。出だしがよかったです。(^-^)/
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