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後日談

国境付近に現れた、数千の魔物による大進撃(スタンピード)

これを食い止めるべく、ギルドは異例の「合同討伐隊」を編成した。中心となるのはSランクのサイとネイ、そして彼らを援護するために選ばれた三つのAランクパーティだ。

しかし、戦場に響いたのは驚愕の叫びだった。


「クソッ、キリがねぇ! なんだあのオーク・ジェネラルの硬さは……! 俺たちの連撃がまるで通じねぇぞ!」


最前線で盾を構えるAランクパーティのリーダー、カールが、絶望に顔を歪めた。数千の魔物の中には、本来なら数パーティで当たるべき上位種が何体も混ざっている。 Aランクの精鋭たちが魔力を絞り出し、必死に防波堤を築いているその横を、一人の男が悠然と通り過ぎた。


「おい、おっさんら。そこ、邪魔だ。どいてろ」


大剣を肩に担いだサイだ。その背後には、短くなった髪を風に揺らし、静かに杖を構えるネイがいる。


「サイ殿! 無茶だ、あいつらは魔力耐性も――」


カールの制止を無視し、ネイがスッと杖を掲げた。 詠唱はない。発動の予兆となる魔力の乱れすら、周囲のプロたちは感知できなかった。


「――『星墜(ほしおとし)』」


刹那、天から光の杭が音もなく降り注いだ。

それは爆発も、派手な光芒も放たない。ただ、光の杭が触れた魔物たちが、紙細工のように音もなく消滅し、霧散していく。


「な……っ!? 魔法が効かないはずのジェネラルが……消えたのか?」


一瞬の静寂。

数千いた魔物のうち、中核をなしていた上位種だけが、ピンポイントで「消滅」させられていた。魔力耐性も、物理防御も、すべてを無視して「空間ごと削り取られた」かのような異常な術式。


他の冒険者たちは、剣を振るうことすら忘れ、ただその光景に立ち尽くしていた。



討伐完了後。

野営地の焚き火を囲む中、カールは震える声でサイに問いかけた。


「……サイ殿、失礼を承知で聞く。ネイ殿のあの魔法……ありゃあ、一体なんだ? ギルド本部の宮廷魔道士だって、あんな『(ことわり)』を無視した術は使えねぇぞ」


他の冒険者たちも、固唾を呑んで見守っている。彼らの目には、ネイへの畏怖と、同時に「人間離れした怪物」を見るような色が混じっていた。

サイは、隣で自身の肩に頭を預けて微睡んでいるネイを愛おしそうに見つめ、その細い肩を抱き寄せた。


「……ああ、あれか。あいつが、一人で森に籠もって手に入れた力だ」


サイの声は、かつての荒々しさは消え、深い自嘲と誇らしさが混ざり合っていた。


「お前ら、魔力枯渇って知ってるだろ? 普通、一生に一度経験するかどうかの死ぬほど痛い経験だ」

「ああ……魔力回路が焼け付くような痛みだって聞くが」

「あいつはな……それを数えきれないほど繰り返したんだ。それも、たった一人でな」


野営地が、水を打ったように静まり返った。冒険者なら誰でも知っている。魔力枯渇の苦痛は、内臓を火であぶられるような絶望的な痛みだということを。


「あいつの魔力の『器』は、一度ボロボロに焼き切れて、そこから無理やり作り直されたんだ。……俺を、死なせないためだけに」


サイは語った。

自分が無茶な討伐に明け暮れ、彼女を「便利な道具」として扱っていたこと。彼女がその陰で、血を吐きながら自分の命を削り、最強の敵からサイを守るための力を練り上げていたこと。


「あの魔法は、あいつが流した血と涙そのものなんだよ。……俺みたいな、どうしようもねぇ男を生かすためだけに、あいつは人間をやめるほどの苦痛に耐えたんだ」


サイの話が終わっても、誰一人として声を出す者はいなかった。 ネイのあの「異常な魔法」の正体。それは天賦の才能などではなく、一人の男への、狂気的なまでに純粋で深い「愛」と「献身」の結晶だったのだ。


「……すまねぇ、ネイ殿」


カールが静かに立ち上がり、眠っているネイに向かって深く頭を下げた。他の冒険者たちも、それにならう。


「俺たちは、あんたの力を『怪物だ』なんて思っちまった。……そんな、命を懸けた想いを、俺たちは何も知らずに……」


一人の女冒険者が、目元を拭いながら呟いた。


「……そんなに愛されてるなんて、サイさん、あなたは世界で一番の幸せ者ね」

「ああ。分かってるよ」


サイはネイの短い髪を優しく撫で、その額にそっと唇を寄せた。


「だから俺は、これからの人生全部使って、こいつを世界一甘やかすんだ。文句あるか?」


サイの不器用な、けれど真っ直ぐな宣言に、野営地には温かい笑いが漏れた。

先ほどまでの畏怖の念は消え、そこにあるのは、一人の誇り高き魔道士と、彼女を命懸けで守る決意をした剣士への、心からの敬意だった。


焚き火の光に照らされた二人の姿は、どのSランクの称号よりも眩しく、そして美しく輝いていた。


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