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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

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腐女子令嬢、婚約破棄して壁になる。~冷徹な婚約者が護衛騎士にクソデカ感情をぶつける姿が尊すぎたので、私は悪女になって二人を応援します!~

作者: 文月ナオ
掲載日:2026/02/14

※本作品は「男主人公(BL)」作品ではありませんが、主人公である腐女子令嬢が、周囲の男性同士の関係を観察・応援する要素(BL要素)を多分に含みます。


いわゆる「逆ハーレム」や、主人公とヒーローの恋愛を期待される方はご注意ください。


以上の要素が苦手な方はブラウザバックをお願いいたします。


 

 私、公爵令嬢クラリッサには前世の記憶がある。


 そして、前世の私は、三度の飯よりBLを愛する、生粋の腐女子だった。


 そんな私が、この異世界に転生して早17年。


 家柄、魔力量、容姿。


 全てにおいて完璧な令嬢として育てられた私は、その裏で「萌え」に飢え続けていた。


 この世界には、娯楽が少ない。


 特に、男同士の熱い友情以上の何か、湿度の高い関係性を描いた書物など、皆無に等しいのだ。


(ああ、枯れる……。尊い供給がないまま、私は政略結婚をして、平凡な一生を終えるのか……)


 干からびたサボテンのような心で嘆いていた矢先のことだった。


 父から、一人の男性との婚約を持ちかけられたのは。


「北の国境を守る『氷の公爵』こと、パーシヴァル・フォン・エヴァーハルト公爵だ」


 噂によれば、彼は氷のように冷徹で、女性に一切興味を示さない堅物だという。


 社交界でも浮いた話一つなく、ただひたすらに領地経営と魔獣討伐に明け暮れる仕事人間。


 そんな彼との対面の日。


 エヴァーハルト公爵邸の応接間で待っていた私の前に現れたのは、サラリとした銀髪に、冷たい魔力を宿す碧眼の美しい青年だった。


「……初めまして。パーシヴァルだ」


 声のトーンは低く、抑揚がない。


 私に向けられた視線は、まるで路傍の石を見るかのように無関心で、事務的なものだった。


(うわぁ、本当に氷だわ。顔が良いだけに残念ね。これは結婚生活、お互いに無干渉で終わりそう)


 そう諦めかけた、その時である。


「失礼いたします、閣下。お茶をお持ちしました」


 彼の背後の重厚な扉が開き、一人の青年が入ってきた。


 栗色の髪はふわふわと柔らかそうで、少し垂れ気味の大きな瞳は、子犬のように愛らしい。


 小柄だが、騎士服に包まれた体躯はしなやかで、よく鍛えられていることがわかる。


「……ジュリアンか」


 パーシヴァル様が、わずかに声を緩めてその名を呼んだ。


(ジュリアン、というのね。あの服装は護衛騎士かしら?)


 彼がティーカップをテーブルに置いた、その瞬間。


 私は見てしまった。


 それまで絶対零度だったパーシヴァル様の瞳孔が、ほんの一瞬だけ開き、その視線がジュリアンの細い指先に吸い寄せられたのを。


 そして、ジュリアンが「熱いですので、お気をつけください」と微笑んで下がると、パーシヴァル様が、まるで渇ききった喉を潤すかのように、その後ろ姿を目だけで追っていたのを。


 その視線には、甘さは微塵もなかった。


 あったのは、獲物を狙う肉食獣のような、昏くて重たい「執着」の光。


 そして、誰にも触れさせまいとする「独占欲」の炎。


(……ある! 間違いなく、ある!)


 私は扇子で口元を隠しながら、心の中でガッツポーズをした。


 氷の公爵様は、自分の護衛騎士にベタ惚れだ。


 それも、誰にも悟らせないよう必死に理性の檻に押し込めている、とてつもなく重い感情だ。


 私の腐女子センサーが、17年間の沈黙を破り、鼓膜が破れるほどの大音量で『尊い』の警報を鳴らした瞬間だった。




 ◇◆◇




 それからの私は、人が変わったようにエヴァーハルト公爵邸に通い詰めた。


 表向きは「婚約者との親睦を深めるため」という淑女らしい理由だが、真の目的はただ一つ。


『最高級の主従BL』を生で拝むための、観察日記をつけることだ。


 そして今日、私はある作戦を決行することにした。


 名付けて『嫉妬の炎で理性のタガを外せ作戦』だ。


 今日の観察スポットは、公爵様の執務室。


 私はソファでお茶をいただきながら、書類仕事に追われる二人を見守りつつ、爆弾を投下した。


「ねえ、パーシヴァル様。ジュリアン卿もそろそろ適齢期ですわよね」


 ピクリ、と書類に向かうパーシヴァル様のペン先が止まる。


「……それが、どうした」


 室温が急激に下がる。


 暖炉の火が消えそうなほどの冷気だ。


 私は構わず続けた。


「実は、私の遠縁に可愛らしい令嬢がいるのです。ジュリアン卿のように誠実な方なら、ぜひ紹介したいと思いまして」


 ガッ!! 


 鈍い音がして、パーシヴァル様の手元を見ると、高級そうな万年筆が無惨にへし折れていた。


 黒いインクがじわりと滲み、公爵の美しい手をどす黒く染めていく。


 内心ビビりつつも、私はジュリアンに話を振った。


「いかがかしら、ジュリアン卿? 一度、お会いしてみませんか?」


 ジュリアンは蒼白な顔で、助けを求めるようにパーシヴァル様を見た。


 しかし、パーシヴァル様は俯いたまま動かない。


 インクが机に滴り落ちる音だけが響く。


 ジュリアンは諦めたように、寂しげな笑みを浮かべた。


「……ありがたいお話です。ですが、俺のような身分の低い者が、貴族の令嬢など……」


「身分なんて関係ありませんわ。貴方のその優しさは、何物にも代えがたい宝ですもの」


「クラリッサ様……。俺は……」


 ジュリアンは一度言葉を切り、震える声で言った。


「俺は、一生結婚するつもりはありません」


 ジュリアンは自らの左胸、心臓の上を強く握りしめた。


 まるで、そこに刻まれた誰かの名前を確認するかのように。


「あの日……雪の中で凍え死にかけていた泥だらけの俺を、閣下はご自身のマントで包んでくださいました。薄汚れた俺を抱き上げ、その温もりを分けてくださったあの日から……俺の命も、心臓も、すべては閣下のものです」


 その瞳には、崇拝にも似た熱が宿っていた。


 ただの主従ではない。


 それは、魂ごと相手に捧げている者の目だった。


「だから……俺は一生、閣下の影としてお仕えします」


 その言葉は、忠誠の誓いのようでいて、叶わぬ恋への決別宣言にも聞こえた。


 切ない。


 切なすぎる。


 だが、この言葉が導火線となった。


「……くだらん」


 低く、地を這うような声が響いた。


 パーシヴァル様が立ち上がる。


 その瞳には、隠しきれない独占欲と、溜め込んでいた激情の炎が宿っていた。


「か、閣下?」


「影として生きるだと? 誰がそんなことを許した」


 パーシヴァル様は大股でジュリアンに歩み寄ると、逃げ場を塞ぐように壁に追い詰めた。


 インクで汚れた手が、乱暴に壁を叩く。


 いわゆる、壁ドンである。


(来たーーー! 氷河期終了のお知らせーー!)


 私は脳内でペンライトを振り回し、祭壇の前で土下座した。


 神よ、感謝します。


「俺は、お前に『影になれ』などと命じた覚えはない」


「で、ですが……俺には何もありませんし、閣下にはクラリッサ様という素晴らしい婚約者が……」


「黙れ」


 パーシヴァル様は、ジュリアンの言葉を遮るように、その顎を強引に持ち上げた。


 黒く汚れた指が、透き通るように儚げで美しいジュリアンの肌に触れる。


 その対比が背徳的で、ゾクゾクする。


「……あの雪の日、凍えていた俺の手を握り返したのは誰だ?」


「え……?」


「誰もが『氷の公爵』と恐れて近づかなかった俺に、唯一笑いかけたのは誰だ?」


 パーシヴァル様の声が震えている。


 それは、ずっと言えずにいた愛の告白そのものだった。


「お前が俺の手を握ったあの瞬間から……俺の世界には、お前しかいないんだ」


 吐息交じりの、懇願するような声。


 普段の冷徹な公爵様からは想像もつかないほど、弱々しく、そして熱っぽい。


「か、閣下……」


「他の女など見るな。俺以外の誰かのために、その心を使うな。……頼むから」


 命令形のようでいて、それはどうしようもない「すがりつき」だった。


 その距離、あと数センチ。


 吐息がかかるほどの至近距離で、二人は見つめ合う。


 ジュリアンの瞳から、涙が一筋こぼれ落ちた。


「……ずるいです、閣下。そんな泣きそうな顔で言われたら、俺は……勘違いしてしまいます……」


「勘違いではない。……全部、本心だ」


 パーシヴァル様が、ジュリアンの涙をインクで汚れた親指で優しく拭う。


 黒いインクがジュリアンの頬に一筋の線を引くが、それさえも所有の証のようで艶かしい。


 理性など、とうに吹き飛んでいた。


 今すぐその唇を奪おうと、公爵が顔を寄せた、その時。


 パチン、と扇子を閉じる音が響いた。


「……そこまでですわ、パーシヴァル様」


 二人がビクッとして離れようとする。


 が、私はそれを手で制した。


「離れてはいけません。……そのままで結構です」


「クラリッサ嬢……これは、その……」


 言い訳をしようとする氷の公爵様に、私は極上の笑顔(悪役令嬢風)を向けた。


「私、本日限りで婚約を破棄させていただきますわ」


「……なに?」


「理由は明白。……貴方様が私の前で、一度たりともその目をジュリアン卿から逸らさなかったからです」


 私は、パーシヴァル様がジュリアンの腰に回したままの腕を指差した。


「無意識というのは恐ろしいものですわね。……貴方様の目は、口ほどに物を言いすぎていますのよ」


「……気付いていたのか」


「ええ、最初から。貴方様が向ける執着の視線、私に向けられるものとは熱量が桁違いでしたから」


 私はため息をつくように、けれど心からの称賛を込めて告げた。


「私が身を引いて差し上げます。……いえ、これ以上、お二人の間に入り込む野暮な真似はできませんわ」


「クラリッサ様……俺のことは、どうでもいいのです! どうか閣下と……!」


 ジュリアンが泣きながら訴える。


 なんて良い子なの。


「お黙りなさい、ジュリアン。……貴方は愛されるべき人です。そしてパーシヴァル様、貴方もです」


 私はビシッと二人を指差した。


「お二人は両片思い! 見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、相思相愛なのです! さっさとくっついてしまいなさい!」


「…………」


 長い沈黙が落ちた。


 パーシヴァル様は呆気にとられ、ジュリアンは顔を茹で蛸のように赤くしている。


 やがて、パーシヴァル様は、肩を震わせて笑い出した。


「……くっ、ふははは! まさか、見抜かれていたとはな」


 氷が溶けたような、初めて見る心からの笑顔だった。


「完敗だ、クラリッサ嬢。……俺はずっと、自分の気持ちに蓋をしていた。こいつを傷つけたくなくて」


「閣下……」


「だが、もう限界だ。……誰に何を言われようと、俺はこいつを手放せない」


 パーシヴァル様は、ジュリアンを強く抱きしめた。


 ジュリアンも、今度は抵抗せず、その背中に腕を回してしがみつく。


「俺も……お慕いしておりました……ずっと、前から……っ!」


 美しい。


 なんて美しい光景だろう。


 涙で視界が滲む。


 私はハンカチで目頭を押さえた。


「交渉成立だな、元婚約者殿。……それで、慰謝料は何を望む?」


 パーシヴァル様が、ジュリアンを抱き寄せたまま聞いてくる。


 私はニヤリと笑った。


 待っていました、その言葉。


「慰謝料はいただきません。その代わり、一つだけ『権利』をください」


「権利?」


「ええ。この屋敷の改築許可と、執務室の隣にある空き部屋の使用権を。そして、壁の一部を『こちらの部屋からは見えるが、あちらからは見えない特殊な魔法をかけたガラス』にしていただきたいのです」


 二人がポカンとする。


 私は真剣そのものだ。


「私は貴方達の邪魔はいたしません。ただ、壁になりたいのです。お二人が末長く、幸せにイチャイチャする姿を、文字通り壁として見守る権利をください!」


「……は? 正気か?」


「正気です! 私は空気! そこに存在するだけの観葉植物だと思ってください!」


 あまりの必死さに、パーシヴァル様が呆れたようにため息をつく。


「そんなことをして、お前に何の得がある。……婚約破棄となれば、お前の評判にも傷がつくだろう」


 公爵様の指摘はもっともだ。


 だが、ここで引くような私ではない。


 私は胸を張って提案した。


「もちろんです。ですから、表向きの理由は『私がワガママで、他に好きな人ができたから婚約破棄を申し出た』ということにしましょう。私が全ての泥を被ります」


「なっ……! クラリッサ様、それはあまりにも……!」


 ジュリアンが声を上げるが、私は手で制する。


「良いのです。貴方達の関係が世間にバレれば、それこそ大問題でしょう? 私が『悪女』になって二人の盾となります。その代わり……分かっていますね?」


 私は狂気じみた笑顔で迫った。


「私に『萌え』を、一生分の供給を寄越しなさい」


 その覚悟に、パーシヴァル様が目を見開く。


 やがて、彼は面白そうに口角を上げた。


「……なるほど。自分を犠牲にしてでも、俺たちの関係を守り、かつ見守りたいと」


「その通りです」


「いいだろう。そこまでの覚悟があるなら、共犯者として認めてやる」


 パーシヴァル様はジュリアンの髪にキスを落とし、私に向かってニヤリと笑った。


「俺たちを守ってくれた礼だ。せいぜい、良い『壁』になってくれ」


「ありがとうございます!!」




 ◇◆◇




 こうして、私の婚約破棄は大成功を収めた。


 私は社交界で「公爵を袖にした稀代の悪女」と噂されているが、そんなことはどうでもいい。


 現在、私は『公認の壁』として、隣室から毎日素晴らしい供給を浴びているのだから。


「……ジュリアン、じっとしていろ」


「……閣下、執務中ですよ……」


「休憩だ。……働きすぎでは頭が働かん」


 パーシヴァル様が執務机の上で、ジュリアンに口付けている。


 甘い。


 砂糖を吐くほど甘い。


 先日までは「触れてはいけない」という葛藤があった分、タガが外れた公爵様の溺愛ぶりは凄まじいものがある。


 ジュリアンも、最初は恥ずかしがっていたが、最近では嬉しそうに受け入れているのが、また尊い。


 私は最高級の紅茶を飲みながら、興奮気味にスケッチブックにその様子を速記する。


 推しカプが目の前でイチャついている世界。


 これ以上の幸せが、どこにあるというのだろうか。

 



最後までお読みいただきありがとうございました!


BL、読むのも書くのも好きです。

表に出すのは今回が初ですが、今回はサクッと終わるテンポの、ライトなものを投稿しましたが、いかがでしたでしょうか?

ちゃんとした「男主人公(BL)」のストックもございますので、また投稿しようかなと思います。

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