第6話 ポチ
「狙撃されたそうだな」
家に帰ると、昨日と全く同じ姿で、玄関の脇に、サトシが立っていた。
「よく知ってるな」
「王宮の前だぞ、そんなのすぐに報告される」
「そういうからには犯人は捕まったのか」
「いや、それはまだ、あれなんだけど」
だろうな、タクミは思った。タクミには心当たりがあった。
「まあ、入れ。続きは部屋で話そう」
部屋に入るとサトシはいつものように、いつもの椅子に座った。タクミはヤカンに水を入れ、お湯を沸かし始めた。
「あれは、クナ国の刺客だ」
「なんども言うようだが、王宮の前だぞ。確かに、クナ国と我が国は敵対しているが、さすがにそれは無理だ」
「相手は、妖術使いだ。でも大丈夫、本当に殺す気なら、あんなもんじゃすまない。奴は、本気じゃなかった」
「お前、そいつが誰だか知っているのか」
「ああ」
タクミは八才の時に、父と母と旅に出た。最初、父は、すぐに新しい村は見つかると思っていた。タクミのことを知る人がいない村で、再出発ができればよかったのだ。しかし、父の予想に反して、その旅は、三年にもおよんでしまった。
なぜなら、タクミを追いかける者が現れたからだ。
タクミを追う者。
それは、八才のタクミよりも幼い少年だった。
出会いは穏やかなものだった。
旅の途中、タクミたちが小さな村の旅館に宿泊していた時のことだ。
「僕初めて見たよ。妖術使いって。自分以外はって、意味だけど」
タクミが店先で団子を食べていると、少年はいきなり隣に座って、そう言った。
無邪気な瞳を向けてくるその顔は、幼いという表現を通り抜けて、赤ん坊のようですらあった。旅に出て以来、タクミは自分の妖術をひたすら隠してきた。それが、こんなに簡単に露見している。そのことに、少なからずショックを受けたタクミは警戒心を解かなかった。
「君、誰?」
「予知できないの?僕は君のことを予知したよ、タクミ君。今日、ここに、予知能力を持った妖術使いが来ることは、わかっていたんだ」
「で、君の名は?」
「だからあ、妖術を使ってみてよ」
タクミは、目を閉じ、眉間にしわを寄せた。そうすると、なんとなく、自由に予知できるような気がしていたのだが、それは気休めに過ぎないことを、タクミは知っていた。タクミは自分の意思で、未来を予知することができない。予知する内容を選択することもできない。唯一、天気予報だけは、タクミは思い通りに予知ができた。しかし、それも、なぜなのかはわからない。とにかく、天気予報だけは特別なのだ。
タクミの予知は、音楽とともに、タクミの意思とは関係のないときにやってくる。それを、自分の意思で迎えに行けたら、便利だろうと、いつも思っていた。しかし、実際には、そううまい話ばかりではない。
「ヤスオ、かな?」
名前を予知できなかったタクミは適当な名前をつぶやいた。
「でたらめ言ってもだめだよ。僕はポチ。僕の能力の方が、性能がいいみたいだ」
「クナ国の者か?」
クナ国の人の名前は、犬の名前だと昔から言われている。それは、ヤクモの国とクナ国が昔から対立してきたことの現れでもあった。
「バカにしているの?僕、そういうの平気なんだけど」
ポチは言った。でも、本当は気にしているのかもしれない。
「困るんだよね。予知能力者が二人いるっていうのはさ」
「困る?」
「そう。困るんだよ。予知能力者が複数いると、予知の精度が下がっちゃうんだ。予知能力っていうのはさ、結局のところ、未来を変えられる能力ってことでしょ。僕が予知した未来でも、君にはそれを変えてしまう力があるわけさ。それって、僕の能力の否定ってことでしょ。困るんだよ」
タクミはポチの話についていけなかった。実際、なにが困るのかもよくわからない。ただし、ポチがタクミに対して、敵意を持っているらしいことはわかった。
「だからさ」
ポチが言った。
「僕は、君と戦う。今から、戦闘開始だ。でも、この戦いは、予知能力だけを使った戦いということにしようよ」




