第二十六話 未来
一年後、カスミは少しだけ大きくなっていたが、相変わらず、海で遊んでいた。
この一年、戦争は起こらなかった。
「タクミが、がんばったんだろうな」
九十二才になったヒメは、戦争が起こらなかったのは、タクミのおかげだと、心の中では思っていたが、そのことは誰にも言わなかった。言ったところで、誰も信じないだろう。この村の住人は、これからも平和が続くことを疑っていない。
「カスミ、海で遊んじゃだめって言ってるじゃない」
遠くで、カスミの母の声が聞こえる。いつものように、ちょっとだけ怖い母親だったが、本当は、もう、カスミが海へ行くのを止めるのをあきらめていた。
少しだけ、大人に近づいたカスミは、自分の中に、人と違う力があることに気づきはじめていた。しかし、そのことを誰にも言わなかった。
「おばあちゃんは、私の力のこと知ってるみたいだけど」
時々、カスミはそんなことを考えたが、ヒメにも、自分の力のことは言わなかった。
ヒメは、知っていたが、そのことをカスミに言わなかった。いつか、カスミが話す気になるだろう。ヒメはそれを待つことにした。
一年前、カスミは、タクミの記憶を取り戻した。
結果的に、タクミの予知能力も消えてしまうことになったのだが、そのことは、カスミは知る由もない。
しかし、その時の、タクミとの接触は、カスミの中にある変化を与えていた。まだまだ幼いカスミだったが、タクミから、妖術を持つことの大変さを、その一瞬で学んでいた。タクミの苦しみや悲しみ、それを乗り越えた、やさしさや強さ、そういったものをカスミは、その一瞬で自分の中に取り込んでいたのだ。
「おそらくタクミという男は、カスミの心に何かを残していったんだろうな」
ヒメは、なんとなくカスミの変化に気づいていた。
そして、それは、おそらくカスミにとってよいことだったのだと、ヒメの直感は語っていた。
「伊達に、九十二年生きているわけじゃない」
ヒメの目には、明るいカスミの未来が見えた。




