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第二十四話 脱出

タクミが潜伏してから十一日目の夜。

「陸側は囲まれている」

窓から外を見ていたタクミは自分に危機が迫っていることを知った。うまく隠れているつもりのようだが、暗闇をよく見ると、時々、人影が動くのが見えた。人数はそれほど多くなさそうだった。

「海側は囲まれていない」

敵は、海側には道がないと思っている。これはチャンスだった。タクミはわざと、窓から見えるように灯りを付けた。そのまま、リュックを持って、海側の絶壁を下った。二十分ほどかけて、崖を降り、崖下の浜辺に辿り着いた。ここからは、泳げるところまで泳ぐ。

その時だ。

沖の方で、何かが爆発するような大きな音が鳴った。振り向くと、夜空に大きな打ち上げ花火が花開いたところだった。それは海面に映り、周囲を、明るく、そして赤く染めていた。

「花火?」

花火の下には、巨大な舟影があった。

「敵か。かっ、囲まれた?」

巨大な舟は、花火を打ち上げながら、近づいてくる。タクミは目を凝らした。かなり暗闇に目が慣れたときに、その船が、誰のものかがわかった。

「キャプテン・シロの、海賊船だ」

間違いない、あれに乗って、タクミは、ギの国にたどり着いたのだ。正確には、あの船から、樽に乗り換えて、海に落とされて、流れ着いたのだが。

そのことについて、タクミの恨みは消えていない。いつか、生きて会うことがあったら、不平の一言二言では済まさないとタクミは思っていた。その船が、今、目の前にある。敵か。

その時だった。

「タクミ、こっちだ」

突然声をかけられ、腕をつかまれた。反射的に、タクミは腕を振りほどこうとしたが、その行為は結果的に、相手の力を強めただけだった。

「いてててててて」

腕をねじりあげられて、タクミは痛みに悲鳴を上げた。

「悪い悪い。タクミ、オレだ。落ち着け」

「サトシ?どうして」

「僕もいるんだけどね」

「ポチか。それじゃあ、ポチが予知して助けに来てくれたのか」

「まあ、そんなところだ」

サトシがのほほんとした声で答えた。タクミは状況を全て理解した。ポチが自分の状況を予知して、救助隊を出してくれたのだ。

「それじゃあ、キャプテン・シロも見方ってことか」

「まあな。あれは、おとりだ。敵はみんな、今は、花火見物をしているはずだ。俺たちは、こっちから逃げる。とにかく急げ」

サトシとポチとタクミの三人は、海岸線を走った。相変わらず、花火は続いており、遠くで敵が騒いでいる声が聞こえた。

海岸は、浜辺を過ぎると、岩場になった。ポチはまるで、自分の庭であるかのようにすいすいと、大きな岩の間を走りぬけた。これも予知の応用なのだろうか。タクミは思った。やっぱりポチの予知は優秀だ。


「あれだ」

ポチが指す場所には小さなボートらしきものがあった。

「沖にでて、海賊船に拾ってもらう」

ボートは二人乗りのものらしく、オールは二人分しかなかった。サトシとタクミがオールを握り、ポチは一番後ろに座って、舵を取った。


やがて舟は沖に出た。東の空を見ると、下弦の月がちょうど顔を出したところだった。ここまでくれば追っての心配もなさそうだ。

「ありがとう」

タクミが二人に声をかけた。

「ポチ。どうしてこの場所がわかった?」

「それはね。カノープスさ」

ポチは言った。タクミもなんとなくそうじゃないかとは思っていた。

「予知の中にカノープスがでてきたんだ。タクミはカノープスを見ている。しかもカノープスは結構な高さまで上がっていた。つまり、想像よりかなり、南に流されているのが分かった。それをシロ船長に言ったら、おそらくここだろうと教えてくれたんだ。タクミがいた場所は、いわゆる、古戦場だったんだ。海賊達はあれを灯台替わりに使っているんだってさ」


「よくキャプテン・シロを動かせたな」

タクミは言った。何しろ、タクミはキャプテンのおかげで、たいへんな目にあっている。記憶を失い、予知能力まで失っているのだ。

「それはさ、サトシのおかげなんだよ」

「サトシの?」

「さすがのタクミも知らないだろ、サトシの正体。たぶん知ったらかなり驚くぜ」

タクミはサトシを見た。気が優しくて、剣が使えるかどうかもわからないサトシの正体がなんだと言うのか。


「とりあえず、その話は後にしよう。海賊船が来た。乗り込むぞ」

サトシの視線をたどると、水平線をバックに、灯りをつけずに進んでくる巨大な舟が見えた。しばらくすると海賊船はいかりを下ろして停止した。タクミたちの小舟は慎重に舟に近づいた。甲板には見覚えのある巨大な人影が見えた。間違いない、シロ船長だ。


「船長、ひどいじゃないですか」

船員の手を借りて、タクミ達は、一人ずつ、甲板に引き上げられた。

タクミは甲板に降り立つと、すぐに船長に抗議のまなざしを向けた。樽に詰められ、海に落とされた恨みは、簡単に消せるものではない。

「まあ、まあ。あの時は悪かった。俺もちょっとだけ虫の居所が悪かったんだ。助けたんだからいいだろ? これで、この話はチャラだ。な。」

船長は、気さくに言った。いつからこんなにチャラくなったのか、それとも、これが本当の船長なのか。タクミにはわからなかったが、船長の言う通り、今回の救出劇は、船長なくしては考えられない。タクミは、納得するしかなかった。


「で、サトシの秘密って、なんなの」

タクミはさっきから気になっていたことを口に出した。ポチのニュアンスだと、サトシがキャプテン・シロを動かしたような口ぶりだった。

「ちょっと長くなるけど」

そう言いながら、話を始めようとしたサトシを遮って、キャプテン・シロが言った。

「いや。これは俺から話をさせてくれ」


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