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第2話 サトシ

タクミが家に着くと、玄関の前にぼおっと立つ男の姿があった。幼馴染のその男は、タクミにとっては、唯一友人と呼べる存在だった。

名をサトシといった。

王に仕え、護衛を任務としているが、タクミには、そのことは心配の種でしかなかった。どちらかと言えば、とろい性格のサトシが、護衛という仕事をどうやって、こなしているのかが不思議だった。

「よお」

タクミが声をかけるとサトシは、だまって右手を上げた。着ている鎧がカタカタと音を立てる。一応、腰には剣を佩いているが、サトシが剣を使えるとは、タクミは聞いたことがなかった。

「まあ、入れよ」

タクミはそう言って、彼を自分の家に迎え入れた。

一人暮らしをしているタクミだったが、男の一人暮らしの割には家の中はすっきりと片付いていた。奥の部屋の壁は、巨大な本棚になっていて、膨大な量の本がきれいに分類されていた。手前には、囲炉裏があり、簡単な料理ができる。中央には、四人程度なら向かい合って座れるテーブルがあった。テーブルの上には何もおかれていなかった。


「急な話なんだが、ギの国へ、王の使いとして派遣されることになった」

サトシは部屋に入ると何のためらいもなく、いつもの椅子に座った。タクミもいつもそうするように、サトシにコーヒーをすすめたが、サトシはそれを飲まなかった。

「ずいぶん急な話だな。お前、ギの国の言葉なんて、話せるんだっけ」

「勘違いするな。行くのはお前だ」

「俺!」


晴天の霹靂という言葉がある。それにふさわしい知らせだった。タクミは、ギ国語を話せるわけではないし、王に気に入られるような実績もなかった。なぜ自分がそんな大役に選ばれるのか、思い当たる節もなく、彼は急に不安になった。

「まさか、奴隷としてではあるまいな」

「お前の占星術師としての実績が評価されたのだ」


タクミは、占星術を生業としていた。占星術を操り、ありとあらゆる未来を予知するのが仕事だが、実際には天気予報だけを専門としていた。農業しか産業のないこの国では、有用な人材だと、自負はしている。かと言って、身分が高いわけではなかった。

占星術師というのは、いれば役に立つことも多いが、必ず必要とされる存在ではなかった。そのため、どちらかと言えば、身分は低い方に数えられていた。

「つまり、俺の天気予報が当たるから、派遣されるということなのか」


ギの国は大陸にあった。

それほど、大きな海ではないとは言え、タクミやサトシが住む、ヤクモの国と、ギの国の間には、海峡が横たわっていた。しかも、その海の潮の満ち引きは早く、小舟で簡単に行き来できる場所ではなかった。

しかし、それは、悪いことばかりではなかった。もしもこの海峡が穏やかで、誰もが簡単にわたる事のできる海だったら、とっくの昔に、ヤクモの国は、ギの国に併合されていたことだろう。流れのはやい海流には、ヤクモを守る、そんな一面もあったのだ。


そして、その海峡を渡るためには、天候の変化を確実に読める、占星術師が必要だった。

こうして、タクミに白羽の矢が立った。

タクミは、今までに、天気予報をはずしたことがない。タクミの占星術は、明日の天候はもちろん、一週間後の天気さえも、正確に当てた。それだけではなく、その夏、いつ、台風がやってくるか、あるいは来ないのかも、正確に当てることができた。


「とにかく、明日、王宮に行くのだ。話はついているから、王宮に入れるぞ」

タクミはいつも王宮を遠目に見ていた。見ていただけだ。自分が王宮に入る日が来るとは夢にも思っていなかった。

それは、ヤクモの国で最も高い建物であり、その国のどこからでも見ることができた。タクミが見たことのある建物の中では、もっとも高い建物であり、それはすなわち、タクミの中では、世界一高い建物を意味していた。


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