第十八話 困惑
全てを思い出したタクミは、困惑していた。
地図は没収されてしまった。
しかし、その件については問題ない。おそらく、地図は地元の警察から当局に届けられるだろう。結果的に、偽の地図をギの国に渡すという目的は、達せられたことになる。
しかし、その後が問題だ。
当局は、タクミを、要注意人物と認識することは間違いない。記憶を失っている間に、だいぶ当局に考える時間を与えてしまった。今にも拘束される可能性がある。
「記憶を取り戻した?」
タクミはヒメには正直に話した。
自分が戦争を予知したこと、なんとかその戦争の開始を遅らせたいことなども結果的に話してしまった。ヒメは、その話を落ち着いて聞いているように見えた。しかし本当はかなり困惑していた。
「お前が予知能力者? それを私に信じろというのか」
九十一年生きてきたヒメは、自分の目というものを信じていた。九十一年の経験によって培われた、人を見る目というものに、間違いはないはずだとヒメは思う。
目の前の男。
タクミと名乗ったこの男は、信じられると、ヒメの直観は言っている。この男、嘘はついていない。それにしても、予知能力とは。さすがににわかには信じがたい。
「ならば、何かを予知してみよ」
「天気予報ならできますが」
ポチと違って、タクミの場合、自分から未来を見に行くことはできなかった。しかし、天気予報だけは例外だ。天気予報には絶対的な自信をタクミは持っている。
「では。明日の天気は・・・・」
タクミはいつものように、眉間にしわを寄せて集中してみた。しかし、おかしい。頭の中には何の映像も浮かばなかった。明日の天気がわからない。こんなことは、これまでに一度もなかった。
「どうした?」
ヒメは、タクミの様子がおかしいことにすぐに気づいた。
「それが。予知ができないんです」
ヒメは、心の中で思った。
(それが普通なんだがな・・・・)
どうして予知ができないんだろう。そう考えたとき、タクミには、一つだけ思い当たることがあった。
「もしかしてなんだけど、カスミちゃんは、妖術のようなものを持っているんじゃないですか」
「・・・・」
ヒメは、言葉につまった。妖術という言葉の響きを恐れた。カスミには力がある。でも、それは、妖術といわれるような禍々しいものではないはずだ。もっと、平和な、もっと幼稚な、純真な心のなせるわざだ。
「妖術などと言ってほしくないな」
「僕の記憶が戻ったのは、カスミちゃんの力のおかげなんです。そして、おそらく予知能力はその時になくなった・・・・」
「誰でも、幼い子を見れば、心が癒されるものだ。カスミに何か他人と違う点があるとすれば、それは、笑顔のかわいらしさだよ」
「それは、認めます。でも、本当なんです。カスミちゃんには治癒能力のようなものがあるのではないですか。それにあなたが気づいていないはずがない」




